ここは、自衛隊のとある施設。
その廊下を、がたいのいい壮年の男とスーツを着た初老の男が並んで歩いている。
「デルウハ殿、今日もお疲れ様でした」
「おう」
デルウハと呼ばれた男は、スーツの男の言葉に短く返す。
彼は特別教官として自衛隊に呼ばれた、某国の軍人……というロールを与えられた、聖杯戦争の参加者である。
「しかし、デルウハ殿も物好きですなあ。
滞在中の住居は、自衛隊の宿舎でいいとは。
最高級とはいかなくても、平均よりは上のマンションくらいなら用意できますのに」
「住環境に、こだわりが薄いんでな。
それよりも飯の方が大事だ」
「なるほど、食生活を充実させてこそ、ポテンシャルを発揮できると!
さすがはデルウハ殿!」
おべっか混じりの雑談に、デルウハはため息が漏れそうになるのを必死で抑える。
どうせ聖杯戦争が終わるまでの付き合い、最低限のコミュニケーションさえ取れていれば問題はない。
だが逆に言えば、その最低限を維持しなければ問題が発生するということ。
現状は決して悪くない。それを保つために、くだらない会話に付き合うくらいのことはしなければならない。
そう自分に言い聞かせ、デルウハその後もしばらく心のこもらない会話を続けた。
◆ ◆ ◆
「ふう……」
ようやく一人になり、デルウハはあてがわれた自室で息を漏らす。
贅沢品はないが、居心地は決して悪くない。
彼がここを拠点に選んだのも、合理的な考えがあってのことだ。
サーヴァント相手に近代兵器が無力であることは、知識として知っている。
だがそれでも、一般の住宅と比べればここの方が心理的に攻めづらいだろうとデルウハは考えていた。
銃がサーヴァントにとって無力な武器であっても、マスターには別だ。
流れ弾が偶然当たって、あっさり死んでしまうこともあり得る。
そのリスクを考えれば、軍隊に相当する組織の拠点に攻め込むのは抵抗があるだろう。
……もしかしたらサーヴァント並みに化物じみたマスターが参戦しているかもしれないが、その可能性は考えたくない。
「帰ったよ」
デルウハがくつろいでいると、突然虚空から声が響く。
間を置かずして、その場にひげ面の中年男性が姿を現した。
霊体化を解いたデルウハのサーヴァント、アサシンである。
「よう、お帰り。どうだった、今日の収穫は」
「いや、全然ダメだって。
何度も言ってるけど、僕は指揮官であって諜報員じゃないからね?
いくらサーヴァントになって気配遮断スキルが身についたからって、そう簡単に諜報活動とかできないって」
デルウハの言葉に、アサシンは眉を八の字にして首をすくめる。
デルウハはアサシンに対し、日中は他の参加者の情報がないか調べさせていた。
当然サーヴァントをマスターから離れて行動させるのにはリスクが伴うが、何かあったときには令呪で呼び戻せばいいとデルウハは考えていた。
令呪を消費することに、デルウハは一切のためらいがない。
どんなに貴重なものであろうとも、必要ならば使う。
デルウハはそういう男だ。
「頼むぜ、将軍。俺はなんとしてでも、願いを叶えたいんだからな」
「平和な世界への転移、でしょ?
本当にいいの? 元の世界ほっぽり出しちゃって」
「くどい。俺は俺が平和に暮らせればそれでいいんだ。
世界を救うことになんざ興味ねえよ」
デルウハのいた世界は、謎の怪物・イペリットの出現により人類が滅亡の危機に瀕していた。
デルウハは軍人としてイペリットと戦い続けていたが、そこには人々を守るという使命感も殺戮を繰り返す存在への怒りもなかった。
ただ、自分が生き残るため。それだけのためにデルウハは戦ってきた。
イペリットが存在しない世界で安全に生きていけるなら、元の世界の人類が滅ぼうとも知ったことではないのである。
「聖杯戦争さえなければ、この世界に永住してもいいくらいなんだがなあ。
まあ、モデルになった世界があるだろうからそこでいいか。
できればその世界での戸籍もほしいところだが……。
聖杯ってのは、そこまで融通利かせてくれるのかねえ」
「……デルウハくん、本当に自分のことしか考えてないよねえ」
「何言ってんだよ。あんただって似たようなもんだろ」
「まあ、それはそうだけどさあ」
デルウハは、アサシンの過去をほとんど知らない。
ただ、本人が口にしたわずかな情報を知っているだけだ。
「自分は個人的な感情を優先して、国家に背いた反逆者だ」と。
「あんたの過去を詳しく詮索するつもりはないが、叶えたい願いがあるんだろ?
俺のために戦えなんて、都合のいいことは言わん。
あんたはあんたのために戦え。それが俺の利益になる」
「本音丸出しだねえ」
「そっちの方が、あんたの心を動かせると判断したからだ。
猫被った方が仲良くできるなら、そうしてるさ」
臆面もなく言ってのけるデルウハに、アサシンはあきれ顔を見せる。
「なんだよ、その顔は」
「いや、気の合うパートナーに引き当ててもらってよかったなあと」
「絶対そんな顔じゃなかっただろ! ……まあいい。
飯にするか。あんたもなんか喰うか?」
「サーヴァントは、食事要らないんだけど……。
まあせっかくだから、カップラーメンでももらおうか」
「いや、あんた中国人だろ。それでいいのかよ……。
もっとまともなものもあるぞ?」
「美味しいじゃない、日本のカップラーメン」
そして、夜は更けていく……。
【クラス】アサシン
【真名】リュウ・イーウ
【出典】テラフォーマーズ
【性別】男
【属性】中立・悪
【パラメーター】筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
気配遮断:B
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
中国拳法:A
中華の合理。宇宙と一体になる事を目的とした武術をどれだけ極めたかを表す。
修得の難易度が最高レベルのスキルで、他のスキルと違ってAランクでようやく「修得した」と言えるレベル。
無力の殻(偽):B
ジキルが持つスキルに似て非なる能力。
発動中はステータスが大幅に低下し、他のスキルが使用不能になる代わりにサーヴァントとと認識されにくくなる。
【宝具】
『海中に嗤う悪魔(ヒョウモンダコ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:なし 最大捕捉:1人(自身)
「モザイク・オーガン手術」によって得た、ヒョウモンダコへの変態能力。
本来は薬剤の使用により変態するが、宝具となったことにより魔力の消費のみで発動することができる。
発動中は「体からタコの足を生やす」「2種類の毒を放出する」「切断された四肢の再生」「墨による目潰し」などの能力が使えるようになる。
『死神転生(ヘヴィーメタル・イズ・デッド)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
複数の心臓を持つタコの特徴を再現した、予備の心臓。
この宝具を未使用の状態でアサシンの霊核が破壊された場合、自動的に発動。
アサシンを蘇生する。
また死亡した人間や、霊核を破壊された他のサーヴァントに使用して蘇生することも可能。
その用途で使用した場合、むろんアサシンは蘇生できなくなる。
【weapon】
素手
【人物背景】
火星に向かったアネックス1号第四班(中国・アジア班)の班長。
技術部門の責任者であり戦闘能力は低いとされていたが、実際には他の班長たちに匹敵する戦闘力の持ち主。
中国政府から「膝丸燈とミッシェル・K・デイヴスの確保」を命じられていたが、
姉貴分だった女性の血を引く燈がモルモットにされることを忌避し、独断で殺害をもくろむ。
目的のためなら非道な手段もためらわない軍人だが、本質は飄々とした陽気な男である。
【サーヴァントとしての願い】
膝丸燈の平穏な人生
【マスター】デルウハ
【出典】Thisコミュニケーション
【性別】男
【マスターとしての願い】
平和な世界への転移
【weapon】
拳銃、手斧、ナイフなど
【能力・技能】
「合理主義の化身」
狂気の域に達しているほどの合理主義者。
「その方が自分にとって得」と判断すれば、戦友であっても平気で殺す。
ただし頭脳はあくまで人間の粋であるため、判断ミスで墓穴を掘ることも。
【人物背景】
スイス出身の軍人。
人類を脅かす謎の怪物・イペリットと戦い続けていたが、軍は壊滅。
「日本で秘密兵器が開発されている」という噂にわずかな希望を託し、日本へと向かう。
【方針】
優勝狙い
最終更新:2021年06月18日 22:15