広葉樹の茂る森の中を進む、戦士の一団がいた。
それぞれが身につけた胸当ては鈍く輝き、
手に持った立派なハルバードや槍は、使い込まれ馴染んでいることがわかる。
その佇まいや雰囲気だけでも、歴戦の強者だと見て取れるほどの戦士達であった。

いや、その中に、一人異質な存在が居る。
外套を被った、若い女性だ。
美少女と言っていい、はかなげな顔立ちは整っていて、どこか気品を感じさせる。
二つに纏められた長い黒髪は、手入れが行き届いているのか艶があった。
むさ苦しい男たちの中で、どこか良い香りを漂わせそうなその姿は、
言うなれば、戦士たちに守られた姫、といったところだが、実際は違った。

戦士たちは、地竜狩りを目的とする一団なのだ。
竜の角は万物に効く薬とされ、皮や鱗は優秀な防具の素材になる。
それでいて希少で、かつ地上最強とも言われるその生物は、
一度倒せば、その一団全員が一生遊んで暮らせる程の、富と名誉を得られると言われていた。
それぞれが十分な装備と経験を持った彼らは、ここで一発勝負と
パーティを組んだのだ。そして、それぞれが均等に出し合った金で、
奴隷である彼女を買ったのだ。

彼らが探索している森には、地竜が出没するという話があった。
時に周辺の村と旅人に被害の報告が出ているからだ。

竜は意外と用心深く、ただ武装した戦士たちの前に姿をあらわすことは無いだろう。
そこで彼女だ。
竜は、若い人間の女性の肉を大変好むと言う。若い女性を囮に使うことで、
おびき寄せるのは竜狩りの定石であった。

「ソフィア、大丈夫か。疲れてはいないかい。」

大体がほぼ中年に差し掛かるような年齢の戦士たちの中で、
一人若い男が、彼女に気遣うように声をかける。

「ええ、大丈夫よ。アラン。」

男はソフィアとそう変わらない年齢で、髭も生えそろっていない若輩だった。
だが、戦士としては十分優秀で、それに見合った稼ぎがあったからこそ、
この一団に参加しているのだ。

「無理はするなよ。肝心なときに、ちゃんと自分の身を守らなくちゃいけないんだからな」

「うん。でも、地竜がきてもアラン…アラン達が守ってくれるから。」

ソフィアは奴隷であるが、元は貴族の娘だった。
国が戦に敗れ、逃げる途中で捕まり、奴隷として売られた。
容姿が優れた彼女には、相応の良い値が付いていたが、彼らは彼女を選んだ。
伝説ではあるが、竜は処女を好むと聞いていたから、手のついて無い彼女は条件に合っていたのだ。

戦士たちは位こそ届かぬものの、騎士の心構えがあった。
彼女を奴隷として扱うことはなく、危険なことに付きあわせてしまう後ろめたさもあってか、
彼女を大変優しく扱った。

「おいおいアラン、俺達もいるんだ。そんなに見せつけてくれるなよ。」

「そんなんじゃないですよ、俺はただ…」

口ひげを生やした中年の戦士が、アランを茶化す。

奴隷として買われた時は覚悟を決め、顔を強張らせていたソフィアも、
彼らが気のいい男たちであることがわかると、徐々に心を開いていった。

特にアランは彼女に話しかけ、熱心に気遣い、夜には得意の横笛を演奏して聞かせた。
貴族の娘の時でも経験がなかった、一人の人間として心を寄せてくれるアランの優しさに、
彼女が惹かれていくのも自然なことだった。

男たちも、心の底では、ソフィアの美しさに惹かれるものもあったが、
目的のために奴隷を買ったという後ろめたさもあり、
今では若者達の恋路を応援すらしていた。

「そんなラブラブな態度を見せられてちゃあ、こっちが困らあよ」

「こりゃあ、地竜を倒したらアラン、早速その金で盛大に式でも挙げないとな」

他の戦士達に茶化されて、困ったように顔を赤らめるアランに、
ソフィアがそっと手をつなぐ。
それは、ソフィアの返事とも取れる態度だった。

「ソフィアのことは僕が絶対に守るよ。竜になんか指一本触れさせない」

自然とアランは自分の体に力が湧いて来るのを感じた。

「オイオイ、俺達全員で守るんだよ」

「アレン、気張りすぎて怪我をするんじゃないぞ。ソフィアの為にもな。」

「アランも…そしてみなさんも、無事で居てくださいね。」

ソフィアもまた、アレンのためにも、被害を受けた人々のためにも、
自分が囮になることに、今では使命感すら持っていたのだ。

「よし、ここらにするか」

戦士達がたどり着いたのは、森の中にいくらか木々も離れ開けた場所であった。
ここに地竜を呼び出すための囮を仕掛けようと言うのだ。

「それじゃあ、手はず通りに」

戦士たちはそれぞれの武器を手に、散っていく。
最後にアランが残り、ソフィアの手を取った。

「僕が駆けつけるまで、絶対に逃げるんだよ。」

「アラン…ふふ、いつもそれを言って。都合よく地竜が来るかもわからないじゃない。」

「これが終わったら、君を僕の故郷の村に招待したいんだ。
 僕は君と一緒に居られるなら、戦士をやめてもいいと思ってる。」

ソフィアは微笑みかけると、返事をするように、アランに静かに口付けをした。

アランが森の奥に去った後、ソフィアは、外套の紐を外し始める。

体を覆っていた長い外套を外すと、中からは、
ソフィアの何一つ身に着けていない身体が顕になった。

貴族であったので、食事にも恵まれていたのだろう。その体は大変豊かと言ってよかった。
突き出した胸は果実が実っているようにたわわで、よく皮下脂肪の付いている身体も、
しっかりと女性らしいラインを残している。脂肪だけでなく、健康的な張りも有る下半身は、
尻から脚にかけ、立派な肉付きを湛えていた。

アランで無くても、どんな男を魅了出来そうなその身体は、ドラゴンを引き寄せる
囮としては最高のものといえるだろう。

体を晒したソフィアを、囲むようにして、戦士たちは茂みに隠れていた。
餌を狙って地竜が現れた時は、いつでも飛び出して戦う準備は万端だった。
特に、アランは、ソフィアの身体に傷一つ付けるものかと決意を固めていた。

…結果として、それらの準備は全て無駄になった。

この森に出るのは、地竜だと聞いていた。
まさか希少なドラゴンが、それも更に珍しい翼竜種が同じ森に住むとは思っても見なかったのだ。

空は木々に遮られ、上空から舞い降りるその大きな影に気がつくものは誰も居なかった。
音もなく舞い降りてきたその蜥蜴は、後ろ脚でソフィアの胴を掴むと、あっという間に彼女を
攫っていったのだ。

アラン達たちは急いでその地に駆け寄ったが、時すでに遅く、もはやどうすることも
出来なかった。

呆然と立ち尽くす男たちを尻目に、翼竜は、意外と近いところに降り立った。
側の山の切り立った崖の中頃に、ちょうど翼竜が収まるほどの
頂があるのだ。人間の力では、とてもすぐにたどり着けるような場所ではなかった。

アラン達の見ている前、だが誰にも邪魔されない場所で、翼竜は早速の食事に取り掛かろうとしていた。

邪魔な悲鳴を上げさせないように、ソフィアの首を押さえつけると、
その大きな乳房を口いっぱいに含み、舐めまわす。
柔らかい肉は舌の圧力で形を変え、時々当たる乳首がアクセントを感じさせた。
甘噛みすると。その肌はぷりぷりと程よい弾力を牙に主張する。
翼竜は、捕まえた獲物が、期待以上に旨い肉を持っていることに感動していた。

その甘い肉の味を想像するだけで、口からは涎が溢れてくる。
散々しゃぶりつくし、大きな乳房が涎で濡れそぼったところで、
翼竜はその顎に力を込めた。

牙を押し返す弾力も限界を迎えると、小気味よい感触を伝えながら、牙は肉に食い込み、血が溢れる。
翼竜は首を引くと、そのまま食いちぎった。

幾多の男を魅了しただろう、その乳房は、攫われてからあっという間の間に、ただの肉と変わったのだ。
翼竜はその肉塊をよく噛みしめると、柔らかい肉の甘味が口いっぱいに広がった。

見た目以上の美味に喜んだ翼竜は、舌なめずりをすると、もう一つの肉塊を食いちぎりにかかった。

アラン達が崖の下まで走ってたどり着いた時には、ソフィアの乳房は無くなっていた。
翼竜はソフィアの身体を持ち上げると、次はそのたっぷりとした尻肉に齧りつくところだった。
もうどうにも助からないことは誰の目にも明らかだった。

「弓を貸してくれ」

ただ絶望してそれを眺めている男たちの中、アランが呟く。

「いや、俺が持っているのは狩猟弓だ。とてもドラゴンに通じるもんじゃあ…」

「いいんだ」

アランは、仲間から受け取った弓を、決意を込めていっぱいに引き絞り…放った。
力を込めすぎた弦が途切れ、弾ける。
強者たちにも、とても当てるのには難しい距離だったが、まっすぐに飛んでいった矢は、
吸い込まれるようにソフィアの剥き出しになった胸に突き刺さった。
それは、アランの狙い通りだった。

表情の見える距離では無いが、
ソフィアは最後、もう見えなくなった目で、矢の飛んできた方に微笑みかけたようだった。
せめて、自分の手で止めを。
それが、アランが最後に出来た唯一の事だったのだ。

翼竜は気にせず、尻肉を食いちぎり堪能していった。
肉の分厚いところを食いちぎり、咀嚼し、飲み込む。
肉付きの良かった太腿が、どんどん細い骨に変わっていく。

結局、アランたちは、ソフィアがただの骨の塊になるまで、そこでなすすべなく眺めていた。
結局彼らのしたことは、ドラゴンに高級な餌を与えただけのことだったのだ。

その後、アランたちは、街に戻り、誰も何を言うこともなく解散していった。
そして、もう二度と竜狩りをすることはなかった。

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最終更新:2019年11月08日 10:51