あたしは目の前のドアノブを見つめていた。
ついさっき、自分で閉じた個室のドア。
このドアは入ってしまったら自分で出ることはできない。ためしに開けようとしたが、ドアノブはびくとも動かなかった。
あとは、食べられる日が来るまでこの部屋で過ごすしかないのだ。
なぜ、あたしはこんなとこにいるんだろう。
時計を見る。
つい2時間前までのあたしは、普通に街を歩いていただけの普通の女の子だったはず。
普通に育って、普通に学校いって、帰りにウインドーショッピングのつもりで街を歩いていただけだった。
ふとたちどまったペットショップ。
かわいらしい猫や犬、聞いたこともないような種類の高級ペットに爬虫類
「うわ~。こんなのでも高いのねえ。これなんか家買えちゃうじゃないの?え~と、ルバニカオオトカゲ?聞いたことないけど、こんなのほしい人もいるんだ」
そこにスーツ姿の女性が近づいてきた。
ものすごくセンスの良い服装のその人は、あたしにこう言ってきたのだ
「ねえ、あなた。お料理になってみない?」
最初はその言葉の意味が分からなかった。
勧誘ならいろいろ受けたことがあるが、「料理になる」の意味が分からなかったのだ。
「だから、あなたを料理して食べてみようというのよ。いいお肉してるじゃない。食べられる?」
あまりのことにあっけにとられるが、その時はまず身の不安を感じた。逃げようと周囲を見回したくらいだ。
「そんなに不審に思わなくていいじゃない?話くらい聞いてよ」
あたしの目の前に詰め寄ってきた。
真剣な目であたしを見つめてきた。
その迫力に一瞬たじろぐ。
「話、聞いて?」
そこから、どうしてこうなったのかわからない。
あたしは自分でも認めるくらい流されやすい。
だから、時々そんな役割を回されることがある。
友達からも「もう少ししっかりしなよ」なんていわれる。
だからといって、食べられるなんて話、普通ならOKするはずはない。
「でも…食べられるって、死んじゃうんでしょ?」
そう聞いた。
「でも、あなたいつまで生きられるの?この話のすぐ後に交通事故にでもあって死んじゃうかもしれないし、たちの悪い通り魔にでも合うかも知れない。
もし、おばあちゃんになるまで生きられたとしても、その間辛いことって多いわよ。その果てに、醜く老いた姿で死んでしまう。本当にそうなりたいの?
今のあなた、とっても綺麗だわ。私はあなたの今の綺麗な姿が老い朽ちていくのが耐えられないの。」
「でも、今すぐ死んじゃうなんて、痛いのも怖いのも嫌だし…」
「大丈夫よ。痛みも怖さも感じないようにしてあげる。今まで料理になった子はみんな喜んでお肉になっていったわ。
このまま帰って、変な死に方して苦しむよりよっぽどいいと思わない?」
「家族とか友達に相談して」
「世の中の人のほとんどは誰にも相談せずに死んでしまってるわ。そういうものじゃないの?世の中って」
こんな調子であたしが不安に思った質問はきっちり返され、逃げようかと思って適当に言葉を濁そうとしたら、あの目でじっと見られ、つい目をそらしてしまう。
そして、いつの間にか「食べられるのもいいかな」なんて思ってしまう。
最後には
「でも、あたし。まだやりたいことが」
と言ってみたけど
「何があるの?ねえ、どうしても生きてやりたいことって何?」
そう返されてしまって黙り込んでしまった。
「考え方を変えてみない?ここで、いちばんきれいな姿になるために生きてきたんだって。そう思えるような姿にしてあげる」
そういって取り出した写真に息をのんだ。
それは、料理になってしまった女の子だった。
もちろん生きてはいない。しかし、美しく調理されたその姿に、なぜか綺麗だと思った。
そして、気が付いたら
「お願いします」
と言ってしまった。
そのまま喫茶店へ連れて行かれて、自分の体を肉として提供する契約書にサインした。
その契約書が有効なのかはわからない。
どっちにしても、そのままあたしは裏通りの小さなビルまで連れて行かれたのだ。
ビルの看板のどこかに「牧場」という字があったのが意識に留まった。
そのビルの中の一室、それがここだった。
部屋にはあたしの入ってきたドアと、赤と緑のドアがあった。
赤のドアから、さっきのスーツ姿の女性が出てきた。
「楽にしてていいわ。この部屋はあなた専用の部屋。今すぐあなたを食べるわけにはいかないの。
美味しいお肉になるために食事とかは管理しないといけないし、肉になる直前は絶食していただかないといけない。
だから、ここから出ることはできないけど、その間部屋にあるものなら何でも食べていいし、何でも使ってもらっていい。
緑のドアを開けたら下にはフィットネスルームも大浴場や娯楽室もある。それらも好きなだけ使ってもらっていいわ。
不便なことがあったら何でも聞いて。こんなボタンを押したら駆けつけるから」
そういって壁にある赤いボタンを指さす。
「同じボタンはフィットネスルームや浴場にもあるわ」
「あの…あそこにあるお菓子とかは食べていいんでしょうか?太ったりとか」
「いいわ。ここにあるのはすべてカロリー調整しているから、好きなだけ食べて頂戴。むしろ、一杯食べた方が肉質が良くなるようにもしてある。
あ、そうそう。本とかDVDなんかはあの棚にあるけど、ほしいのがあったら何でも用意するわ。
パソコンはそこにあるけど、ここからの送信やアップロードはできないようにしてあるから気を付けて」
広い部屋を見回すと、およそ不便を感じそうな品は見当たらなかった。
それどころかセンスの良い調度に囲まれていて、まるでホテルのスイートルームのようだった
「それじゃあ、くつろいでてね」
そういって赤いドアから出て行った。ためしに開けてみようとしたが、ここも開かない。
それから、あたしの奇妙な最後の日々がはじまった。
食事は素晴らしい味のものばかりで、種類も多様だった。
むしろ「これが食べたい」と思うものばかりが出てきた。
服も、緑のドアの向こうにある大浴場の隣に大きなクローゼットがあって、いろんな服があった。
高そうなものも少なくなかった。
気に入った服を着て着飾ってみるが、すぐにそれには興味が失せた。
ここに来る前に見せられた料理された女の子の写真。
あれに勝てない気がしたからだ。
むしろ、美味な食事の方が楽しみになっていた
「どうしたらこんなにおいしい料理が作れるの?」
一度やってきたサキと名乗ったスーツ姿の女性に聞いてみたが、言葉を濁された。
「気がついたらサインさせられていた?」
あたしの前で大笑いされた。
彼女の名前は涼子というのだそうだ。
気が向いて降りて行った大浴場で出会ったのだ
「そんなので自分の体ポイポイあげちゃうって、流されやすいのもほどほどにした方がいいわよ」
そりゃ、あたしは流されやすいって自覚はしてるけど…
「じゃあ、涼子さんはどうしてここにいるんですか?涼子さんもあの契約書書いたんですよね」
ここにいるからには、あたしと同じく料理にされちゃうはずなのだ。
「あたしは、ちょっと嫌なこと、っていうか…彼氏に振られてヤケになってたの。そんなときにあのペットショップの前でそんなこと言われたわけ。
で、ふと思い立ってもう一回彼氏に電話したの。よりを戻してくれなきゃこの女の人について言っちゃうって」
「それで…」
「鼻で笑って切られたわ。ま、信じてくれなかったんでしょうけど。それで決心ついちゃったってわけ。
でも、あんな電話させられたのも考えたらあのサキって人に流されたのかもしれないわね。今言っても仕方ないけど」
涼子さんは吹っ切れたような笑みを見せた。
「あたし、明日料理になるみたいなの。だから、あなたと会うのも今日まで。最後に楽しい話ができてよかったわ」
あたしはそれを聞いてどう答えればいいかわからなかった
「いいのよ。普通にしていて。あなたもいずれこっちに来るんでしょ?先に行ってるってだけよ。なんだったら料理になったあたしの姿見届けてよ」
そういってあたしの肩をたたく
「あ、そうそう。あなた、セックスしたことある?」
いきなりの質問にどきまぎする
「ないんだったら、サキさんに頼んでみたら?あの人に頼んだらどんな男でも用立ててくれるわよ。あたしもいろんな男を呼んでとっかえひっかえしたわ。あの男も」
「あの男って?」
「さっきの彼氏。電話ではあれだけすげなく返事したのに、サキさんに頼んでここに呼び出したら、別人のようにおとなしくて、言われるままだったの。
あいつのせいでこうなったってのもあって、一晩やりたい放題してやったの。あなたも好きな人がいたら、呼んでみるといいかもよ」
そういって涼子さんは去っていった。
夜、サキさんに聞いてみた
「涼子さんって、明日料理になっちゃうんですか?」
「その予定よ。涼子さんからあなたに料理になった後に自分の姿を見せてほしいって頼まれてるんですけど、見ます?」
思わず首を縦に振った。
翌日、サキさんに連れられて、小さな部屋に通された
「あそこにいるのが涼子さんよ。この後すぐにお客様に出されるけど、その直前ね」
そこにいたのは、間違いなく昨日までさばさばとした笑顔を見せていた涼子さんだった。
今、目の前にいたのは、頭部と胴体を切り離され、綺麗に料理されて盛り付けられた料理になった涼子さんだった。
もう、死んだ涼子さんがあたしに向かって話しかけることはない。
無気力な表情のままの涼子さんが笑いかけることもない。
しかし、野菜を飾り付けられ、キツネ色の艶をまとった裸身は昨日見た涼子さんよりずっと綺麗に見えた。
胴体の傍らで、微笑みを浮かべた涼子さんの頭部が飾られていた。それも、綺麗に化粧されて、自分の裸身を誇っているかのようだった。
あたしは、運び出されるまで吸い込まれるように涼子さんの姿を見ていた。
その夜、大浴場には涼子さんの姿はなかった。
さみしさを覚えたあたしは、涼子さんの言葉を思い出してサキさんに聞いてみた
「あの…相談なんですけど…」
「何でしょうか?」
「あたし、このまま肉にされて死んじゃうんですよね?」
「ええ、そうですよ」
サキさんはいつも通りあっさりと答えた
「でしたら、その…せめて、男の人を知ってからにしたいというか…そういうのっていいのですか?」
自分の死が目の前に見えた途端、不思議なほどに湧き上がった感情だったが、それに対してサキさんが返した答えは意外なものだった
「ええ、それでしたらいつでも用立てます。さっそく今夜などどうでしょうか?」
「え?いいんですか?でも、ほら。処女じゃないと肉の質が落ちるとか」
自分でも不思議なことに気が向いてしまう。
「大丈夫ですよ。むしろ男の人を知った方が女性としての味はよくなるといわれています。あなたがお望みなら用立てますよ。お相手のリストは用意します」
届けられたリストを見て驚いた。
芸能人や実業家、モデルの名前がずらりと並んでいたのだ。
「どんな方でもお望み通り用意しますよ」
サキさんの言葉に嘘はなかった
有名な男性アイドルを頼んだら、その夜には目の前に本人が現れた。
その夜は、忘れられないものになった。
自分の思い通りにあこがれのアイドルが動いてくれたのだ。
「いかがでしたか?お望みでしたら今夜もう一度お呼びしますが」
「え?じゃあ…」
それから、あたしは夜ごとアイドルや有名人をとっかえひっかえして楽しんでいた。
自分が自堕落になっている気がしたが、意識しないようにした。
どうせ、あたしは遠からず死んでしまうんだ。だから、その前くらい。
その思いが、自分の理性を飛ばしていた。
そして、その日が来た
「おはようございます。今日、あなたを料理します。心の準備、いいですか?」
一瞬口ごもってからあたしは言った
「…ここで嫌ですといってもダメなんですよね?」
「そうですね。もう、ここから出ることはできません。料理になるしかないですね」
「じゃあ、いいですよ。決心が鈍らないうちにしちゃってください」
そういったあたしにサキさんはいった
「では、あちらの赤い扉から出ていきますので、服を脱いでください」
あたしは服を脱いでいく。
全裸になる。生まれたままの姿、そして、あたしの最後の姿。
あたし、これから料理にされちゃうんだ。
心臓が苦しいくらいドキドキいってるのがわかる。
あたしは赤い扉からサキさんに連れられて出ていく。
最初に通された部屋には太い管の着いたベッドがあった。
「ここに寝てください」
言われるままに寝そべったあたしのお尻に管を突き入れる
「え?ええ?」
「まず、腸の中をきれいにさせていただきます。この管で水を入れて中を洗浄します」
そうか、ここも食べるんだよね。だったら仕方ないか。
お尻に管がつながれた後、お腹の中に温水が入っていくのは奇妙な感覚だった。
いったんお腹の中を満たした温水が抜き取られる。
続いて連れて行かれたのは浴室だった。
「ここで体をきれいにします。私も手伝います」
そういってサキさんは何の抵抗もなく服を脱ぐ。
二人で体を洗っていく。
なんか変な感覚だった。
サキさんの手つきはどこまでも遠慮なく、どこまでも事務的だったのだ。
「あ、痛いっ」
「少し我慢してください。綺麗にしないと食卓に乗せられませんから」
そういって無遠慮にゴシゴシこすられる
うう…あたしの体はところどころ真っ赤になっていった
「え?そんなところまで?」
「ここも食べますからね」
そういってサキさんはあたしのお尻を広げて変なスポンジの棒を突き入れる
「あ…ぐ…」
あたしは床に這いつくばって耐える。
お尻の穴やその中をサキさんは丁寧に洗っていく。
「次はここをきれいにしますよ」
もう、覚悟はできていた。もう一本の棒を用意して、あたしの膣へ入れていく。
ぬぷっ…
あ、そういえば昨日の夜最後のエッチをしたんだよね。
あのときのアレ、残ってるのかな?
サキさんはそんな感情を気にすることなくあたしの膣をきれいにしていく。
最後にサキさんが用意したのは剃刀だった。
「では、ここに座って足を広げてください」
前に見た料理写真や涼子さんを見た時にわかっていたけど、あたしもここの毛を剃らされるんだ。
綺麗に剃りあげられた股間は、最後に丁寧に洗われた。
あたしはサキさんに手伝われながら体を拭く。
そのあと、マットに寝かせられて、全身にぬるぬるしたものを塗りつけられる。
「これは?」
「オリーブオイルよ。下味をつけるために早めに塗っておくの」
下味…うう、やっぱり料理にされちゃうんだ。
あたしはサキさんにされるがままになっていた。
次の部屋へ向かう。
サキさんは、目の前の扉を指さす
「この部屋の向こうに、あなたを食べようという注文主さんがいます。
これから食べられる前に、誰に食べられるのか見ておきませんか?
もちろん、希望がなければ飛ばしますが」
あたしは、ドアを開けてもらった。
自分を食べようとする人たちを見てみたくなったのだ
ドアの向こうには、大きなガラス
その向こうにいるのは身なりのいい人たち
かっこいい男の人もいる。
みんな、あたしの裸身に視線を向けている。
あ、あの人は昨日あたしを抱いたアイドルだ。
あの人もあたしを食べちゃうの?
スポットライトを当てられてどこか演劇の主役になったような気分だった。
なぜなんだろう、この人たちに食べられるのに、全然怖いという感じがわかなかった。
むしろ自分の体を称賛してくれるような晴れがましさを感じていた。
ただの食べ物を見るというのとは違う熱い視線を感じる。
目の前で、若い男の人が自分の裸身をじっと見ていた。
自分の裸身を見られる視線に、下半身が熱くなっていまう。
その男の足元に、黒い影が動いていたが、あたしはそれには気づかなかった。
立ち去るあたしを見る全員の足元に、同じ影が動いていたことも、気付くことはなかった。
サキさんに連れられて、通路の突き当りのドアを開けられる。
そこにあったのは、ステンレス製のベッド
その首の部分には大きな穴の開いた板がふさがっている
「これって…」
「生きたままあなたを料理するわけにはまいりません。ご安心ください。苦痛がないように処理して差し上げます」
そういわれても、こんなところに首を通すのって勇気がいるよ。
うう、刃物が見えてる。
あたし、あれで首を切られちゃうんだ。
怖いよ、やっぱり死にたくないよ…
手足が震え始めた。
「上の方を見てください。あそこに映像が映るようになっています」
そこに映っていたのは、スライド形式で映し出される料理された女の子たち。
こんな状況でも、あの画像には不思議な吸引力があった。
綺麗…あたしはいつのまにか恐怖を忘れていった。
気がついたら、あたしはベッドの上に横たわり、料理になった女の子たちを見ていた。
あたしも、もうすぐああなるんだ。
奇妙な陶酔感だった。
でも…
「どうですか?あなたもあのような料理になるんですよ」
「でも…あたし、これから死んじゃうんですよね?あたしがどんな料理になるのかって見れないんですよね」
そこに返ってきたのは意外な返事だった
「見られますよ」
「ええっ?どうやって?」
サキさんは何本ものコードがつながれた首輪を用意した
「これをつなぐことでしばらくは脳だけは動くことができるようにできます。
これで処理された後でも、しばらくはこれで生きることができますから、自分が料理になった姿を見ることができるのです。希望があればさせていただきます。
涼子さんは必要ないといって処理されていきましたが」
あたしは…
「…お願いします」
やはり綺麗な自分の姿を一度見たかった
「では、おつけします」
そういってあたしの首に首輪をはめていく
「チクッとしますので、我慢してください」
頸部に痛みが走る。
手足を固定された。これで、もう降りることはできないのだ。
「では、処理させていただきます」
そういってサキさんは出て行った
目の前の大きな刃に目が行ってしまう。
目を閉じたくても閉じられない
あれがこれから自分の命を絶つのだと思うと意識がこわばってしまう。
手足がガタガタ震えてる。
体が恐怖におびえてるんだ。
早くやっちゃって、と思った瞬間刃物が落ちた
その瞬間意識が一瞬暗転し…
しばらくしてから視界が回復する。
奇妙な感覚だった。
厚さも寒さも、痛みもない。
手足の感覚も、何もない。
テレビ画面のように動くことのない視覚と周りから聞こえる聴覚があるだけだった。
あたしの目はサキさんの足を見ていた。
そのまま視界が上に上がっていく。
何かに乗せられる。そこからの視界に見えたのは、首のないあたしの体だった。
血まみれの首のない体だったが、鈍る思考はそれに何の感慨ももたらさなかった。
あたしは現実感を失っていた。
自分がもう死んでしまっていて、目の前で自分の体が横たわっているのを見ても、それが現実に起きていることとは思えなかった。
あたし、これからどうなるんだろう…
腹部を切り開かれて、中から内臓が引き出される。
それを見ても、どこかが麻痺した心はまるで標本模型でも見るように受け入れていた。
引き出された内臓は丁寧に洗われる。
奇麗に洗われた自分の腸はピンク色の艶を帯びていた。
「健康に育った証よ。たまにどうしようもなく汚れていて捨てるしかない子もいるんだけど、あなたは全部食べることができそうね」
サキさんにそう言われて、なぜか妙にうれしかった。
「肺も綺麗ね。タバコ吸ってたらここで過ごしたくらいじゃ綺麗にならないから捨てちゃう子も多いから、とても貴重だわ」
サキさんが嬉しそうにあたしの肺を取り上げていう。
あたし、全部食べてくれるんだ。
あ…あれは…女性にしかない臓器が目に入った。
実物を見たことなんてない。ましてやそれが自分のものだったなんて。
自分の女性器がそこにつながっていた。
アソコも食べられちゃうんだ。
香味野菜と一緒に漬け込まれる自分の女性器をじっと見ていた。
女性器と子宮以外の下ごしらえを終えた内臓は体の中へ戻される。
首を失った体は食材となった内臓を詰め込んで縄で縛られて巨大なオーブンに入っていった。
「さあ、次はあなたの顔よ。あたしが綺麗にしてあげるからね」
そういってサキさんがあたしの顔にメイクを施していった。
オーブンからあたしの体が出てきた。
綺麗
あたしの目の前に映るきつね色に焼かれたあたしの体を見て、その感想が浮かんだ。
焼きあがった体から立ち上る臭いが、自分のものだったとは思えないように嗅覚をくすぐる。
自分の体だったのに…倒錯感も手伝ってのものだろうか、料理された内臓と一緒に飾られる自分の裸身に誇らしいものを感じていた。
こんがり焼かれた裸身。
腹部には大きなスリットが入り、火の通った内臓が艶をまとって覗く。
裸身を縛っていた縄が切られる。
しかし、焼かれた裸身は動くことはなく、キツネ色の裸身が縄の目状のボディペインティングがされているようになった。
その前に、香味野菜に漬けこまれた子宮がちょこんと置かれた
子宮に白いソースがかけられる。
白いソースをまとったピンクの膣や子宮
切り取られた女性器にもソースはおよび、割れ目からにじみ出る汁とまじりあって皿の上に湖を作っていた。
大きな皿の上に美術品のように盛り付けられた自分の裸身。
あたし、こんな美味しそうな料理になれたんだ
最後に化粧を終えたあたしの首が置かれる
鏡を見せられた。
そこにあるのは美しく飾られた料理だった。
あたしの体がこんなきれいな料理になるなんて。
「どう?綺麗でしょう?あなたの体がこうして最高の料理になったのよ。どう?今の気分は」
料理になった気分
不思議だったけど、今の綺麗な自分の体を見たらとても幸せな気持ちになれた。
早く、この綺麗になった体を食べてもらいたかった。
「じゃあ、これからあなたの体を料理にお出しするから、機械を切るわね。これでお別れだけど、ありがとう。美味しい料理になってくれて」
サキさんがあたしの首につながった機械のスイッチに手を伸ばす
そうか…あれを切るとあたしは本当に死んじゃうんだ。
あたしは目でサキさんに別れを告げた
「さようなら」
そういってサキさんがスイッチに手をかけた瞬間、あたしの視界は急速にぼやけていった。
ぼやけた視界に映るのは美しい料理となった自分の裸体だった。
高揚感に包まれたままあたしの意識は消えていった。
サキは意識を失った首から機械を外すと、料理と一緒に広間へ出した。
そこには、美しい身なりをした男女がそろっていた。
美男美女とまではいかないが、誰もが経済的に豊かな人たちなのは間違いなかった
「お待たせしました。今日の料理はこの子です。
この子は体も健康、内臓も実に美しく、全身を料理にできる貴重な娘でした。
さきほどまで生きていただけに鮮度も保証付き、幸せなままこうして料理になることができました。
では、さっそくご賞味の準備をどうぞ」
それとともに、美男美女たちは、足元にかがみこむ。
首輪を外してやると、そこにいた大きなトカゲは、踊りだすように目の前の娘にかぶりついた。
ルバニカオオトカゲだった。
ルバニカオオトカゲは、飾りのために娘の裸身にまとわせた野菜を遠慮なく取りのけては乳房や太腿にかぶりつく。
娘が生きていたら悲鳴を上げていたであろうが、すでに料理となった娘は悲鳴を上げることも逃げ出すこともない。
ただただ、気味の悪い爬虫類に食べられるままにしていた。
乳房は複数のルバニカオオトカゲが奪い合いをし、あちこちに千切れてまき散らされた。
それを他のルバニカオオトカゲがついばんでいく。
腹の中へ入り込んだトカゲは湯気を放つ内臓を引き出そうとスリットの開いた腹を裂いていく。
娘の腹部は大きく裂かれ、内臓を大きく露出させた。
柔らかい内臓が何匹ものトカゲの口の中に納まっていく。
切り開かれた腹に何匹ものルバニカオオトカゲが潜り込む。
やがて、腹部や胸に何か所もの穴が開き始めた。
それを、台座の上の生首がじっと見ている
すでに死んでいるその眼に映るものが脳に送られることはなかった。
「いやあ、いつもながら壮観ですなぁ」
「うちの子もここではとても元気にはしゃいでるのよ」
「うちでも飼おうかな」
歓談する中にサキさんが割って入る
「あら、お求めでしたらぜひウチで。なにしろルバニカオオトカゲはここでしか扱ってませんから」
「しかし、人間の肉を一定期間ごとに食べさせないと成長しないというのに、なぜ私たちには襲い掛からないのだろう?」
「それは、ルバニカオオトカゲの食欲を刺激する物質を持ってないからです。あの娘は一か月ほどの間ずっと食事の中に
ルバニカオオトカゲの食欲を刺激する物質を混ぜられてました。それが調理で香りの形になったからこのように大喜びでむしゃぶりついているのです」
「では、この娘は自分が食べられるための準備をしていたということか。どんな娘なんだろうな。自分から食べられようとするなんて」
「それは、企業秘密ですわ」
「おお、咥えてこっちに持ってきたぞ。よほどおいしかったんだな。さあゆっくりお食べ」
アイドルとして知られた男の足元に、ルバニカオオトカゲが持ってきたのは娘の膣だった。
「しかし、よく食べるなぁ。これってあれでしょ?女の子のアソコ。こんなにおいしそうに食べるなんて、こいつはオスだったっけ?」
「あら?お売りしているルバニカオオトカゲはすべてオスですよ。メスは極めて貴重で、ここでもお売りしていません。さすがに繁殖されても困りますからね」
「この娘、昨日抱いたなぁ。いつも物欲しげな娘を抱けて、こうしてペットの餌まで提供してくれるんだから、高い金を払う価値あるよ」
そういう会話の中で、娘の体は見る影もなく無数のルバニカオオトカゲに食い荒らされようとしていた。
皿の上に横たわった娘の残骸は肉がこびりついた骨に近い有様となっていた。
トカゲの粘液でぐちゃぐちゃになった肉片が皿の上で散らばる。
露出した骨を争うようにしゃぶっては肉を引きはがす。
その姿はさっきまでの料理と同じものとは思えなかった。
宴は終わった。
無残に食い散らされた残骸は係員によってまとめられる。
食べ残しとなった残骸は、そのままごみとして捨てられる。
台におかれた生首はそこにはなかった。
彼女の首は捨てられることなくサキが持ち去っていったのだ。
その日の夜
サキは自室でくつろいでいた。
料理となる女の子の世話や料理の提供で疲れた体を癒す貴重な時間だった。
サキは冷蔵庫へ向かい、冷蔵された生首を持ち出す
それは、今日料理となったばかりの娘の生首だった。
頭部は大きく切り開かれて、脳がむき出しになっている。
サキは、それをおいしそうにすくって食べた。
「これが至福のひと時よね」
すでに、自室にこもってリラックスしていたサキの姿は人間のものではなかった。
とてつもなく巨大なルバニカオオトカゲ
彼女は、唯一のルバニカオオトカゲのメスだった。
オスのルバニカオオトカゲが人間の体を好物にするのに対し、彼女の好物は人間の脳だった。
それも、幸福なうちに死んだ若いメスの脳は、これ以上ない美味だった。
彼女が少なからぬ労力を用いて捕食する女性を安楽のうちに料理にしている理由はそれだった。
サキは目の前の娘に語りかけながらその脳を食べてゆく
「あなたも、幸せなまま死ねたみたいね。口の中でとろけていくわ」
娘の脳は口の中でぐちゃぐちゃになりながら、彼女の思い出や幸福感を味に変えていった。
「ああ、この征服感、たまらないわ。生身の女の子の人生が口の中でひろがっていく」
恍惚とした表情で娘の脳を食べてゆくサキの足元には、無数のルバニカオオトカゲがいた
「ダメよ、もう少し我慢して。この娘を食べ終わったら、来てもいいから」
夜が更ける頃、サキとルバニカオオトカゲは愛の営みを始める。
そして、新たなルバニカオオトカゲが生み出されていくのだった。
最終更新:2013年04月29日 10:30