大迷宮ファーレード。それは巨大な産業基盤であり、巨大な狩場でもある。
だが、それに異を唱える者もいる。
ファーレードは一つの巨大な生き物だと。われわれを食べるために、
わざわざ、餌を置いてるだけに過ぎないのだと。
盗賊風のダガーと弓を背負った少女が歩いていた。
今回は、労力のわりに実入りが少なく、とても不満だったのだ。
「…あれは??」
盗賊風の少女が見つけたのは、扉だった。
「……調べてみようかしら」
慎重に調べると、扉に毒針が仕掛けてあった。解除して、慎重に罠を開ける。
扉を開けるとそこには、宝石などの宝の山があった。
「これって、もしかして『トラップスパイダーの宝庫』?」
ファーレードの中には幾つか噂話がある。そのうち有名なもののひとつが、
『トラップスパイダーの宝庫』だ。
いわく6人パーティ全員の袋が満杯になった。いわく、誰某がファーレードからいなくなったら王様になっていた。
そんな時、最も話として出てくるのが『トラップスパイダーの宝庫』だ。
信じられないほどの金銀財宝やアイテムを自らの巣に集めて、それを取りに来た盗賊を食べてしまう化け物。
「本物なら……」
じわり。汗が流れ始める。心臓がバクバクと言い始める。これを袋に詰めるだけ詰めて、
帰還の書物でそのまま帰還すれば……。
「調べてみるしかないわね」
そっと、地面に這いつくばり、そのまま這うように慎重に進む。罠が無いか、何かいないか。
心臓の音がやけに甲高く聞こえる。落ち着かせようと慎重になる。
そっと、床を見る……帰還封じの魔方陣……このダンジョンには時々ある。
普段なら避けるべき所だろうが、今回は宝物の前だ。引き返せない。
そのまま、突き進む。汗がそっと流れでる。
気にしないで前に進む。宝の山がもう手に届く所まである。
やがて、その宝を手に取った。やった!!心の中でガッツポーズをとる。
それが、ミスだと気がついたのは、手に小さな蜘蛛が張り付いていたのを見た瞬間だった。
体が痺れ始めている。あの蜘蛛は痺れ毒を持っているらしい。
慌てて、宝石を持ったまま魔法陣の外へ出ようとする。目の前が霞み始める。
逃げないと……逃げないと……逃げない……逃げ……ニゲ………
眼が覚めた時、目の前に巨大な人間ぐらいの大きさの蜘蛛がいた。御丁寧に体中を縄で縛られている。
『おーうおう、目が覚めたかねお嬢さん』
………こいつに何も言う事は無い。
『冷たいのお……まあ良い。わしはなあ……人間が罠にかかっている姿がとてもすきなんじゃ
逃げようともがく姿はそれだけで、楽しみじゃわい』
「それと私を食べない理由は何?」
『わしは、今満腹しておるからのう。折角きゃくに食わせる餌を持ってきたんじゃ。
魔物ばかり食わせてたのでは奴も満足せんからのう』
そう言って、蜘蛛は縛った糸をそのままに私をどこかへ持っていく。
……どれぐらい運ばれただろう。体の自由が利き始めてきた。
巨大な部屋に着いたとき、私は目を疑った。そこには人間の百倍はあろうかという、巨大な女王蟻がいたのだ。
『ほほほ、わしの罠作成を手伝ってくれる。『ギガクィーンアント』じゃよ。
わしの言う事をきちんと聞く良い子でのう』
でかい、とにかくでかい。慌てて逃げようとする。
『これこれ、粗相をする出ない』
そう言って蜘蛛の命令に従い、数匹の巨大蟻が私に何かを吹きつける。
『これは、蟻の女王の専用食じゃよ。舐めてみろ病み付きになるぞ』
いわれるまま舐めてみる。心臓が破裂しそうになった。
その私に嫉妬するように、巨大な蟻の口が私の目の前に迫った。
ガショリという音と共に、巨大な蟻の口に挟まれる私の体。
そのまま上まで持ち上げられてから、巨大な顎を大きく開かれた。
「きゃあああああああああああああああああああああああ……!!」
その瞬間、私の口も大きく開いていた。
バチリと巨大な顎が閉じて、盗賊の少女の体が二つに割れて、血の花火が咲いた。
『きれいな花火じゃ』
トラップスパイダーはそう言うと、次の獲物を探しにダンジョン内に戻っていった。
『さてと。次はどんな罠をつくろうかのう』
大迷宮『ファーレード』それは巨大な魔物の巣。食われるのは宝か人か。
最終更新:2008年05月18日 15:33