黒い髪を風に靡かせながら、夜道を走る一人の少女の姿。
黒のセーラー服姿を見れば、ただの学校帰りの少女だと何も疑うことはない。
ありふれた女学生。可愛らしい顔から男の気を惹くかもしれないが、
決してその姿に対して訝ることはないだろう。
だが、彼女は女学生と呼ぶには余りにも機敏だった。
人間離れした速度で人目のつかない路地裏を駆け巡り、
鞄の代わりに手に持っているのは、鞘に収まってる日本刀。
端から見れば普通に通報ものだが、人気のない場所を走る都合それはない。
公園を駆け、
路地裏を駆け、
ビルの屋上を駆け。
走り回れども見つからない。
「……お姉ちゃん。」
姉───アカメを探す彼女の名前はクロメ。
帝都の特殊警察『イェーガーズ』の一人であり、暗殺部隊の一人。
彼女が記憶を取り戻すこと自体は、そんなに難しいことではなかった。
薬物の摂取による禁断症状。それが起きればあっという間の出来事だ。
見知らぬ街で女子高生のロールなど、彼女の環境で適応できるはずがない。
幸いなのは自宅でそれが起きて、クッキーがまだ手元にあったことか。
お陰で聖杯戦争前に警察病院なんてものに行かずに済んでいる。
(やっぱり見つからない。)
ビルの屋上から雑多な人込みを眺めるクロメ。
トウキョウと言う場所は人も多ければ、建物の複雑さも広さも圧倒的だ。
たった一人でたった一人の相手を探すなど、とてつもなく確率が低いに決まっている。
そも、参加してるかすらも分からない姉を探すと言うのは非効率極まりない。
彼女自身あまり意味のない行為だと言う自覚はあるが、それしかできなかった。
本来ならば聖杯戦争らしく、サーヴァントを見つけてサーヴァントをぶつけるものだが、
(まだ出てこない。)
右手の令呪を見やる。
これが出たのは大分早かったものの、
肝心のサーヴァントが未だに出てこない。
なのでまともな戦闘は避けて静かにやり過ごす。
一応、サーヴァントの強さに油断したマスターを、
本業らしく暗殺していく形でなんとか勝利を手にしてるが、
一人の上に情報網は自分だけの状態で、効率はかなり悪い。
「予想は付いてたけど、これも外れかぁ。」
人気のない公園の森の中、
ぎこちない動きの人を前に呆れ気味の表情だ。
彼女の持つ刀、八房と呼ばれる帝具は斬り殺した死体を躯人形として操れる。
だが油断してるマスターと言うのは、往々にして貧弱な奴ばかりが揃っていた。
来る以前に八房でストックしてた分は、綺麗さっぱり消えていてかなり厄介な状況だ。
ナタラは勿論のこと、ランも八房で呼ぶことができなかった。
(薬は余ってる分だけ、躯人形は聖杯戦争中に補充、サーヴァントもない……!!)
流石に次々とくる向かい風な展開。
苛立ちの余り躯人形へ八つ当たりのように八房を振るう。
上半身と下半身が綺麗に分断されて、上半身が軽く滑っていく。
一般人程度のスペックでは壁にすらならず、どうでもいいとすら思ってる。
彼女にとって大事なのは姉と身内。誰とも知らない元マスターに微塵も興味はない。
(そろそろやばいかも……)
イライラが収まらない。
袋のクッキーの少なさを見ると、自宅へと戻ることにする。
彼女にとってドーピング剤である以上、切らすのはまずい。
余り無暗に消費して肝心な時に事を起こす方が危険だ。
「いつになったら現れるの……!」
無為に過ごす時間が苦痛だ。
此処には仲間は誰一人としていない。
だからこそ余計に苦痛に感じざるを得なかった。
急いで自宅へと戻ろうとしたその時。
彼女の背後で淡い光が輝きだす。
「!?」
「!?」
八房を抜きつつ距離を取る。
淡い光の中心に立つのは、一人の男性。
最初に見たクロメの感想は『普通』だった。
確かに禍々しいオーラを醸し出しているのはあるが、
西洋の騎士を彷彿とさせる装備に身を包む、前髪が瞳を覆う一人の青年。
よくある典型的な騎士と言った風貌で、帝都では珍しくない姿だ。
「……私のサーヴァント?」
尋ねつつも八房はしまわない。
性格に難ありなサーヴァントもいるとのことだ。
彼女が警戒するのは当然とも言える。
「そうらしいな。王子が従者とは、
少々不満ではあるが……まあいい。
『シャドウ』のクラスのサーヴァントだ。」
「……シャドウ?」
聖杯戦争の知識は詰め込まれたお陰で基本の七クラスは分かる。
セイバーとかと思ってみればエクストラクラスに該当するクラスだ。
「召喚が遅かったことについて、聞いていい?」
クラスの違いなんてものは分からない。
精々セイバー、アーチャー、ランサーの三騎が優位になりやすい。
そんな程度の軽く与えられた知識だけでしか判断できないのだから。
それよりも、召喚までにかなりの時間が掛かったことへの疑問だ。
聖杯戦争を知らないクロメから見ても明らかに召喚までが遅すぎる。
記憶を取り戻して、令呪が手に浮かぶまでは大分早かったが、
召喚されるまでのラグが余りにかかりすぎていることが気掛かりだ。
躯人形にしたマスター以外にも、相手せずに放置したマスターは何人もいた。
それだけの数がいながら、今になってようやく召喚されるのは普通ではない。
「界聖杯は気が利いたのか、単に不具合か。
俺の召喚をギリギリにまで抑えていたらしい。
俺の性質の問題からすれば、当然と言えば当然だが。」
「……? どういうこと?」
「───俺の現界時間は長くない。
何もしなければ、二十四時間後に消滅する。」
「!」
一日、僅か二十四時間。
聖杯戦争はサーヴァントをぶつけ合うと言うのが基本
ルールで、
一日しかまともに戦えないサーヴァントと言うとんでもない問題を抱えていた。
「一応延命手段はあるにはある。
最たる例に令呪だが。それでも消耗は激しい。
そうだな……三画使えば半日の延命と数回だけの戦闘だ。
まともな戦闘を期待するなら、開始一日目から動くのがベストか。」
このサーヴァントは外れでしかない。
戦える英霊と言う観点を差し引いても外れだ。
聖杯戦争が長引くだけで勝ち筋が消えてしまう。
延命に令呪を三画使う必要があると言うことはつまり、
自害は勿論のこと、呼び出す等命令すらできないのと同等。
不興を買って令呪を使おうものなら、サーヴァントの寿命が一気に縮まってしまう。
「……でも、勝てるってことだよね?」
ステータスだけ見ると特別高いわけではない。
だが傲岸不遜な態度は髪に隠れて表情は窺えないが
負けるわけがないと言わんばかりの自信に満ち溢れていた。
二日目の朝日すら拝めるか分からないサーヴァントでありながら、
その余裕は何処にあるのだろうか。
「当然だ。俺を召喚したのなら勝つのは必然だ。」
彼は短い生……実際はもっと長く生きていたが、
とにかく彼は刹那のような時間に何度奇跡を引き寄せたかは分からない。
決して多くない臣下。限界を迎えつつある身体で相対したのは最強の軍勢。
鬼も、神獣も、魔王も、亜神でさえ倒した英雄王から唯一勝利を勝ち取った。
故に最強であり、負ける道理はないと言う自信。
「……なら、別にいい。」
確たる証拠もない。
妄言と言われても否定できないその言動。
それをたった一言で済ませる。
「一日限りの英霊に憤りもなしか。随分と余裕だな。」
「時間がないのは、お互い様だから。」
適当に弄っていた髪が抜け落ちる。
抜け毛と呼ぶには、束になりすぎた髪が。
彼ほどではないにせよ、彼女も残された時間は少ない。
「シャドウ。一つだけ約束してくれる?」
「なんだ?」
「お姉ちゃん……アカメって言う人がいたら、
私は一対一でとことん決着を付けたいの。
絶対に邪魔をしない、或いは邪魔する奴を消して。」
「……姉を殺す理由はなんだ?」
決着の意味。単純な姉妹喧嘩ではない。
どんな意味を持ってるかはシャドウも察した。
別に彼自身はそれについて止めるつもりも断るつもりはない。
だがまだ彼女の人となりを知らないのもあって、興味本位に尋ねる。
「お姉ちゃんだから、他の誰にも斬らせたくない。」
真面目で民を想うがゆえにアカメは帝都を裏切った。
裏切った姉が許せない。しかしその真面目な姉が大好き。
愛憎が渦巻いた果てがその結論。今更変えるつもりはない。
「己の為による、刹那の戦い───か。
あれは誰にも譲れるものではない。俺自身もよく知っている。」
世界の誰よりも強い、後に新たな千年戦争の歴史を刻んだ英雄王。
何者にも負けず、神であろうと抗うその英雄王との戦いは実に心躍った。
一回、一瞬。英雄王の人生にとっては刹那の時間でしかないが、
同時に彼にとっては永遠に忘れぬ記憶となっただろう。
「いいだろう。遅れて召喚された贖罪をそれで贖うとする。
俺は霊体化する。微々たるものだが、延命に繋がるだろう。」
話を終えるや否や、
シャドウはすぐに霊体化して姿を消す。
まだ色々聞くべきことはあるにはあったが、
薬のストックも怪しいので家へと戻ることを優先とする。
それが、クロメの身体を気遣ったのかどうかは分からない。
「……待っててね───お姉ちゃん。」
シャドウが消えた後、彼女は走り出す。
月明りに照らされる姉を想う彼女の顔は嬉しそうで、
同時に憎悪に満ち溢れた不気味な表情だった。
【マスター】
クロメ@アカメが斬る!(漫画版)
【能力・技能】
暗殺者育成機関にて育てられたアサシン。
だが素質は低く、非選抜組の枠に収まった。
薬物投与で並外れた生命力と戦闘能力を持ち、
実績から特殊警察『イェーガーズ』に抜擢されるに至った。
彼女が食べているクッキーはその劇薬が混ざった代物で、
定期的に摂取しなければ発作を起こす。
【weapon】
始皇帝の命により生み出された四十八の帝具、その一つにして死者の尊厳を冒涜する帝具。
八房で斬り殺された相手はクロメの躯人形として使役される。最大八体まで召喚可能。
躯人形は生前同様の身体能力や性格を持つため、個体が強ければ強い程性能が発揮される。
躯人形は喋らないが性格は引き継ぎ、命令には従うが勝手な行動をとることもある。
八房の躯人形のストックはリセットされており、この舞台でかき集めた元マスター、
しかし性能は一般人とそう変わらない微々たるものだけになる。
武器ではなく薬物入りクッキー。
肉体強化にも使われるが寿命を縮め精神に支障をきたす。
まだ二、三日分はあるが失った場合どうなるかは分からない。
【ロール】
女子高生
【人物背景】
帝都の養成機関で暗殺者として育てられたアカメの妹。
過酷な環境と薬物投与により、歪んだ精神へと形を変えた。
それも相まって帝都を裏切った姉に激しい愛憎を持っており、
姉を殺すことも、最悪殺されてもいいとしている。
嘗てあの場所で決着をつける、その前の彼女。
【方針】
サーヴァントの都合短期決戦をするしかない。
なるべく現界させず霊体化させて消耗を抑える。
お姉ちゃんがいたなら、此処で決着をつける。
【聖杯にかける願い】
お姉ちゃんは自分で殺して躯人形にするからいらない。
使うなら延命、或いは誰にも邪魔されない決着の場所を探す。
【クラス】
シャドウ
【真名】
ダーク王子@千年戦争アイギス
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力:D+++ 耐久:B+ 敏捷:D 魔力:B 幸運:A+ 宝具:D
【クラススキル】
暗黒の波動:C
魔界の軍勢によって誕生したことで得た力。
ステータス低下を受ける環境下でも低下を軽減、または無効化する。
また彼の基本的な攻撃には魔力を伴う為対魔力の影響を受けやすい。
【保有スキル】
一日限りの栄光:EX
消去不可能、無効化不可能のスキル。
被造物である彼の身体は、そのままだと現界に一日しか保つことができない。
令呪を使えば延命は可能だが、三画消費して半日がいい程度の上にあくまで延命。
戦闘は二回か三回が限度。当然魂喰いには膨大な人数が必要で寧ろマイナスになる。
だが高ランクの無窮の武練と戦闘続行を内包。限界が来るまでほぼ十全に戦える。
王道踏破:B-
王たらんとする態度を貫くことにより効果を発揮する自戒系スキル。
一部ステータスの向上に寄与するが、王道を破るような真似をすると弱体化してしまう。
自戒系とは言うが、彼がその道を踏み外すことは余程のことがなければない。
一日限りの栄光で弱体化する彼の身体が、その王道を貫けるかはまた別。
王の奇跡:A
『オリジナルにできたことを、この俺ができない道理はない。』
反骨精神によってオリジナルと同等、或いはそれ以上の奇跡を起こす。
臣下があり得ない速度で進化していく、亜神の援護を受ける、
魔王をその身で打ち倒す、英雄王に勝利……短い中で得た奇跡は数知れず。
幸運を下げる、無効化する能力に耐性がある程度あり、カリスマも内包している。
魔王の魂:-(本来ならばA++)
物質界を滅ぼそうとした魔王ガリウスの魔力の塊。
魔王だけあって凄まじいもので、ダーク王子の延命になりうる。
生前は死して尚も尽きぬ決意を評価してその魔力を手にした。
だが、英霊として召喚されてまでその決意を持ち込むつもりはない。
【宝具】
魔王の影を討つ魔界の軍勢(ダークネス・リターン)
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:100
一日限りの栄光、形に残るものなど殆どないに等しいだろう。
嘗て魔王を裏切り、冥界の神による魔王の影に立ち向かった臣下達を召喚する。
ゴブリン、リッチ、オーク、フライデーモン、ハイオークの五種類の軍勢を、
一個体のみだがダークアンナ、ルイン、リエーフの三名が召集される。
軍勢はステータスが低いが魔力消費は少なく、王の奇跡のバックアップでランク以上に戦える。
一個体の三名はダークアンナを除き軍勢以上の魔力を消費をするが、その分性能は他よりも高い。
なお、軍勢を召喚するがダーク王子は最前線で戦う。王は最前線で戦う。オリジナルもそうした。
唯一、神霊に匹敵する銀腕の亜神は呼ぶことができない。
暗闇の剣 ランク:A 種別:対人(対軍)宝具 レンジ:2(50) 最大捕捉:1(63)
※()はステータス低下の射程範囲
王国一の魔剣鍛冶師に作られ『戦友へ』と刻まれたオリジナルから賜った西洋剣。
真名解放中は短時間の間射程内サーヴァントの筋力と耐久を大きく低下させ自分の筋力を強化する
その状態で攻撃を受ければいかに頑強な英霊であろうとも致命傷を負うだろうが、
この聖杯戦争で一度のみの真名解放。正真正銘最後の切り札。
【weapon】
暗闇の剣
上述のとおり
【人物背景】
異界召喚師によって生み出された、王子を模した人造人間
魔王の尖兵たる存在だが、反旗を翻し彼は彼の王道を歩む
オリジナルとは似ても似つかない高圧的で不遜な態度だが、
物質界を愛し、どれだけ絶望的な状況であろうとも屈さない。
オリジナルに勝利し、影と言えども魔王を倒した唯一無二の存在。
【方針】
一日限りの栄光であれば存分に戦うつもりだが、
マスターの意を汲むのもやぶさかではない。
【聖杯にかける願い】
願望器に頼るような願いなどない。
王は自分で奇跡を掴み取る……そうだろう、オリジナル。
最終更新:2021年06月25日 22:45