ーー幸せになりたいか、にちか。


 とても冷たいけれど、たった一つの希望となる声が私の中に響きます。



 ◆



 私の名前は七草にちか。
 八雲なみちゃんに憧れて、283プロのアイドルになった女の子です。
 お姉ちゃん・七草はづきが勤める283プロダクションのプロデューサーさんに詰め寄って、アイドルにして貰った私ですが……頑張った甲斐があって、輝けるようになりました。
 レッスンやお仕事をたくさん乗り越えて、オーディションをたくさん勝ち抜き、たくさんのファンから応援されて、ついに『W.I.N.G.』の優勝も果たします。


 優勝……そう聞いた時、私の頭の中は混乱しました。
 息ができなくなり、私自身の表情すらわからなくて、言葉もまともに出てきません。
 だけど、プロデューサーさんは伝えてくれました……優勝した私は苦しそうだけど、笑えていることを。
 そして、私は泣きました。もちろん、これは嬉しい涙です。
 プロデューサーさんからも、今の私は立派なアイドルだと認められましたから、なみちゃんにもいっぱいお礼を言いました。
 星空の下で、プロデューサーさんがくれたミルクティーの味と温かさは忘れられないでしょう。



 でも、その矢先に私は聖杯戦争に巻き込まれちゃいます。
 どんな願い事もかなえてくれる聖杯を巡って、殺し合うことになっちゃいます。意味がこれっぽっちも分からないですし、どうしてアイドルの私がケンカなんてしないといけないのか?
 聖杯なんていらないから、早く家に帰してほしかったです。明日から、またアイドルとして頑張らないといけないから。

 もちろん、私の願いは叶いません。
 その代わりか、私は寮に住まわせて貰っています。住まいの問題はひとまず解決しましたが、喜べる訳がありません。
 理由は一つです。

「あ、あれ……? 私の、足が……動かない……?」

 ある日、聖杯戦争以上の絶望が、私の身に降りかかります。
 あまりにも唐突に、この足が動かなくなりました。怪我はおろか、どこかにぶつけた記憶もないのに……私の足だけでなく、指先だって動いてくれません。
 もちろん、原因は全く分かりませんし、治療なんてできる状況じゃありませんでした。

「な、何で……? 何で、動いてくれないの!? 何でっ!?」

 足が動かなくなって、私の目の前が真っ暗になりました。
 今まで積み重ねてきた全てと、これから待っているであろう輝かしい夢と未来がバラバラに崩れて、何も考えられなくなります。

「ど、どうしよう……!? このままじゃ、私はアイドルでいられない……! なみちゃんみたいに、なれない……!
 せっかく、『W.I.N.G.』に優勝して、これからもっと輝けるはずなのに……!」

 足が動かなくなれば、アイドルとしては死んだも同然です。アイドル以前にまともな日常生活すら望めないでしょうし、そもそも他のマスターやサーヴァントの的にされます。

「い、嫌……嫌っ! 誰か、誰か私を助けて……!」

 ーー問おう。君が、私のマスターかな?


 絶望に陥った私の前に、あの人がやってきました。
 ピエロみたいな帽子を被り、鼻と口を露出させた赤いマスクで顔を覆い、漆黒と紫に染まったローブと衣服を身に纏っています。胸元と帽子にはスペードのマークが描かれていて、不気味な雰囲気を引き立たせます。
 あぁ、この人が私のサーヴァントだと瞬時に気付きました。でも、明らかに怪しい外見で、私は震えちゃいます。

「あの……あなたは……!?」
「あぁ。足が動かないなんて、可哀想に……でも、私がいればもう大丈夫! 君の願いを叶えてみせよう!」


 でも、私の警戒などお構いなしに、彼は大仰な身振りと共にお辞儀をします。すると、石のように固まっていた私の足が一気に軽くなりました。

「えっ……? 足が、足が動く!? 踊れる! 私は、踊れます!」

 夢じゃありません。上げ下げはもちろん、ステップだって踏めるようになります。
 奇跡です。私のサーヴァントは、奇跡の力で私を救ってくれました。


「私の力はこんなものじゃない。にちかが望みさえすれば、どんな願いだって叶えてあげられるさ。聖杯だけじゃない……君を奇跡のトップアイドルになることだって、夢じゃないさ。
 もちろん、邪魔な奴らをお人形みたいに黙らせる力だって、君にあげよう」


 足を取り戻した喜びに浸っている私に、彼は語りかけます。
 私が望めば、彼はどんな願いでも叶えてくれる。私の足を動けるようにしてくれたから、本当のことでしょう。
 でも、聖杯が欲しいとまでは思いません。それに、トップアイドルだって、私自身の力でならないといけないです。
 だから、彼には申し訳ありませんが、首を横に振ろうとしましたが……


「君が私の力を必要としないなら、それで結構。もしそうなったら、私も君を守れなくなるからね」


 彼の言葉に、私の息が止まりそうになりました。

「私は君の力となる為に、ランサーのサーヴァントとして召喚された。でも、君が私の力を必要としないなら、私は君の意思を尊重しよう。君一人の力で、この困難を乗り越えるなんて、とても素晴らしいじゃないか」

 彼は称賛してくれますが、私にそんな力はありません。
 私はアイドルとして輝けましたが、戦いとは全く縁がないです。そんな私が、たった一人で聖杯戦争に挑む羽目になったら、すぐ殺されるに決まっています。
 だから、彼のマスターとなって戦わないといけない。でも、人を殺すことにどうしても抵抗があります。


「待ってください! 考える時間が……考える時間が、欲しいです! こういうことは、すぐに決めちゃいけない気がしますから……」
「そうか。なら、私は君の答えを待とう……でも、あまり時間がないことを忘れちゃいけないよ?
 この聖杯戦争では、君のようなマスターは格好のターゲットだ。君を狙う奴らから、私は君を守りたいからね。私自身のためにも」


 彼は私のそばからいなくなる訳ではなさそうです。
 そのことに、少しだけ胸を撫で下ろしましたが、その場しのぎにすぎません。
 彼が言うように、私は狙われています。あとまわしにしていたら、すぐに殺されるでしょう。


「申し遅れた。私はブラックファング……この度は、君のサーヴァントとなるべくして召喚された男さ」


 彼……ブラックファングさんは、口元で笑みを作っています。
 その笑顔にどんな意味を持っているのか、私にはまだわかりませんでした。


 ◆



 世界を最悪にし、すべての人間を不幸にしようと企んだ悪の組織・幻影帝国の幹部がブラックファングだ。
 バレリーナを夢見る少女・織原つむぎの足を奪い、彼女の絶望から紡がれる不幸の力を利用して、世界を不幸で飲み込もうとする。
 しかし、ハピネスチャージプリキュアのキュアラブリー達がつむぎの希望を取り戻したことで、ブラックファングは浄化された。つむぎ達の応援が、キュアラブリーをスーパーハピネスラブリーにパワーアップさせて、真の力を発揮したブラックファングすらも打ち破ったのだ。

 キュアラブリー達への恨みを抱えたまま、消滅したブラックファングだったが……今は聖杯戦争のサーヴァントとして復活している。
 マスターとなった少女・七草にちかは格好の餌だった。つむぎのように踊れなくさせて、絶望のどん底に叩き落して、蜘蛛の糸のように細い希望を差し出した。
 案の定、にちかは面白いように食いついた。

(やはり、人間は愚かで弱く……そして面白い生き物だ! 足を奪ったのが俺であるとは知らず、俺にすがりつくのだから!)

 ブラックファングは自らの力で、足を奪うアンクレットをにちかの両足に付けている。このアンクレットにより、にちかの足は動かなくなった。
 もちろん、にちかの目には見えておらず、人間の医療でも原因不明と診断されてしまう代物だ。
 当然、今は足を動けるようにしているが、ブラックファングの意思でいくらでも足を奪うことができる。仮に、にちかがアンクレットに気付いたとしても、にちかにはどうすることもできない。
 ただの余興と誤魔化すことはもちろん、にちかに戦いを強制させることも可能だ。無力な少女に過ぎないにちかはブラックファング以外に頼れる人物はいないのだから。

(万能の願望器となる聖杯……その力さえあれば、今度こそ俺は絶大な力を得られるだろう)

 聖杯戦争を勝ち抜けば、あらゆる願いを叶えられる聖杯が得られる。効果が事実であれば、あのクイーンミラージュをも上回る程の力を再び得られるはずだ。
 もちろん、絶望するにちかが紡ぐ力を蓄えることも忘れない。

(にちか……悩み、そして悲しめ。お前が紡ぐ不幸の糸があれば、俺は強くなれる。その為にも、俺がお前を守ると約束しよう……お前の味方は、俺だけなのだからな)

 夢に溢れ、輝こうとしていた少女が七草にちかだ。
 バレリーナを夢見たつむぎの足を奪ったことで、ブラックファングの力となる不幸と絶望が大いに生まれた。マスターとなったにちかも同じで、足を奪われたことで絶望が止めどなく溢れていく。
 この聖杯戦争の中で、にちかが他者を踏みつけにしたらどうなるか? 考えるまでもなく、にちかは絶望に溺れて不幸そのものになり、ブラックファングは更なる力を得られるだろう。
 聖杯を手に入れる為の道具として、にちかを守らなければいけない。聖杯の力と、にちかが生み出す絶望……この二つを合わせれば、世界を大いなる不幸で飲み込むことができるし、キュアラブリー達への復讐も実現できる。

「ブラックファングさんは……私のそばから、離れませんよね?」
「当然だろう? 私は、君を絶対に守ると約束したからね」

 不安げな表情を浮かべる七草にちかを前に、ブラックファングは笑う。
 意のままに動く操り人形……マリオネットとなった少女をいかにして守るか? そんな邪な考えを巡らせながら、ブラックファングはゆっくりと黒い牙を研いでいた。


【クラス】
ランサー

【真名】
ブラックファング@映画ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ

【属性】

混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:E 宝具:A+

【クラススキル】

対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

不幸のアンクレット:B
ブラックファングの呪いから生み出されたアンクレット。
ブラックファングの意思だけで、対象となった人物の足を動けなくするモノ。ある一定の対魔力があれば無効化も可能。

マリオネット:B+
ブラックファングが他者に与える呪われた力。
この力を与えられた人物は他者を人形にできる他、自らの意思でサイアークを生み出すことができる。
そしてこの力で不幸を紡ぐ度に、ブラックファングの力も増していく。

サイアーク:B-
人間を鏡に閉じ込めて、不幸の怪物・サイアークを生み出すことができる。
素体とされた人間は棺桶のような鏡に閉じ込められ、サイアークを浄化しない限り目覚めることができない。

【宝具】

『紡がれる不幸の糸(メイキング・アンハッピー)』
ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-

ブラックファングの呪いによって紡ぎ続けた織原つむぎの不幸を利用したブラックファングの真の姿。世界全てを不幸の糸で縛り付け、圧倒的な巨体と力で全てを破壊することができる。
広範囲の攻撃も可能で、並の技を通さない程の耐久力を誇る。また、ミラクルライトの光のように、ステータス向上系のスキルを無効化させることもできる。

【人物背景】

足が動けなくなり、バレリーナの夢が破れて絶望するつむぎの前に現れたなぞの男。
つむぎの為にドール王国を作り出し、愛する人形たちと共に踊れる世界につむぎを招待した。
しかし、彼こそがつむぎの足を奪った犯人。不幸のアンクレットでつむぎを踊れなくし、不幸や悲しみから生まれるエネルギーを得て、つむぎの不幸から紡いだ糸で世界を飲み込んだ。
彼の悪意はこれで止まらない。不幸の糸から紡がれた繭に閉じ込めたつむぎに、つむぎの不幸で恐怖する人々の姿を見せつけて、更にはジーク王子を始めとした人形たちを傷付ける。
全ては、幻影帝国の女王・クイーンミラージュを超える力を手に入れて、世界を飲み込むために。

だが、つむぎを救ってというジーク王子達の願いを受け取ったキュアラブリー達の反撃を受けてしまい、キュアラブリーの想いでつむぎが幸せを取り戻す。生きる希望と幸せを取り戻したつむぎの不幸が止まってしまうも、不幸の糸で蓄積した力でブラックファングは真の姿に変身し、キュアラブリー達を追い詰める。

圧倒的な力を振るうも、つむぎとの絆を胸にしたキュアラブリーは決して絶望せず、スーパーハピネスラブリーにパワーアップを果たす。
たった一つでも愛がある限り、幸せを諦めないというハピネスチャージプリキュアの決意を前に、ブラックファングは敗れ去った。


【サーヴァントとしての願い】

聖杯を手にし、世界を不幸で飲み込む。

【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
私の未来と夢、そして幸せをこんな所で終わらせたくない。

【能力・技能】

283プロダクションのアイドルとして必要な体力と知識はあり、また多くの人を魅了させることができる技術を誇る。
困難な夢を実現させられるほどの根性もある。

【人物背景】

八雲なみに憧れてアイドルとなり、ひたむきな努力で輝いた少女。
凡人ながらも、他のアイドルを凌駕するほどの技量を会得し、にちかは舞台の上で拍手喝采を浴びた。

【方針】
今は彼ーーブラックファングさんに頼るしかない。

【備考】
『W.I.N.G』優勝後からの参戦です。
ブラックファングによってアンクレットを付けさせられ、足が動けなくなりました。
ただし、現在はブラックファングの力で足を動かせています。

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最終更新:2021年06月23日 21:11