――――東京都・中央区某高級住宅塔。
「みんなぁ~~殺すの好きぃ?」
カラーボールに眩く輝く室内に声が響く。
おどけた子供の声だった。
だが、その声によって齎されるのは―――
「大好きィ~~~!!!!!」
「ガムテッッ!!」「ガムテッッ!!」
「王子ッ!!」「王子ッ!!!!」
熱狂。歓声。狂奔。
大きなモニターの前に悠然と佇む、ガムテと呼ばれた少年を取り巻く異様な熱気。
それらが全て顔にガムテープを巻いた十代の年若い子供たちによって作られているとなれば、異様さにも拍車がかかる。
クラスの人気者等と言う温い立ち位置では断じてなく。
最早、その室内は彼の王国と化していた。
「殺人の王子様(プリンス・オブ・マーダー)ッッ!!ガムテェ~~~!!!!!」
それを裏付ける様に殺しの王子と、ガムテープを顔中に巻きつけた子供たちが叫ぶ。
それを受け、ガムテは尊敬と崇拝と羨望に無邪気な子供の様な笑みで答えながら『残っている方の手』を掲げた。
「うんうん、だよね~~~
今日は皆と楽しい死亡遊戯(ゲーム)持ってきた☆」
忍者にやられた左手とは違い、遺った右手に刻まれた紋様。
極道の入れ墨の様なその紋様は。
彼が聖杯戦争に招かれたマスターであることの証明に他ならない。
ガムテの立つ背後の巨大スクリーンに、その模様が映し出される。
「そのゲームの名前は…聖杯戦争!腕にこんな入れ墨を付けた奴らは漏れなく殺り放題(ヤリホ)!
一人につき10万MP(マサクウ)ポイント進呈しまぁ~~す」
その言葉に室内は更なる熱狂に包まれる。
子供たちは興奮の高揚(アガり)を抑えきれず、怒号めいた歓声を上げる。
手に入れ墨をした奴らがターゲット。一人につき十万MP。
正しくUR大放出の大盤振る舞いだ。
「ただし!入れ墨を付けた奴らを殺そうとしたら鉄砲玉(サーヴァント)って忍者みたいな奴らが来襲(ク)る!」
熱狂を諌める様に、操作する様にガムテは訴える。
殺しを邪魔する英雄たちの存在を。
しかし、熱狂は醒めるどころか増すばかりだ。
「信じるぜェ~~ガムテ!!!お前の言う事疑うやつ何か此処には非現実(アリエネ)って!!
そして俺たちは必ずお前を勝たせてやる!」
傍らに控える体格のいい褐色の少年――黄金球(バロンドール)がガムテへと激を贈る。
それを後押しするように、子供たちもそうだそうだと半ば叫ぶように同意を示した。
どうしようもなく狂っていたけれど。
それでもその光景には確かな絆があった。
そして、その絆の中で王子たるガムテは信頼に答えんと咆哮を上げて。
「そうだ!例え仲間(みんな)が殺されても俺は必ずマスターを、サーヴァント共をぶっ殺す!
皆の魂は!優勝した俺の精神(こころ)に生き続ける!」
歓声。歓声。鳴りやまぬ絶叫。
焚きつけられた幼き殺意は既に蜂起しそうなほどだ。
その様子を一人冷静に見つめていた舞踏鳥(プリマ)は無言でガムテの背後に視線を移し、呟きを漏らす。
「信じがたいけど…信じない訳にはいかないわね。あんなババアを見せられたら」
ガムテの背後の空間。熱狂のステージの中心
そこにはいつの間にか人影が立っていた。
その威容。その巨大(デカ)さは人と形容していいものか悩むところだったが。
天井すらぶち抜いて、その巨体はマスターの背後に姿を現す。
「マ~~~ママママ!!!そうさ!聖杯はこのおれ、ビッグ・マムが頂く!!」
舞踏鳥が一日かけて作った超特大シュークリームに舌鼓をうちながら。
ファンシーな服に身を包んだその女怪は豪快に笑った。
かの者の名はビッグ・マム。ひとつなぎの大秘宝を巡る海で四皇とまで呼ばれた怪物である。
「そしておれがひとつなぎの大秘宝を手に入れて――海賊王になるんだよ!!」
マムは、孤児院の出身だった。
だから、自らのマスターを取り巻く子供たちは、一番楽しかった時期を思い出して気に入っていた。
加えて、聖杯の獲得にも積極的である。ならばマムの戦意(テンション)もアガるというもの。
対する子供たちは突如現れた『大人』の老婆の姿にどよめきと嫌悪の声を上がりそうになる。
だが、それよりも早くガムテは向き直り、問いを投げた。
「ねぇ~~ライダー?俺たちはこの戦争で、いっぱい殺せる?」
その問いはいつでも、どんな時でも殺しを辞められない彼らの破綻を示していた。
どうしようもなく割れてしまった子供たちを象徴するような問いだった。
だが、そんな問いに稀代の女海賊ビッグ・マムは笑みで答える。
「―――勿論さ!誰にだって殺したい人間の百や二百はいるもんだ!
我慢何て必要ない!殺した奴らの髑髏の盃でテーブルを囲むのが家族ってもんだろ?
その後はデザートに聖杯をグラスに甘ーいケーキと紅茶でパーティとしゃれこもうじゃないか!!」
何千人殺そうとも、それが自分にとっての益になるのならマムは頓着しない。
逃げようとする者と裏切り者は殺すが、自分に逆らわないなら壊れた子供達でも一向にかまわない。
そんなマムの答えを受けて、ガムテは一瞬氷の様な無表情を浮かべた後、再び笑顔になって。
「―――だってさ!みんな!ライダーもこう言ってる!
だから殺そう!!皆殺そう!俺たちは若くして心を殺された!
家族に!学校に!この世界に!!何度も何度も心を殺された!!」
まるで指揮棒を振るう様に。
ガムテの言葉は再び熱狂を呼び起こして。
その背後のマムが指を鳴らせば、天井のカラーボールも顔が浮かんで合いの手を入れて。
「殺られたままじゃ生きられない!」「誰か殺らなきゃ生きらんない!」
壊れた子供が口ずさむままに、狂騒曲は続き。
「だから今日も殺人(コロシ)をしよう!」
それはゲームの開始を告げるホイッスルとなる。
「幸せな奴らを沢山殺そう!!」
「マ~~マママママママ!!マザーの夢のために、しっかりと働きなガキ共!!」
その手のマザー・カルメルの写真を掲げて快哉を上げるライダー。
それを聞くガムテは笑っていたが、心は深海の様に暗く、一条の光も刺さないほど冷たかった。
ライダーの言動を注意深く観察していれば察することは容易だった。
かつては彼女も自分たちと同じ割れた子供だったのかもしれない事は。
だが、今は違う。
己の快・不快のために子供を踏みにじる、踏みにじってきた大人だ。
ならば―――
「――ガムテ」
隣で小さく舞踏鳥がガムテの名を呼ぶ。
その視線はガムテと同じように、冷たく、昏く。
舞踏鳥だけではない、この室内にいるガムテープを巻いた全員が、一様に同じ顔をしていた。
彼らの熱狂に、その裏に隠した氷点下の殺意にガムテは無言で応える。
ライダーに気取られないよう、殺意すら殺して。
―――あぁ。こいつも必ず、俺が殺す。
海賊の王だろうと何だろうと、俺は必ずこいつを刺す。刺して。殺す。
何故なら、自分は心壊れた子供達全ての味方だから。
だから例え味方であっても子を踏みにじる醜悪な大人(おや)は生かしてはおかない。
絶対に。絶対にだ。
全ての主従を殺しつくし、聖杯に辿り着いた暁にはライダーも必ず地獄へ送って見せよう。
最高に、最悪の状況(シチュ)で。
割れた子供達(グラスチルドレン)の王として。破壊の八極道として。
言葉にはしないまま、しかし絶対の意思を以て視線で号令を発する。
そして、その号令を疑う者はこの部屋には一人として居なかった。
その姿はやはりどうしようもなく壊れていたけれど。
紛れもなく、王の姿だった。
最早信仰とも呼べる視線を一身に受けながら、割れた子供たちの英雄はなおもお道化て謳い続ける。
「殺すよ殺す♪割れた子供達(グラス・チルドレン)殺せば僕らは幸福(しあわせ)に!
―――コロシが僕らの生きる道!」
さぁ死亡遊戯(ゲーム)の始まりだ。
舞台は界聖杯によって再現された偽りの世界。偽りの帝都。偽りの東京。
サーヴァントとマスター。
海賊と極道。
誰か生存(いき)るか死滅(くたばる)か……!!
【パラメーター】
筋力:A++ 耐久:A+++ 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
【保有スキル】
悪魔の実:EX
超人系『ソルソルの実』の能力者。
自分の魂を具現化し黒いスライムのような存在として使役できる他、同意を得た相手や自身に臆した相手から寿命を奪う事ができる。
奪った寿命は無機物に入れる事で人格を与える事が出来たり、動物に入れば擬人化を起こす。(この状態のライダーの使い魔をホーミーズと呼ぶ)
ただし、他人や死体に魂を入れる事はできない。
覇気使い:A+
全ての人間に潜在する"意志の力"。
気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
マムは最高レベルの覇気使いであり、覇王色を"まとう"ことも可能である。
嵐の航海者:A
船と認識されるものを駆る才能。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
喰い煩い:A
ライダーは他者の寿命、又は甘いお菓子を摂取することによって魔力を回復する事ができる。
しかし、逆に食べたいと思ったものが食べられずに一定時間経過すると狂化スキルが付与され見境なしに暴れまわる。
こうなればマスターの言葉さえ届かず制御は非常に困難となる。
解除するには早い段階で食べたいと思ったものを摂取させるしかない。
【宝具】
『悪神(ナチュラルボーン・デストロイヤー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
マムの肉体。この世における最強の女と謳われた"皇帝"の全て。
体表の全てが極めて堅牢で、元の世界では若干五歳で巨人族の村を滅ぼし悪神として恐れられるほど。
パワー、スピード、そしてタフネスさと全能力値が異常に飛び抜けた領域に達している。
そこに彼女自身の武技が加わることにより真っ向からの打倒は極めて困難であり、唯一の女性四皇の名に違わない圧倒的な強さを実現している。
一定以下の威力の攻撃を無効化し、その篩いを超えたとしても固定値分被ダメージを軽減する。
この性質は魔術的な攻撃に対しても同様に働くため、如何なるクラスの英霊であっても真っ向からマムを討つことは平等に至難の業。
『天候を統べる女(ビッグ・マム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大補足:100
ソルソルの実の能力によって作り出されたマムの懐刀とも呼ぶべき疑似太陽と雷雲と剣。
『雷雲"ゼウス"』や『太陽"プロメテウス"』『二角帽"ナポレオン"』は、彼女のソウルを直接分け与えた、いわば分身である。
『太陽"プロメテウス"』は、生きた巨大な空飛ぶ火の玉のため、水といった鎮火させる以外の攻撃は武装色の覇気を含め一切通用ぜず、太陽に対して弱点を持つサーヴァントに特攻効果を与える。
また、ライダーは、『雷雲"ゼウス"』『太陽"プロメテウス"』に乗ることが可能となっており、雷雲であるゼウスに乗った彼女の機動力は見た目に似合わず非常に高い。
『二角帽(バイコーン)"ナポレオン"』は普段はホーミーズの信号をキャッチするレーダーのような役割で、有事の際には大型の両刃剣に変化しマムの戦闘に貢献する。
意識を刃に移すことで巨大なカットラスに変形することもでき、この状態で刃をさらに長大化することも可能。
この三体を用いてライダーは威国や雷霆など、強力かつ様々な技を放つ。
『万国(トット・ランド)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーがかつて統治していたお菓子と多くの種族、そして彼女の子供達が住む万国を再現する固有結界。
莫大な魔力消費の引き換えに世界最高峰の実力者ぞろいの船員にして彼女の子供たちを使役できるが、召喚したマスターの影響か現在使用不能。
【weapon】
ゼウス、プロメテウス、ナポレオンをはじめとする能力で作り出したホーミーズ。
【人物背景】
四皇の1人で、異名は“ビッグ・マム”。
甘いお菓子に目がないビッグ・マム海賊団の船長にして万国トットランド女王。
若干五歳で歴戦の巨人族の村を滅ぼす極めて特異な身体能力を誇り、頭脳も持病の喰い患い状態でなければ非常に狡猾。
この世の全ての種族が平等に食卓を囲む世界を理想としており、大家族を築いているが目的のためなら息子や娘でさえ容赦なく斬り捨てる冷酷さも有している。
半面、打算なく親切にされれば彼女なりの仁義を見せる時もあり、前述の喰い患いの特性を含めてその行動は正に予測不能。
ひとつなぎの大秘宝を巡る海にて最も自由な女海賊と言える。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を手にし、マザーの夢を叶える。
【マスターとしての願い】
全てのマスターとサーヴァントを殺し、聖杯を手に入れる(用途は未定)
【能力・技能】
『破壊の八極道』
殺人の王子様の異名を誇り、苛烈な虐待を日常的に受け続けた結果30分間無呼吸でも活動でき、3週間ほど眠れなくても問題のない異常な身体特性を有している。
また短刀(ドス)の技量も非常に巧者で音速を超える速度の貫手の威力すら鼻歌交じりに殺して見せ、
相手を肝不全にする必殺技まで有している。
何より恐ろしいのは普段道化を演じる事で相手に実力を誤認させる冷徹な本性を隠し通す演技力だろう。
サーヴァントであっても看破技能を持たなければ彼の脅威を見誤る可能性が高い。
地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)
ペーパードラッグ『天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)』の改悪版。服用することで忍者と同じ眼にも映らぬ速度で動き、壁にクレーターを作る事もできる程膂力も向上する。
【人物背景】
「殺人の王子様プリンス・オブ・マーダー」の異名を持つ『破壊の八極道』の一人で、極道最狂の殺し屋集団『割れた子供達グラス・チルドレン』のリーダー格。
【方針】
他の主従を皆殺しにした後、ライダーにも最も屈辱的な死を与える。
最終更新:2021年06月23日 21:12