『赤い人』

鈴の音が聞こえた気がした。夢から引き戻される。ベッドの側に人の気配。
うっすらと目を開ける。視界の中で動くのは赤い服。赤い帽子。
白い大きな袋。

どうしよう、サンタクロースだ。

壁に掛った靴下を見て、こちらに背を向けている。
袋から何か取り出した。あれは欲しかった熊の縫いぐるみ。
手間どいつつも、熊は窮屈そうに靴下に収められた。

サンタクロースがこちらを向いた。
赤い口髭。朱色の顔。猫の目の様な瞳。
違う。サンタクロースじゃない。

目が合った。赤い人は哀しそうな表情をして
「可哀想に…私を見てしまったんだね」
と呟いた。

白い袋が生き物の様にうごめき、独りでに口を開いた。
口の中には沢山の針。無数の長い糸。おもちゃ達。

袋の糸が絡み付いてきた。
腕、脚、髪、もう身動きが取れない。
糸は口から体の中に入ってくる。声すら出せない。

突然電気が体に走った。
糸がほどけてゆく。体の中のも外に出てゆく。
糸は袋へ引き返してゆく。

見ているうちに、糸の色が変わった。
糸はまだ体に繋がっている。
髪の色、肌の色、血の色。
縫いぐるみが解れる様に、体が糸となって袋に吸い込まれてゆく。

見る間に腕が、脚が、無くなってゆく。
袋の開いた口の中で、針達が肉色の糸を編み上げている。
体が解れるにつれ、袋の中では人形が編み上がっていく

「せめて、この子が良い持ち主に出会えます様に」
赤い人の言葉を最後に、わたしの体は無くなり、人形が一体出来上がった。
赤い人が袋の口を閉じて、周囲は真っ暗になった。
これからどうなるのだろう。



…いい子の所に当たるといいな。

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最終更新:2008年05月18日 15:34