「本日はよくお越しくださいました……」
赤いタイツの戦闘服を身に纏う女が畏縮した声で挨拶をする。
その傍には二人の青いタイツ女。
3人とも全身の線に沿ったピッタリサイズのタイツだ。
特に隊長(赤い女)の体格は抜群にいい…私は本来の目的を危うく忘れそうになった。
「こ、今回の怪人を早速お目にかかりますか?」
私の視線に気付いて隊長はドギマギしなから次の言葉を紡いだ。
しまった…これではエロ親父だな。
「――うむ。そなたら研究班のお手並み拝見といこうかな」
――我々は征服結社。
この世のあらゆる文明社会を牛耳る野望を抱く悪の組織だ。
自分で"悪の~"と付けるのは私個人の嗜好で、組織自身がそういっているわけではない。
だが、人の目から見れば我々は明らかに卑しき者どもだ。
光を嫌い地の下に潜み…異形の物どもを鋳造し…生命を略奪し弄ぶ。
人の世を犯し、侵して、冒し尽くす。それは正に悪行。
これを"悪の組織"と言わずして何と言う?
「…ふ」
「?…どうかなさいましたか?睨下?」
知らず零した笑みに青いタイツの娘が声をかけてきた。
私は他愛無い考えをしていた、と言ったら彼女は怪訝な顔で応じた。
風になびく長い馬の尾――ポニーテールが美しい娘だった。
「……ご足労様でした。こちらが――我々の新製品で御座います」
女隊長に促されてみた先には、
「ウシュ~~」
醜悪な怪物が鎮座していた。
土管を生物にして足を与えたような奇怪な姿。元が何なのかも分からぬ。
「これは何をベースにした?」
「は。この怪人には基板となった生物はおりませぬ」
先ほどとは違い自信に満ちた声で隊長―ここでは班長の方がいいのだろうか――は応えた。
そのすぐ脇に部下の女二人が待機する。
目前の怪物は吐息を漏らしながら頭部(?)をフラフラさせている。
見た目はまんま土管だ。突き立って蠢いている以外は。
大きさはかなりある。
「我らが遺伝子操作で作り出した食人生物でございます」
「ほぅ…やはりな」
私は顎鬚をさすりながら応えた。
視線は怪物の最上部…口のような所に向いている。
食人とはよく言ったもの。その直径からも人を
丸呑みできるのが分かる。
と、私の中の悪魔が鎌首をもたげた。
「こいつの性能…その食人の技を見せてもらおうではないか」
「は、早速ですか」
隊ちょ…班長は笑顔で怪物を促す。
知性の欠片も感じさせぬ怪物はだがしかし、その指示に素直に応じて動き出す。
河馬のそれに似た足がゆっくりと動く。その巨体がずいと前に出た。
「で、"誰を"使いますか?」
「そうだな…」
班長の言う『誰を』の言葉に班長のそばの二人が顔を合わせて「え?」と戸惑った。
瞬時に双方の顔色が悪くなる。
「ひ…」
ポニーの娘が悲鳴を漏らす。
班長はその口元を悪戯っぽく歪める。
…私は怪物の方をチラリと見た。ウジュ…と怪物の上体が揺らぐ。
「――――キミだ。班長」
「は?」
途端、女は素っ頓狂な声を上げた、が、
「ジュ!」
私の要求に瞬時に応じる怪物の前に…
「え…きゃ!」
じゅるり。
なすすべも無く食いつかれた。
じゅる!じゅぼ!じゅ!
「ん!んん!ん~~~~~~っ!」
じたばたともがく班長。大きな土管はその肢体を曲げて班長の上に被さった。
そして巨体を凝縮する。
下半身と両手だけが見えている班長は必死に逃れようとする。
「んっ!んあっ!」
怪物の中から声がする。喘ぎ声は苦しさと淫乱な響きに満ちている。
私は興奮を覚えていた。
「ウジュ!」
怪物も息を荒げる。くわえている班長の足が宙に浮いた。
「ん!んぶ!」
長い脚が上下する。手が握ったり開いたり。なにも掴めないのにもがく。
だがその必死さも徐々に弱まっていった。
「ん!?…んんん!?」
「ジュリュリィ………」
ぶるん!怪物が大きく躍動した。
同時に班長の美脚も一層激しく跳ねて……ダラリと垂れた。
「ん…ひぅ……」
未だか弱い悲鳴が漏れる得物を――怪物はゆっくりと引きずり込んでいった。
じゅる。じゅる。
班長だった女がびくびくと痙攣する。どうやら死んだようだ。
飲み込まれる過程で僅かに見えていた班長の尻の辺りから液体が零れるのが見えた。
それは怪物のよだれだったか、班長の小水だったか。定かでは無い。
「ウジュ~~」
「…見事だ。怪物」
怪物の口に女がすっぽり納まって見えなくなった頃に、私は拍手を送った。
怪物は満足そうにウネウネしている。
足元では班長の部下二人が腰を抜かしていた。
私は両手を二人に差し出して起き上がる手伝いをしてやる。
「驚かしてしまったね」
「「あ、あ……」」
ショックで完全に放心している。
私は笑顔で二人に告げた。
「"この程度"で腰を抜かしていてはこの先到底やっていけんよ?」
「は、はぁ」
ポニーの片割れのシャギーの入った長髪の娘が半泣きで応える。
私の助けで立ったものの、膝が笑っている。
「君たちは此処に来てまだ日が浅いのかな?」
コクコク。二人とも声も無く頭を上下する。
「ならば覚悟しておく事だ」
私は怪物を後ろに控えさせる。このまま連れ帰るつもりだ。
「我々は悪魔の所業に手を貸している。その身も心も、どっぷりと闇の中だ」
「……(ゴクリ)」
「今の私の選択も気まぐれに過ぎない――私は組織の高官だ。何の気なしに人事を決する」
歩を出口に進めつつ、出来るだけ高尚な声で言い放つ。
怪物も意外に足が早い。しっかりと着いて来てくれる。
「……これからはキミ達二人が班長だ」
「え!?」「ええ!?」
二人同時に吃驚している。私はかまわず続けた。
「私は美しい作品が好みなのだ」
「ジュル?」
怪物が頭を傾げる…言葉が分かるのかコイツ。
「こやつは食いっぷりが気に入ったから良しとするが、見た目が醜悪に過ぎる」
ついに出口の傍まで来て私は女二人に振り向いて話す形になった。
二人とも膝を着いてかしずいている。
「"次"はもっと華麗な作品を頼むぞ。新班長たち?」
「「は、はっ!」」
即座に立ち上がり、ビシッと敬礼を決める二人。
私は笑みを送りながらその場を後にした。
「――お前には要人を始末する仕事をしてもらうぞ、ノズチ」
「ジュル?」
「お前の名前だ」
私は歩く土管を連れて研究所を去った。さて、次の仕事にかかろう。 ~完~
最終更新:2008年05月18日 15:35