▼ ▼
見上げると、今にもこぼれ落ちてきそうなほどの星影が満ちていた。
ここは奥多摩。寂れた神社の境内には、星影を覆い隠すメガロポリスの灯は届かない。
「……午前2時、ジャスト」
星空を眺めていた少女がつぶやいた。
黒いスカートに黒のケープ。
黒い中折れ帽には、大きな白のリボンがあしらわれている。
宇佐見蓮子もまた、界聖杯の造り出した偽の東京にマスターとして呼び出された一人だった。
クックックッ、と宇佐見蓮子のサーヴァントである青年は不遜に嗤った。
青黒い装束を身にまとい、頭はつばの広い青黒の三角帽子、背中も同じ色のマント。
右手には魔法の杖。誰がどう見ても、彼のクラスはキャスターだと当たりをつけるだろう。
神社の石段を登りくる足音、二人分。すぐに姿を現した。
制服を着た女子学生と、大鎧をまとった武者。
マスターの少女と、セイバーのサーヴァント。
少女が、どうしても界聖杯[ユグドラシル]は譲れないのか、と尋ねてくる。
「譲れない。私には、どうしても界聖杯が必要なのよ。
――そちらこそ、私たちと一時的でも手を組むという話は――」
少女は首を振り、サッとこちらを指差す。
どこか奇妙な既視感のある武者のセイバーが、ギラリ輝く太刀を抜いた。
交渉決裂だな、とキャスターはまた含み嗤う。
両手を広げてふわり宙に浮くと、猛吹雪が巻き起こった。
バリバリガシャガシャと、地面、石畳、大気さえ凍りつかせんとする冷たい響き。
少女とセイバーの主従の影が、白銀の猛威に塗りつぶされてゆく。
☆ ☆
「クックック……サーヴァント、キャスター。お前に『滅び』をもたらす者だ。真名は……」
「……デカラビア。『ゴエティア』に記された、72の魔神の一柱。
序列は69。30の軍団を率いる侯爵。薬学と宝石の優れた知識を持つ。
ありがたいわね、命令しなくても人間の姿になってくれるなんて。
これも聖杯戦争の
ルールによるものなのかしら」
「……俺の真名を言い当てる、だと?」
「当たり?ソロモンに封じられし72の『魔神』。あるいは、『悪魔』。
オカルトを志す者にとっては一般常識みたいなものね。
この際、味方が悪魔でも構わない。私は……界聖杯[ユグドラシル]が欲しい」
戸惑っていたのは、キャスターのサーヴァントであるデカラビアの方だった。
私生活のだらしなさそうな、女子学生の一人住まいの散らかった部屋に喚ばれていた。
それはまあいい。――気になるのは、ユグドラシルという単語だった。
「ユグドラシルなら、嫌というほど狩ってきたが……界聖杯、か。
知識として植え付けられてはいるが……俺の知る大木の化け物とは違うのだろうな」
「そう、それよ、それ。私の世界で、ユグドラシルは北欧神話における世界の中心とされる樹だった。
けどそれは神話に語られていただけの話。私のいた現実の世界にそんな樹は生えていない。
北欧に行けばその世界も観測できたかもだけど、なにしろ旅費がなくて……。
だけど、そうじゃなかった。そうじゃなかったのよ、わかる?
全ての次元、ブレーンから集められた、可能性のフードプロセッサー!
それがユグドラシルの真実! まさしく神話に語られる世界の中心!
過去の人には及びもつかない程のスケールだったけど!」
宇佐見蓮子というマスターは、子供がお預け喰らい続けていた玩具をようやく手にした時のようにはしゃいでいた。
キャスターはというと、早くもこの異常なテンションのマスターに辟易しはじめていた。
だから、尋ねた。
「……それで、マスター。お前はどうやってこの聖杯戦争を勝ち抜くつもりだ?
最後の1騎まで俺を勝ち残らせなければ、界聖杯[ユグドラシル]とやらを手にすることはできんのだぞ」
「逃げよう」
急に醒めた表情へと変わった蓮子は、そう言い放った。
▼ ▼
ホワイトアウトした視界の中から、近づく影が一つ。
鎧武者が肩で風切り、太刀を構えてにじり寄る。
マスターを庇ってなお、ダメージはほとんど負っていないようだ。
セイバーというサーヴァントは、高い『対魔力』を有するクラス。
真正面から当たれば、キャスターの勝算は限りなく薄い。
現にキャスター最大の魔術を、大した傷もなく受け止められた。
撤退――。蓮子の脳裏をその二文字が過ぎる。
(ここで退けば、次はない。これまでの準備も全て無駄になるぞ)
制するように、念話が届いた。
☆ ☆
このキャスターの真価を発揮するには、準備が要る。
そして、マスター自身にも訓練が要求される。
キャスターの能力を把握した蓮子は、冷静に判断を下した。
人口密度が過去最高クラスの21世紀初頭の東京都心部で聖杯戦争なんて、キャスターにとって最悪な環境だ。
対魔力を持つ三騎士や、暗殺者とどこでかち合うかわからない。
ここは逃げの一手、他の主従を倒すにしても、万全の態勢を整えなければ勝負にもならない。
そうして蓮子たち主従は、東京都内で最も人が疎らな土地、奥多摩へと逃げた。
炭焼場と思しき、状態の良い古民家を見つけ、そこをひとまずの宿とした。
キャスターの陣地作成もあって、思ったよりは快適な仮住まいとなった。
「ではまず、俺にフォトンを送ってみろ」
「……そのフォトンって言い方も、まずくない?
私の世界じゃそれ、光子、光の粒子って意味よ。魔力って呼べない?」
「……気をつけよう」
キャスターの生まれた世界は地球ではなく、臨界・ヴァイガルドと呼ばれていた。
また、キャスターは人間(ヴィータ――この呼び方も釘を指しておいた)として生まれる前に、
宵界・メギドラルでメギド(悪魔のこと。厳密には違うが)として生を享け、魂だけをヴァイガルドに追放されてきたという。
なんともファンタジーな設定で移動中も散々質問責めにしたかったが、キャスターがぐったりしてきたのでやめた。
とにかく、まずはキャスターに地中から魔力を送る。その訓練だ。
左手に指輪のように絡みついた令呪が、今の私に魔力を視認する能力を与えている。
大地の魔力の輝きが視えるだけで、世界が変わったようだ。
それが『今の』私にとっては嬉しかった。
私の左手の令呪が機能を代替している、キャスターの世界の『ソロモンの指輪』には様々な機能があったという。
地中から魔力を遠隔操作し、キャスターに供給する。
キャスターを遠くから召喚する。(通常のサーヴァントなら令呪が必要なこれを気兼ねなく使えるのは地味に強い)
あとは、魔力を遠くに転送する。これはかなり高等な技術と聞いたのだが――。
「クックック……マスター。随分と覚えが良いじゃないか。ここ数日で魔力の瞬間移動まで身につけるとは」
「そっちはキャスターに持たせたスマホと通信して月が視える時だけしか使えないけどね」
キャスターに褒められた。
私の何代か前に超能力者がいたというマユツバな話は、本当だったのだろうか。
「そろそろ次の段階に進めるぞ」
キャスターが蓮子を連れ出した先には山積みの廃車があった。
心無い業者が、山中に不法投棄したものなのだろう。
「これだけ鉄があれば十分か」
キャスターの左手の指輪を介して魔力がスクラップの山に集まってゆき、まばゆい光に包まれた。
光が収まった時、スクラップは消えていた。
スクラップ跡地でキャスターが拾い上げたのは、手のひら大の黒い結晶体。
よく見ると、結晶の中に盾と思しき像が映りこんでいる。
「オーブを作るぞ。やり方は今、手本を示した通りだ」
▼ ▼
敵のセイバーはそのまますり足でにじり寄り――いつの間にかキャスターに肉薄していた。
剣に生涯を賭けてきた者が為しうる、一流の剣士の足さばき――なのだろうと、素人目にもわかった。
雄叫びを上げ、キャスターの脳天に目掛けて振るわれた太刀――
――は不可視の障壁にごおん、とぶつかって防がれ、その威力を殺されることとなった。
(オーブの発動が間に合ったか……クックック、上出来だ……)
そのままキャスターは拝殿に向かって飛び退いた。
今一度キャスターを切り捨てんと、瞬速のにじり寄りからセイバーの太刀。
胴切りにするはずだったキャスターの姿はフッと消え、石灯籠をじゃりんと切り落とすのみ。
セイバーが左を振り返ると、杖を構えたキャスターの姿。
回りこむように逃げた蓮子が、キャスターを召喚していた。
蓮子が神社の地中から魔力をキャスターに与えると――セイバーの足元から毒霧が爆雷のように吹き出した。
☆ ☆
「それっ」
うず高く積まれた赤い花の野草。
蓮子が大地から魔力を送り込むと、次の瞬間には一つの黒い結晶体へと変わっていた。
おお、と感嘆の声を上げつつ拾い上げる。
結晶体に映りこんだ花の像を覗き込み――
「……これ、こんな花だったっけ」
集めた花とは明らかに違う植物の花だ。
「もちろん違うな。赤い花という概念を元に、類似する概念を有するオーブを再構築している」
「……それは良いんだけど」
「何だ」
「お腹減ったわ」
責めるような眼で、蓮子はキャスターを睨んだ。
ビンボー学生がいきなり奥多摩へ飛び出したのだ。
食料も酒も、それを買い出しに行くお金もすぐに底を突いた。
古民家を(勝手に)借りたから宿代は無料だった。
それでもすぐに金欠状態となってしまったのは――奥多摩へ発つ前に、
キャスターが大学の書店であれもこれもと学術書などを買い込んでいたことが原因だった。
蓮子の有り金は9.5割ほどキャスターの本に消えていた。
「では少し『貰ってくる』としようか、クックック……」
☆ ☆
「マ、マジでやるの……?!」
「クックック、少しだけ近隣の住民に『協力的』になってもらうだけだ……
誓って住民の生活に支障は来さないように配慮はするクックックック……
だからクックックック……信用しろ」
「あんた実は信用して欲しくないの……?」
ククク笑い5割増しのキャスターとドン引き蓮子の現在地は、近くの集落の受水槽。
キャスターはそこに洗脳薬を流すという。
流した毒は上水道を通って集落を巡り、集落の住民全員を洗脳という寸法である。
蓮子が寝ている横でなにかゴソゴソしていると思ったら、それを作っていたらしかった。
受水槽は金網と鉄条網で一応の防備はされていたが、
この程度は蓮子が金網の向こうにキャスターを『召喚』することでラクラク突破できた。
「クックックック……どうする? 止めろというなら止めるが……。
キャスターとは、『そういう手段を取る』側面もあるクラスだ。
どこかで手を汚さなければ、聖杯戦争に勝つことはできんぞ……それ以前に餓死するかもしれん……。
俺はそれでも構わんが……クックックック……」
既にデカラビアは受水槽の蓋を暴き、ペットボトル詰めの洗脳薬を流しこむ体勢でいた。
最後の「やれ」の一言だけが出てこない蓮子。ぐううううと、腹の虫が盛大に鳴った。
「キャスター、やって」
「心得た……クックックック……塩素消毒している分、薬剤の微妙な苦味も分かりづらいぞ……。
ハッハッハッハッハァ!」
☆ ☆
こうして首尾良く集落の住民から『協力』を取り付けた蓮子たちが行ったのは、
集落にあった老朽化著しい老人ホームの改築だった。
当然、洗脳済みの管理者は断らなかった。
そして国の補助やら何やらをたっぷり使って、超低金利で借金させてこしらえさせた改築費用を受け取り、
――陣地作成のスキルでリフォームした。
キャスターのスキルに対しては結構無理な規模の建物の改築を行ったのだが、
まあまあ、過ごしやすい出来になったのでは、と蓮子は思った。確信は持てない。
蓮子の時代では、老人ホームは珍しいものだったからだ。
入所するような歳になったら、何らかの社会的貢献を行っていない限り『人口調整』の対象とされる。
キャスターはまる一日かけてリフォームを終え、額の汗を拭っていた。
ただ、おじいさんが車椅子で快適そうに歩くのを見てククク、といつもの含み笑いを浮かべていた。
それにしても借金はどうなるのだろう。
返済が始まる前に聖杯戦争が決着し、この21世紀の偽の東京ごと消滅すると良いのだが。
そしてまとまった資金が入ってすぐさま、キャスターは豊洲から大量のクルマエビを仕入れた。
「セーマンさん、ここに置いておきますよ」
晴明[セーマン]とは、キャスターが世間で動くに当たって用意した偽名だ。
命名者、蓮子。命名された時のキャスターの渋面が忘れられない。
この国を由来とする『キャスター』としては最強候補の一角なのだから、もう少し嬉しそうにしてほしい。
それにしてもクルマエビ。蓮子の時代には珍しい天然物の食材で料理か、と喜んだが、もちろん違った。
何十尾もクルマエビの首を包丁で落とし、オーブへと変えた。
今度は暇して病院をたまり場にしていた年金生活者に、ハチの巣やたくさんのクモを捕らえて、持ってこさせた。
蓮子は袋詰めにされた蜂の巣や蜘蛛の群れに殺虫スプレーを吹き込み、その命を奪い、オーブへと変えた。
蓮子は虫程度でビビるタマではなかった。山中のオカルト巡りではしょっちゅうのことだったから。
――そんな蓮子に次なる材料として届いたのは、保健所から引き取られてきた野良猫だった。
届けられた10箱ほどのケージの中から、にゃーにゃーと鳴き声が聞こえた。
セーマン、もといキャスターから、ずしりと薪割り用の鉈を渡された。
蓮子はさっさと調合作業に戻った作務衣姿のキャスターの背中を見た。
「その『猫』を材料にするオーブは、これから俺たちがこの戦争を勝ち残る上で最も重要なものになる。
それとも猫一匹も殺さずに、戦争に勝てる手でも思いついたか? クックック……」
――正確には悪魔ではないと自称していたが、やはりこいつ、悪魔なのでは?
私は肘まで覆う丈夫な革手袋をはめ、ゴムの前掛けを身に着けた。
暴れる子猫を簀巻きにして、その頭に鉈を振り下ろした。
子猫とはいえ激しい抵抗に遭い、頬や二の腕にはひっかき傷がいくつもできた。
慣れない鉈を振り回して、手首を痛めた。
どうにかして10匹の子猫を、オーブの材料へと変えた。
そうして作ったオーブで、ケガはすぐに治った。
その晩の吐き気までは治らなかったのだが。
マムシ、カラス、子犬、チョウセンイタチ、ハクビシン、ヌートリア、タヌキ――
運ばれてくる動物は日に日に大きなものになっていった。
蓮子はそれらを鉈で叩き殺し、白や黒のオーブに変えていった。
だんだん大きくなる動物を仕留めるのはてこずったが、吐き気は収まっていった。
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毒霧も――あのセイバーには当然の如くダメージなし。
1秒未満の目くらましがせいぜいだ。その1秒で良い。
光弾で牽制するキャスターを囮に、蓮子はセイバーの登場した向き、石段へと駆けた。
そしてセイバーが光弾を顔面で受け止めつつ、キャスター目掛けにじり寄るところを再び――
召喚。蓮子から見て左にいたキャスターの姿が消え、セイバーの太刀は空を――切らない。
瞬速のにじり寄り、急転回。蓮子の目の前に出現したキャスターを逆袈裟で捉えた。
英霊の座に登録されるに至った武士[もののふ]。直前に見せられた手を二度も食うはずもない――。
(まだ……この程度は、浅い。アレをやる。お前が『引き寄せろ』)
(あの子を……マスターごと?!)
(それしか手はない。それが分からんほど低能ではあるまい)
セイバーのマスターは戦闘の巻き添えを避けるべく、セイバーの向こう、神社の拝殿側に逃げていた。
不安そうにこちらを――セイバーの背を見守る姿は、可愛らしい容姿。しかしどこにでもいそうな、女子高生。
一見して、無防備そのものだ。セイバーにキャスターの魔術は通じない。ならば彼女を――。
蓮子が迷う間にキャスターがオーブを掲げる。黒い、甲殻類の映りこんだオーブ。
光の殻がキャスターの前に現れ――セイバーの袈裟懸け、返す刃の連撃ですぐさま叩き斬られる。
そのままセイバーは空気の壁を突き破るような刺突を繰り出し――キャスターは杖で火花を散らし辛うじて反らす。
キャスターの脇腹から突き出る切先。地面に転げる杖の柄。力任せに引き裂かれるキャスターの肉体。
(ここで終わるなら……俺は別に構わん。
お前は『つまらん滅び』を迎える奴で、俺の見込みが違っていたというだけだ)
滅び――ここで負ければ、滅ぶ。私が――私は。
私は――既に滅んでいた。この21世紀の東京に放り出されるまで。
現実に押しつぶされた夢を抱えて。
夢を現実に変える。それは時に――!
蓮子が白く輝くオーブを高々と掲げた。呪術師の格好のタヌキの像が映りこむオーブを。
「ハッハッハッハ、ガハァ! 良くやった! それでこそ! それでこそだ!!」
喀血しながら哄笑するキャスター、ふわり宙に浮く。
セイバーが斬りかからんとしたところで、異変に気づく。
マスターが、すぐ隣に。無防備な主が――敵の目前まで引き寄せられていた。
キャスターが拳に力を込めた。
地の底から毒の間欠泉が、吹き出す。星影まで届かんばかりの勢いで。
『蔓延る害悪』はセイバーのみならず、マスターの少女をも呑み込んだ。
☆ ☆
ずうん、と、火薬が爆発する響きを聞いた。
双眼鏡で爆発跡を眺めるキャスター。
「駄目だな。予想は付いていたことだが」
「ミドガルズオルム、いなかったね」
「アレを倒すのなら……流石に俺単騎では厳しいな」
奥多摩湖沿いの道路、山梨県との境界部に蓮子たちはいた。
蓮子の世界の神話では、世界の中心にユグドラシルがそびえ立ち、
大蛇ミドガルズオルムが世界の外縁を囲っているという。
ではこの界聖杯[ユグドラシル]で造られた東京はどうか。
キャスター手製の爆弾を携えてやってきたは良いが、
東京都を囲む何かは視認さえできず、傷一つ与えられたかどうかも定かではなかった。
爆弾のテストがメインだから、全くの無駄足というわけでもないが。
この聖杯戦争で決着をつけなければ、この造られた東京都からの脱出は不可能ということだけはわかった。
蓮子はRV車のキーを回し、爆破実験跡地を後にした。
(これも洗脳した住民から貰い受けた。持ち主は『都外』の大学に進学して、盆正月しか帰省しないという)
蓮子の時代の自動車と使い勝手は変わっていない。
彼女の本来いた時代の日本では、都市部の合理化・縮小が進んで自動車の必要は減り、自動車免許の取得者も減っていた。
そんな時代だったが、蓮子は鉄道網の外――僻地に赴くことも多い変わり者だった。
そのためレンタカーの運転の為に免許を取得していたのだった。
よってこの東京でも蓮子は自動車を運転できる。
「ねえ、このダム湖にあの薬を流したら、東京都民を全員言いなりにできないかな?」
「無理だな」
付箋だらけの地図帳を広げたキャスター。理由を説明する。
曰く、有効な濃度を得るためには必要な薬剤の量が多すぎるということ。
曰く、東京都の水源はこの奥多摩湖だけでないということ。
曰く、薬剤は上水道のシステムで除去されてしまう公算が大きいということ。
曰く、有効な量を流せたとしても環境に与える影響が大きすぎ、最悪討伐命令が下されることになるということ。
など、など、と。
せいぜい今のように山間部の集落か、あるいは集合住宅を制圧するのが関の山、らしい。
▼ ▼
地の底より呼び起こされた『蔓延る害悪』。
吹き出る猛毒の自噴井は、マスターの少女を――呑み込まなかった。
広範囲に吹き出た毒液を、セイバーが大手を広げ、まるごと全身で堰き止めた。
蓮子は恐怖とともに、感動すら覚えた。大鎧を纏いし、堂々たる守護の英霊。
彼女の既視感は、ある種の確信へと変わっていった。
このセイバーに、英霊に勝算はあるのか。いや、『勝ってしまって』いいのだろうか。
(何を見とれている……! 石段に下がれ。
この命がけで取った『位置関係』こそが、セイバーに対する勝算だったはずだ。
相手がどれだけ強くとも、『正しく』とも、闘え! これはお前の戦争だ!)
念話から、キャスターの激。
半ば飛び降りるように、石段までバックステップ。
石段を這うようにして、境内入口の鳥居の根本へ。
犬のように土を掻いて掘り出したのは、照明用のペンダントスイッチ。
キャスターを『召喚』。二人で頭を伏せ腹ばいに。
左手を帽子に、右手のスイッチを『切』から『入』へ。
――瞬間、腹の底を響く、四連の火薬のビート。
キャスター手製の、指向性対人地雷が正しく機能した。
スイッチと繋がった導線を神社外側から張り巡らせ、境内の四隅に配置。
有効加害範囲[キルゾーン]は、こじんまりとした神社の境内、全域。
飛び散る散弾は、サーヴァントにも通用するキャスターの特別製。
通用しないはずがない。
しかし蓮子は、通用するはずがない、とも確信していた――。
☆ ☆
「セーマンさん、蓮子さん。ご姉弟お二方とも、来てくださいませんか。
ちょっと今日のは運べませんのでね」
「姉弟だってさ。『クックック……お姉ちゃん』て言ってみてよ」
「……アレが捕まったか」
呼び出された先は、畑地のそばの茂みを少しかき分けたところ。
姿が見えなくとも、進むにつれて嗅いだことのない臭いが漂ってくる。
臭いの元には、イノシシがいた。体高は蓮子の腰あたりまであった。
ワイヤーの罠で左の後ろ足を絡め取られ、木に繋がれていた。
蓮子が見て最初に思ったことは、これは鉈では無理だ、ということだった。
「扱い方を教えてやれ」
鉈よりはるかに長くて重い、鉄の棒を渡された。
猟銃だ。上下に二つの銃身を備えている、散弾銃。
猟師のおじいさんに構え方を教わり、照星の先にイノシシの眼を捉えた。引き金は、迷いなく引けた。
だが慣れない反動で狙いが逸れ、尻もちをついた。
第二射。スラッグ弾がイノシシの頭に赤黒い染みを付けた。100kgはあろうかという獣の体はどしりと横倒しになった。
それからイノシシはバタバタと四本足を30秒ほどバタつかせ、動かなくなった。
その晩の夕食はボタン鍋だった。美味だったが、肉は硬かった。
オーブの材料は罠に掛かった獣から調達することが多くなった。
イノシシ、ニホンジカ、そしてニホンザル。流石にツキノワグマは見かけなかった。
――聖杯戦争のマスターを名乗る少女からの挑戦を受けたのは、そうして1週間ほど経ってからのことだった。
▼ ▼
キャスターは、石段の下から、硝煙立ち込める境内を覗き込んだ。
敵のセイバーは土下座を押しつぶしたようなのポーズで、沈黙していた。
(奴のマスターはどこだ……? ただの人間[ヴィータ]とはいえ、跡形もなく吹き飛ぶほどの破壊力ではなかったはず)
(キャスター……、動かないで。まだ終わってない。猫のオーブで傷を治すから。あのセイバーには――)
ギロリ。武士[もののふ]の怒りの形相が、蓮子たち二人に向けられる。
ドン、と四肢の全力を込めた飛び込み。
マスターの少女。セイバーの土下座の下で、散弾と衝撃波の嵐から護られていた。
(あのセイバーには……火薬も、毒も効かない……!)
――『人は則ち勇敢にして、死をみることを畏れず』
あのセイバーは、護国の武士。
毒矢にも、日本を初めて襲った火薬の脅威にも、恐れず立ち向かった。
異国警固番役。文永・弘安の役を闘い抜いた、防人。
――名が遺されずとも、真正の、『英霊』だった。
滲んだ蓮子の視界の中で、キャスターの首が飛ぶのが見えた。
首の中を冷たいものがばさりと通り抜け、自分の首も刎ねられたと理解したのは、ほとんど同時だった。
*
――私はこの世界ではない、別の世界があると信じてやまなかった。
『秘封倶楽部』という霊能サークルは、私・宇佐見蓮子が一人で立ち上げたサークルだった。
何代か前のおばあさんが――21世紀初頭、女子高生だった頃のノートや写真データを頼りに、
この世界の『綻び』を探っていた。
私が大学で専攻していた、超統一物理学、という学問で、この世界に綻びを作ることは不可能だった。
粒子加速器で粒子をぶつけては壊しの繰り返しで――結局、全宇宙を消滅させるほどのエネルギーがないと、
この膜世界[ブレーンワールド]を破ることができない、と、理論的に証明されてしまっていた。
――では、あのおばあさんが遺したノートやデータは何だったというのだろうか。
私そっくりの高校生の隣にいた、長い銀髪の美少女は、単なるコスプレなのだろうか。
シューティングゲームのように、空中で光の弾幕を撃ち合う奇妙な格好の少女たちは、一体何者だったのだろうか。
私は暇を見つけては、写真に残る月の示す位置――今はもう人も棲まない山の中へと赴いた。
学友からは変人だの、妄想癖だのと陰口を叩かれたが、構わなかった。
本業の物理学も、妄想で語るしかない行き止まりの学問となってしまったから。
――そんな京都の大学によくいる奇人変人の一人に過ぎなかった私に興味を持ったのが、
比較心理学専攻の、メリー――マエリベリー・ハーンという留学生の女の子だった。
ウエーブの掛かった金髪で、顔立ちはかわいらしく、日本人に近かった。
昔ふうの白いモブキャップと、紫を基調としたフェミニンなファッションが似合っていた。
何より特徴的だったのは、青、赤、金、緑と、時によって色の変わる不思議な瞳だった。
彼女の不思議な瞳には秘密があった。
世界の『綻び』――いや、『境界』が、視えるというのだ。
私は先祖のおばあさんの遺した中から、冥界と現世が同時に写る写真をメリーに見せた。
写真の中の月と星で、時刻と位置は特定できた。(これは私の特技)
秋の蓮台野。墓荒らしのマネゴトを続けて、午前2時30分ジャスト。
墓石を90度回転させたら、秋に咲くはずのない、桜が――冥界の桜が、目前に広がっていた。
私達は、夢中になって世界の綻びを暴いていった。
無人の神社の鳥居の向こうで、お茶をすする巫女さんを見た。
湖に映る月から、餅つきする兎たちを見た。
私がおばあさんの写真を読み解いてメリーを引っ張り、
『境界』が視えるというメリーの力で現実とは違う世界を覗いてきた。
私のつまらない現実世界はメリーの視える境界を通じて滅ぼされ、
新しく創造されたのだと、その時は、そう信じていた。
きっとメリーは、私の魂に欠けていたパーツを埋めてくれる存在なのだろうと――思い込んでいた。
メリーの『境界』の力は日増しに強まっていった。
緑に侵食され、トロヤ群に放棄された衛星を覗いた際、メリーは獣に襲われ、傷を負った。
サナトリウムで療養していたメリーは、地球の直径より深い地獄の底から
イザナギオブジェクトなる石片を持ち帰ってきた。
私が境界とされる場所に連れて行くまでもなく、メリーは異界へと出入りするようになっていた。
私達はいつ止まればよかったのだろうか。
私達は止まれなくなっていた。異界を暴くことに心を囚われていた。それが禁忌の膜壁を破ることとも知らずに。
メリーはただの手鏡を用いて、自分の見た異界の映像を投影することさえ可能としていた。
異界渡りの同人誌とその映像を餌に、さらなる異界経験者の話を集めた。
話を聞きながら手を触れるだけで、メリーはその話の真偽を判別できるようになっていた。
奈良県三輪山、異常な数の蛇が住まう山の話。
廃村となった山奥に住み着き、神ならぬ髪を崇める人々の話。
日本中の不思議を集めることに、私達は夢中になっていた。
そしてある日のこと。
メリーは神隠しに遭った。私を置いて異界に消えてしまったのだろう。
いつも一緒だった私達のことを茶化していた学友たちも、メリーのことを覚えていないという。
――いつか訪れる結末だと、わかっていたはずだった。
一つだったはずの私の魂に、空白ができた感覚だけが残った。
世界が、滅んでしまった。
私は必死になってメリーを探した。
今まで暴いた『境界』の場所をくまなく探った。
メリーはもういないので、政府に進入規制された土地にも歩いて入っていった。
結果、私は警察に捕まった。
罪名までは詳しく覚えていない。度重なる規制地への侵入だったのは間違いなかった。
留置場に連れ込まれると出された合成食を掻き込み、バタリと倒れた。
メリーを探し回って、くたくただった。
小さな窓から星影が見えた。どれも時計と同じ時刻を示すだけの、つまらない星だった。
――現実に引きずり戻された私の世界は、なんてつまらない世界なのだろう。
その時一つだけ、時を示さない星が見つかった。
消灯された留置所の一室に差す、シアンブルーの星影。徐々に強まり、そして近寄って来るのがわかった。
やがて、その星影は真昼のように私を照らし――私を、この世界から連れ去った。
▼ ▼
天を仰げば、星影が見える。
地に目を向ければ、血の道を引きながら石段を転げ落ちる私の体。
ギロチンで落とされた首が17回まばたきをした、というのは、誰の処刑の時の話だったか。
飛頭蛮やろくろ首は、こんな風に世界を見ていたのだろう。
縦回転する、私の生首。
再び私の首が、天を向く。午前2時1分9秒。定刻を示す、つまらない星。
3週間近く掛けてコツコツ整えた準備は、わずか69秒の戦いで打ち砕かれた。
つまらない。強くて正しい者が勝つ。それはまあ、良いことなのだろう。
問題は、私の望みを叶えようとした時、その強さと正しさが常に牙を向けてくることだった。
納得ゆく説明もなされずに、疑うことも許されずに。
私は、誰も傷つけるつもりはない。ただ、私の主観世界を、観測限界を滅ぼしたかっただけだった。
もう一度、メリーと共に。
世界のシステムがそれを阻むというなら、滅ぼしてやる。それが悪と呼ばれる行為だとしても。
――あの時と同じ、シアンブルーの星影[Asta Umbra]が周りを取り囲み、
私の首と転げ落ちてきた胴体に染み渡ったのは、その時だった。
アスタ・アンブラ。それはキャスターの、第三の宝具の名。
その星影を予め浴びた者は、致命の傷を受けた際に復活の力を得る。
セイバーとの戦闘に備えた、本当に最後の切り札。
蓮子と泣き別れた首から下の体が、石段の下から立ち上がった。
スピンする私の首をキャッチした。バチン、と、神経が再び繋がる感覚が走った。
と同時に、手足、背中に鈍い痛み。無理もない、100段あるかないかの神社の石段を転げ落ちてきた。
――だが、立てる。闘える。宝具の効果で、全身に力だけはみなぎっている。
蓮子の眼前には石段を歩み降りるセイバー。死体の確認に来たはずだったのだろう、流石に驚愕を隠せない。
何歩か後ろ、石段の数段上にはマスターの女子高生、ほとんど恐慌状態。だが的確に攻撃の指示を下した。
そして、キャスターは――蓮子と同様に復活を遂げ――
(さあ……やり返してみろ! マスター!)
護国の防人が、石段を一足で飛び降り、白刃を振りかざした。
蓮子が血糊にまみれた左手を掲げた。
キャスターを上空に召喚。さらに大地から魔力を巻き上げ、供給。
それはまさしく光子[フォトン]が天に昇るが如く。
そして――叫ぶ。キャスター、第一の宝具の名。
「『彼の地より来たりし、魂たるその姿』――」
立ち上るフォトンは、円形の魔法陣を描き出した。
斜めのクロスで仕切られた円の中、上下にそれぞれ左右を向く三日月、右にマルタ十字、左に柄付きの三日月。
外縁に描かれるは『DECARABIA』。
キャスター、いや、魔神・デカラビアの印章[シジル]。
蓮子が大空に描いた魔術は、デカラビアの真の姿を呼び醒ました。
それはマゼンタ色に輝く逆さまのピラミッド。宙に浮く氷山の欠片。
「――『トランスジャミング』!」
滅びをもたらす凶星が、四方八方に稲光を発した。
武士がその光の直撃を受けるも――効果なし。
突如姿を現した10mを超す巨体に畏れることなく、太刀を大上段に構え――取り落した。
何かがおかしいと、セイバーはそこで気づく。魔力の供給が切れている。
後方に視線を向ければそこには、足を血で滑らせて石段から転げ落ち、気を失うマスターの姿。
トランスジャミングに殺傷力は皆無。その効果は、魔力の消散、魔力パスの切断、敏捷の低下。
いずれも水準以上の対魔力を持つサーヴァントには防がれる。
だがマスターはどうか。魔力パスを切断され、魔力不足でサーヴァントの能力が低下した。
敏捷低下は常人が受ければ、しばらくは歩くのがやっとだ。血で滑る石段など降りられない――。
「ギュゥイイイイン! ギュイイイン!」
マスターの惨状を認めたセイバーはその瞬間、甲高い、鋼鉄の獣が叫ぶような轟音を背後から叩き付けられた。
向き直ると、先程の異形の星が鋼の装甲と4本の鉄腕を生やし、それぞれに武器らしきものを備えていた。
「『鋼鉄[ハガネ]纏い、咆哮するその姿(ハウル・オブ・デカラビア)』……!」
それはキャスター・デカラビア、第二の宝具。異形に機械改造を重ねた、更なる異形。
右上部アームの大砲、右下部アームの機関砲が、石段の下の少女目掛けて火を吹いた。
セイバーは弱った体に鞭打ち、射線上に飛び入って受け止めた。
砲火で釘付けになったセイバーに、さらに左下の鉄腕が迫った。
その腕に備わっているのは、円錐形ドリル。それもセイバーは身一つで掴みかかった。
ドリルが咆哮し、高速回転する。
火花を散らして鎧を削り取り、肉をも引き裂いてセイバーの胴体を貫通し――そこでドリルの回転が止まる。
セイバーは己の肉体だけで、ドリルを止めた。異形の鉄腕が、押すも引くもままならない。
そこで、叫びが聞こえた。
目を醒ました少女が武士[もののふ]の真名を叫んでいた。右手の令呪に一縷の望みを託して。
何かを命じようとした少女。しかしその言葉は――銃声の中に消えた。
サーヴァントたちの最期の攻防に紛れ、至近まで迫っていた宇佐見蓮子。
彼女の放ったスラッグ弾によって。
護国の英霊は光の粒子と化し、霞のように消えた。
▼ ▼
「ハアッ、ハアッ……やった……やった……殺した、私が、殺した……!」
「よくやった、マスター。そうだな、お前の馴染んだやり方で――『良』くらいは、与えてやってもいい」
「……どういう基準よ」
返答の代わりに、キャスターは黒いオーブを投げて寄こした。
治療の効果を発揮する、杖を構えた猫のオーブ。二人とも、傷だらけだった。
首を落とされた後だから、復活してなお、首筋に傷が残っている。
「早く治さんと、失血で死ぬぞ。マスターに選んだ以上、つまらん滅びなどこの俺が許さん」
猫のオーブに大地から魔力を注ぐ。体の痛みが引いていくのを実感する。
あそこで、罪なき野良猫に私がナタを振り下ろさなければ、得られなかったモノだ。
――いや、手を汚すのは、キャスターでも良かった。
しかしオーブのために動物の命を奪う役目は、いつもキャスターが私に与えていた。
ハッとする――全ては、あの瞬間のためだったのだと。
私が、マスターの少女に向けて銃爪を引くあの瞬間のため。
私は、キャスターの手によって一つ一つ、タガを外されていたのだ、と。
『人を殺すな』という、人類に課せられてきた、最大の教義[ドグマ]を
私に破らせるための、段階を踏んでいたのだ。
人を洗脳する薬を流すこと、大きな獣を殺めること、人に似た獣を殺めること。
殺意を持たねば生き延びられない、極限状態に放り込むこと。
全て、キャスターの手のひらの上だったということだ。
――こいつは、悪魔だ。
「……ねえ、キャスター。どうして私を選んだの?」
「お前が、『世界の滅び』を望んでいたからだ。」
「私は別に、都心で原爆を起動しようとか、そういうことは考えてない」
「だがお前は、自らの目的を阻む『世界のシステム』の滅びを望んでいた……違うか?」
「…………」
「クックック……沈黙は肯定の意だな」
私は、もう滅んでいたのかもしれなかった。
罪のない、ただ譲れない願いを抱いていただけの女の子を一人殺していた。
ここに呼ばれる前の私には、到底不可能だった禁忌を侵していた。
それはつまり、『私の観測する世界の滅び』に他ならなかった。
そうまでしてメリーにまた会いたいか自問し――会いたいと、迷わずに答えられた。
何も言わずにいなくなったと、ビンタの一つも食らわせてやりたかった。
異界で命を落としていたなら、亡骸だけでも拝みたかった。
メリーにまた会うために手を汚したと知られ、メリーに責められ、拒絶されても構わなかった。
とにかく、メリーが誰にも、私にも知られずにいなくなったこと、
その決着だけはどうしても付けなければ、私の魂の空洞は満ちることはないのだ。
でも、できることなら――メリーと再び、秘封倶楽部として活動したかった。
ならば、宇佐見蓮子が界聖杯[ユグドラシル]に託す願いは、一つだった。
――私に次元を超える力を与えて欲しい。
ただ、メリーをいっとき連れ戻すだけでは足りない。
今度彼女が神隠しに遭った時は、彼女を追いかけて助けに行きたいから。
きっとそれは、私が界聖杯[ユグドラシル]そのものになることと、同義なのだろう。
あるいは、私がメリーと同質の存在になること、なのかも知れない。
「キャスター、私、滅ぼすよ。『私の観測する世界』という限界を。
そのために私を阻む『世界のシステム』も、滅ぼす。
界聖杯[ユグドラシル]を手に入れて、私を超えた存在に、私自身を再創造[リジェネレイト]する。
……手を貸してくれる?」
「クックック……少しは大口を叩くようになったか。
マスターとして選んだ甲斐があったというものだ。ハッハッハッハァ!」
蓮子たちは、世界に滅びをもたらせるか。滅ぼした先で、新世界を創造できるか。
それが禁忌の所業と判ったとしても、歩みを止めることはもはや不可能である。
【クラス】
キャスター
【真名】
デカラビア@メギド72
【パラメーター】
筋力E 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具D~B
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
薬の調合や爆弾の作成などが可能な小規模な工房を作成可能。
道具作成(薬):B
このキャスターは薬物・毒物の作成に長ける。
魔力を用いて一瞬にして毒物を生み出すほか、魔力に依らない通常の調合の技術にも長けている。
即効性、致死性の高い毒物や時限爆弾、さらには服用者の意識を虚ろにして言いなりにする毒物と、
その解毒薬を作成可能。
道具作成(オーブキャスト):C
生物・無生物を材料に、魔力を注ぐことで様々な効果を生む『オーブ』と呼ばれるマジックアイテムの作成が可能。
オーブは、魔力ある限り何度でも使用可能。但し、1度使用したオーブはいくらかの時間を置かないと使えない。
正確にはキャスターのマスターに付与される能力であるが、便宜上キャスターのスキルとして記す。
日常で手に入りやすい生物・器物から作成可能なのはレアリティがNかRのオーブである。
SR、SSR級のオーブには他のマジックアイテム、大量の人の魂、サーヴァントやマスター(の令呪)など、
相応に希少な材料が必要である。
【保有スキル】
魔術(毒・氷):A
キャスターは毒・氷に関する魔術を得意とする。
魔術というよりは異能の発動に性質が近く、詠唱は必要としない。
追放メギド:C
悪魔の世界(メギドラル)から魂を追放され、人間の世界(ヴァイガルド)に転生した存在。
普通の人間(ヴィータ)として生まれ育つも、ある日突然悪魔(メギド)としての記憶を思い出すパターンが多い。
しかし記憶が戻ってもキャスターを含むほとんどが『ただの人間』である。
『ソロモンの指輪』を扱う者によって召喚を受けてはじめて、本来のメギドとしての力を発揮することができる。
この聖杯戦争においてもその関係は変わらない。
このスキルを持つサーヴァントは、マスターに令呪を介してソロモンの指輪の所持者としての力を付与する。
すなわちマスターに、指輪所持者としての能力――魔力の視認・遠隔操作・オーブキャストなどを与える。
また、本来の世界で地中から湧き出る魔力(フォトン)を利用して戦ったことから、
地中の魔力の利用効率が非常に高い。
この聖杯戦争でもマスターに地中から魔力を供給させることで、
マスター・サーヴァントの魔力の消耗を限りなく少なくすることができる。
特に龍脈と呼ばれる地中の魔力が豊富な場では、さらにその強みを活かすことができるだろう。
死者の魂が魔力(フォトン)となる世界で、それを用いて闘ってきたメギドたちの特徴として、
通常のサーヴァントなら強い忌避感を持つ魂喰らいに対しての抵抗が極端に薄いという特徴がある。
(もちろん、個体差はある。キャスターは機会があれば積極的に利用できる)
アルスノヴァ形質:D
キャスターの世界の人類のうち、約5%が有するとされる形質。
通常の人間には視認できない魔力を視覚し、操作する力。
ソロモンの指輪によってその力は強化され、メギドの戦闘を支えるだけの魔力供給を可能とする。
また、ソロモンの指輪使用時には独特の紋様の刺青が出現する。
キャスターの場合はソロモンの指輪を用いたとしても、1度に1体のメギドの戦闘をさせるのが限度である。
要は生前のキャスター自身も、指輪所有者としての能力を有していた、ということである。
※最強のアルスノヴァ形質を有する主人公(ソロモン王)@メギド72の場合、1度に5体のメギドの戦闘を行わせる事が可能で、
常時全身に刺青が出現している。モンモンの紋紋。
滅びの美学:B
キャスターの精神性の根幹。滅びと再生をもたらさんとする、魂の願い。
森の樹々を焼き、新たな芽吹きを促すかのような、既存のシステムを崩壊させようとする意志。
『秩序』の属性を持つ敵、および植物の概念を有する敵との戦いにおいて、攻撃で有利な補正を得る。
また、同ランクまでの精神干渉系の能力を無効化・破壊工作のスキルも複合する。
自己改造:C
自身の肉体に別の何かを付属・融合させる適性。
このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
キャスターの場合、後述の宝具発動時のみにおいて有効。
また、付属・融合させることができるのは機械類のみである。
【宝具】
『彼の地より来たりし、魂たるその姿(トランスジャミング)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:30
キャスターの本来の姿(メギド体)に変身して放つ"奥義"。
その姿は、底面が星型のピラミッドの裏返しとも、宙に浮く氷山の欠片とも取れる異形。全高11.23m、体重16.4t。
キャスターが生まれ落ちた時の姿であるとともに、キャスター自身の想像力が生み出す姿でもある。
宝具発動のための変身時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。
メギド体から魔力の妨害電波とでも呼ぶべきものを放ち、受けた者に蓄積していた魔力を消散させ、
更に一時的に敏捷を2ランク低下させる。
敵主従間に繋がった魔力パスと念話も一時的に妨害・切断することもできる。
しかしサーヴァントに対しては、対魔力・幸運で無効化されることがある。
また、物理的な殺傷力は皆無である。
弱点は多いが、敵マスターも巻き込んだ場合、魔力パスの一時的な切断は不可避。
魔力消費の大きな強力なサーヴァントほど機能不全に陥れやすい。
『鋼鉄[ハガネ]纏い、咆哮するその姿(ハウル・オブ・デカラビア)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:30~ 最大捕捉:5~
キャスターのメギド体を『自己改造』した姿。
上に述べたメギド体(やや縮小)に、古代の機械兵器から流用した装甲板、ガトリング砲、大砲、パラボラアンテナ、
そしてドリルアームを取り付けた姿。その姿はシュールの一言。
宝具発動時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。
直接的な攻撃力に欠ける自身のメギド体の弱点を補うための苦肉の策とも、
自身の魂の願いを実現するためならなりふり構わない、その執念の現れともとれる。
この聖杯戦争において強力な機械を入手することが叶えば、
『自己改造』によってさらなる強化を図ることができることだろう。
東京都内には自衛隊基地も米軍駐屯地もある。
『盟友より望まれし、新たなるその姿(アスタ・アンブラ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:10 最大捕捉:1
キャスターが人間として生まれ、志を同じくする友に再召喚(リジェネレイト)された際に目覚めた新たな姿(メギド体)。
四方八方に光を放つ星型の結晶体となったその姿の輝きを与える、新たな"奥義"。
宝具発動のための変身時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。
対象に霊核の破壊など、致命的な負傷から一度だけ復活可能とする魔力を付与する。
有名どころに例えると、FFのリレイズ。
対象にはキャスター自身を選ぶこともできる。
効果時間は約1時間。発動時にキャスターが変身する必要があるため、常時掛け直し続けるのは現実的ではない。
また、復活時に一時的に物理・魔術的な攻撃力を増強する効果も同時に付与する。(+1程度に相当)
近くに死者の魂が存在する場合、それを取り込むことで攻撃力はさらに強まる。(+2程度に相当)
復活時の治療の程度は致命傷を塞いで、どうにか戦闘可能とする程度である。
また、復活の魔力の付与・復活時の強化は解呪の力(いてつくはどう等)で消滅する。
逆転の切り札となりうる反面、対策されたら脆い。手の内をバラさない立ち回りが要求される。
【weapon】
キャスターが魔術の媒介として用いる杖。
ヴァランガとは"雪崩"の意。
アルスノヴァ血統を持つ者が扱うことができる指輪。
メギドの召喚や命令、大地の魔力の操作が可能。
キャスターをサーヴァントとして運用する場合、令呪がその機能を代替するため本来は不要である。
主人公であるソロモン王@メギド72が5つ持つ他に、デカラビアが極秘に1つ確保し、
取り扱っていたことから、キャスター自身の武器と扱われることとなった。
【人物背景】
年齢、18歳。(人間として転生してからの年齢)
身長、168cm。
滅びと再生をもたらさんとする、魂の願い。
この『個』を核にして、キャスターは悪魔の世界(メギドラル)へと生まれ落ちた。
そしてフォトン不足に苦しんでなお戦争を繰り返そうとするメギドラルの派閥分裂・闘争を煽って共倒れを画策し、
開戦寸前のところで人間界へと魂を追放された。
人間界で人の身に堕してもその魂は変わらず、ソロモン王の仲間として戦う傍ら、
天使たちと悪魔たちによって護られる人間界のシステムを破壊し、
真に人間だけの支配する世界を創造しようと暗躍した。
計画実現のため、遂にソロモン王の敵として相まみえることになったが、
「なんと言われようと構わん、今の世界を滅ぼそうとする限り、俺は所詮は悪なのだ」
と言い切った。
その在りようは一貫して『厄災をもたらす者』であり『世界を守る世界の敵』であった。
ソロモン王の仲間としては、あまり積極的な発言はしないが、求められれば的確な意見を言うタイプ。
――但し、彼独特の毒と皮肉を含んだ言い回しで。
「意味深な言葉の奥に隠された真意を読み取れぬ者を、彼は内心で嘲っている」とも評されている。
以上、常人離れした発言・行動が特に目立つ彼であるが、野盗の襲撃で死亡した転生先の両親には感謝を表する、
サンタクロースのコスチュームを着せられて「視線が痛い」と反応するなど、
(少なくとも転生後は)人間としての精神性はしっかりある模様。
極秘の計画を裏でコツコツと進めていた他にも、
言動の端々に彼が非常に勤勉であることを思わせる描写が散見される。
【テーマ曲】
『惡ノ流儀 厄災ノ調』
【サーヴァントとしての願い】
特にない。マスターの世界の滅びと、創造を見届ける。
【運用】
その言動に反して意外なほどスタンダードな性能のキャスター。
ただでさえ戦闘面での不利が多いキャスター。そのスタンダードに収まるスペックでは厳しい戦いが予想される。
実質無尽蔵の魔力と、妨害・改造強化・復活といった独特な性能を有する3種の宝具が勝算となるか。
魔力不足の主従と同盟を組み、魔力提供とサポートに徹するのも有効な戦略だろう。
【備考・現況】
奥多摩の一集落を洗脳薬で支配下に置いている。
住民の生活に支障を来さないレベルで、マジックアイテムの材料の回収や物資の提供などの協力をさせていた。
登場話でセイバーの主従と遭遇したことにより、集落を脱出すべきか考えている。
洗脳の解除薬も調合済みであり、集落の排水槽に流すことですぐに洗脳は解くことができる。
【マスター】
宇佐見蓮子@東方project 音楽CDシリーズ
【マスターとしての願い】
神隠しに遭ったメリー(マエリベリー・ハーン)を追いかけるため、
禁忌の膜壁を超える力――界聖杯を手に入れる。
【weapon】
現地調達したオーブ、猟銃(散弾銃)、資金(数千万円程度)など
サーヴァント側のスキルにより、魔力の視認・操作、令呪不要のサーヴァントの召喚などの能力が付与されている。
【能力・技能】
『星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力(仮称)』
その名のとおり、星を見れば秒単位で現在時刻(日本標準時限定)がわかり、月を見れば現在地がわかる。
写真などに写り込んだ星や月からでも判別可能。
月の巡りは太陰暦として時の標となり、航海などでは永らく星の位置が道標とされてきたが、
彼女の場合は逆である。
原作で自動車を運転する描写はないが、後述の活動の性質上、自動車の運転ができるものとする。
また、オカルトに関する知識は豊富である。
何代か前の先祖に強力な超能力者がおり、その血筋からか一般人よりは魔力が豊富である。
【人物背景】
近未来の日本人。
彼女の時代では月面旅行や宇宙へのバイオスフィア射出が実現し、
日本の首都は東京から京都へと遷都されている。
年齢設定なし。大学生であり、飲酒可能な年齢である。(現代と同様に20歳以上とは限らないが)
身長設定なし。
モノトーンを基調としたファッションと、黒い中折れ帽がトレードマーク。
超統一物理学、という学問を専攻する大学生。東京生まれ、京都在学・在住。
「プランク並みに頭が良いかもしれない」と自称しており、
相方のメリーからは「この世界の仕掛けが全て見えている」と評されている。
メリーことマエリベリー・ハーンと二人でオカルトサークル『秘封倶楽部』として活動する。
その活動内容は日本中のオカルトスポットの探索、その体験記である同人誌の執筆などである。
蓮子が持ち前の行動力でメリーを引っ張り、『境界』が視えるというメリーの力で現実とは違う世界を覗いてきた。
だがメリーの『境界』の力は日増しに強まっていった。
緑に侵食された衛星を覗いた際、メリーは獣に襲われ、傷を負った。
サナトリウムで療養していたメリーは、地球の直径より深い地獄の底から
イザナギオブジェクトと呼ばれる石片を持ち帰ってきた。
メリーという存在は、境界から徐々に異界に侵食され――ついに、消えた。神隠しに遭ったかのように。
27: 宇佐見蓮子&キャスター
◆.OuhWp0KOo :2021/06/26(土) 20:42:35 ID:atNXAW5M0
【方針】
次元を超える力――界聖杯を手に入れる。
但し、界聖杯を必要としない主従と敵対することは考えていない。
単に脱出が目的の主従なら、手にした界聖杯の力で帰還に協力することも惜しまないだろう。
【令呪】
左の五指に指輪を模して絡み付いたものと、左手の甲のアルスノヴァ形質の刺青。
(メギド72の主人公・ソロモン王と同じ)
現在3画で、指輪状の部位は最後まで残る。
【役割】
東京の大学生。休学中か、休講期間中か、それともサボっているのかなどは聖杯戦争の開催季節に任せる。
アルバイトの有無などについても同様。
【テーマ曲】
『月の妖鳥 化猫の幻』
『少女秘封倶楽部』他、多数。(但しいずれもメリーと共同のテーマ曲)
【備考】
参戦時期は『旧約酒場』以降。
但し相方であるメリーは、神隠しに遭っている。
最終更新:2021年06月27日 20:16