山に囲まれたとある小国、そのさらに山奥の村、そこに奇妙な祭りがある。
そんな便りを聞いて私たち姉妹は教えられた「祭り」の日にその村へ向かった。
記者をしている私と、助手の妹。といっても妹は半ば無理やり私が連れ出しただけだが。
着いた村では、事前に話がついていたせいか熱烈なまでの歓迎で迎えられた。
航空便の遅れやら何やらで「祭り」というのがすでに始まっていたのは残念だったが、
まだクライマックスが残っているとのこと。それを楽しみに私たち姉妹は村長の家でぐっすり休んだ。
翌朝、独特の衣装を着て村の中心の広場に集まった人たち。
その広場に設営された祭壇には、大きな水牛がいた。
音楽や踊りをカメラで撮っていると、広場に向かって大きな一つの影が浮かんだ。
それは、3mを超えようかという巨大な毛むくじゃらの怪物だった。
怪物は祭りの音楽をBGMに、祭壇の上の水牛に、かぶりつき、血を迸らせながら食べつくしていった。
踊りも最高潮に達しようかというなかでの衝撃的な光景をおさえようと私はカメラにかじりついてそれを撮りつくした。
「驚きましたか。あの怪物こそが「祭り」の主賓なのです。」
背後にいたのは村長だった。彼は髭もじゃの顔を私に向けて
目の前で展開されている「捕食」に腰を抜かしている妹をよそに説明してくれた。
なんでも、今の時期になるとあの怪物が朝夕と現れ、村を襲う。
それを防ぐためにみつぎものを怪物に捧げているということらしい。
最初は、野菜を少々、その後は穀物、川魚と少しずつ大きなものにしてゆく。
前に出したものより豪華で美味しいものでないとだめなのらしい。
そうして怪物をあやしながら約2週間の時期を過ごすのだという。
その夜あらわれた怪物をもてなしたのは丸々一頭煮込まれた水牛だった。
朝は生の食材、夜は最高の調理をほどこした同じ食材。
そうやって食材のレベルを上げて、あやす時間を延ばしてゆく知恵なのだという。
私たちには、その水牛の内臓を煮込んだ料理が酒とともに振舞われた。
「おいしー。柔らかくて、味もしっかりしみてて」
朝泣きそうな顔をしていた妹も、豪華な晩餐会の雰囲気と料理を振舞われて無邪気な笑顔を振りまき、舌鼓をうっていた。
「こんな美味しの、食べたことない。どうやって作ってるんだろ。あとでレシピ教えてくれるかなぁ」
曇り一つない笑顔をたたえてはしゃぐ妹。
「明日はもっと美味しいものがでるのかなぁ、楽しみ」
そういっている妹の喜んだ顔を見ていると、突然視界がぐにゃりとゆがんだ。
足元がおぼつかなくなり、倒れこんだ私の目に、同じように倒れこむ妹の姿がおぼろげに浮かんだ。
「・・・ん」
冷たいものを感じて気がついた。
「わたし・・・いったい・・・」
もやのかかった視界。その下端に壷のふちと水面が目にはいった。
「え?え?」
私は全裸で液体の張られた壷の中に浸っていた。液体の中や表面には得体の知れない葉っぱや蟲がいた。
事態を把握しようと身体を動かすが動かない。縄で縛られたまま壷に収まっていて、身体を動かそうとしても
縄が身体に食い込むだけだった。
「起きたようですね。本日のメインディッシュさん」
村長の声だった。
「な、なになの?メインディッシュって?」
不吉なものを感じて青ざめる私に村長は淡々と説明した。
祭りは今日までつづきます。先日水牛を振舞ったあと、自分たちにはそれ以上の食材を提供しなければならない。
水牛以上の食材、何があります?一つしか考えられません。あなた方を招待したのはそのため。
今浸かっているのはその下準備のための秘薬です。これに十分に浸ると、体の組織が変質し、
煮られても食いちぎられても死ぬことなく意識を保つことができるものです。
では、「祭り」のクライマックスを特等席でお楽しみください。
それだけ言うと村長は去っていった。こんなセリフを残して。
「あ、そうそう。妹さんは朝の祭りに捧げられます。ほら、もう始まりますよ」
指差す先には、祭壇が見えた。その中央に全裸で両手両足を縛られたまま、逃げようともがく妹の姿が見えた。
「や、やだ、助けて。ほどいて…」
音楽にまぎれておびえる妹の声が聞こえる。
「い、妹を食べさせる気?やめて、やめなさいよ!」
必死に叫ぶも誰も聞く耳を持つものはいない。そもそも村長以外はこの村の土着の言語しかわからないし、
判っても助ける気などないのは昨日同様、それ以上にオーバーヒートする踊りと音楽を見ても明らかだった。
程なく怪物が現れる。
「いやーーーーっ、妹を助けてぇ!祭壇から誰か助け出して!」
叫び声がむなしく響く。それをかき消すように音楽と妹の悲鳴がこだまする
「お願い、あたしを助けて。食べないで、きゃあああぁ!」
怪物の触手に捕らえられた妹の体は軽々と宙を舞い、白い裸身を朝日にきらめかせながら怪物の口の中へ飛び込んだ。
そこから先の光景を私は釘付けになって見続けた。目を背けたくて仕方なかったが、体がそれを許さなかった。
ガブリと頭から食いちぎられた妹の身体は鮮血を引きながら両手と胴体をバラバラにして飛び散った。
地面に落ちた胴体を肩口の切断面からむさぼるように食べつくす怪物。
妹の臓器をすすり上げるようにズルズルと引きずり出し食べてゆく。残った腰と両足がピクピクと痙攣する。
未発達の乳房が怪物の牙にかかる。
「ふん、そのうちお姉ちゃんよりも大きくなるもんね」
そんな妹の口癖が頭に浮かんだ。
小さいが、それゆえに若い弾力を持っていた乳房は怪物にとっては新鮮な美味だったらしく、
ずいぶんと時間をかけて噛みしだき、味わい続けた。
空洞になった胴体を食べつくすと、丸みをおびた腰を噛み千切る。
末端で縛られた両足がボトリと落ちる。怪物はマシュマロのような柔らかさと弾力を持つ尻の肉の味や、
清らかなままの膣と処女膜、女性の部分の濃厚な風味の混じった甘美な旨さに震える。
「明日はもっと美味しいものがでるのかなぁ、楽しみ」
ふと妹が私に向かっていった言葉が蘇った。
自分が、その「美味しいもの」になるなんて。そして、それは自分の末路でもあった。
怪物は妹を味わいつくすと、再び去っていった。
バラバラになった妹の両手両足を残して。
それを見た私は絶望感に全身の力が抜けていた。
その後、縛られたまま壷から引き上げられた私は、両足をカエルのように開かれたポーズのまま逆さに吊るされた。
「さて、今夜のためにあなたをこれから調理します。」
その村長の声とともに私の首に銀色の刃がつきたてられた。
「ううっ」
切り裂かれた喉の傷口から勢いよく出る血。それとともに刺すような冷気が襲い掛かった。
「お寒いようですね。でも、これから暖かいところが待っているから少しの我慢ですよ」
徐々に細くなる心臓の音。喉の痛みで声がでない。
流れる血が徐々に減っていき、心臓の動きが止まるのを自覚した。
「私、死んだの?」
全身がゆるい麻痺状態のまま、冷たい感覚が全身を覆う。声もほとんど出ない。
そのまま私を横にして、縄を解く。麻痺した身体はピクピクと動くのが精一杯だった。
そんな私の裸身に向けて鋭い大きな刀を引っ張り出す村長。
「これからあなたを解体します。妹さんと違ってあなたは手間隙かけて調理しなければ」
そういって私の胸から下腹部まで一直線に切り開き、中に手を入れる。
体の中をかき回される感覚にものすごい吐き気が襲う。
ぼとぼとと内臓を引っ張り出す。喪失感とともに自分がただの食材になったことを実感する。
空洞になった体内にのこったのは子宮と卵巣だけだった。
「さて、もう少しだけこのままで待ってください。」
そういって箱の中から出してきたのは骨を取り除いた両手両足。朝にみた妹のそれだった。
村長はそれを手馴れた手つきでさばき、つなぎとともに挽いていった。
出来上がったものを、私の空洞になったおなかの中に詰め始める。
「ぐ、ぐぐっ」
妹の肉が私の中に詰められるたび、えもいわれぬ気持ち悪さが襲う。
つめ終わると、私の身体に香草や塩をすりこんでゆく。
私の身体は両足を開いたポーズのまま担がれて隣の部屋へ運ばれた。
そこには巨大な鍋がぐらぐらと煮立っていた。
「さて、お待たせしました。これから夜まであなたはこのスープの中で煮込まれることになります」
村長は鍋のスープを味見し、網を使って中に浮かんだものを取り除く。
ダシに使われたであろう香味野菜に細切れの肉、そして骨。
おそらく、この骨はさっきの段階で取り除いた妹のものだと思った。
一通り満足したのか私をやけに慎重に鍋の中へ落とす。
「煮崩れしたら台無しですからね。せっかく最高のスープも取れたのに」
「や、やだ、やだやだいやだぁあぁあ!」
叫ぶももはや蚊の鳴くような声しかでない自分に歯がゆさを感じながら、なすすべもなく鍋の中へ入り、煮られはじめた。
そのままどれくらいたったのだろうか。
じょじょにありえないくらいまでやわらかくなってゆく自分の体と、
その中に味が染み込んでくる感覚、そして、自分とその周囲から立ち込める匂い。
妹の肉をおなかの中に収めたまま妹のスープで煮られる感覚に最初は不気味なものを感じていたが、
いつしか慣れてしまった。そして、自分が料理になっていくことに慣れてきているのを自覚し、恐怖に震える。
そんな繰り返しを何度か繰り返した後、再び村長がやってきた。
「おお、美味しそうに出来上がりましたね。さあ、皆さんがお待ちです。」
そういって私を前にもまして慎重に掬い上げて、大きな皿に移す。
その上に、スープが降り注がれる。妹と私の味のしみこんだスープが。
「準備はよろしいようですね。では、参りましょう」
ここまできても紳士的な村長の態度に冷たいものを感じたまま、皿とともに祭壇へ移された。
私を乗せた皿は火のついた壇上へ移され、ふたたびとろとろと煮られ始める。
それを囲んで昨日と同じように煮込み料理に舌鼓を打つ村人たち。
昨日と違うのは煮込まれているのが取り除かれた私の内臓であることだった。
「いやぁぁぁっ、私を、私の内臓を食べないでぇ」
おどり狂う人たちには聞こえないのを承知で叫ぶが、もちろんなんらの変化がもたらされるわけでもなく
昨日同様の笑顔の中で私の内臓は食べられていった。
怪物が現れる。それとともに私を煮ていた火は消される。
もう、助からない。このまま朝の妹のように怪物に食べられるしかないんだ。
そういう諦観が私を支配していた。
怪物は横たわる私に顔を近づける。私の体からでてくる匂いを楽しんでいるようだ。
もはや助かることなどない。はやく、食べてちょうだい。そんな思考が刹那わいてきた。
怪物は私の目の前でするどい牙をむき出しに大きく口を開いた。
最初に食べられたのは私の乳房だった。
妹のときに味を占めたのか一気に噛み千切らず、少しずつガムのように噛みながら
味わって喰っているようだ。乳房を蹂躙する痛みに全身を貫かれる。
「うううっ…」
食べられる痛みに悶えるが、もはや悲鳴を上げることも出来ず、かすかな声を出すのが精一杯だった。
そのまま怪物は私の腹部を中に入っている妹とともにむさぼり始める。
豊富な肉汁がぼたぼたと落ちるのが目に入った。
私の肉汁と、妹の肉汁。ジューシーで甘い美味に怪物は満足したのか遠くまで響くおめきを上げる。
それに興奮したのか周囲の踊りもひときわテンポアップする。
煮込まれた私の身体が浸されたスープとともにがつがつと怪物の口内に取り込まれる。
腹と胸を食い尽くされ、ふたつに分断された私の体。その下半身に怪物は牙を剥く。
私の股間からとろとろとこぼれる肉汁を股間に口をつけて吸い続けていた。
秘薬の効果ゆえか、分断されたはずの股間から感じたことのない疼きが伝わってきた。
神秘からとめどなく流れる甘い汁が吸いだされる。その快楽に浸ることでせめてもの慰めを得ようとしたのだ。
やがて怪物は足の根元から腰の部分を牙にかけ、噛み千切る。
つかのまの快感は途切れ、再び襲う苦悶に悶えるが、調理された身体はピクリとも動かず、
皿の上で虚ろな目で自らが食べられてゆくのを眺めるだけだった
柔らかな女の壷をそのまま手荒に蹂躙してゆく。かろうじて残された女の臓器とともに
腰の中身を一滴もその汁を残すまいとズルズル吸い上げてゆく。
ああ、もう私、子供産めないんだ。掲げ上げられる腰からこぼれ落ちるものをみて急に場違いな想念が頭に浮かんだ。
空っぽになった私の腰を一気に牙にかける。ぐしゃっという音とともに私の乙女の部分とその周囲の繊毛の中洲、
とろけるようにやわらかくされた尻の肉が潰され、口内に落ち込む。
その味わいをじっくりと堪能するようにぐちゃぐちゃと私の下半身を味わっていた。
朝と違い、怪物は放り出された私の両足をも喰らいついてきた。
煮込まれて柔らかになりながらも美しい形を崩していない私の両足は濃厚なスープの味と肉汁を惜しげもなくしみださせ、
艶やかな太腿はとろけるように怪物の牙を受け止めて砕かれていった。
残った上半身に襲い掛かる怪物の口。
せめて目をつぶって最期のときを迎えたかったが、もはやそうする気力もなくうつろな目を見開いたまま怪物の中へ収まった。
牙は私の頭を噛み砕き、手や肩とともに口内へ押しこんだ。
口内ではバラバラに噛み潰された私の身体や変わり果てた妹の残骸が豊富な肉汁やスープとともに混ぜ込まれた。
咀嚼する怪物、バラバラの私と妹は混じりあいながらお互いの味を怪物の舌に伝えていた。
もはや何も見えない真っ暗な口内で自分の体がすり潰され、ひき肉になった妹とともに交じり合うのを知覚していた。
やがて、飲み込まれて消化されてゆく。
「ごちそうさまでした。あなたのシチューは妹さんの若い味とあなたの柔らかで濃厚な味が合わさって最高の晩餐でした。
あなた方を呼んだ甲斐がありましたよ」
消化液にからめとられ、溶けてゆく意識の中で村長の声がこだました。
最終更新:2008年05月19日 10:16