眼球がぴくぴくぴくぴくして止まらない。

「ヒューッ!」「マブ!」「お茶しない?」

 夜の繁華街、路地裏。うら若い乙女を囲んで、与太者たちが声をかける。
屈強な体格、側頭部や肩にタトゥー。腰にはナイフを忍ばせている。
赤茶色の髪の乙女は、きょとんとした表情で首をかしげた。

「お茶? いいよ。おごってね」
「マジ!?」「カワイイ!」「朝までやるぜ!」

 与太者たちはせせら笑い、いきり立つ。だが、そこへ。

「ああ、いたいた! あの、すみません。彼女、僕のツレなんで」

 ヘラヘラした声が呼び止める。
与太者たちが振り返ると、どうということはないモブ顔の青年だ。
黒髪の短髪、白いTシャツにズボン。
繁華街に来る格好でもない。近所の家から慌ててやってきたような姿だ。

「セーゾコラ!」「スッコンデロ!」「今カノジョOKしたぞバカ!」

 囲んで殴ればひとたまりもなさそうな弱っちい外見だ。
与太者たちは野獣めいて叫び、メリケンサックをはめた拳や警棒、ナイフを振りかざす!

「ああ、近寄らない方がいいよ。君ら、死ぬから」
「「「ギャハハ!死ねやコラーッ!」」」

 嘲笑い、襲いかかる与太者たち! 危ない! だが!

「「「かっ……」」」

 瞬時に与太者たちの動きが止まる。
その肉体が膨れ上がり、ただれ、融合し、ちぢむ。
ドロドロの肉塊と化した彼らは、青年の足元から伸びた血管のようなものに吸収されてしまう。
声も出せずに。

「ほらね。……じゃ、『アリス』。こんなとこより、上に行こうよ」
「うん」

 アリスと呼ばれた少女は頷き、彼の手を取る。
青年は彼女をふわりと抱き上げると、壁を駆け上がってビルの屋上へと向かう。
その顔は歪み、ただれ、白目は血走り、髪の毛は白くなる。背中に白い翼が生える。

 アリスは、彼の腕の中でぼんやりと、夜空の月を眺めている。


 屋上から、夜景を眺める。夜なお明るく、人々は眠らない。
過重労働や睡眠不足、飲酒や喫煙は健康に悪く、寿命を縮める。
死は誰も逃れられない。

「ふん、ニンゲンどもめ。こんなに多いなんてね」

 白髪の青年が鼻を鳴らす。
ここは彼がいた世界ではないが、その外側だ。
正確には、外の世界を模倣した疑似世界だという。どうでもいい。

「ニンゲンは、嫌い?」
「好きでも嫌いでもないさ。ただ邪魔なだけ。
僕が存在しているだけで殺しに来るし。何も悪いことなんかしてないのに」
「こわいね」
「怖いものか。さっきみたいに、いくらでも殺せる。餌食や手駒さ。
……ああ、アリス、君がニンゲンでなくてよかったよ。殺さなくて済んだから」

 青年はアリスの前に膝を折り、優しく微笑んで、細い手指をそっと握る。
アリスは肩をすくめ、困ったような表情をする。

「でも、ぼくが探しているのは、ニンゲンだと思うんだ。黒髪の、すごーく頼りない男の子」
「じゃあ、彼は殺さない。君のためにね。彼が好きなのかい?」
「……たぶん。胸が痛めばっていうけど、ぼくには『痛み』というものが、あまりわからないんだ」

 アリスは胸を押さえる。
自分の心をかき乱した彼は、この青年に少し似ていて、でも、やっぱり違う。
青年は遠くを見ながら、つぶやく。

「君の願いを叶えてあげたいけど、僕には僕の願いもある。
ひょっとしたらふたりとも願いを叶えてくれるかも」
「そうならいいね」

 ……ふたりは塔の上に立ち、地平線の彼方まで続く巨大都市、東京を見つめている。
蟻のように蠢き、飽くことなく富や食糧を収奪し、環境を汚染・破壊する、歪んだ生き物たちのすみかを。

 少女の名はアリス。神の化身。
青年は……人間の中には、必ず存在する。その名を知らぬ者はない。
彼こそは人類が自ら生み出したものにして、人類の天敵。
彼は……。


【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
がん細胞@はたらく細胞

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C+ 魔力A+ 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
復讐者:A
 復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
被攻撃時に魔力を回復させる。自らに苦痛と死をもたらす「がん細胞」を好む人はあまりいない。
「死を纏う者」や「祝福されぬ生誕」をも含む。

忘却補正:EX
 復讐者は英雄にあらず、忌まわしきものとして埋もれていく存在である。
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、正規の英雄に対するクリティカル効果を強化させる。
がんは再発・転移する。「戦闘続行」を含み、相当のダメージを受けて大部分が消滅しても、
細胞の一片でも残っていれば復活できる。NPCやマスターに擬態したり、体内に潜んだりすることも可能。

自己回復(魔力):EX
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
微量ながらも魔力が毎ターン回復し、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。
がん細胞とは無軌道に分裂増殖を続ける存在であり、大量の魔力を必要とするが、
「炎症性サイトカイン」を用いて優先的に栄養やエネルギーを補給可能。
取り込んだ存在から魔力を吸収できる。「自己改造」や「陣地作成」を含む。

【保有スキル】
偽装工作:A
 自らの正体を隠し、偽り欺く。特徴の薄いNPCに擬態して人混みに紛れ込むことが可能。
「医術」や「心眼」などで判定に成功すると感づく。早期発見・早期治療が、がん治療の鉄則である。

【宝具】
『悪性新生物(マリグナント・ネオプラズム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
 生物の肉体を蝕み死に至らせる「がん細胞」である彼そのもの。
肉体を自在に変形・増殖させ、周辺の建造物(細胞組織)を取り込み敵を押し潰す。
異常増殖により分裂させたコピーを生み出し続け、ゾンビや肉塊として襲いかからせる。
肉体や霊体を浸蝕・貪食するため、襲われたNPCやマスター、弱めのサーヴァントは取り込まれて餌食になってしまう。
「医術」スキルを持つサーヴァントであれば引きはがせるだろう。

 また「炎症性サイトカイン」という情報伝達物質を放出し、優先的に自分へ栄養や血液を引き寄せる。
舞台は人体内部ではないが、英霊化したことにより人類社会を人体と同様にみなして荒らし回ることができ、
炎症性サイトカインで公務員や配達員、会社員などを洗脳して、食物やエネルギーを優先的に引き寄せることが可能。
これによりアヴェンジャーはほぼ無尽蔵の力を振るえるが、同時に周囲の注目も集めてしまう。

【Weapon】
 自身が武器。

【人物背景】
 漫画『はたらく細胞』に登場する、人類の天敵「がん細胞」が擬人化された存在。CV:石田彰。
通常のモブ細胞(黒髪短髪でシャツとズボンの青年)にも擬態できるが、
真の姿は白髪で白目が赤黒く、全身に脈が走り、手足が崩れた異形の姿。
自在に変形・増殖し、翼を生やして飛翔することも可能。

 細胞の遺伝子異常による分裂エラーで生まれる「できそこない」の細胞。
分裂プログラムを無視して無軌道に増殖し続け、やがて臓器を乗っ取ってしまう。
健康な人間でも日に数千個生じているが、通常は増殖する前に処分される。
生まれてすぐに仲間ともども免疫細胞に殺されかけるが、偶然にも生き延び、
何もしていないのにも関わらず殺されるという理不尽な境遇を恨んで人体や免疫細胞への復讐を開始した。
彼の気持ちはどうあれ、人体にとっては彼が存在していること自体が害悪なので滅ぼすしかない。

【サーヴァントとしての願い】
 人類(免疫系)への復讐。通常の細胞に戻ることも一応考えてはいる。

【方針】
 聖杯を獲得する。邪魔する者は鏖(みなごろし)。
力を蓄えて罠を張り、マスターを捕まえて捕食する。各地に株分けを行い、拠点を築いておく。

【把握手段】
 原作漫画。アニメ版にも出演。

【マスター】
アリス@BAROQUE

【Weapon】
 骨、寄生虫、焼印など奇妙なアイテムをいくつか持っている。

【能力・技能】
 常に浮遊している。地に足をつけることは可能。痛覚がない。

【人物背景】
 ゲーム『BAROQUE』に登場するキャラクター。CV:名塚佳織。
ゲームの主要舞台である謎めいたダンジョン「神経塔」の中にいる、
ショートカットで両肩を出した服装の、ボーイッシュな美少女の姿をした存在。
一人称は「ぼく」ないし「僕」。
記憶喪失の主人公に対して一方的に反撥し、過去について責めてくる。
痛覚など様々なものが欠けていると自ら語る。

 その正体は「創造維持神」から生まれた多重神格のひとり。
主人公が神に接触して発生した「大熱波」の際、彼をもとに構成され、神が失った痛覚を司っている。
人格は幼く、自分と主人公の気持ちで一杯であり、他のことまで考えられない。かわいいね!

【ロール】
 なし。廃墟や路地裏などをふらふらしている。

【マスターとしての願い】
 「彼」にもう一度会いたい。

【方針】
 聖杯狙い。戦いはアヴェンジャーに任せる。

【把握手段】
 原作。上田信舟によるコミカライズもある。

【参戦時期】
 不明。

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最終更新:2021年06月27日 18:41