「これはどういうことかな~」
黄昏時の高校の屋上で一人呟く少女。己が異常な事態に巻き込まれたのは直に判った。
腰に巻かれた数珠。其処に差し込んである“もの”が無い。
クマを連れて校内のし歩く三年も、地獄耳の中学生も居ない。
自分と同じ顔をした─────名前も立場も奪った─────片割れが何処にも居ない。
どうやら自分が半端無く面倒な事態に巻き込まれた事を少女は認識した。
「ノムラちゃんも捨てがたいけど~。こっちも面白そ~」
虚ろな眼で空を見上げる。仮想現実とは思えない、茜色の空。
視線を戻し、キョロキョロと周囲を見回す。
「それで~~サーヴァントは何処なのかな」
くるりとその場で一回転。次いで上を見上げて、下を見る。
校庭も見たが何も居ない。
その時、スマホがけたたましい音を立てた。携帯電話の電子音が世を席巻する前、電話といえば誰もが思い浮かべた音。通称『黒電話』の着信音。
番号も名前も表示されない『非通知』。この状況下でこの怪異、普通なら竦み上がるところだが、少女は至極当然の様に電話に出た。
「もしもし~」
「もしもし、私、メリーさん。今、貴女の後ろにいるの」
澄んだ幼い少女の声。感情の起伏を感じさせない声だった。
「ん~~~」
全く動じず、少女は振り返る。死魚の如き眼には、何の感情の揺らぎも感じられない。
振り向いた先には誰も居ない。となる筈なのだが、少女の視界はしっかりと己がサーヴァントを捉えていた。
「随分と小さい子だね~~」
背後に居た幼女に話し掛ける。視線を下に向けなければ普通は気付かないだろう。幼女と言っても良いほどに幼く、しかもしゃがみ込んでいる為、かなり低い位置に幼女の頭は有った。
「怖がってくれないの?」
小首を傾げて尋ねる幼女に、少女も小首を傾げて返す。
「さとりは~そういうの良く判らないんだ~~」
幼女の虚ろな瞳に驚きの色が宿る。
「お姉ちゃんと同じ名前だね」
「ん~?キミのお姉ちゃんも~さとりっていうんだ」
「そうだよ」
元気良く返ってくる幼女の返事に、頭を撫で撫でする。
「それで~キミのお名前は~~?」
「私は古明地こいし。マスターのお名前は?」
「さとりは眠目(たまば)さとり。キミはボクのサーヴァントなんだね」
「そうでーす。私はマスターのサーヴァント。クラスはアサシン」
アサシン─────諜報と暗殺に長けたサーヴァント。此れは当たりだと、聖杯から得た知識を基に、さとりは思う。このクラスは自分のやり方に有っている。
相手の事を知らなければ、さとりの『眼』は役に立たないのだから。
そんな事を考えていると、こいしの姿が視界から消えていた。
「ウソ~~」
流石に驚く。こいしの姿は確かに視界に収めていたのだ。それが僅かに意識を逸らした瞬間に消えていた。
「うんうん。やっぱり持ってるね。携帯電話」
ポケットの中に手を突っ込んで、こいしはさとりのスマホを取り出していた。
「興味有るの~~?」
「幻想郷じゃ誰も持ってなかったし」
「幻想郷~~?」
「私が居た処だよ。現実から消えた幻想の楽園」
さとりは茫洋と考える。つまりこの子は幻想。現実には存在しない存在なのだろうか?
「わたしは覚(さとり)。目を閉じたからお姉ちゃんみたいな事は出来ないけどね」
覚─────飛騨地方に伝わる妖怪。人の心を読み、怯んだ処を喰らうという。
「それってつまり君のお姉ちゃんは心が読めるってこと~」
「そうだよー」
「へ~。聞いてみたいな~~ボクの事~。ボクの事を何て言うんだろうね~」
東京都で語られ出した都市伝説。
『消える女の子』
曰く、何気無く目をやった日本庭園の庭で見知らぬ幼い少女を見た。目を凝らした時には消えていた。
曰く、黄昏時の高校の校庭で、残っていた生徒が明らかに生徒では無い幼い少女を校舎の中に見た。直後に少女の居た場所を通った教員は誰とも遇っていないと語った。
曰く、巡回中の警官が、深夜の公園を歩いていたら、幼い少女とすれ違った。注意しようと振り返ったら消えていた。
『座敷童』
曰く、庭で子供が一人遊びをして居た。けれども明らかに『誰か』と遊んでいる様だった。気になった親が見に行くと子供が一人で遊んでいた。しかしその場には子供二人分の足跡が有った。
曰く、小学生達が野球をやろうとしたら、急に一人来れなくなった。其処へ最後にやってきた子供が同い年位の少女を連れてきた。
日が暮れるまで野球をやって、親が迎えに来た時にはその少女は消えていた。
誰も少女の名を知らず、顔も覚えておらず、只『其処にいた』事しか覚えていなかった。
『メリーさん』
曰く、唐突にスマホが黒電話の着信音を発した。番号は非通知。出ると幼い澄んだ少女の声でメリーさんと名乗り、今何処に居るのかを告げてきた。
何度も何度も同じ電話が掛かってきて、告げる場所は段々近づいてきている。
怖くなって壁に背を着けていると、いつの間にか壁から上半身を生やした幼い少女が顔を覗き込んでいた。
全て異なる都市伝説。然し、その全ての根が一つのものだとしたら………?
「マスター。言われた通り外で遊んできたよ」
新都の住宅街の一室に、幼い澄んだ少女の声が響く。
薄く緑の掛かった灰色の髪、緑の襟の黄色い服を身に付けた、小学校高学年程の少女。顔に屈託無い笑みを浮かべた少女のその目は、奇妙な輝きを湛え、しかし虚ろに開かれていた。
この少女こそサーヴァント、アサシンのクラスとして聖杯戦争に召喚された超常の存在。
「お疲れ~」
ふにゃふにゃと返ってくる少女の声。ふらふらと泳ぐ視線、ふわふわと彷徨う両手。死魚の様に虚ろな眼。
腰まで伸びる緑の長髪を揺らめかせ、マスターである少女は自身のサーヴァントと視線を合わせる。
「これで~他のマスターは君を追うだろうね其処を利用していこ~」
冬木市で語られ出した都市伝説の源はこの少女。通常は存在を秘匿するだろう自身のサーヴァントに、好きな様に振舞わせて怪異と為し、調査を始めた他のマスター及びサーヴァントを狩る為の布石。
出逢った時に、このアサシンの能力を知って考案した策だった。
“無意識を操る程度の能力”、視界に入らない限り存在感が無く、視界に入っても誰もいない様に思われ、認識されても、視界から消えれば即座に忘れ去られる。まるで路傍の小石の様に。
そんなアサシンを外で自由に振舞わせれば、即座に噂となって流布するだろう。通常ならば誰も気に掛けない─────アサシンの存在の様に。
然し、今は別だ。聖杯戦争に参加した者達なら、これがサーヴァント絡みの異変だと気付き、調査を開始し出すだろう。虎口に踏み入る行為と気付かずに。
「先ずは~盗聴機だね~。様子次第で、他のサーヴァントとぶつけたり、同盟を結んだり~」
「つまり、楽をして勝ち残ると」
「そうだよ~。あ、盗聴器仕掛けるのも~君の役目だから~。やり方覚えておいてね~」
コクコクと、こいしは首を縦に振った。
「ねえマスター」
「なに~」
此方の眼をアサシンが覗き込んで来る。見る者を不安にさせるアサシンの瞳の輝きを、マスターの少女は真正面から見返す。
「マスターは本当に、私のお姉ちゃんに会いたいの?」
「そりゃね~。さとりの疑問に答えてくれるかも知れないんだよ」
眠目さとりの願い。“自分は何者なのかを知る”。さとりを知るもの全て、両親からも『化け物』呼ばわりされた自分は一体何者なのか?
それを知ることが出来るのなら、聖杯だろうが覚だろうが構わない。
「こいしちゃんは~メリーさんを広めたいんだったね~~」
「うん。折角皆が電話を持ってるんだから、たくさんの人を怖がらせたいな」
「それじゃ、二人の目的に向かってガンバロー」
さとりが握り拳を天に突き上げる。
「ガンバロー」
こいしも拳を天に突き上げる。
緑の髪、虚ろな瞳。感情を感じさせない容貌と雰囲気。こうして見ると二人はまるで仲の良い姉妹の様だった。
【クラス】
アサシン
【真名】
古明地こいし@東方Project
【ステータス】
筋力:E 耐久:D 敏捷:C 幸運:B 魔力:B 宝具:B
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
気配遮断:EX
宝具により気配遮断を行う。『無意識を操る』事で、他者に認識されなくなる。
攻撃行動に移っても気配遮断の効果が落ちない。
視界に入らなければ存在感が無く、視界に映っていても路傍の石の様に視界から消えれば忘れ去られる。
対峙しても気配を感じ取れない。
【保有スキル】
命名決闘法:A
アサシンの故郷、幻想郷で行われていた決闘方。
弾幕の美しさを競うもの。EXボスなんで避けにくさもまあそれなり
同ランクの射撃と矢避けの加護の効果を発揮する。
閉じた恋の瞳:A+
心を閉ざし、無意識で行動している。無意識レベルでの超反応も行える。何も考えていないのでは無く仏教で言う『空』の境地に近いらしい。
ランク相応の透化スキルと同じ効果を発揮する。
読心能力を完全に無効化する。
【宝具】
無意識を操る程度の能力
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1~30 最大補足:レンジ内の全員
他者の無意識を操る。無意識下の記憶を呼び覚ましたり、無意識の抑圧やスーパーエゴを表象化化させる。
対魔力や精神耐性に依り、軽減或いは無効化される
本怖!貴方の後ろにいるよ
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ冬木市全域 最大補足:1人
深秘録で触れた都市伝説『メリーさん』が宝具化したもの。
冬木市の何処にいても、任意の対象に電話をかけ、対象が電話に出たならば、その背後に瞬時に現れることが出来る。
対象を知っていて、且つ対象が携帯電話を所持。もしくは電話が側に無いと使用不能。
胎児の夢
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1~3 最大補足:1人
人が母の子宮で見ていた夢を再度見せる宝具。人は子宮の中で遺伝子に刻まれた先祖代々の記憶を見るという。
微生物から始まり、進化の過程を経て、先祖代々の人生を送る。それに加えて、最後に己の人生を寸毫狂わず再演される。
秒瞬の間に繰り返される無数の誕生と死。秒瞬の間に経験する無数の人生。
最後に決してやり直すことなど出来ぬ、何処で過ちを犯し、何処に悔いが有るかを最初から鮮明に意識している己の生の再演に、人の意識は消耗し尽くし、精神的な死を迎える。
ここから更に、安穏と眠り続けられる場所から、過酷な現世に引き摺り出された原初の恐怖と悲痛が最後に呼び醒まされる。
相手の精神を念入りに砕く精神攻撃。精神耐性やそれに類する効果を持つ宝具やスキルでしか対抗出来ない。
【weapon】
ナイフ:
深秘録怪ラストワードで使ってたアレ。
後は茨とか弾幕とか。
【人物背景】
姉と同じく『覚』然しただし己の心を閉ざし、他人の心も読めなくなっている。
心を閉ざした為に性格は空っぽで、コミニュケーションを取る事が難しい。
能力の為に他者に認識されないが、複雑な人間関係を構築していない子供には話が合う。
子供の頃一緒に遊んだのに大人になると忘れてしまう空想上の友達(イマジナリーコンパニオン)
固く閉じた恋の瞳も霊夢達との接触で緩み出した。
【方針】
聖杯戦争を楽しむ。
『メリーさん』の都市伝説を広める
【聖杯にかける願い】
無い
【マスター】
眠目さとり@武装少女マキャヴェリズム
【能力・技能】
観の目:
常に焦点が合っていない、何処を見ているのか判らない瞳。視界が常人よりも広く、対峙している相手の全身を均等に見ることが出来る。
視線や目付きが変化しない為に、攻撃してくる場所やタイミングを読むことが出来ない。
感情鈍磨:
感情の働きが極めて鈍い。この為攻撃時に気配が変わることが無い。笑顔で談笑しながら人を刺す事が出来る。
但し、精神の内面を露わにされる、若しくは精神に強い衝撃を受けるとと感情が表出し、この特性は失われる。
天通眼:
極めて高い観察能力と分析能力を持ち、他者の言動を予知レベルで『推測』することが出来る。但し当人の性質上感情に基づいた行動は読むのが苦手。
警視流:
明治時代に十種の剣術を統合して編まれた流派。十種類の異なる剣技を繰り出してくるさとりは、上記の性質も有って手筋が非常に読み辛く、縦横無尽じゃ。
文字鎖:
異なる流派の共通する文字を持つ術技を連続技や派生技としてとして繋げて繰り出す。
【weapon】
長脇差
【ロール】
千代田区にある全寮制のミッションスクールに通う女子高生
【人物背景】
元々は女子校の愛地共生学園、共学になった際に男子生徒を恐れた女子生徒のための風紀組織『天下五剣』が活躍するに伴い、各学校の問題児を招き入れては矯正させる更生施設のような側面を持つに到った。
その『天下五剣』の一人。
本来『眠目さとり』とは彼女の姉の名前であるが、子供の時ジャングルジムから突き落としたのを切っ掛けに、姉の様に振る舞いだし、最終的に名前も立場もも奪った。
本名は眠目ミソギ
生来他者と比べて余りにも異質すぎた為、子供の様に他者を怒らせ、泣かせ、嫌われることを行い、自分と他者との違いを確認し共通項を見出そうとするも遂に見出せず。
他者を観察し、真似をする事で他者に溶け込もうとするも、余りにも異質すぎた為にそれも出来ず。最終的に人の上に立ち、周囲を自分の色に染めることで自分の居場所を確保した。
が…指摘された時の反応からするに当人は意識して行った訳では無いらしい。
その有様は『上に立つ為に敵を求め、打ち破り続けるだけの空虚な亡霊』と評される。
若しくは『人間以外のものが人の振りをしているだけ』とも。
行動が全て計算尽くに見えるが、時折リスク度外視のとんでも無い行動に出ることがあり、行動を酷く読み辛い。
これはさとりが『人間とは利己的で打算的なもの』と解釈している為らしい。
然し根本的に理解していない為、とんでも無い粗が出、それが行動を読めなくしている。
【令呪の形・位置】
ハート型の模様の周囲に遺伝子配列を思わせる二重螺旋。
【聖杯にかける願い】
自分が何者なのかを知る。
こいしの姉のさとりに会ってみたい。
【方針】
こいしを『都市伝説』として振舞わせ、釣られた連中を暗殺して行く
【参戦時期】
原作二巻終了後。
【運用】
主従共に戦闘もこなせるが、特性をフルに活かした暗殺を行うのがベストだろう。
最終更新:2021年06月23日 21:08