太陽はすでに頂点近くまで昇りつつあったが、鬱葱とした広葉樹林が光線の大部分を遮り、地面には明暗模様の不思議な幾何学図形が無数に出来上がっていた。
ドーリーとマモは切り倒したブナの木に並んで座っていた。二人のすぐ傍には尻から口までを串で貫かれた少女が真っ赤な炎で焼かれている。
昨夜の戦利品だった。周囲を見渡せばあちらこちらで――およそ数百人にものぼる同胞達が――二人と同じように、嬉々として獲物を調理している。
首を切られて血抜きされている最中の少女や、ナイフで手際よく解体されていく妊婦。血と泣き叫ぶ声、肉を焼く香ばしい臭いが森のなかに充満していた。
「で、あのいかにも固そうな城に侵入できなくて、おずおずと撤退してきたわけかい」
マモが、少女の身体を器用に裏返しながら言った。
「仕方が無い。あれは見かけより何倍も丈夫にできている。いくら俺たちとはいえ、空から矢の雨じゃあ、たまらないからな」
ドーリーの傍を、裸の女を追い掛け回しながらナタを振り回している同胞が通り過ぎた。マモは焼き具合を確かめるために、少女の尻にしきりに小枝を突き刺している。
「たしかに。でも、入る事さえできれば、あとはすぐなのになぁ――うん、良い焼き具合だ――あいつらの身体の柔らかさって言ったら、まるで金玉さ。策ははあるのかい、ドーリー?」
マモが腿肉をナイフで切り分け、串に刺してドーリーに手渡す。
「あちち、俺を誰だと思ってるんだ、マモ。いつだって、すべてが想定内さ。いや、ひとつだけ想定外の事があったな」
肉を頬張りつつドーリーが哂う。自分の分の肉を切り分けながら、マモは聞き返した。
「想定外とは何の話だい?」
「”あいつ”は恐ろしく足がノロかったってことさ」
ドーリーがそう言ったとき、近くの木立でおこぼれを貰おうと待機していた鳥達が一斉に飛び立った。次いで、
まるで地面をでかいハンマーで殴っているかのような地響きが断続的に続く。
「やっと来たか」
ドーリーが待ってましたとばかりに立ち上がった。マモは飛び上がりそうな尻を懸命に押さえつけながら、不適に笑う親友の視線を追う。
そして”現れたソレ”を見あげて呆然とした。
「な、なんだい、ありゃあ」
地にきつく根を張るブナの巨木を易々と引き抜きながらマモたちの前に登場したのは、身長五メートルはあろうかという巨人だった。
巨人はたったいま引き抜いたばかりの巨木に腰をおろすやいなや、たまたま手近にいた女を数人引っ掴むとそのまま口のなかに入れてぼりぼりと咀嚼した。
ドーリー以外のその場にいた全員が、口を半開きにしてこの世の最後を見たというような表情で巨人を見つめている。巨人はすべての視線が自分に集中している事を知ると、
醜い顔を歪めながら、照れたように頭を掻いた。
「よう、待ちくたびれたよ、グーブ」ドーリーが親しげな声で巨人に話しかけた。そしてマモを振り返ると自慢げに、
「紹介しよう、マモ。俺の従弟だ。仲良くしてやってくれ」
廊下の床板が軋んでいる。ケイトは涙に滲んだ目を袖端で拭うと、怯えた小動物のような動作で扉を見た。そしてその場に萎縮し、
祈るようにこぶしを握った。できることなら、いますぐにでもどこかに隠れたかった。しかし目下のところケイトの足及び腰はてんで言う事を聞く気配は無かった。
腰が抜けていたのだ。
こつりこつりと、足音が廊下に反響している。まるで自身に対する死の宣告のようだ、とケイトは思った。
部屋の扉の前で足音が止んだ。ケイトの顔からみるみる血の気が引いていく。胸の中で狂ったように跳ね回る心臓の鼓動を聴かれやしないかと恐怖した。
沈黙。
ケイトは息を呑んだ。指の関節が白くなるほどこぶしに力をいれた。扉越しに相手の息遣いが聞こえようなきがした。
通り過ぎて! とケイトは心の中で何度も叫んだ。敬虔とはお世辞にも言えない彼女の信仰心が、このときばかりは神への敬愛で満ち溢れた。
彼女は扉を食い入るように見つめた。ドアノブが音もなく回ったときも、彼女は扉を見つめていた。
*
兵士長キルケは城の中を散々駆けまわったあげく、三階テラスでようやく彼女の姿を認めると、心から安堵の息をついた。
腰まで伸びたつややかなブロンドが、微風に柔く遊ばれている。「アカ姫さま、外は危険です。どうか中にお戻りを」
呼吸を整たあと、キルケは静かにそう言った。けれど姫は何も答えない。彼女の視線の先には広大な森があった。そして森のあちこちからは、
灰色の煙が狼煙のようにあがっている。キルケはその意味を知っていた。
「お母様・・・・・・」
アカがそう呟いたとき、キルケの心は張り裂けそうだった。神よ、このような仕打ちはあまりにも残酷すぎます。姫はまだ幼い――姫はまだ幼すぎるのだ。
王妃が突然の病に倒れ亡くなったのは昨年の事だった。そのときアカはまだ十五だった。あれから一年経って、ようやく心労も薄らいできたときだのに、
今年は盛大な戴冠式も予定していたのに――。
「姫さま。行きましょう。ここにいては、お体が冷えてしまいます」
キルケはアカの手を取った。ややあってアカが振り向いたとき、キルケの心はふいに揺れ動いた。アカの、まだ幼さの残る柔い頬に幾筋もの涙の跡が残っていたのだ。
キルケは込みあがってくる、ある種の親密な感情を堪えた。まるでアヒルの子供のように、いつも自分のうしろを尾いてきた幼い少女の姿が頭に浮かんだが、
それを使命という名の檻に閉じ込めた。
「弓兵の準備は整いました、姫様。救助隊も、現在市街に散開しています。早く奥に避難を」
そう冷静に言い放った自分にキルケは驚くとともに、なんて薄情な人間なのだろう、と自身を咎めもした。
アカはキルケの腕を振り払うと、何も言わずに部屋の中に入っていった。鉛色の空に狼煙が吸い込まれては消えていく。ひと雨くるな、とキルケは思った。
夕方になると雨が降り出した。冷たい雨だった。あたりがすっかり暗闇に包まれる時刻になっても、雨の止む気配は一向になかった。
つま先までずぶ濡れになりながら、ドーリーとマモ、そしてその大勢の同胞らは城への攻撃のために市街中央のメイン・ストリートに集結していた。
およそ二百メートル先――唯一の突入口である城門が見えた。城門は貝の様に固く閉ざされている。激しく地面を叩く雨音に負けないような大声で、
ドーリーは同胞達に命令を下し始めた。命令の内容は至極簡単なものだった。
「いいな、合図があるまでその場にカタツムリみたいにじっとしとけ! いいって言ってから、全員で突入だ。お前らの脳天に穴が開いたって、俺はしらねぇからなっ!」
まるで怒号のような野太い返事が空気を震わせた。
ドーリーはグーブを見上げて続ける。「グーブ。お前はこの狩りのいわば主役だ。おおいに気張れよ」
ドーリーは小さな手の平で巨人のふくらはぎを励ますように叩いた。巨人は図体の二倍はあろうかという岩石を高々と持ち上げると、奮って鼻息を鳴らした。
そしてその隆々たる筋肉を見た同胞達は勝利の確信を得たかのように唸り声をあげた。
**
城の最奥部。鉄の二枚扉に守られた避難所に、アカとキルケ、そして姫付きの兵士と侍女合わせて十数名の姿があった。彼女らは巣の中の小鳥のように身体を寄せ合い、
最後の砦である灰色の鉄扉を怯えた目で見つめている。涙を流しているものも少なくはなかった。
アカの身体を抱き寄せながら、キルケは自軍の戦況を危惧していた。彼女は戦闘が始まるのと同時に、自軍に指示を残し、この薄暗い避難所に身を隠したのだ。
愛しい姫の命だけは、わが身に代えても守り抜く意気込みだった。
「ひっ」
突然、巨大な槌を石に打ち鳴らしたような音が聞こえ、部屋全体が振動した。声をあげたのは侍女のひとりだった。キルケが睨みつけると、彼女は慌てて口をつぐんだ。
キルケは耳を欹てた。天井から落ちてきた二三の水滴が、彼女の肩を少しばかり濡らしていた。
「ねぇ、外、静すぎない?」
緊張に耐え切れなかったのか、女中の一人が震えた声を漏らした。
そのときだった。鉄の二枚扉が鋭い音を立ててはじけとんだ。女中達が身を萎縮させ悲鳴をあげるなか、キルケは見ていた。無防備に口を開けた扉の外から部屋の中に伸びる巨大な手を。
「いやぁっ! 放して、放してっ。たすけてっ、おかあさぁんっ」
キルケは慄然と震える身を禁じえなかった。巨大なこぶしがまるでヒトデのようにがばと開き、侍女の一人を引っつかむとそのまま外に消えたのだ。
「姫さま、見てはいけませんっ!」
キルケは咄嗟にアカの目を覆った。次の瞬間、身の毛もよだつ断末魔とともに、骨の折れる渇いた音と肉の潰れる生々しい音が、
キルケの耳を侵食せんばかりに響いた。
彼女らを混乱狂喜させるのはそれだけで充分だった。侍女たちは泣き叫び神に祈りをささげ、臆病な兵士達は槍にすがりながら隅にうずくまっている。
キルケはアカを抱きながらなるべく部屋の隅に寄った。すぐ鼻の先を、巨大な指が何度もかすめていく。アンモニアの臭いが鼻についた。侍女の一人が股を濡らしていた。
キルケは意を決して剣を抜いた。そしていまにもわが身に伸びる巨大な指の、その爪と柔肉との隙間に剣の切っ先をぞぶりと突き刺した。
大気を震わせる咆哮があがった。手が引っ込んだのを確認すると、キルケは勢いよく外に飛び出した。そのあとを、槍を持った勇敢な兵士数人が続いた。
避難所の外は広間になっている。四方を大理石の強固な壁に囲まれた広々とした空間は、そもそも大人数を一度に非難させるために作られたものだ。
扉は先ほどの避難所と同じく分厚い鉄の扉でできているのだが、いまでは見るも無惨な姿で部屋の隅にうち捨てられている。
問題の怪物は広間の中心で痛みに耐えていた。数人の兵士が槍を投げすかさず追撃する。槍は怪物の肩と背中に命中した。
怪物はさらなる痛みに、こぶしを床に打ちつけた。大理石の床が脆い石のように砕ける様子を見て、キルケはぞっとしたが、気持ちを奮い立たせて剣を振るった。
キルケは怪物の目に剣を突き刺した。怪物の口端から飛び散った涎が床を濡らした。潰された片目を押さえながらも、怪物は強靭な体力をもってよろよろと立ち上がる。
残された目のなかに荒ぶる怒りがありありと見て取れた。
「こんなの、む、無理よ」
気迫に押されたのか、兵士の一人が尻込みをした。怪物は彼女に狙いを定めると、すかさず引っつかみ、両手で握りつぶした。嫌な音がした。矢継ぎ早に、
怪物は彼女だったものをキルケたちに投げつけると、キルケたちがひるんだ隙に手を横に薙ぎ払った。
キルケは壁に叩きつけられて頭を強く打った。またたくまに意識が遠のいていく。彼女が最後に見たのは、避難所の奥に手を伸ばす怪物の姿と愛しいアカの悲鳴だけだった。
***
「助けてっ、お願い! なんでもするからっ」
兵士はマモにそう命乞いすると、自ら進んで衣服を脱ぎ始めた。形の良い乳房がこぼれ、張りのある太股の付け根には濃い陰毛が茂っている。
女は乳房を荒くもみしだき、性器に指を突っ込んでマモを挑発するように腰を振った。
「ん、はぁ。助けてくれたら。いくらでも突っ込んでいいのよ、ここに」
女が性器を割り広げる。赤い粘膜があらわになった。マモは女のその行為に嫌悪を顔中に張り付かせると、お望みどおりアソコに突っ込んでやった。
女は”槍を”突っ込まれたまま、同胞らに運ばれていった。
「そろそろ終わりかな」
マモの周囲には死体が累々と転がっていた。周りに生きているものはいなかった。
「さすがだな、マモ」
ドーリーが声をかけてきた。ドーリーは担いでいた裸の女を床に捨てた。
「お世辞を言うなよ。それより、状況はどうだい?」
「全部終わったよ」
「そうかい」
二人はいったん森に戻る事にした。明日からはしばらく城で寝泊りする事になるので、生け捕った女達を城に運びこまなければならないのだ。
面倒な仕事だが、次に訪れる幸福を想像すると思わず喉が鳴った。
二人は城門を抜け、メイン・ストリートに出た。市街では、馬鹿な同胞達が家々に火をつけて遊んでいる。それ以外は静かなものだった。
二人は昨日と今日で殺した獲物の数を楽しげに競い合った。二人とも主張する数が合わなくて、あわや喧嘩になるところだったが、まもなく和解した。
すでに腹の中にあっては、確認する術がないのに気づいたのだ。
暗がりを歩いていると、生き残りの兵士が一人、目の前に立ちはだかった。兵士は剣を抜くと、いきなり二人に襲い掛かった。マモは突然の剣戟を咄嗟に回避すると、
電光石火でナイフを抜き、柔い腹につきたてた。兵士は口から血泡を吐きながら絶命した。
そのときである。暗がりのなかから影が飛び出した。影は一直線にマモへと向かい狂気の切っ先をその腹に深々と突き刺した。マモは地面に転がりのたうち回った。
「よくも、よくもっ、ルーシーをっ」
影の正体はケイトだった。
ルーシーの無惨な死体を発見した今朝、腰の抜けて動けない彼女に迫った謎の気配の正体は市街に派遣された救助隊の一人だった。
ケイトは彼女に――最初にマモに襲い掛かった兵士の事だ――マモに対する復讐を提案し、好機を窺っていままで隠れていたのだ。
そしてこの絶好の暗がりの中、闇にまぎれて決行したのである。
腹から大量の血を流し、苦しげに呻くマモを見下ろしながら、ケイトは嗜虐心に燃えていた――これからこいつをどうやって嬲ろうか――しかしながらそれゆえに、
彼女はドーリーの存在をすっかり忘れてしまっていた。
ドーリーは彼女の後頭部を殴ってあっという間に気絶させた。マモはまもなく絶命した。
気絶したケイトを肩に担ぎながらドーリーは、この女には最高の辱めと苦しみを味わわせなければいけないと、かたく決意した。
眼を覚ますと、キルケはまず後頭部に鋭い痛みを感じた。次いで、首元に違和感。手で触れてみると、それはどうやら首輪らしかった。
キルケの瞳にはこの世の地獄が映っていた。白く艶やかだった城の床石は余すところなく血と汚物で穢れ、吐き気を催す腐臭が部屋に充満している。
そこかしこで断末魔の悲鳴があがり、次は自分の番だと嘆く女の声が止むことなく続いている。天井の梁からは首を吊られ皮膚を剥かれた死体がいくつも垂れ下がっている。
荘厳で豪奢だった城は見る影もなかった。
キルケは裸に剥かれ、樹で作った檻の中に閉じ込められていた。檻の中から見える限られた視界のなか――広間の端のほうに樹で作った柵が設けられていて、
なんだろうと注意して見てみると、その内側でまだ乳房も膨らみきっていない年端の少女達が飼育されていた。彼女らには足首から先が無かった。
アカを探したけれど、部屋の中に目的の少女の姿を認める事はできなかった。最後に見たあの恐ろしい光景を思い出して、キルケは言い知れぬ絶望に心中をかき乱された。
アカが部屋のなかに入ってきたとき、最初キルケはそれが誰なのかわからなかった。長いブロンドはくすみ、端正な顔は死者のように生気を失っている。
鎖で牽引され、四つん這いで歩く姿はまるで家畜だった。真っ赤に腫れてほころんだ性器が、陵辱の激しさをものがたっている。昨日までアカは乙女だった。
「姫っ――姫っ!」
檻を揺さぶり、キルケは力の限り叫んだが、まるでアカには聞こえないようだった。揺れ動くブロンドのあいだから、耳の切り取られた痕が垣間見えた。
部屋の真ん中には大きなベニヤ板が据えてあった。板は本来の色を思い出せないほど赤黒く汚れている。血だった。アカは眠気に誘われる少女のように、自ら進んで板の上に仰向けになった。
少女は現世の苦しみから解放されるため望んで死を選んだのだった。
柵の中の少女達が、ぼんやりとした目つきで、かつて自身らの憧れだったアカの姿を見守っている。彼女らにはわかっているのだ。もうどうすることもできない。
着々と調理の準備が進められていく。アカは小人の一人に眼帯を施され、大の字に手足を縛られた。高貴な身分の少女の最後を見物しようと、周囲に続々と小人達が集ってきた。
キルケは叫んだ。喉が擦り切れるほど叫んだ。すると小人の一人が下卑た笑みを顔中に貼りつかせながら、檻の鍵を開けてキルケを一時のあいだ開放した。
そして鎖をつけられて強引に牽引された先は、いままさに調理されようとしているアカの目の前だった。
小人は顔を背けるキルケの髪を鷲づかみ、かたく目を瞑ろうとする彼女のまぶたを強引に押し広げた。眼帯に覆われたアカの目元から、涙が頬を伝っていた。
傍らで刃物を砥いでいた小人が立ち上がると、群衆から歓声があがった。するとその小人は食物の品定めをするときのように、
アカの顔やら乳房やらを無遠慮な指で撫ではじめる。小人は最後に少女の性器を指で押し広げると、何かを確認するかのように、腫れた粘膜を弄んだ。
刃物はまずアカの鎖骨から恥部までをゆっくりと切り裂いた。裂けた肉の割れ目をこじ開けると、補佐役の一人が小包丁を使って丁寧に内臓を切り分けていく。
刃物を持った小人は大きなナタを持ち出して、少女の手足を切断しはじめた。
アカは口をあらんかぎりに広げて苦痛を訴えたが、その口内に舌は見当たらなかった。少女の生殖器及び肛門からは、痛みのショックによって、
断続的に排泄物が噴出している。切り取られた両方の乳房が、群集のなかに放りいれられる。取り出された少女の子宮と卵巣は、
しばらく小人達の汚い手によって順々に弄ばれたあと、誰かの腹の中に消えた。それからまもなくして少女の身体は激しく痙攣したあと動かなくなった。
最後に切り取られた首が高々と掲げられたとき、群集の興奮は最高潮に達した。
残酷な見世物が終わったあと、キルケはふたたび檻のなかへと戻された。その日の夕食に新鮮な生肉が出されたとき、彼女は舌をかんで自害した。
****
城の地下には拷問室があった。狭い部屋のなかには所狭しと拷問器具が並べられているが、長い間使われなかったためかどれも埃にまみれている。
鉄の処女と木馬のあいだに古びた木の尋問椅子があった。尋問椅子とは、
椅子の座部に設けられた鋭利な針で拷問の対象に激しい苦痛を与えるという比較的名の知れた拷問器具であるが、
いままさに、その椅子にケイトの姿があった。彼女は裸に剥かれ猿ぐつわを咥えさせられた状態で、尻を襲う鋭い痛みに耐えていた。
「うっ、ぐっ・・・・・・んっっ」
ケイトは歯を食いしばり、うめき声を上げる。失神しそうになったところで、ようやくドーリーがやってきて、彼女を椅子から解放した。
「さぁて。次はどれにしようかなぁ」
床にうずくまり嗚咽を漏らすケイトをよそに、ドーリーは嬉々として拷問部屋を見渡した。「うっ・・・・・・うっ」
ケイトの顔は悲哀と苦痛によってゆがんでいた。日々彼女に与えられる、生かされていることの大きな苦しみは、
たとえそれが死であってもただの安楽として受け入れられるほどだった。乳房の頂点は潰され、膣の中はずたずたに引き裂かれていた。二の腕の皮膚は四角く切り取られ、
そこに何度も塩を塗られた。片方の目には目玉がなかった。指の爪はすべてはがされていた。淫核は一番初めに切り取られた。
「今度はこれにしよう」
ドーリーが持ってきたのはペンチともはさみとも取れる奇妙なものだったが、それがなんにせよ、ケイトは怯えた瞳でドーリーを見上げながら首を横に振った。
そこで嗜虐心を刺激されたドーリーはこの哀れな女に親切にも用途を教えてやることにした。
「これでおまえのあそこを掻き出すのさ。なぁに、人間、そんな事じゃあ死なないさ。さ、股をひらいて自分で拡げろよ」
ケイトはいつ訪れるやも知れぬ死を心から切望しつつ、太股をひらいて自身の性器を割り広げた。
ドーリーはいつものようにマモに短い祈りを捧げると、ケイトへの拷問を再開した。
彼女はその一週間後に死んだ。拷問室の隅には原形を留めていない肉の塊がいつまでも転がっていた。
最終更新:2008年05月18日 15:34