07
眼を覚ましたとき、先程とおなじ石造りの部屋に寝かされていることを第一に知ったミラだったが、両手両足を拘束していた枷が解かれているのと、
裸にされたからだが外套に包まれているのをみて、夢のなかに現れた人物の存在とその言葉を思い出した。あれは、現実の出来事だったのね。
「よ、っと」
ミラはそそくさと台から降り、部屋の出口へと向かった。体中に倦怠感が積もっていて、足取りは重い。扉は蝶番を軋ませながらひらき、
そのさきには廊下が続いていた。薄暗くて、先まで見通せない。まるでぽっかりと口をあけた闇が、誘い込んでいるみたいだ。静かすぎる廊下を、
裸足の足でひたひたと歩く。石でできた床はひんやりと冷たくて、すぐにつま先がジーンとしてきた。百メートルほど進んだところで、
ミラは耐えがたい異臭を鼻に感じた。汗と糞尿の混じり合った臭い。
その他諸々。鼻をひくひくさせながらさらに奥に進むと、
左手にずらりとならぶ錬鉄製の牢獄が現われて、少女は思わず足を止めた。耳を澄ますと、さらにきつくなる悪臭に加わって、
何者かの気配がそこかしこで感じられる。呻き声? 本能的にミラはあとじさったが、退却の先になにもないことぐらい知っている。
意を決して歩を進めた。さいしょの牢獄には何者の姿も確認できなかった。ただ壁は一面赤黒い汚れで覆われていて、
床には異臭を放つ不気味な塊がおかれている。ミラはなるべく牢獄の中を見ないようにした。三つ目の牢獄を通り過ぎようとしたとき、なかから低いくぐもった呻き声が聞こえてきた。
それは神経に直接触るような声で、ミラは恐る恐る、顔をめぐらせた。牢獄のなかになにかいる。そしてそいつはもそもそと蠢いている!
ミラは手足の先の温度がすぅっと引いていくのを感じたが、不思議と額は火照ったままで、それから懸命に目を逸らそうと――見てはいけない!――した。
真っ暗な牢獄の奥。逃げ出したい衝動と、ある種の好奇心が少女の小さなからだの中で拮抗している。心臓の鼓動がはやまってきた。体中に血液を送り出す役割をもつその器官は、
いまや早く、しかし確かな鼓動とともに、純粋な恐怖という液体を体中にめぐらせている。だんだんと目が慣れてくるにつれて、ミラはそれをのすがたみようと
眉間にしわを寄せ、眼を細めた――そして次の瞬間、少女の口から出た甲高い悲鳴が地下の空間を切り裂いた。
牢獄のなかには、かつて少女だったものがいた。しかし、ミラはそのすがたから、以前の可憐な美少女の姿を想像することはできないだろう。
なぜならそれは手足を切り取られていたし、舌も耳も根元からなかったからだ。唯一、それを人間たらしめているのは大きく膨らんだ腹と乳房で、
その盛りあがった皮膚の内側は新しい生命を宿し、たえまなく蠢動しているのだった。またそれには両方の目玉もなかった。
だから牢獄の外にいるミラのすがたを確認できたのはある種の勘によってであり、それは黒い眼孔から涙を流し、舌のない口を大きく広げて、
必死に助けを求めた――もっともその行為は、あまつさえ張り詰めたミラの神経の糸を余分に弾いただけだったが。
「きゃあああああああああああああああああああああああ!」
ミラは四肢の筋肉の収縮に任せて、その場から全速力で逃げ出した。やがて長く続いた牢獄が終わると、その先に上階へと続く階段を発見し、
少女は安堵した。膝に手をついて、ぜぇぜぇと呼吸を繰り返す。背後からまだ聞こえてくる呻き声にびくりとした彼女は、あわてて後ろを振り返ったが、
そこに何者の存在もないのを確認すると、足早に階段をのぼり始めた。
08
三人目の女の出現をテラスから見ていたドーリーは、苦々しげに口元をゆがめた。あの弓使い、ただものじゃあない。最愛なる巨人の眼球を神速の矢が立て続けに貫いたのをみて、
ドーリーは形勢の逆転するのも時間の問題かもしれない、と思った。さすがのグーブの回復能力も限界が近づいてきているようで、傷口が塞がるのに倍近い時間を要していた。
ドーリーは顎に手をあてて思案した。ややあって良策が浮かんだのか、不気味に哂うと、さっそく手下のブッカに命令を下した。
「双子だ。いますぐに、やつらを連れて来い」
******
巨人の回復能力はあきらかに減衰しているようだった。アッティラとヴァレンティノ、ガラテモアの三人はこれを好機とみて、激しい攻撃で畳み掛ける。
「ほら、こっちこっち、トンマな巨人さん!」
弓使いが俊敏さを生かして、巨人を翻弄する。そして隙を見ては矢を急所に打ち込み、その度に巨人はうめき声を挙げた。
「これで、おしまいっ!」
魔女の魔法によって強化されたアッティラの剣が、ついに巨人の腕を切り落とした。根元から断たれた腕はずしりと地面に落ちて、断面から流れ出す血液はたちまちのうちに池をつくった。
「ぐぅぅぅぅぅぅ、ううううううふゅゅゅゅ・・・」
痛々しい傷口を手で押さえながら、巨人が膝を折った。血走ったふたつの眼は、ゆるぎない自尊心を傷つけられたかのように、女達を睨みつけている。怪物は歯を食いしばりながらも、
懸命に立ち上がろうとした。そのとき、
「もういい。グーブ、よくやったよ。そこまでだ」
巨人に優しく声をかける者があった。巨人はうしろを振り返り、声に従った。すると三人の少女は、自分たちをあれほどてこずらせた相手をこうも簡単に服従させた脅威に身を固めたが、
城の中から一匹の小柄な怪物が現われるのを目にして、それぞれになんともいえない感想をもった。小柄な怪物は巨人に労わりの一瞥をくれると「しばらく休んでおけ」といった。
「取引をしよう」
アッティラ達に視線を投げると、小さな怪物はこう切り出した。彼女達は互いに目を配しあったが、まもなくつれてこられた双子の美少女を目にすると、一同のあいだに緊張が走った。
『お願い、助けて!』『助けてください!』
両手に枷を嵌められた美しい双子は、口々に嘆願した。その表情には悲哀がありありと浮かんでいる。アッティラとヴァレンティノは、ガラテモアの救出したミラの存在をまだ知らなかった。
すると弓使いの少女はその事を詫び、説明し――目的は果たした、もう戦う理由がないだろうとふたりに告げた。
それをみていたドーリーは、大げさな身振りで双子の周囲を歩きはじめた。
「この双子は、ほんとうに可哀想に、運悪く迷い込んできてね。近々喰ってしまう予定だったんだ。でも、どうだいこの有様は」ドーリーは死体の山となった同胞達と、
瓦礫と化した大通りを手で示した。「もう、やめようじゃないか。どうか、見逃してほしい。もちろん、ただとはいってないよ。双子はいますぐ家に帰してあげる。まだ、
どこも欠けちゃいないさ。まぁ、明日になったら、どうなっているかわからんがね」
双子は大粒の涙ながした。それをみてアッティラはあきらめたように剣の構えをとき、怪物の提案を受け入れることにした。ガラテモアはひとり、
いまだ好戦的な瞳を怪物に向けていたが、それもヴァレンティノにひと睨みされるまでのことで、さも残念そうに肩をすくめたあと、しぶしぶ従ったのだった。
『ありがとうございます、勇者様がた!』『このご恩は、一生忘れません!』
双子は厚い謝辞を述べ、涙ながらに何度も頭をさげた。して、その胸中に隠された悪意に、アッティラ達が気づくはずもなかった。
09
大多数の怪物たちが死んだいまとなって、城のなかはひっそりと静まり返っていた。長い階段を昇りきったミラは、用心深く重心を低くたもちながら、
城の入り口を目指した。昨夜案内されたばかりだからか、城の入り口はすぐに見つかった。少女はこの悪夢にも似た現実に終止符を打つため、勢い込んで外に飛び出した。
「ふぅ、やっと外だわ。あれ? どこかで話し声が聞こえる・・・」
久々に浴びる陽光とともにミラを出迎えたのは、瓦礫と化した家並みと山のような死体、通りを挟んで対峙する数人の影だった。そしてそのなかに、
ひときわ大きな体躯を認めると、少女は口をかたく引き結び、手近の瓦礫に身を隠した。
「ほら、行け」
手前にいた小さな人影が、ふたりの少女の両手を拘束していた枷を外したあと、その背中を前に押し出すのをミラはみた。
少女たちはおぼつかない足取りで、ゆっくりと、奥にいる三人の女の方へ歩んでいく。
「あれは・・・」
三人の女のうち、そのなかのひとりにミアは見覚えがあった。大きな弓。彼女を救出した人物と、特徴が符合している。
解放された?ふたりの少女は、弓使いの女たちまであと数歩のところまで来ていた。
「あのふたり、どこかで――あっ!」
そのときミラの脳裏に電撃が走った。あれは、あの二人の少女は――双子、怪物たちの手下じゃない! きっとこれは罠に違いないわ! そうと決まればミラはさっそく危険を知らせるために、
勇気を振り絞って瓦礫の陰から飛び出した。そのとき――双子の片割れが何気ないふうを装って腰に手をやったとき、何かがきらりと光ったのをミラは見て、彼女は自分の突発的な行動の裏づけを得た。
ナイフだった。
「それはワナよ! ナイフを隠し持ってるわ、早く、離れて!」
ミラは力の限り叫んだ。そしていったい何事かと、その場にいた全員が少女に視線をからめとられた。彼女の勇気は賞賛に値する。
しかしその行動が最悪の事態を呼び起こしたのをミラは知るよしもなかった。もしも彼女のその働きがなければ、双子の邪悪な試みはあるいは失敗に終わり、
このようなかたちで成功しなかったかもしれないからだ。気がつけば双子の凶器は、アッティラの細い首を安々と貫いていた。
「え・・・嘘――な、ぜ? ひゅう」
双子が勢いよく刃物を引き抜くと、傷口から鮮血の噴水があがった。同時にアッティラの足ががくがくと痙攣し、地面に落ちた。
ヴァレンティノとガラテモアは瞬時に事態を解析し、各々の行動――魔女は蘇生の詠唱を、弓使いは双子に放つ矢の準備――をしようとしたが、
「グーブ、起きろ!」
というドーリーの如才ない命令で即座に躍動した巨人の腕――一度は切り落とされたが、くっついた――に胴体をむんずとつかまれ、その太い指で拘束されてしまった。
「アッティラ!」
高々と持ち上げられた魔女と弓使いは、地面に崩れ落ちた仲間の名前を口々に叫んだが、彼女の急速に血を失ったからだは、
すでにびくんびくんと、死の世界に向けて痙攣をはじめていた。
「おじょうちゃん、こりゃあ、もうたすからねぇな」
アッティラのそばに寄ったドーリーが呟いた。彼はアッティラの髪の毛を掴み、そしてどこから取り出したのだろうか、ワイングラスを彼その首の傷口に押し当てた。
「この、アッティラになにすんだ! やめろ、はなせっ――ぎゃああああああああ」
ガラテモアの罵声が、苦痛にとってかわる。耳を塞ぎたくなるような背骨の軋む音が、あたりに響き渡った。まもなく少女は白目をむき、小便と泡を吹いて気絶した。
その慄然たる光景と、自身の冒した過ちを認識したミラは、子供のように四肢を丸めてうずくまった。巨人が弓使いの少女を放り投げた。
少女の小さなからだは屋敷の壁に鈍い音とともにぶちあたったあと、ずるずると地面に落ちていった。
「うまい!」
なみなみと注がれたワイングラスを飲み干したドーリーが、感嘆の声をあげた。そして自身に向けられている憎憎しげな魔女の視線を仰ぎ返すと、またさらに口角をつりあげるのだった。
「魔女か・・・ふむ」
何かを納得したようにそれだけを呟くと、ドーリーはくるりと背を向けた。立ち去り際、この恐るべき怪物の長は巨人にいった。
「長剣の女は、ぜんぶ喰っていいぞ。あと、魔女は生かしたまま連れてこい。拷問部屋にだ。わかったな、グーブ」
巨人は素直に頷くと、ヴァレンティノの後頭部にかるい指弾きをお見舞いした。魔女はなす術もなく昏倒した。
必死に耳を塞ぎ、この悪夢からの目覚めを祈っていたミラは、とつぜんうしろから強引に抱きかかえられて、びくりと身を震わせた。恐怖に振り向くと、目の前で双子が妖しく哂っていた。
『だめじゃなあい、ミラちゃん』
「い、いや――」
双子の指が、するすると外套のしたに潜りこみ、ミラの恥部と乳首を探しはじめる。「あ、あ、や、やめて、たすけ、痛いっ、痛い痛いっ! イタイ!」
双子の爪が、乳首とクリトリスを容赦なくひねりあげる。『ほんとうに、いけない子。おしおきしましょう。そうしましょう。ほら、さっそく戻りましょう、
地下室に。ねぇ、ミラちゃん、知ってた? あの部屋の名前。調理室っていうのよ――』
双子はミラの脇に手をはさみ、強引に立ち上がらせた。待ち受ける悲運を想像して、少女は涙を溢れさせたが、双子には彼女に同調するだけの情が存在しない。
「いやああああああああああああああああああ、助けて! 助けてよぉおおおおおおおお!」
ミラはあらんかぎり叫んだが、無慈悲にもその声は誰に届けられる事もなく、
やがて少女は地下室の陰気な闇のなかにずるずると引きずりこまれてくのだった。
10
ドーリーと双子達が立ち去ったあと、巨人グーブは耐えがたい空腹感に苛まれていた。弓使いと魔女はまだ生きていて、彼のすぐ傍で気絶しているが、
食ってはいけないと命令されたことを彼の小さな脳は覚えている。すると自身の胃におさめることを許されたのは血を流して倒れている金髪の女だけで、
だから空腹の彼はさっそくその動かない獲物に接近した。
見たところ、獲物は息をしていないようだった。すでに事切れているのだ。グーブは残念に思った。彼は生きている獲物を、恥辱にまみれて噛み潰すことに生きがいを感じているのだ。
「ぐっぅうう・・・」
巨人は鼻をひくひくさせて、アッティラのにおいを存分に嗅いだ。そして濃厚な血のにおいに混じって微かに感じる、雌独特の、あの興奮を促がすような芳香に彼は快感を覚えた。ふと、濡れた鼻先に、
微妙な空気の流れが触れた。女が息をしているのだ。巨人はまだ女が生きていることを知り、狂喜した! どんなかたちであるにせよ、死体を喰う事ほど退屈な話はないのだから!
「ぶぅううう、ふゅっ」
興奮した巨人はアッティラの片腕を掴み取り、宙ぶらりんにした。そして邪魔な鎧と衣服を剥ぎ取った。青白い滑らかな素肌をすべて剥き出しにしてしまうと、巨人は長い舌を伸ばして、
女の肌を濡らしている血を丹念に舐め取った。甘美な味わいだった。
ときおり舌先に触れる乳房の柔らかさや、太股のすべすべとした感触に、グーブの内奥で眠っていた一種の性的欲望が呼び覚まされた。彼はその未知の感覚に戸惑いつつも、
自身の股間で膨らみつつある丸太のような性器の扱い方を本能的に察知していた。もっとも、彼はドーリーのその行為を何度か目にしてはいたのだが。
「ぶひゅうぅぅぅぅぅ、ぐっひゅううううううう!」
巨人は女の股を、自身の怒張のうえにまたがせた。醜悪な形をした性器の頂点に、柔らかな部分が触れたのを感じて、彼は思わず身もだえした。しかしながら、
アッティラの性器に対して、巨人の性器はまるで規格外の大きさであり、すなわちその一方的な性交が叶うことはなかった。
「ふぅううううううううううううっ、ヴううう」
苛立った巨人はアッティラの両方の太股をつかみ、強引にしたに引っ張る。みちみちと、皮膚と肉の張りつめた奇怪な音がひびいた。ごきんという骨の外れる音がして、
彼女の股の間接が外れる。しかし瀕死の彼女はうめき声ひとつあげず、だから巨人はなおも力を加える。限界まで引き伸ばされたアッティラの膣はいまにも裂けそうだった。
「ぐ、ぶぐ・・・・・・グバァァァァァァァァぁぁっっ!!」
巨人が懇親の力を込めた。そしてついに、その巨大な肉の凶器がアッティラの膣を――いや、腹部を、さらに胸部までを一気に貫き、中身の肉を丸ごと抉り取った。
ぼたぼたと音を立てて、鮮血とともに散るアッティラの臓器。肋骨だけを残してすべて吐き出された胸部には、張りを失った豊満な乳房が不規則に揺れている。
すると巨人は残ったアッティラの背骨と腹部の皮膚を肉棒に絡ませて、自慰をはじめた。
「ぶひゅ、ぐるるるる」
ぬるぬるとした血液の感触と、骨の固い突起が巨人にいい知れぬ快感を与える。まもなく巨人は彼女の体内に射精した。
いまやアッティラの美しい体は見るも無惨な姿に変わり果てていた。金髪は血で汚れ、優しげだった碧眼は眼孔から飛び出している。
自慰を終えた巨人は、醜悪な肉の塊となった女に以前のような食欲を感じる事はできなかった。彼は憎憎しげに、彼女の頭部を握り締めると、懇親の力を込めた。
頭骨の軋む音ともに、アッティラの頭部が難なくはじける。巨人は頭部を失ったアッティラの身体を、飽きたように放り棄てると、背中を向けて去っていった。
地面に棄てられたアッティラの肉体だったが、するとどこからともなく小柄な怪物が集まってきて、肉を啄ばみはじめた。彼らの去ったあとには、骨ひとつとして残らなかった。
******
「ようこそ、拷問部屋へ」
意識を取り戻した魔女にたいして、ドーリーは大仰な態度をしめした。その背後には、ありとあらゆる拷問器具がびっしりと並べられている。
薄暗い部屋のなか、彼らは新たな獲物に息をひそめているかのようだった。
「・・・・・・」
魔女はなにも答えない。ただドーリーをねめつけるその切れ長の瞳は、彼女の言葉をありありと代弁していた。殺してやる、と。
「お穣ちゃん、ぐへ。その目、そそるよ。勃起しちまった」
ドーリーは魔女の傍らに屈み込み、その端正な顔を覗きこんだ。ヴァレンティノは怪物の生臭い息を耐えながら、後ろ手に縛られている両手をどうにかしようとしたが、むだだった。
「無理さ。人間の力じゃあ、はずれない。さて、と。そろそろはじめようか」
如才なくそういったドーリーは、すっくと立ちあがり、様々な器具の置かれている棚に向かった。
「なめられたものね・・・」
鼻歌を歌いながら器具を漁っているドーリーを尻目に、魔女は呟いた。そして、
「*******」
開錠の詠唱をはじめた。しかし、
「無駄だよ。お穣ちゃん」
ドーリーがその手に鋏ともペンチともとれる珍妙な道具携えて戻ってきた。すでに詠唱を終えていた魔女はにわかに焦りを感じた。これは、一体どういうことだ。
怪物の言うとおり、枷は外れることなく、なおも変わらぬ締め付けで彼女の両手首を拘束したままでいる。「なぜ――?」
魔女は疑問符を打ち出した。怪物はにこりと哂った。そして次の瞬間、誰が予想しただろうか――彼は猛然とした手つきで、魔女の目玉をすばやく抉り取った。
「え――あれ、急に、なにも、見えない・・・あ、あ、あああああああああああ、わたしの目がぁぁぁぁ!?」
ヴァレンティノは屈み込み、顔を手で覆った。そしてその耳に、ぷちゅぷちゅという、ゼリーを食むような音が聞こえてくる。ドーリーはふたつ目の目玉を口に放り込んだ。
「ん、くちゅくちゅ。ごくん。・・・前から、狙ってたんだよ、その目。いや、あんまりにも綺麗だったからね。うん――ぷりっとしてて、味も最高さ」
「くそっ、殺してやる、殺してやる! ************、*****、****************」
怒りに燃えたヴァレンティノは、考えうるすべての呪文を詠唱した。彼女はすでに失われた視力のもと、怪物の断末魔を期待したが、それはいつまでたっても聞こえてこなかった。
「おじょうちゃん。だから、魔法は無理だってば」
いったん遠ざかったドーリーの声が、ふたたび戻ってくるのをヴァレンティノは闇のなかで聞いた。生臭い息が頬にかかる。いきなり外套をめくりあげられて、
彼女はびくりと震えた。ごわごわとした指が、魔女の肉付きのよい太股を撫ではじめる。内腿に生温かい舌の感触。。下着越しに女の核心に迫る、固い指先。
彼女は強引に太股を閉じようとした。できなかった。
皮を被った肉豆をひねりつぶされる。
敏感な粘膜を擦られる。膣のなかに無遠慮な指が侵入しようとしたとき、彼女は悪態を吐いた。怪物は彼女の股から手を引き抜き、匂いを嗅いだ。
「すんすん――臭くて、とてもいい臭いだ――しかし、それにしても、いけない舌だね。お穣ちゃん。もうすこし慎みを持たないといけない。でも、
大丈夫。いまのうちにしゃべっておきな。もうすぐ、なんにもしゃべれなくなる――から、よっっ!」
そのとき、どん、という肉の断ち切れる音がした。もう一度、どん。次いで、ヴァレンティノの悲痛な叫び声。
ドーリーは魔女の太股を付け根から切断した大なたの刃をぺろりと舐めた。
「叫べ、叫べ。良い声だよ。射精しちしまいそうだよ」
ドーリーは苦痛にのたうつヴァレンティノの細い腕を床に固定した。魔女は次に来るだろう、あの、どん、を想像して、空いた眼窩から涙を流した。
冷徹で気高い魔女の姿は、見る影もなかった。
どん。どん。ヴァレンティノは、自身の血が頬に当たるのを感じた。彼女はバランスを失って、ごろんと仰向けに転がった。その股間からは、
断続的に小便と糞が流れ出している。彼女は絶望した。
「殺しなさいよ。・・・・・・もう、殺し、て」
体中を駆け抜ける痛みが、思考を翻弄しているなか、ヴァレンティノは怪物に嘆願した。怪物は彼女の豊満な乳房を指でまさぐりながら、言った。
「だいじょうぶさ、お穣ちゃん。まだまだころさないよ。なんせ、あんたには俺たちの子供を孕むっていう大事な使命があるんだから。死ぬのはそれからでも遅くないよ」
死、という単語に反応した彼女は、そくざに舌を噛んで自害しようとした。が、しかし、まるでそのときを待っていたかのように、怪物に舌をつかまれ、
行為を阻まれてしまった。
「しな、ひて・・・」
魔女は拙い発音で最後にそう呟いたが、舌を切り取られるのと同時に、その望みもまた潰えたのだった。
*******
石壁に備えつけられた蝋燭が、オレンジ色の光を調理室の隅々に投げかけている。そのなかで先ほどからせわしなく動き回っているのは、美しい双子の姉妹。
彼女らは手に手に妖しい器具を持ちながら、いまやまな板の魚のように、台のうえに横たわっている弓使いの少女――ガラテモアのすらりとした身体を盗み見ては、唇を歪ませる。
囚われの少女ミラは、その様子を部屋の隅からみていた。彼女の両手両足にはふたたび枷が施され、裸に剥かれて、ちょうど大の字のかたちで壁に磔られれている。
愛嬌のあるおおきな瞳は、泣き腫らして真っ赤だった。 着々と、ガラテモアを調理する準備が進められる。弓使いの少女はまだ眠るように目を閉じており、しかし時折、うめき声をあげてみせた。
すると双子は手を休めて、嗜虐心のおもむくままに、弓使いの剥き出しなった胸に――かすかに膨らみはじめた隆起に――そっと手を伸ばすのだった。
準備が終わったようだった。双子は台の左右に位置取り、ガラテモアの身体を舐めるように眺めている。片方の双子が、先の尖った小さな刃物を手に取った。
『ミラちゃん。よぉく見ておきなさいね、次はあなたの番だから』
そう言いながら、片方の双子はガラテモアの乳首を指で摘みあげ、切り取った。突端を失った乳房の頂点から、真っ赤な血が滲んでいる。彼女は切り取ったばかりの乳首を口に持ってゆくと、そっと舌のうえに乗せた。
『ん、くちゅくちゅ・・・・・・おいしぃわぁ。なんて、美味しいのかしら・・・』
『ねぇ、私にも、ちょうだい』
もう片方の双子が、陶酔したような表情を向ける。するとおなじ顔をしたもうひとりは、くちゃくちゃとした咀嚼音をこぼしながら、残ったほうの乳首を迅速に刈り取った。
そしてそれを自身の唇で挟み込み、濃厚な口移しをした。
その残酷な戯れから目を逸らそうとするミラだったが、どうしてか、その瞳は双子の淫靡なキスに釘付けだった。まるで唾液を共有しあう厭らしい音が耳の穴を強引にこじ開け、
理性を溶解させていくようだった。しかしその背徳的な時間も、部屋中の空気を震わせる叫び声で中断させられた。ガラテモアが、ようやく意識を取り戻したのだ。
目覚めた弓使いの少女はまず、胸に鋭い痛みを感じた。乳首がどちらもなかった。あわてて見上げると、双子が何かを咀嚼しながらキスをしていた。
ふと、双子の口角から何かが飛び出して、ガラテモアの胸に落ちた。ずたずたになった小さな肉の塊――自身の乳首だった。『あら、失礼』と双子は間の抜けた声をあげて、
その肉塊を指で摘むと、ふたたび口の中に放り込んだ。
「この、やめろっ! いますぐ、やめないと、ひどい目にあわせるんだからっ!」
ガラテモアは叫んだ。双子は眉間にしわを寄せて、名残惜しそうに唇を放した。かたちのよい唇と唇のあいだに、血の混じって桃色になった唾液の橋がつぅ、とかかった。
『ほんと、うるさいんだから』『もうすこし、おとなしくしててほしいものだわ。ただの食材のクセに』
冷徹な表情で双子は先程よりも一回りおおきな刃物を手に取り、ガラテモアが返す言葉もないうちに、少女のお腹の皮膚を丸く切り取った。ぺろりと剥かれた真っ白な皮膚のしたには、
複雑なうねりを見せる臓器が詰まっている。ガラテモアは声にならない悲鳴をあげたが、双子は臓器を――大腸と小腸を掴み取ると、慣れた手つきで取り出し始めた。
『かなり臭うわね。この娘の糞袋』『ええ、ほんとう。えげつない臭いだわ。それにしても、あの馬鹿どもときたら、どうやったらこんなもの、生で食べられるのかしら』
ガラテモアの悲鳴を無視して、双子はどんどん臓器を取り出してゆく。台の端に積み上げられたそれらは、赤黒く、ぬらぬらと照りひかっていた。
心臓や肺といった主要器官をのぞいて、おおかたを取り尽くされたあとのガラテモアはまさしく空っぽだった。
双子は最後に、腹腔の奥におもむろに手を突っ込むと、薄桃色をした小さな器官を取り出した。
『美味しそう・・・』『ええ。確かこの娘、まだ生娘だったわよね。綺麗・・・食べちゃいたいくらい』
双子は揃って舌なめずりをした。彼女らの手で弄ばれているのは、ガラテモアの生殖器だった。
青白い顔をしたガラテモアはすでに声をあげる気力もなく、自身の大切な部位が陵辱されるのをただ見ているしかなかった。
彼女の四肢は力を失い、壊れた人形のようにだらりとたれている。からだはまだ生きていたが、心はすでに死んでいた。
ミラは部屋に充満する血と糞尿の臭いに、胸に込み上げてくる熱いものを感じた。双子はガラテモアの胸部を開き、心肺を取り除いている。弓使いの少女は静かに事切れていた。
ガラテモアの手足が切断され、次いで、首から頭が切り離されるのをみて、ミラはとうとう床に嘔吐した。
床石を叩くびちびちという音に、双子は振り返った。その手にガラテモアの生首を持ちながら。
『いけないわよ。ミラちゃん、そそうしちゃ、あなたの番は明日なのだから』
双子はさも楽しそうに哂うと、ガラテモアの生首を、その冷たい鼻先がくっつきそうなほどミラに押し出した。
少女は生気を失った弓使いの表情と、すでになにも映さなくなったその瞳をみて、さらに熱い物が込み上げてくるのを感じた。
「うげ、げぇぇっ」
堪え切れなかったミラは、ふたたび、地面に吐しゃ物を盛大に撒き散らかした。胃の中身を全部吐き、
荒い呼吸に身をまかせてうなだれていると、とつぜん、無防備なお腹に強い衝撃が加えられた。双子のブーツを履いた靴が、少女の柔らかいお腹にめり込んでいた。
『この、汚らしい――私たちの靴に、服に、下呂を引っ掛けるなんて、この、この――』
「痛い、痛いっ! ごめ、ごめんなさい――やめてっ、痛い――!」
必死の懇願むなしく、双子の怒りは燃えあがるばかりだった。彼女達はミラの髪を引っ張り、顔を強引に向けさせると、無理矢理に口をひらかせた。
「ん―――っっ! ん――」
ミラの頬を涙が伝う。視界の端で双子が、台に積まれた赤黒い内臓を手にして戻ってきたのが見えたからだ。それをどうするつもりなのか。なんにせよ、明るい未来はないに等しい。
『明日にしようと思ったけれど、やめたわ。可愛いミラちゃん。あなたはじっくり、たっぷり虐めてから殺してあげる』
双子は、ミラの口内に生温かい内蔵を押し込んだ。なんとも言い難い感触が、舌を刺激して、内容物のなくなった胃をさらに刺激する。
双子のうち一人が、吐き出してしまわないようにミラの口を手で覆っているあいだ、もう片方の双子は屈み込み、ミラの下腹部を手の平でなではじめた。
空いた手にはさきほどガラテモアの皮膚を裂いたばかりの、血にぬれた小ぶりの包丁が握られている。ミラは双子の指の感触が、
いつその冷たい刃先に変わるのかと思い、恐怖した。そしてその瞬間は早くもやってきた。
『ミラちゃん、絶望を味わわせてあげる』
屈み込んだ片割れはそう言うと、ミラの下腹部の、臍の下あたりににつぷりと刃先を差し込んだ。
「ん、ん――んふっ!」
ミラは脳天を突き上げるような痛みに、首を狂ったように振る。しかしそれはまだまだ最初の試練で、双子は白いお腹にあけた傷口に、手を突っ込んだ。
お腹のなかを掻きまわされ、まさぐられている。それはある意味、性的な陵辱を受けること以上に、ミラの心に衝撃を与えた。
『あたたかいわ・・・ミラちゃんお腹・・・それに柔らかい。よいしょっと、もうちょっと奥――あったあった』
双子は目的のものを見つけると、それを見失わないようにぎゅっと握り締めた。そしてそれは小さな肉の塊のようなもので、彼女はさっそく、それを引き抜いた。
『ほら、かわいいでしょ。ミラちゃんの大事な子袋』
嗜虐心の塊のような双子は、引き抜いた子袋をミラの目の前で振るう。少女は悲鳴をあげたかったが、口のなかで炸裂する内臓の臭いや味が、それを不可能にしていた。
双子はどこまでも残酷だった。彼女らは取り出した子袋を愛しむように舐めまわしたあと、どこからか小箱を取り出して、ミラに掲げてみせた。
小箱は手の平にのる程度の四角い小さな箱で、ミラはその箱の中からかさかさという音がするのを、朦朧とする意識のなかで聞いた。
『よく見ておくのよ。この箱はね、ミラちゃん』
双子が箱の上扉を開いた。ミラは絶句した。箱の中には一面を埋め尽くすほどの蟲が入れられていた。
『すごいでしょ、ミラちゃん。この箱、どう使うか知ってるかしら?』
双子がミラに尋ねる。しかし彼女らはミラがすでに何の反応も示さない事をよく知っている。双子はミラの子袋を摘みあげ、そして、
『こう使うのよっ』
蟲の蠢く小箱に、小さな臓器を投入し、小箱のふたを閉じた。ミラは心のなかで何度も悲鳴をあげた。そして空白になった自身の女の機能を思うと、さらに絶望するのだった。
『ほら見て。ミラちゃん。あなたの大事な子袋が、いっぱいの蟲さんたちにちぎられて、噛み砕かれて、最後には尻の穴から臭い糞となって出てくるのよ。素敵じゃない?』
双子は、ミラの口を塞いでいた手を放した。胃液と唾液と一緒になって、弓使いの少女の内臓が床石にはじけた。ミラはすべてをあきらめたようで、もう声ひとつあげなかった。
『あら、もう壊れちゃったのかしら』『残念、でも、まだまだこれからよ。あぁ、臭い、あなたの下呂の臭い。これは、洗っても落ちないわね』
双子は残念そうに、しかしどこか嬉々とした――ちょうど、壊れた人形の手足をさらにもぎ取るときのような――表情をみせた。
『そうだ』
双子は閃いたように手を打った。
『どおしたの』
片割れが尋ねる。
『あのね――ごにょ、ごにょ』
『それは名案だわ! さすがね!』
双子は刃物を片手に、物言わなくなったミラの乳房を手に取り、乳輪に沿って丸い穴を開けた。
ミラは小さくうめき声をあげただけだった。
『だんまりしてられるのもこれまでよ、ミラちゃん』
双子は妖しい笑みを浮かべていった。そして、先ほどの小箱のふたを開けて、乳輪に丸くあいた穴のなかに、中身を注ぎ込んだ。
「んっ・・・あっ、ん――?」
何をされたのかさえ感知していなかったミラだが、ふと、胸部をくすぐる痛痒に声をあげた。そしてその痒みは、
じょじょに広がっていって――とつぜん、絶対的な激痛が彼女の身体を貫き通った!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ! 痛い、痛い痛い、いたっ、痛いイタイイタイっっ!!!」
ミラの思考は、からだの内部を食い荒らされる激痛によって息を吹き返した。
『あはははは、ミラちゃん、蟲さんに、おっぱい食べられちゃって、かわいそう! 小さな子供みたいに、ぺったんこなおっぱいになっちゃったわねっ』
胸部の内臓を食い荒らした蟲は、頭へ向かうものと、下腹部へ向かうものとの二派に分かれる。ミラは白目をむいて痙攣し、小便と糞を断続的に垂れ流した。
『きったなーい』
離れたところからこの残虐なショウを見物していた双子は、少女の女らしいお尻や太股がだんだんと痩せ細っていくすがたに満足していた。
もう少し経てば、蟲に食い尽くされて、皮と骨だけになるだろう。楽しみだ。
双子は崩れ落ちてゆくミラを見ながら、お互いの性器や胸に触れ合った。彼女らが濃厚なキスでその行為を終わる頃、ミラだったものは白い残骸を残して、
調理室のすみに横たわっていた。
*****
かつて、ミラが裸足で歩んだ地下の薄暗い廊下。その一角――壁をくりぬいて作られた牢獄に、ひとりの女がいた。
魔女と呼ばれ、その強大な魔術をもって魔王に立ち向かっていた彼女だが、いまとなっては、そのすがたにかつての美貌を見出すことはできなかった。
なぜなら彼女にはもうずいぶん前から手足がなかったし、また耳も目も、舌さえなかった。お腹は大きく不恰好に膨らみ、乳房もそれにともなって、
張り裂けんばかりに膨らんでいた。妊娠しているのだ。しかしその腹に宿っているのは人間の子ではなく、何十匹の怪物たちに陵辱された、その結晶だった。
魔女は声にならないうめき声をあげた。五感はほぼ失われているが、腹のなかで、いつになく動き回っているおぞましい物体の誕生が近いことを知っているのだ。
そのときはすぐにやってきた。ある日、腹のなかの生物が、生まれようとしてついに暴れだしたのだ。けれど彼女にはどうする事もできず、痛みに耐えるほかなかった。
うまれ出ようとしている怪物には、人間の産道はあまりにも狭く、そして窮屈なのだ。
魔女は張り裂けそうな痛みを腹部に感じる。内側で怪物が、肉をえぐっているのだ。そしてまもなく、文字通り彼女の腹は裂けた。
ぱっくりと開いた傷口から、小さな怪物が姿をあらわした。生まれたばかりの彼は空腹で、だからさっそく、母である魔女の豊満な乳房に――喰らいついた。
小さいながらにも生え揃った歯をもつ怪物は、母の乳房を難なく噛み千切った。そしてそれをゆっくりと嚥下すると、湧きあがる食欲を満たすため、さらに大口を開けて、
魔女の柔らかい肉に何度も喰らいつくのだった。
owari
最終更新:2008年05月18日 15:37