物事は常に二つの構造を有している。コインには表があり、また裏があるのだ。
すると私共は物事を観察するにあたって、どちらか一方しか見ることができない。そしてその一方が、
揺ぎ無い事実だと思い込んでしまう場合も少なくはない。
コインには裏があり、また表がある。しかしながら、あるいは何らかの方法によって、
その二端を同時に観察する事ができたとすれば、私共は、
それを古代の賢明な観測者にちなんで、ホメーロスの瞳と名付けることにしよう。
新月の夜、美しい双子は生贄になった。
彼の探検家の手記がコインの表であるとすれば、ホメーロスの瞳は、あなたにコインの裏をお見せしよう――
双子の少女のうち、姉の名前はマウ、妹の名前はナハといった。
幼さの残る輪郭に、大きな青い瞳。しかし、その瞳はいま、恐怖の色によって塗り潰されていた。
「お姉ちゃん。怖いよ・・・」
膝丈までを沼の水に浸した双子――妹のナハが、周囲の闇に視線をめぐらせながら、
姉のマウに抱きついた。
「大丈夫・・・・・・わたしが、ついているから」
気丈な声で、妹の安堵を誘うマウだが、それでも内心で膨張する恐怖の感情を隠しきれない。
「お姉ちゃん・・・・・・やっぱり、私たち、食べられちゃうのかな・・・」
カプカプ。未知の生物。誰一人、見たものはいない。沼の怪物とされているが、それすらも定かではない。
「――!? お姉ちゃん、いま、なにか、音がしなかった・・・?」
身体を震わせながら、ナハが視線を縦横無尽に走らせる。歯の擦れあう、
カチカチという音が奇妙なほど浮き彫りになって聞こえた。
「カプカプが、やってきたのかも・・・」
マウが妹の身体を強く抱きしめながら言った。あまり強く抱きしめたせいで、
双子のつぼみのような乳房が大きくかたちを変えた。
「――ひっ!」
そのとき、辺りが眩い光線に包まれた。闇が一瞬のうちに薙ぎ払われ、
木立や沼の仔細があらわになった。
しかしそれも一瞬間の奇跡のようなもので、再び、周囲は濃厚な闇に包まれた。
「なにが、起こったの・・・」
きつく抱きしめ合いながら、マウが怯えた声を漏らした。そしてその形の良い耳は、
不自然な水音を聞き逃しはしなかった。
「なにか、聞こえる・・・ナハ、ジッとしてて・・・」
緊張を帯びた姉の声。妹は、身を固くさせた。
水音は近づいてくるようだった。ゆっくりと、確実に、双子の下へと――そしてついにカプカプが、
双子の目の前に姿をあらわした。
双子はカプカプを見上げながら呆然とした。
カプカプの姿は人間のようであり、また熊のようであり、鰐や鮫のようでもあった。
背丈は双子の倍近くはあり、指の先には三日月のような鋭い爪が生えていた。
背中と手の間には、水掻きのような薄い皮膚の膜が張ってあった。
カプカプは双子を片手で抱え上げると、両足を蔓で縛って木の枝に逆さづりにした。
そしてしばらく二人の姿を眺めたあと、鋭い爪を、ナハの臍の下にあてがった。
「や、め、て・・・誰か、ナハを助けて」
「おねえちゃん・・・怖いよ・・・」
マオは涙した。しかし、どうする事もできない。
カプカプの爪が、ナハの柔らかい腹部に沈み込んでゆく。
爪の三分の一ほどを埋め込むと、カプカプは、そのまま、ナハの首下までを一気に爪で切り裂いた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!? ふがぁぁっ・・・・・・あぶっ、お、おねえちゃ・・・おえっ」
ナハの腹から赤黒い腸が漏れ出す。するとカプカプは、ナハの腹腔に手を突っ込み、
中身を漁りだした。大量の血が、乾いた地面を濡らしていた。
ぬちゃり。カプカプの手が引き抜かれた。そしてその手には、ナハの生殖器が握られていた。
するとカプカプはナハの生殖器を一呑みにした。また、カプカプはナハの乳房を丹念に舐めしゃぶったあと、
爪で丁寧に抉り取り、そして飲み込んだ。ナハは既に死んでいた。
カプカプはナハを地面に下ろした。そしてその皮膚を剥ぎ取った。マオはその様子を無言で眺めていた。
愛らしかった妹が、姉の目の前で、無惨にも皮を剥ぎ取られ、肉の塊へとかえられていく。カプカプはナハの皮をすべて剥ぎ取ると、
膣から長い杭を差込み、口へと通した。
火が炊かれた。そしてナハは焼かれた。肉の焼けるにおいが充満した。
カプカプが咆哮した。すると、二つの小さな影が沼地に現れた。カプカプの子供だった。
親カプカプは、充分に焼けたナハを子カプカプに与えた。子カプカプたちは夢中になって、
焼けたナハの肉に喰らいついた。やがて地面にナハの骨だけが残った。ナハの肉はすべて食い尽くされたのだ。
カプカプはマオを地面に下ろし、仰向けに寝かせた。そして足首の健を切った。
マオは抵抗しなかった。できなかった。運命はもう決まっている。
マオの周りに子カプカプが集まってきた。子カプカプは珍しそうな仕草をしながら、
マオの小ぶりの乳房や生殖器を触っていた。
皮剥ぎが始まった。
カプカプはマオの足から皮を剥いでいった。非常にゆっくりとした剥ぎ方だった。まるで果物の皮でもむくみたいに、
マオの皮ははがされた。そして皮のはがれた部分は、剥き出しの筋繊維が露出しており、じわじわと地面に血を広げていた。
マオは叫んだ。その叫びはまるで人間の声じゃないかのようで――怪鳥の声と言われれば誰しもが納得した。
太股の皮がめくられた。生殖器の部分は、そこだけ、皮に穴が開いたふうで滑稽だった。胴体もめくられた。胸の部分には、ピンク色が二つ残されていた。
マオの皮はナハの皮と重ねられ、地面に積まれた。子カプカプがそれに喰らいついていた。
怪鳥は鳴く泣く。そしてそのなき声は、少女が出血多量で死ぬまで――およそ二時間のあいだ、止む事はなかった。
最終更新:2008年05月18日 15:32