「お疲れ様。
 今日はここまでにしましょう」

「……はい」

コーチに言われて、外を見てみたら既に日が暮れて辺りは真っ暗になっていた。
本当はもっと練習したかった。平凡な私は……七草にちかは200%の努力をしないと、なみちゃんの靴を履けないから。
W.I.N.G.を優勝して、もっと努力しないといけないのに、これぐらいで休んでいる暇なんてない。
けれど、今だけは非常時だから、渋々私はコーチに従って帰り支度を始める。

「聖杯戦争……」

意味が分からなかった。
W.I.N.G.に優勝して、これからだって時にサーヴァント、マスターといった意味の分からない知識が入り込んで。
気付いたら、元居た世界と非常によく似た別の世界に居たんだから。

「ぽよ! ぽよよい?」
「待たせてゴメンね。アーチャー」

私が召喚したサーヴァント、それは丸っこいピンクのボールみたいな愛らしい生き物だった。カービィと言うらしい。
アーチャーのクラスらしいけど、この子が一度として弓を使った場面を見たことがない。

「今日も腕によりをかけてご飯作っておいたからね~。 いっぱい食べてよぉ~」
「別に、もう作らなくていいって言ってるじゃないですか」

アーチャーの横に現れた裸エプロンにコック帽をかぶった変な生物、この人? はコックカワサキさん。
このアーチャーの宝具らしいけど、あまり戦いに役立ちそうにない。ご飯を作ってくれるのは良いけど凄く不味いし、私が作った方が絶対に良い。

しかも、食費が私持ちだからって食材は無駄にお金かけるし、どうせなら外食で無難なモノを食べたい。
アーチャーは何故か美味しそうに食べてるけど……。

あと、調理前に手を洗わなかったのを指摘したら、凄く嫌そうな顔をしたし、これで一応プロの料理人らしいけど、食への冒涜な気がする。

とにかく、こんなサーヴァントで聖杯戦争なんて生き残れるのか凄く不安になってしまう。

だから出来る限り夜中遅くにならないように、練習だって早く切り上げた。
今の私にやれることは、可能な限り人の多い時間帯に紛れて、それで他のマスターやサーヴァントに見つからないようにすることだけだから。

「思い出したわ。あれ七草にちかじゃん」

「え……?」

声を掛けられた。
アーチャーは霊体化してるから普通の人には見えないし、それよりも私の名前を呼んだことが気になる。
相手の男はチャラチャラしたちょっと危なそうな人で、私の知り合いなんかじゃない。
でも、私を知ってるって事は……。

「ふーん、元の世界で見覚えがあるNPCと思って尾行したけど……マスターだったとはね」

マスターという単語を聞いて、背筋が凍る思いをした。
これが殺し合いなら、誰とも戦わないで生き残れるような設計をする筈がない。絶対、何処かにマスターを特定させるようなギミックがある。
きっと私の場合は、この人がそうなんだ。

「いいぜ、ランサーぶち殺せ」

男の人がそう言うと、槍を大男が現れる。喧嘩とかしたことないけど、この人にはどうやっても勝てない。見ただけで屈服させてきそうな威圧感がある。
どうしよう逃げなきゃ、でも足が動かない。頭は凄く回って、本当に危険で早くどうにかしなきゃって分かるのに動いてくれない。
どうして? 死にたくなんかないのに、なのに……お父さんの事を思い出して、お姉ちゃんも、プロデューサーさんも……あっこれって……。

「ぁ……」

槍の矛先が、私の胸の……心臓の辺りに吸い寄せられてるみたいだった。

「か、カービィ……! 吸い込みよぉ~!」

カワサキさんの裏声が聞こえてきて、凄い突風が私達に降りかかった。
ランサーの矛先が私から逸れて、あまりにも咄嗟のことだったのかその手から槍が手放されていた。

「アーチャー……?」

突風の正体は大きく、アーチャーの吸い込みだった。大きく口を開けてブラックホールみたいに何でも口に吸い寄せている。
凄い肺活量だなって思ってると、槍がアーチャー口の中に入って行って口を閉じたまま飲み込んでしまった。
アーチャーのボールみたいな体積に収まる筈もない槍をどう飲んだのか、普通なら体を貫通しそうだけど、それに応えてくれもせずアーチャーが飛び上がり、光り出す。


『スピアカービィ!!』


頭に額当てを付けて、ランサーの槍を構えたカービィ。しかも喋った? ぽよぽよしか言えなかった赤ちゃんみたいだったのに。

「貴様、一体―――」

『――――宝具!!』

宝具って確か、サーヴァントの必殺技みたいな……。もしかして、アーチャーはランサーの宝具を奪った? 
驚いた顔のまま、ランサーは槍に貫かれて一瞬で消滅した。

「な、何なんだよ……! そのサーヴァント!?」

マスターの男は抜けた腰を奮い起こして、そのまま逃げて行ってしまった。

「ぽよ!」

「あ、ありがとう……アーチャー」

「カービィは吸い込んだものをコピー出来るんだよ。今度からにちかちゃんが吸い込みを言ってあげてねぇ~。
 いつもなら、フームがやってくれるんだけど~」

「……そういう大事な事、最初に言ってください」

「俺は料理するのが仕事だからねぇ~」

凄い。最初は何もできないピンクの精霊だと思ってたけど、この子は吸い込んだものをコピーする。
他のサーヴァントの宝具だって使いこなしてみせる。

960: にちか&カービィ ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:30:01 ID:mKXFPCvM0

「アーチャーは凄いね。だってなんにでもなれるんだよね? 何でもコピーできる」
「ぽよ?」

モノを吸い込んで、それだけでどんな達人にでも何にでもなれる。どんな靴でも履きこなして、100%のコピーが出来る。
この子はなみちゃんのレコードを食べさせたら、八雲なみその人にだってなれるのかも。

私なんて200%の努力で、なみちゃんの何%をコピー出来てるんだろう? 私の足はこの先、どれだけなみちゃんの靴を履けるんだろう? 

「……いいな」

きっと、元の世界から離れたからかもしれない。ある意味緊張の糸が切れて、自分でも気づかない内に声が漏れていた。

「大丈夫大丈夫、にちかちゃんだってガワだけはそれっぽくアイドルのマネできてるよぉ。中身見られなきゃ、アイドルっぽいよ。俺の料理と一緒だねぇ~」

「…………」

カワサキさんの料理と、一緒……? 見た目だけは取り繕えて、味は死ぬほど不味いあの料理と……。

そっか、カワサキさんは私が聖杯から与えられたアイドルってロールを演じているだけって思ってるんだ。

「ぽ、ぽよ……ぽよい……ぽよ……」

「あっ今のはギャグだよ、ギャグだってば~」

W.I.N.Gで優勝できたのは、誰も中身を見なかったから。人ごみに紛れてしまう程度の存在感だったから、あまりにも多くのメインデッシュがあったから。
……私が優勝できたんじゃなく、それは八雲なみちゃんを見て貰えたから、優勝できた? そんなの分かってたことだった。
なみちゃんの靴を履いたから、アイドルでいられたなんて、自分がよく分かってる。
だったら、靴に合わない足なら、合うように切り落として整えないと。

アーチャーみたいに、もっと精度を上げないと。

「……帰ろっか、アーチャー」

「ぽ、ぽよ」

心配そうにアーチャーが私の顔を見上げてくる。
でも大丈夫、まだ私は笑えてるから。
帰ったら、やれるだけのレッスンの続きしなくちゃ。



【CLASS】
アーチャー

【真名】
カービィ@星のカービィ(アニメ版)

【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運A 宝具EX

【属性】
秩序・善 

【クラススキル】

対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

単独行動:E
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクEならば、マスターを失っても数時間は現界可能。

【保有スキル】

大食い:EX
食欲旺盛、スイカが好物。

【宝具】

『無限の力を持つ伝説の英雄』:EX
ランク:??? 種別:対人 レンジ:??? 最大補足:???

正確には宝具ではなく、カービィの保有スキル。

ありとあらゆるクラスの適性を持ち、相手の放つ攻撃、武器、果ては炎や石ころなどを取り込むことでその性質をコピーする。
パラメーターを一時的に変化させ、場合によっては自身のサーヴァントクラスを変更し、所有する宝具すらも追加される。

例を上げれば、剣を吸い込みコピーすればソードカービィとなり、セイバーのクラスへと変更される。
もしそれが、何かの聖剣の類であるのならカービィの宝具として新たに使用可能になる。

コピー能力を最大限生かす天才的ひらめきを得ることで、非戦闘時では考えられない高度な戦闘も可能とする。
逆に言えば、コピーできないと戦闘力は特別高くない。

しかし、デメリットもあり、一定以上のダメージか時間経過で変身は解除され、もし他者の宝具をコピーした場合、それは本来の所有者へと返還される。
更にコピーする能力がない場合は何も起こらない(通称スカ)。
ただし、取り込んだものがスカでも吐き出す事で攻撃する事も可能。
これらのコピーに要する行為を吸い込みと呼ぶが、カービィの世界ではこの吸い込み攻撃に対し耐性を持つ敵も存在する。

更にあらゆるクラスの適正と言っても、コピー能力を介さねば決して実用的なモノではない。
通常時のカービィからして決して戦闘に秀でているとも言い難く、コピー能力ありきと言えるだろう。


『ヘルパー(コックカワサキ)』
ランク:??? 種別:対人 レンジ:??? 最大補足:???
生前、カービィに縁のある人物を召喚することが出来る。
カービィにとっての頭脳ともいえるフーム、高い戦闘力を持つメタナイトを呼ぶべきなのだが、食欲に負けてコックカワサキを呼んでしまった。
糞不味い料理を提供してくるが、多少の魔力補充にはなるだろう。あと何だかんだでカービィのアシストにも慣れている。

『ワープスター』
ランク:B 種別:対人 レンジ:99 最大補足:1人
エアライドマシンと呼ばれるカービィが生前乗っていた星形の搭乗マシーン。
速度、精度共に優れたマシーンでカービィの空中戦をサポートする。
カービィの力の源でもあり、これを使用してる間のみAランク相当の単独行動が可能。

真名開放が必要な宝具であるが、基本的にカービィは喋れない為、「来て、ワープスター」と代わりに真名開放する必要がある。
生前はフームしか呼べなかったのだが、宝具化に伴いカービィに友好的なマスターかヘルパーなら呼ぶことが可能。

【weapon】
なし

【人物背景】
闇の帝王ナイトメアが作り出した「魔獣」と戦う星の戦士。

【サーヴァントとしての願い】
カービィ:特になし。
コックカワサキ:楽して儲けたい。


【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。

【備考】
ロールはアイドル。
W.I.N.G.優勝後からの参戦です。

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最終更新:2021年06月25日 22:46