夏の真っ只中のとある海水浴場
海の家に粗末な作りの屋台
その中に、小さなかき氷屋があった。
かき氷屋自体はそんなに大きなものではない。
売っているのも一種類のかき氷とかち割り氷だけ。
屋台には従業員はおらず、声をかけたらやっと出てくるだけ。
そして、かき氷やかち割りを出せばすぐに引っ込んでしまう。
しかし、そのかき氷屋は他の屋台に比べてもひときわ目立っていた。
なぜならその小さなかき氷屋の後ろに巨大な冷凍コンテナがあったからだ。
コンテナにはさも涼しそうな氷のイラスト。
他の屋台に埋没することなくこのかき氷屋がそこそこ繁盛していたのは
このコンテナともうひとつ理由があった。
「かき氷おひとつですね」
純白の透き通りそうな肌に触ると溶けそうなほどサラサラの銀色の長髪。
大きな瞳に小さな口の美しい顔。
そんな彼女が薄衣をまとってコンテナから出入りしてはかき氷を売っている姿は
人目を引くのに十分だった。
彼女は雪女。名前はゆの。
およそ雪女とは似合いそうもないこんな夏の海にいるのには理由があった。
彼女も恋をすることがあり、とある異性に恋をしたのだ。
ただ、その異性、性格が良くて働き者なら良いのだが、
およそ勤労意欲とはほどと遠いところにある、すなわち怠け者だったのだ。
彼女も惚れた弱みとしてこんなおよそ季節外れの海で働いて恋人の分の
食い扶持を稼がなければならないのだ。
ゆのの屋台に来る客は、彼女を目当てにやってきた野郎が九割だった。
そんな野郎に彼女は見向きもせずに営業スマイルだけを出しては代金を受け取ってコンテナに帰る。
それでも浜の真砂はつきねども、野郎が絶えることはなかった。
残り一割が若い女性。
彼女達がこの屋台でかき氷などを買う理由は様々だが、
女性客にはゆのはめっぽう優しかった。
「あ、いけない。お財布をもってくるの忘れちゃった」
「大丈夫ですよ。お代は後で結構です」
「でも、妹の分もあるのに…可奈、お財布持ってる?」
可奈と呼ばれた妹は首を振った。
「いいですよ、お気になさらず。」
といった具合。
なにじろ水着では財布を持っているものも少ない。
「後払いで結構です」といわれてかき氷を受け取ったものは少なくなかった。
「かき氷ひとつとかち割りひとつくださーい」
ゆのはそれをコンテナの中で聞いて、
「はーい、少々お待ちくださーい」
さっそくかき氷作りに取り掛かる。
材料は自らの乳房だ。
ゆのは上着をはだけさせて右の乳房をかき氷機に乗せる。
シャリシャリ…
薄いピンクのかった白い乳房はあっという間に同色の氷片となって皿の上に落ちる。
皿に盛り付けられるほどのかき氷が出来上がると、
残った乳房をフードプロセッサーにかけてシロップにする。
これでかき氷の出来上がりだ。
続いて左の乳房を出して、大きな包丁で切り落とす。
落ちるとともにカチコチになった乳房をアイスピックで砕く。
これで出来上がり。
冷凍コンテナの冷気と水蒸気であっというまにゆのの乳房は再生、
お客の前に出す頃には元に戻っていた。
「え?お財布が海の家に?いいですよ。後で取りにうかがいます」
こんな調子でゆのの店はけっこう繁盛していた。
夕刻
日差しも弱まり、熱気に弱い雪女のゆのも短時間なら外に出られる時間になる。
海水浴場の客も、そろそろ帰り支度を始める。
姉妹で海水浴を楽しんだ二人の前にゆのが現れたのはそのときだった。
「あら?先ほどの…そうですね、お代金ですよね…え~とお財布は…」
「お財布は必要ありませんよ」
ゆのはそういって昼間見せなかった表情をみせた。
すなわち、誰もが凍りつきそうな冷たい微笑。
それを見た可奈に変化がおきたのはそのときだった。
可奈の体があっという間に白い霜で覆いつくされたのだ。
「え?可奈?あなた一体な…」
財布を出そうとした姉はあわてる表情でゆのを見たが、最後までしゃべることが出来なかった。
姉も同様に白い霜で覆いつくされて凍り付いてしまったからだ。
「お代金はあなた方の身体でいただくことになっておりますので…」
そうつぶやくと、凍りついた姉妹を担いでコンテナへ戻った。
さらに、ゆのはシャワー室の中を見る。
「かき氷のお代金いただいてきますよ」
そういうシャワー室の中に息を吹き込んだ。
ゆのがシャワー室を開けた時にはシャワーの雫ごと氷漬けになった全裸の女性がいた。
コンテナの中には、今日ゆのの店でかき氷やかち割を買った客のうち若い女性だけが
氷漬けになっていた。
可奈姉妹のように水着のままで氷漬けになった者もいれば、
全裸や着替えようという体勢で凍りついたものもいた。
表情も、自然な表情から驚愕の表情まで様々だった。
ゆのはコンテナの中でもとは生きた女性だった氷柱を満足げに眺める
「これであの人も喜んでくれるわよね…」
季節は巡り、冬
雪山の中の粗末な小屋
雪が中まで吹き込んできているが、住人であるゆの達にとってはむしろ望むところだった。
「ねぇ、あなた。今夜はこの娘達にしない?」
ゆのが外から持ち帰ったのは夏に氷漬けにした娘達だった。
水着姿のまま凍りついた姉妹は夏のときの姿、表情のまま冬の雪山にいた。
あのときから変わらぬ不思議そうな表情の2人にゆのは息を吹きかけた。
(あれ…あたし…どう…なったの?)
(可奈?ここ…どこなの?)
氷漬けになった彼女達は半年ぶりに意識をとりもどした。
といっても体は氷漬けのままで話すことも動くことも出来なかった。
「あなた達は今夜の夕食にとっても美味しいかき氷になってもらうのよ」
そういって可奈を特大のかき氷機に乗せる。
(かき氷…って…何?)
視線が動かないため自分に何が起こっているか理解できない可奈に対して姉は目の前で
かき氷機に結わえ付けられている可奈の姿が目にはいったため、意味が即座に理解できた。
(やめて!私はいいから、可奈だけでも…)
その声も届かないままゆのはかき氷機を回し始める。
シャリ…シャリ…
可奈は足から少しずつかき氷にその姿を変えていった。
(あれ…なに…体が…回って…足が…)
徐々に下がっていく視界。
足から削れて行くかすかな感覚が可奈にも知覚出来てきた。
(やめて!可奈を削らないで!私ならどうなってもいいから…せめて先に私を!)
削れて消えて行く妹の姿を見て半狂乱に叫ぶ。
しかし、その声は届かず、可奈は首を残してかき氷に変わっていった。
ほっそりした足も、未成熟な胸も、全て氷片の中に消えた。
のこった可奈の首がフードプロセッサーにかけられて、シロップになる。
聞こえないのを承知で叫び続けた姉は、
可奈の首がシロップになったところで叫ぶのを止めた。
そんな姉に、ゆのはアイスピックをかざす。
姉は覚悟を決めたように黙り込んでいた。
「もうすぐ…可奈と同じになるよ。待ってて…」
それだけを思った頃、ゆののアイスピックが姉の凍った体に突き刺さった。
それとともに、凍りついた姉の体はバラバラになった。
倒れこむと、さらにいくつもの氷片に砕ける。
それをアイスピックで細かく砕いて、大きな盆に載せる。
ゆのはお盆から大きな欠片を探すと、恋人に差し出した。
「どう、おいしそうでしょ?はい、あ~ん」
ゆのは姉の乳房だった氷片を恋人に食べさせる。
満足げに氷ごと乳房の味を堪能するのに満足した恋人は続いて腰の部分を摘み上げてほおばった。
バリバリ…と腰骨や膣も一緒に口の中で咀嚼されて飲み込まれる。
ゆの自身も可奈のなれの果ての大きなかき氷を舌なめずりして食べ始めた。
可奈の味は予想したとおり瑞々しいあじわいで、ゆのの好みに合うものだったが、
少しばかり量が足りなかった。
それは、姉の首だった氷片を口に入れようとする恋人も同じだったようだ。
「もう少し欲しいわね。え?今度はあなたが持ってきてくれるの?」
恋人はゆのに見送られて、吹雪の中、雪の中に埋まるコンテナへ追加の食材を探しに行った。
コンテナに向かって歩く恋人の視界は吹雪で半ばさえぎられていた。
その吹雪のむこうでシャッターを切る音がしたことは
ゆのも恋人も気づかなかった。
シャッターを切ったのは、なかば遭難状態になっていた登山者だった。
登山者は自分が目の前に見ていたものが信じられなかった。
まさか…あんなものが…
後に救助されて下界にカメラを持ち帰った登山者は、
とある雑誌に自らが撮った一枚の写真を投稿した。
「吹雪のむこうを歩く雪男の衝撃画像!」
最終更新:2010年05月06日 04:40