昼下がりの商店街。
緩く冷房の効いたコンビニのイートインスペースに、大量のジャンクフードが積み上げられていた。
肉まん、アイスクリーム、菓子パンにコーラ。
塩や脂肪が大量に含まれるそれを、周囲の目など気にせず熱心に胃の中に収める一人の男がいた。
いや、男――つまり人間というにはいささか奇妙な存在である。
まず、人を最も人たらしめるモノ、つまり服を着ていない。全裸である。
そして次に、肌の色と背格好が人のそれではない。全身白色でずんぐりむっくりの、いわゆる二頭身であった。
しかし、周囲の人々はそのような姿の彼に驚いたり、珍獣として警察に通報したりする様子はない。
彼の名は「ニュー速でやる夫」。姿が妙なら名前も妙だが、兎にも角にもそういう名前である。

やる夫は、生まれた時からそういう存在であった。
母親が白色の二頭身なら、友人のヴィップ・デ・やらない夫も白色の二頭身だった。
つまり、やる夫にとっては、聖杯によって導かれたこの世界の人間のほうが異常なのである。
しかし、さらに奇妙なことにやる夫はその頭身、肌色の違いを認知していないかのように振る舞っていた。
これはもう、聖杯がやる夫とこの世界を接続する際、両者の認識を都合の良いように捻じ曲げたのだと考えるほかなかった。

「ハフッ、ハフッ……。う、美味いお!」

奇妙な白饅頭のごとき生物――やる夫はイートインスペースに積み上げた最後のアイスクリームのちょうど蓋の裏まで舐め終え、下品なゲップを一発かました。

「ったく、無職のやる夫がいきなりこんな危ない世界に放り出されても困るお。こういう異世界転生の場合、金持ちの親のところに生まれてるはずだお?
 でもやる夫は界聖杯の中でも無職のままなんだお……。だから財布に残ってた虎の子の一万円でやけ食いするお!」

そう高らかに言い放ったやる夫は、メタボ気味な腹をゆすりながら椅子から降り、ふたたび暴食の限りを尽くすために食品を物色し始めた。

「しかし、やる夫のサーヴァントは何してるお? もうそろそろ金髪碧眼の鎧に身を包んだ美少女がやる夫のためにかしずいてくれるはずだお?
 この世界に来てからもう二時間も経つのに、音沙汰無しとはふてえ野郎だお! 許さんお!」

勝手に一人で喋り、勝手に一人で怒りに燃えたやる夫は、恨み晴らさでおくべきかという調子で特上ティラミスを棚にあるだけカゴに放り込んだ。
すると、やる夫の肩にそっと何者かの手が置かれた。それは次の瞬間、万力のような力が込められ、やる夫の肩に激痛が走る。

「あ、いや、これは……。独り占めしようとしたわけじゃないんですお……!」

コンビニの店員さんかガラの悪い客にティラミス独占を咎められたと思い込んだやる夫はすっかり萎縮し、震えながらそちらを振り向いた。

「――問おう。貴様が私のマスターか」

そこには、派手に胸元を露出した学生服に身を包んだ、青髪の美少女が凛っ!!と立っていた。


◆ ◆ ◆


小一時間後、街外れの剣道場。

やる夫はなぜか道場で正座させられていた。
相対するは先程彼のサーヴァントを名乗った美少女である。少女は目をつむり、ここに至るまで一言も言葉を発しない。
目の前の存在が発する圧にやる夫のノミの心臓は縮み上がりそうだったが、なけなしの勇気を振り絞って口を開いた。

「お、お前はやる夫のサーヴァントだお……? だったらさっさと他のマスターを皆殺しにしてくるお!」

すると、少女がカッと目を見開いた。あまりの覇気に道場の屋根で羽を休めていた鳥たちが一斉に羽ばたく。

「……ッ」

やる夫はここで軽く失禁した。
しかし、次にサーヴァントの少女が放った言葉はやる夫の予想をはるかに超えていた。

「――哀れなことだ」

「なっ、やる夫は哀れじゃないお! 無職童貞ヒキニートでも生きる権利はあるお!」

マスターとしての矜持から精一杯の抵抗を試みるやる夫。
だが、少女はそれを無視して続ける。

「貴様もかつては清く正しい少年だったに決まっている。それが何か重大な挫折を経験し、このような堕落しきった身体と心を持ってしまったとしか考えられん」

少女は荒ぶる鷹のポーズを取りながら宣言する。

「親に見捨てられたか? 良き師に巡り会えなかったか? 友に裏切られたか?
 ――安心しろ。私が貴様を一流のマスターとして更生させてやる」

「なんだか猛烈に嫌な予感がしてきたお……」

ひとりごちるやる夫を他所に、少女は吠えた。

「健全な精神は健全な肉体に宿る! まずはこの道場を雑巾がけ1万回だ!」

「くっ、そんなの死んでも断るお!」

やる夫はここでサーヴァントへの絶対命令権である令呪を、「道場の雑巾がけから逃れるために」一画使用した。

「ぐっ……。ぐぐぐ……」

やる夫の手の甲から発せられる魔力の輝きに応じ、少女の目から光が奪われる。

「ふふふ、ニート歴ウン十年のやる夫を舐めるんじゃないお。絶対に働かんお」

「――というとでも思ったか!?」

少女は凛っ!!という効果音でも出ているかのような、堂々たる佇まいで令呪に抵抗してみせた。

「この不肖黒神めだか、腐ってもバーサーカークラスのサーヴァントがそうやすやすと令呪ごときに従うとでも!?」

「えーっ、そんなのアリだお!?」


驚きながらもサーヴァント――黒神めだかのステータスを今更ながら確認すると、『狂化:E+++』というクラススキルが目に入る。

「このクラススキルのせいで令呪が効かないお……? く、くそっ! こうなったらもう『二画』使うお! 今度こそやる夫の手駒になるお!!」

――だが。

「あいにく、洗脳には生前手を焼いたものでな。私は、私には『見知らぬ他人のために生まれてきた』という信念がある限り絶対に折れん!!」

やる夫のやけっぱちは焼け石に水だった。


◆ ◆ ◆


「しかし、この聖杯戦争とやら、幾人もの猛者が集って戦う……ということは、無辜の住民に被害が及ばないとも限らないのか」

扇子を広げ、遅々として進まないやる夫の雑巾がけを見張っていた黒神めだかは急に当たり前のことを当たり前ではないかのようにつぶやいた。

「はん。どーせ名も無きNPC、2ちゃんねるでいうところの『名無し』だお。そんなの気にするほうがばかばかしッ――」

やる夫に鉄拳制裁を食らわせると、黒神めだかは何かを思案するように目をつむった。

「決めたぞ、マスター。私は、この聖杯戦争を『止める』」

「へ? な、ななな何を言ってるお? 聖杯戦争を止めたいサーヴァントなんて前代未聞だお!!」

「ふっ、当然、貴様にも協力してもらうぞ」

「やだおおおおおおおおおおおおおお!!」

やる夫の絶叫には耳も貸さず、黒神めだかはただただ『正しく』、凛としていた。



【クラス】
バーサーカー

【真名】
黒神めだか@めだかボックス

【ステータス】
筋力:B+ 耐久:B+ 敏捷:B+ 魔力:E+ 幸運:E+ 宝具:A+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
狂化:E+++
理性の代償として能力を強化するスキル。また、現界のための魔力を多めに消費する。
黒神めだかの場合は、一見理性があように見えるが、思考や言動に決定的な断絶が存在する。

【保有スキル】
カリスマ:A+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
黒神めだかの場合はもはや魔力・呪いの類である。

専科百般:A+
桁外れの能力値により多くの専門的なスキルを習得している。
戦術・話術・学術・隠密術といった専業スキルについて、Aランク以上の習熟度を発揮できる。

動物避け:B+
本能的に動物に避けられてしまう。
獣属性を持つ対象に対して攻撃を行う際、常にクリティカルが発生するようになる。

【宝具】
『完成(ジ・エンド)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
観察した他人のスキルを、本来の持ち主より使いこなし完成された状態で体現・会得できるという宝具(アブノーマル)。
サーヴァントの宝具であろうがマスターの異能であろうが、能力(スキル)であれば何であろうと体現・会得できる。
完成に近づくたびに雪だるま式にかさんでいく消費魔力量に目をつむれば、理論上全ての力を使いこなせる最強のサーヴァントである。

【weapon】
基本的には徒手空拳だが、場合によっては武器も使いこなせる。

【人物背景】
箱庭学園第98・99代生徒会長。1年13組。10月2日生まれ。
多方面に際立った才能の持ち主で、容姿端麗・才色兼備に加え身体能力にも優れ、実家は冗談みたいな大金持ちである。
「見知らぬ他人のために生まれてきた」という信条をもとにし、学園に設置した目安箱で誰からの相談も24時間365日受け付けている。

【サーヴァントとしての願い】
全ての参加者のために、聖杯戦争を『止める』。





【マスター】
ニュー速でやる夫@やる夫スレ

【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れる。
叶えたい願いは多すぎて決めきれていない。

【能力・技能】
特になし。強いて言うならウザさ。

【人物背景】
みなさんご存知、旧2ちゃんねるニュース速報板の元祖煽りAAキャラ。
無職童貞ヒキニートと救いようのない存在だが、慣れると妙に愛嬌がある。
「~だお」が口癖。

【方針】
どうにかしてバーサーカーに参加者を皆殺しにしてもらう。
マスター殺し? 魔力切れ? 知らんお。

【備考】
令呪を全て消費しました。

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最終更新:2021年06月23日 21:06