先日、とてもわたし好みな女の子を捕まえました。
 彼女はわたしの庭に生けてあり、栄養素となる【蜜】で下味をして、今日で三日。
 そろそろ頃合いのはず。
「……あぁ、いけませんね」
 彼女のことを考えると、自然と「食欲」が沸いてしまいます。
 せっかく温めていた花粉が、湿気った風に乗り、深い森より散ってゆく。
 しばらくは、新しい獲物は必要ないにも関わらず。
「今日はもう、庭へ帰りましょう」
 わたしは「一輪」そんなことを思いつつ。
 樹上付近まで伸ばしていた触手を、しゅるしゅる、巻き戻すのでした。

 *

 深い森。
 むせ返るほどの緑に包まれた大樹の根本。
 そこが「アルラウネ」と呼ばれる生命「わたし」の咲く世界。

 わたしの本体である「花」は、成熟した「雌の人間様」の造形と、
 花の構造体が子宮を堺に分かれています。
 あたりまえですが、衣服は光合成の邪魔になるので、主に全裸です。

 さて、夕刻も近づきはじめた本日午後。
 大樹に根付かせた蔓草状の触手を上空から戻し、新しい【蜜】を
 光合成してきたわたしは、捕えた彼女に呼びかけました。
「カレンさん。そろそろ起きてください、カレンさん」
「………………」 
 大事な獲物。
 わたしの触手で手足を掴まれ、苔むした草のベッドに横たわらせている。
 彼女には応える元気がないようで、わたしは触手を蠢かせました。
 苔むした地面と水平に咲く、わたしのもとへ。引きずりよせます。
「カレンさん、もう夕方ですよ。そして、夜がやってきますよ」

 カレン・フィールドさんは、
 ここから遠く離れた「魔法学園」に通う生徒さんだったそうです。
 襟元をぴしりと留めた、黒を基調とした制服とスカートが、とてもよくお似合いでした。
 しかしもう、一昨日と昨日の行為で白い精がこびりつき、おっぱいやお尻もむき出しです。

 彼女はとても優秀で、お金もちで、才能に満ちあふていたようですが、
 まだまだ世間を知らない、箱庭で大切に育てられた、只のお嬢様でした。
「ふふ。せっかく、遊びに来ていらしてくれたのに。こんなことになって申し訳ありませんね」
「……ぅ、ぅぁ……あぁぁ……!」
 怖いものなんて何もないの、という強気な眼差しと、全身からあふれんばかりだった活力は、
 今の彼女とはまったく別物でした。
「……お、お願い、です……。許して……」
「あら、ずいぶん弱気になりましたね?」
「…………許して、助けて……」
 わたしを「大樹ごと燃やしてあげるから」と謡っていた唇は、
 今はひたすらに許しを請うばかり。
「……なんでもする、しますからぁ……!」
 すんだ青空のような瞳は虚ろに泳ぎ、幾筋もの涙が、乾いた頬のうえを流れおちます。
 そんな彼女の、お日様のように輝く金髪を一房手にとり、軽く口づけました。
「カレンさん。貴女は食材に慈悲を与えますか?」
「……え?」
「これからお腹にいただく食材に、耳を傾けたことは?」
「……やだ! いやだぁ!」
 わたしの意を悟り、彼女は見苦しく暴れます。
 けれど、手足は縛られているので無駄でした。
 身じろぎするのがせいぜいで、その姿は樹上を這う青虫のようで少し可笑しい。
「だいじょうぶ。痛くありませんから」
「……たべないで……おねがい、たべないで……!
 謝るから……お願いだから、ひっ、ぐすっ……家に帰してよぅ……!」

 わたしは触手の支えを減らし、正面から直接「人間様の手」で彼女を抱き寄せました。
 やわらかい、あたたかい、ヒトの肌。
「素敵ですね」
 思わず、頬ずりしてしまう。
「……っ!! ね、ねぇ…、わたし言わないから! 貴女がここにいるってこと、誰にも言わないから!! だからっ!」
「そうですね。だからせめて。わたしのお腹の中で消えてしまうまえに。今夜もたくさん、わたしを味わってくださいね」
「や、やだやだやだ……! いや――んんんんぅっ!?」
 わたしは、少々乱暴にキスをしました。動かない彼女の口内を、人間様の舌先でなぞっていきます。
「……ん、んっ……。ん、ぁふ……」
 舌先の表面を。歯先をひとつずつ。頬の内側を味わっていく。
 そして最後には、口腔の奥へ。特製の【蜜】をたっぷり流してさしあげる…。
「……ぁ、ん、んぐぅぅぅうううう!?」
 苦しげな、くぐもった声。
 ごくん、ごくん、と上下する喉。
 わたしのすぐ前にある長い睫がぱちりと瞬きし、同時にとろりと柔らかくなります。
「あ、ぁ、あん、は、ぁ、んあああ……っ!」
 必死に、わたしの舌先を押し退けようとしてきます。
 逃れるように首を振りますが、させません。
 わたしの【蜜】には催淫効果があり、彼女の身体は次第に、わたしが求めるものに近づいてゆきます。
「……んぅ! ん、ぅぅー! んんんー!!」
 どうやらカレンさんは、この期に及んで、得意の「魔法」を唱えようとしていました。
 ですが魔法の発動には相応の集中力が必要で、今の彼女では不可能です。 
「……ん、んっ! ん、くっ、んく、ん、く、ぅ……!」
 それに喉を震わせようとすれば、自然とわたしの【蜜】を飲んで頂くことになります。
 ですから彼女の選択は、結果としては過ちでした。
(はあぁ。カレンさんの口のなかとっても熱い……)
 わたしは、そんな愚かで可愛い彼女をぎゅっとして。唇を塞いで、くちゅくちゅする。
(やわらかくて、美味しい)
「ん……あ……あふ……ぁ…………」
 少しずつ。わたしの手のなかで、抵抗がうすれていく。

 陽が、すこし傾いてきました。
 カレンさんの抵抗が無くなったのを確認して、わたしは唇を離します。
「………………ふふ」
 橋をかけ、落ちていく二人の蜜液を、わたしは人間様の指ですくいあげる。
「どうです? 気持ちよくなってきました?」
「……、はぁ、はぁ、あ、ふあぁぁぁ……っ」
 潤んだ瞳から、また新しい涙をこぼすカレンさん。大きな口でいっぱいに、澱んだ空気を取り入れようとします。
 激しく動く胸元。ふくらんだ乳房はそれぞれ、この手に充分収まるほどの大きさです。
「そろそろ良くなってきたみたいですね。今夜はどのように、してほしいですか?」
「……もうやめて……お願いだから……」
「それはできない約束です。ごめんなさい」
 よしよし、と頭を撫でてさしあげる。
(なかなか壊れてくれませんね)
 本当なら今頃は、人間様が言うところの「廃人」になり、快楽を享受することしか考えられない、本当の意味での「餌」に成り果てているはずなのに。
(……どうして?)
 人間様の胸が、ちくりと痛くなります。でも、食べることしか知らないわたしは、今夜も彼女を犯すだけ。

 赤い花弁の内側。わたしはカレンさんの向きを変え、後ろから抱きしめます。
 膝を折り曲げ、彼女をしゃがんだ姿勢にさせたあと、白く華奢な両足は左右に大きく広げ、十数本の「雌しべ」を秘部へ伸ばし、
「ぁ、だめっ、やだぁっ!!」
「大丈夫ですよ。昨日も、初めての夜と比べると痛くなかったでしょ?」
 彼女の足首から太腿へ。細い雌しべを巻きつけていく。
 そして人間様の身体をもつわたしは、彼女の耳朶を噛み、
「ひぅ!?」
 両手を回し、右手のひとつを胸のつぼみに運び、もうひとつを突起した女性器に運びました。
 「びくん!」と体が反応します。わたしの心もまた、震えてきそう。
「だめぇ! そこっ! 弄っちゃだめえぇっ!!」
「あら。ではこちらなら?」
 思わず笑みが咲いてしまいます。人間様の両手をおへその辺りに這わせつつ、
 それから、彼女のほっそりした首のうしろにも雌しべを這わせ、人間様の舌先は、絶えず耳たぶを甘噛みします。

 ――私が、この森に来てどれぐらい経ったんだろう。
 記憶はもうだいぶ曖昧で、頭のなかはまっしろに染まるばかりで。
 アルラウネと呼ばれる植物にどれだけ犯されたのか、もう、わからない。

「やっ! ひゃんっ!! らめぇ! らっ……んぁぁあああああーーッ!?」

 私はただ、ひたすら、理性を失った獣みたいに悶えてる。
 意識は瞬間、遠いとこまで飛んでいく。けど、
(耐えなきゃ……。耐えなきゃ……!)
 誰かが助けが来てくれるまで、私はひたすら耐えるしかない。
 ここに来る前、文献で読んだアルラウネの情報にはこんなことが書かれていた。

『この魔物は実際の食虫花と同様、光合成をして得た【蜜】を用いて獲物を引きよせ、
 花弁の内側に集めた消化液で獲物を溶かし、喰らう。――人間も例外ではない』

『さらにアルラウネの寿命は植物と同様、その寿命は短い。
 死期を悟った個体は、捕食する獲物に対し【種】を残すという情報もあるが、詳細は不明』

 後部の記述が、特にひっかかった。
 このアルラウネが宿っている大樹は見るからに枯れかけていたし、
 理由は知れないけれど、このアルラウネは私が快楽に屈しない限り、捕食も種付けもしないらしい。でも……。
「――カレンさん、もうそろそろ、限界なんじゃありません?」
「っ!」
 とろけるように甘く、脳をゆさぶるような声が来る。
「ほら、見てくださいな。カレンさんのコチラはこんなに濡れて……」
「ひあぅっ!?」
 私のアソコを、幾本もの細い触手がなぞり上げる。
 身体が痺れて浮いたような感覚になって、不安定も怖さも無い。
 ただしびれた様に、じんじんしてる……。

「下のお口は受精したい、子種を頂戴って、言ってますよ?」
「そ、そんなこと言ってない……っ!」
「そうですか? でもほら。こうやってかき混ぜると……」
「――ふあぁぁあああっっ!?」
 また頭のなかが真っ白になる。快感の波だけが全身を駆けめぐる。
「ほら、くちゅくちゅ、いやらしい音……」
「―――――!」
 声がもう、まともな叫びにならない。
 わけがわからなくなって、ただ、気持ちがいいことだけを感じる。
 身体は熱く火照って、すごくすごく、よくなっていく。
「はぁ、は はぁ、ふ! ら、ぇ、あ、はぁ、いれひゃ、あっ、ぬい、て……っ!!」
「もう少しですね……」
 私の顎に指がかかり、無理やりに上へ向けられる。
 キスされる。快感を加速する蜜が流れてくる。

(……耐えなきゃたえなきゃたえらきゃらめ……)

「ふふ。そういえばまだひとつ、穴が残っていましたね」
「…………ふぁ?」
 あなって、どこの? なんのこと? そうおもった、とき。
「んううぅっ!? うあ、ぁぁあああ……ッ!?」
「あら。カレンさんったら、お尻の方が感じやすかったのですか?」
「ひ、ひらう、ひ、ひら、あぁうぅうううううーっ!!」
「もう人間様の言葉が、まともに出ませんね」
 そして、うごめく。しょくしゅがぜんぶ。
 まえにうしろに。わたしのなかで。

「――――!! ――!!!」
 いく、イク、イっちゃう。もうむり、げんかい、だめ。
 こわれる。わたし、が、でなくなる。もう、いい。なんでも、いい。だっ、て、きもひ、、もん。

 首筋を、耳たぶを、背筋を、胸の蕾を、臍を、秘部を、太腿を、爪先を。
 わたしは、上から下まで、ありとあらゆる場所をまさぐりました。
 そして、人間様の唇はひとつに重なっています。
『ぴちゃ……ん……ちゅ…くちゅ……』
 唾液の交換。初めて彼女から交わしてくれた触れ合いは、実に甘美でした。
 花の内側はすでに最後の消化液が充満し、むせ返る精の匂いに満ちています。
「っ……はぁ、カレンさん」
「……な、に?」
「わたしの背にまわした腕、固定させていただきますね。
 もう膝から下がありませんから、抱きつくのお辛いでしょう?」
「……ほんとだ……」
 カレンさんはぼんやりした眼差しで顎を引き、溶けた足元を見つめました。
「……わたし、このままぜんぶ、とけちゃうの……?」
「はい。ぜんぶ消えてなくなります」
「……そっか……」
 ただ呟いて、そしてわたしを見つめ、もう一度、唇を重ねてきます。
『ぴちゃ……んん…ちゅ…ぴちゃ……くちゅり……』
 最後のひと時まで。熱い吐息と唾液を交換します。
 その中で、わたしは初めて本能による欲情を発しました。
『っあぁ……! カレンさんっ、出ちゃう、出ちゃいます……っっ!!』
 すべての触手から【蜜】が噴出する。
 彼女の外から、内まですべて、受精して欲しいという意を込めて。
『ああっ! あっ、はああああああああああぁぁぁあんっっっ!!!』
 わたしは初めて達してしまう。快楽の渦中にある自らの精を、彼女にすべて注ぎ込む。
 やがて、放心してしばらく待つと、消化液は一層水かさを増してきました。
 最後に「とぷん」と小さな泡を立て、人間様のわたしと、彼女をすべて包み込みます。

『・・・・・・・・・・・・・』

 そして。わたしたちはとけあって。ひとつぶのたねになりました。

 ――三日間の記憶が欠落していた。私は気がつけばベッドの上で、白い天井を眺めてた。
 森の入り口で横たわっていたところを、学園の捜索隊の人が見つけて運んでくれたらしい。
 発見された私は、何も身につけてなくて、裸だったらしい。けれど傷一つなく、女の子の膜も無事、だったらしい。

 なにも覚えていない。
 ただ、目を覚ました後、父様からは沢山のお小言を喰らった後に抱きしめられた。
 母様からは抱きしめられた後に、たくさん泣かれた。

 もうこういうのは嫌だなと思って、それからは私にしてはとても素直に、おしとやかに務めた。
 まるで生まれ変わった気分。太陽の日差しがとても心地良くて、吹き抜ける風も気持ちいい。
 身体を打つ雨もまた清々しいのだけど、雪の降る、寒い冬の季節は格別苦手になった。

 *

「――カレン先輩って、本当に寒いの苦手ですよね」
「そうなのよ。だからね、暖め合いましょ?」
「はい?」
 後輩の子と二人きりで居残りをした夜。校舎に続く並木道の端。誰も目に留めない土の下から根を這わす。
「!?」
 巻き付け、口を塞ぎ、両手を縛り、地中深くに引きずり込む。
 当たり前の日常の底に広がっているのは、甘い香りを放つ「わたしたち」の花園だ。

「……イヤ、なに、なんで、嘘、やだ、こないで、先輩助けて! いや、やだあああぁぁあ……っ!!」
「だいじょうぶ。貴女もすぐに食べて欲しくなるから、ね……?」

 そして今夜もまた、わたしたちは優しく、気に入った獲物を愛し、食らっていく。

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最終更新:2012年11月28日 23:08