私立の名門、錯刃大学。
その附属病院、特別脳病科治療施設の一室。
痩身の、白衣を着た男の前に座るのは、若い女性。
二人は楽しげに談笑をしているが、女性の後ろに立っている、
金髪で尖った髪型をした、痩身だが筋肉質の男は、
仏頂面でその話を聞いているだけだった。
「君の病状もだいぶ良くなった。ここに来たときとは比べものにならないな。
もうすぐ来なくても良くなるだろう」
「ありがとうございます、教授。でも、それは少し寂しいかな……」
「自分の体の方を大事にするんだ。なに、聡明な君のことだ。
遺伝学も私のテリトリーだ。ここでなくともじきに学会で会えるようになるさ」
「それならいいんですけどね。ありがとうございます、春川教授。その日を楽しみにしていますね」
「ああ、その日はきっと必ず来るさ」
本当に楽しかった。
それが本城刹那の抱いた感情だった。
あの「春川教授」が本物でないことはわかっている。
それでもーー
「ねえ、セイバーさん、セイバーさんには異性のお友達っておられたんですか?」
「ま、まあな。何人かは……」
セイバーは下を向いて言いよどむ。
その様子を見た刹那は、自分が知らず知らずのうちにまずいことを言ったらしいことに気付いた。
「あの、すみません、セイバーさん。思い出したくないことを思い出させてしまいました?」
「いや、別に大丈夫だ。気にしないでくれ」
「もしそうなら悪いことを。それにごめんなさい、いつも付き添ってもらって。でも私一人じゃ本当に不安なんです」
「それが俺の役割だからな。昔はなんでも屋をやっていたんだ。ボディーガードも仕事のうちさ」
刹那を力づけるように、セイバーはそう言った。
「ありがとうございます。お礼に今度一緒にお買い物、行きましょう」
「考えとくよ」
「でもセイバーさん、本当は教授のこと、あんまり好きじゃないでしょ?」
「い、いや、そんなことは……」
図星だった。
あの白衣を見ると、自分と友人にジェノバ細胞を植え付けた、全ての元凶であるあの狂った科学者のことをどうしても思い出してしまう。
もっとも春川教授は宝条のように科学センスが皆無な人間でも、コンプレックスの塊のような人間でもない。
むしろ真逆だ。それこそ、彼女の父親であるガスト博士と比肩し得るであろう天才である。
だけれども、やはり春川教授は変人の部類に入る。
自分に合わないのだ。
「無理もないです。あの人、ああ見えて結構情熱家で、
何か一つの目的のためなら世界を敵に回してもやり遂げようとする人ですから。
それにセイバーさんって優しいんですね。クールに見えるけど」
刹那はセイバーに、にこりと笑いかけた。春川教授に向けるのと同じように。
「……優しくなんかないさ、俺は」
ぽつり、と呟く。
その言葉は刹那に向けたものではないように思われた。
本城刹那は脳の病に侵されていた。
1日に数回、脳が体のコントロールを失い、突如異常なほど攻撃的に豹変する。
片手で、物が入った金属製の人の背丈ほどもある棚を振り回すことすらあった。
その状態の彼女を止めるには男性数名で取り押さえる必要があった。
そして、彼女の脳細胞は徐々に破壊されていく。
原因は全くわからず、同じ症例は彼女以外に発見されていない。
まさに悪意の塊のような病。
幾多もの病の治療法を見つけてきた春川教授ですら、この病に対しては無力であった。
その病のおそらく末期。
凶行や暴言を一日中、獣のように繰り返していた段階。
その正気に戻った刹那に。
本城刹那は、聖杯戦争という場で目を覚ました。
「セイバーさん、少し長くなりますけど、私の話を聞いてくれますか?」
「あくまで原因は脳という物質の一部の異常だ。病気が理由で君の人間性が貶められはしないのだから」
春川教授はそう言ってくれた。
でもーー
「やっぱり、苦しいんです。教授の前で、見苦しい姿を見せてしまうのもそうですし、
何より私という人間が壊れていく。自分がなくなっていく。それが本当に、怖い」
本城刹那は震えていた。
「セイバーさん、ハリガネムシって知ってますか?」
「いや、ミッドガルにはゴキブリぐらいしかいなかったからな」
「もう。デリカシーがないんだから。
ハリガネムシはカマキリに寄生するんです。
寄生されたカマキリは脳にタンパク質を注入され、入水するよう行動を操作されるんです」
本城刹那の語気はほんの少し、弱まっているように思われた。
「ねえ、セイバーさん、このカマキリってかつての私みたいじゃありませんか?
1日のうち、極々短時間しか正常な状態を保てない。
でも、教授の言葉を借りるなら、カマキリは悪くない。
カマキリは本当は入水自殺なんてしたくない。
生きていたいはずなんです。
私も、本当は死にたくなんてない。
たとえ本当に短時間であっても、私は私のままでいたかった。
もし死が避けられないのなら、私の症例を誰かの役に立ててほしい。
例えば誰かの娯楽のために死ぬのは、私は嫌なんです」
本城刹那は静かに泣いていた。
「知っているはずの言葉が思い出せない。
出るはずの言葉が出てこない。
そんなことよりも、親しい人の顔が判別できない。
いや、親しい人の存在すら頭から失われてしまう。
私にとってこれほど悲しいことはない」
「だったらマスター、聖杯に願えばいい。
自らの病を治してくれるようにと。俺は全力で協力する」
刹那は首を小さく横に振った。
「甘い考えなのはわかっています。
でも自分のために人を殺すほどの覚悟は私にはないんです。
こんなことをセイバーさんに聞くのは筋違いでしょうけど、どうするべきなんでしょうか」
「……俺にはわからない。元の世界に帰る方法は聖杯以外にもあるかもしれない。
ただ、きつい言い方になるが、マスターが聖杯を手に入れずに元の世界に戻ったところで何も変わらない。
今の話を勘案するに、ただ獣のように暴れつづけ、そしてじきに脳が完全に壊れるのを待つだけだ」
「それでも、それでも私は春川教授を信じています。
仮に治療ができなかったとしても、
ほんのわずか、私が私でいる間、その一瞬の刹那を忘れてほしくないんです」
本城刹那はもう泣いていなかった。
セイバーはかつての自分を思い出していた。
ジェノバ細胞の影響とはいえ、自分を偽り続けたあの日々を。
そのことに気づくことさえなかった、あの日々を。
自分というものが失われる。
それはすなわち、世界が、自分の認識する世界が壊れることと同等だ。
自分が「クラウド」になりきれなかったと、そう信じ込んだあのとき。
確かに自分の世界は壊れた。
そのことを彼女はずっと以前から見抜いていたというのに。
「……俺にできることはマスターの力となることだけだ。
それがマスターの願いなら、やはり俺は全力で協力する」
「ありがとう。セイバーさん」
本城刹那の声には、力が宿っていた。
【クラス】
セイバー
【真名】
クラウド・ストライフ@ファイナルファンタジーⅦ
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具C
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:D
一工程による魔術行使を無効化する。
騎乗:C
騎乗の才能。調教された獣程度なら人並み以上に乗りこなせる。
チョコボレーサーとしてチョコボに騎乗した逸話とバイクを乗りこなした逸話による。
本来ならもう一つ上のランクでもおかしくはないのだが、
本人は乗り物酔いが激しいためこのランクとなった。
【保有スキル】
ソルジャー:D
ジェノバ細胞を埋め込まれた後、魔晄を浴びた者。
身体能力は飛躍的に向上するが、ジェノバに支配されないような強い精神を必要とする。
本来はもう一つ上のランクでもおかしくはないのだが、
本人は確かにソルジャーの生成過程を経ているものの、
実際はソルジャーではなかったためこのランクとなった。
【宝具】
『超究武神覇斬』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1~5
手に持った大剣で十五回連続切りを仕掛ける。
相手の急所を的確に攻撃することが可能。
『凶斬り』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
手に持った大剣で凶の字に相手を切る。
麻痺の追加効果がある。
『破晄撃』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:1
剣から気を飛ばして遠距離攻撃を行う。
敵に命中した後拡散して、さらに他の敵にもダメージを与える。
『クライムハザード』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
敵に剣を突き刺し、そのまま高くジャンプして切り上げる。
『画竜点睛』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:1~5
竜巻を起こし、敵を吹き飛ばして地上に落下させる。
『メテオレイン』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1~3
隕石状のエネルギー弾を降らせて攻撃する。
【人物背景】
FF7の主人公。自称元ソルジャー1st。
現在は「なんでも屋」を営む青年。
ニブルヘイムの出身で、14歳のときソルジャーに憧れ村を飛び出す。
しかし実際にはソルジャーになれず、神羅の一般兵止まりであった。
【サーヴァントとしての願い】
可能ならばあのときに戻りエアリスを救いたい。
【マスター】
本城刹那@魔人探偵脳噛ネウロ
【マスターとしての願い】
誰も傷つけることなく、元の世界に帰還する。
【能力・技能】
春川教授からも、確かな知性があり、確かな自分を持っていると評される。
おそらく誰からも好かれる人間であろう。
【人物背景】
数学者、本城二三男の娘。
現役の女子大生であり、遺伝学を専攻していると思われる。
原因不明の脳の疾患を患っており、その治療のために春川英輔との交流が始まることとなる。
自身の病の原因について知ることがなかったのはむしろ幸運だったのかもしれない。
【方針】
聖杯に頼らず脱出する方法を探る。
最終更新:2021年06月16日 22:24