その一家は、毎年のお盆には必ず、お墓参りに来ていた。
実家に帰省する、そのついでである。
中学生と、小学校低学年の姉妹が、一つ一つの墓石に丁寧に水をかけ、
お花とお線香を供えて、それらが終わると、両親とともにお参りする。
顔も見たことさえない先祖たちなので、悲しいとか、そういう思いは
いまいち湧かなかったが、両親に倣って姉妹は両手を合わせて瞼を
閉じた。
妹が両足をもじもじさせて、そわそわしていたことには、この時は
誰も気が付かなかった。
墓参りを終えた一家が、後片付けを済ませて、駐車場に戻る途中のこと。
妹のおかしな歩き方に、最初に気付いたのは、隣りを歩いていた姉だった。
「妹ちゃん。どうしたの?」
心配した姉が、尋ねる。
両親も姉の一声で気付き、歩みを止めた。
妹はスカートの上から股間を押さえて、足をもじもじさせ、顔を真っ赤に
しながら小さく答えた。
「もれちゃう…」
あらあら、と母親は苦笑し、父親も困ったな、と頭を掻いた。
妹は、まだ一人でトイレに行くことができなかった。
「私が一緒に行くよ。お父さんとお母さんは、先に車に戻ってて」
「わかった。先車行ってるからな」
「トイレの場所は解る?気を付けてね」
ふたりは駐車場に戻っていった。
「いこ、妹ちゃん」
「うん…」
姉は、妹の手を引きながら、来る時に見えた灰色の壁の建物に
歩いていく。
外観から予想するに、そこがトイレのようだ。
「ここに入るのぉ~?」
妹が不満そうに言うのも、仕方ないだろう。
お墓の近くにあるトイレなんて、気持ちいいものではない。
「お漏らしするよりマシでしょ?お母さん達も待ってるから、
早くしようね」
「はぁい…」
妹はまだ不満そうだったが、それでも、尿意には勝てないのだろう。
大人しく、姉と一緒に個室に入るのだった。
少し薄暗い個室内。便器は汲み取り式。何分古い墓地なので、こればかりは仕方ないだろう。
妹はスカートを捲り上げると、乱暴にパンツを摺り下げてしゃがみ込んだ。
「あ、妹ちゃん!ちゃんとスカートたくし上げておかないと、汚れるよ」
言いながら姉は、床についていた妹のスカートを持ってあげた。
妹が下半身に込めた力を緩め、緊張を解くと、股間から直ぐに溜まったものが
溢れ出した。じょばばばばば~、と静寂を満たす大きな音を立てて。自身の上に浴びせかけられる放尿に反応し、『それ』は動き出した。
ゆっくりと、その身体を伸ばして…寒天質に似ていて、柔軟にして、それでいで
型崩れしない剛健さを持つ体が、狭い便器をものともせず這い出てきた。
「え…これ、え…何…?」「お姉ちゃん…こわいよぉ」
『それ』は例えるなら、大きな口であった。透明な茎に先に巨大な口が付いた、醜悪な植物のようでもある。
大きく開かれた口内には、然し、歯が並んでいない。あーーん…と、『それ』が文字通り大口開けて姉妹に迫ると、
姉は、この生物?が何をしたいのか…目的を知った。
「い、妹ちゃん!逃げるのよっ!」「ま、まって、おねえちゃ…まだ、パンツが…」
ばくんっ。ふたりの言葉は、それで終わりだった。
大口が豪快にも、2人を同時に飲み込んだ。2人分の少女を飲み込んだ口は、ぴったりと閉じて、2人を閉じ込めた。
「出して!ここから出してえぇぇぇっ!」「お姉ちゃん……ぐすっ…」
若干透き通った大口の身体には、もがく2人の姿が見えてはいるが、声は全く聞こえない。
姉の悲鳴も、妹が泣く声も、外には届かないのだ。
「お姉ちゃん・・・もう、助からないの…?」「ううん!お姉ちゃんが出してあげる!妹ちゃんも、私も、こんな所で死んでたまるものか!お父さんとお母さん、それに、おじいちゃんとおばあちゃんも待ってるんだから!」
姉はそう妹を元気付けると、ぴったりと閉じた大口をこじ開けようと力を込めた。
女一人にどうにかなるものではない。それでも、助かるために、助けるために、姉は力を緩めることはなかった。
然し、一旦閉じられたこの口は、中の獲物をどうにかするまでは、梃子でも開くことはない。そして大口は、本当の捕食段階に入った。
半透明の内壁を突き破るように、たくさんの牙のような、鋭い突起物がいくつも生えてきたのだ。
それらは姉妹の脚に、太股に、お尻にと突き刺さる。
「痛っ!いきなり、何なのよこれ…」
大口の身体が、ぶるぶると震えた。内壁がゆっくりとだが動き始めている…。
「やだあああぁぁぁっ!助けて、ぱぱぁ、ままぁ~~~!!」
妹が泣き叫ぶが、それが離れた駐車場の、車の中で待っている両親に、届く筈などなかった。
内壁はミキサーの様に、ぐるぐると回転し、2人は瞬く間にミンチとなって、内壁を赤く染めた。
大口は2人分の血と肉片を吸い上げながら、便器の中に戻っていくのだった。
最終更新:2008年05月19日 11:14