洞窟の奥で、空腹に耐えられず目を覚ます。
前に眠りについてから、きっかり10年経っているはずだ。
理由を説明する必要はない。ただ、感覚でわかるのだ。
万に届く寿命を持ち、この地上に敵の居ない我らが種族は、その人生をどう全うするかに悩むことになる。
外的要因で死ぬことがまず無い以上、人生の最大の敵は退屈というものだった。
我が選んだのは、なんのこともない、惰眠と食事を交互にこなすだけの生活であった。
怠惰に思い悩むことはない。本来大抵の生物は、そのようにして過ごしているのだ。
知能がそれなりにある割に、生き急ぐ必要のある彼らとは違う。
しっかりと腹をすかせたところで、ここぞというごちそうを探し出し、ゆっくり味わって食う。
繰り返し満足したら、また飢えと欲求を覚えるまで、眠りにつくのだ。
疲弊した餌共がまた増えるにも十分な時間と言えるだろう。
まだぼんやりする頭で、10年前はどのような食事をしたものかと思い出す。
千年ほど前と比べ、ここしばらく我らが種族も見なくなったため、人間共も最近は無防備なものだ。
何度か攫われれば警戒もするものの、人間というのは反省をしないので、10年も経てばけろっと忘れる。
暖かい時期になれば、平気で若い娘たちがその素肌を晒し、肉付きを見せてくれるもの。
もしくは温水の湧くところなどは、布すら纏わず湯浴みを楽しんでいたりする。
いくら遠目が効くとはいえ、衣が厚いとうっかり肉の萎えたメスなどを捕まえてしまうこともある。
やはり食べるなら肉質の落ちてない、若い未産のメスを狙うべきだろう。
そう、前は学舎というところから、ちょうど水泳をしていた若いメスを捕まえてきたのだ。
一番胸肉の大きいものと探してみると、特別サイズのものが居た。あれはなかなか見つけられるものではない。
早速捕まえて当人に聞いてみると、人間の単位で110を超えるらしい。
だんだん思い出してきた。まず第一にその大きな乳肉にかぶりついたのだ。
牙を立てる前に、ゆっくりと舐め回すと若い張りのある肌が彈けるようであった。
それでいて牙を押し付けると、たっぷりとした柔らかい肉がほどよく押し返す。
なんどか歯ごたえを味わった後、意を決して齧りつくと、ぷつりと裂けた皮膚の中から
臭みのない、よく脂の乗った温かい甘い肉が舌を潤したものだ。
乳房の肉は個体差が大きく、そこらのメスのサイズでは、齧り付いてもここまでの満足感は得られないもの。
肉を
食いちぎり、ゆっくりくちゃくちゃと音を立て咀嚼すると、口いっぱいに肉の旨味が広がったものだ。
それでもまだ片乳すら無くなっていないことについ笑みと涎が……。
気がつくと涎が溢れ床に垂れていた。ああ、そうだ。起きて最初の食事は乳の大きいメスにしよう。
満足するまで脂の乗った乳肉を食べたら、次は尻肉や腿肉に齧り付いて口直しにしよう。
さて、今の人間はどこに集まっているものか。我は、羽ばたき巣を飛び立つのであった。
最終更新:2024年01月23日 23:17