「殺し合いだってさ。人の手借りて願い叶えられるってんなら、乗らねえ理由がねえだろ?」
───一つ、首が飛んだ。
「やりてえことやったもん勝ちさ。戦場に道徳を持ち込んで何を殺すってんだ?」
───二つ、首が飛んだ。
「簡単だよ、手を組もう。君がマスターを襲い、俺がそこに現れたフリをしてそいつを助ける。正義のヒーローってやつさ。
危機的状況で助けられたヤツは俺を仲間と信じ込む。そこを後ろからグサリ…ってどうかな」
───三つ、首が飛んだ。
雁首揃えて贋物祭り。生きる価値も意義もない塵芥。
変えねばならぬ。変えねばならぬ。
血と屍の山を築く。ソレを見てようやく気づくがいい。
『真作』を。この世ただ一つの、本物を。
その意思を、継げ。
英雄を、取り戻せ。
▽ ▽
『今週三人目。連続殺人か』。そんな見出しが一面を飾っている新聞が空を舞う。風を受けて宙を舞う。
記事の中では近頃頻発している殺傷事件との関連性も示唆されており、世間への恐怖感を煽るように言葉が羅列されている。
街中の巨大な液晶では、左手に包帯を巻いたニュースキャスターが注意を呼びかけている。夜道を出歩かないように。例え複数人であっても人通りの少ない道は歩かないように。
机に並べた原稿に目を通しながら、ニュースを読み上げていくニュースキャスター。黒い髪に地味ではあるが印象を乱さないよう整えられた眼鏡。女性もののスーツに、整った顔立ちがよく似合う。
その顔が、僅かに歪んだ。緊急速報です、とニュースキャスターは続ける。
『先程十八時頃、◯◯近辺にて死体が発見されたとのことです。死体には切傷と見られる軽症が数カ所、致命傷と思われる刀傷が喉に残されているとのことです。抵抗した形跡はなく、事件は謎を深めており』
女性のニュースキャスターが、あっ、と声を漏らす。慣れない緊急速報。滅多に起こらぬ連続殺人。それらが事件の報道に慣れているはずの彼女たちの動揺を膨らませ、指先のミスを誘発させる。
水分補給用のペットボトル。本来は見えぬよう、装飾品などで隠されているそれが、ニュースキャスターの指先に触れて倒れる。とぽとぽと、流れ落ちる中身。透明な液体がニュースキャスターの左手を濡らす。
ニュースキャスターは濡れた左手をさっと隠し、申し訳ありませんでしたと一礼し、報道を続ける。一瞬表に現れた動揺を、ほんの数秒で心の奥底にしまい込む。
そして繰り返し。夜道を出歩かないこと、複数人であっても油断しないこと、人通りの少ない道には近づかないことなどと注意点を繰り返し伝え。
「見つけた」
───立ち並んだビルの屋上にて。
風に揺れる赤いマフラーを巻いたものが、その一部始終を、見ていた。
▽ ▽
はっはっは、と女が駆ける。夜闇を駆ける。
肺の酸素も尽きかけて。足も腕も、胸すら痛い。痛くて辛くて苦しくて、許可さえ出されれば今にでも足を止めてしまいそう。
それでも、止めるわけにはいかなかった。前を見て走るしかなかった。ゴミ箱にぶつかっても、人混みに紛れても、あんなに自分が口を酸っぱくして言い聞かせた『人通りの少ない道は通るな』の言葉さえ忘れて、ただ走った。
仕方ない。仕方ないじゃない。『こう』なれば、誰だって自分のように正常な判断が出来なくなる。
気づいてみれば、左右が壁に囲まれた路地裏。人通りなんてあるはずもなく、光源は空から差す月光だけ。
「痛っ!?」
走りながら、何かが足首を切り裂いた。追いつかれたのか。そう思い振り返ってみるけれど、誰もいない。
ただ何かに引っかかって切り傷を作ってしまっただけだろう。特にこの傷に何の意味もないのだろう。不安を掻き払うように、自分に都合のいい理由を作り上げて、再び走ろうとした。
走ろうと。した。
「…え?」
がくん、と身体が倒れる。全身から力が抜けるような。重力が五倍にも十倍にもなったような。気づいた頃には地面にこんにちは。人気のない路地裏で、地面に這いつくばっている。
「…おまえも、マスターか?」
背後から、声がした。背筋がぞわりと凍るような違和感と共に。
動かない身体から、瞳だけを動かして背後を見る。そこに。
死神が、立っていた。
赤いマフラーとバンダナ、眼球部分だけくり抜かれたように、包帯を加工して作られたマスク。戦争映画の傭兵が来ているようなプロテクター。傷をより深くするためか、右手には刃こぼれした日本刀。左手に持ったサバイバルナイフを、懐に収めている。
声が出なかった。身体は動かないが、声だけは発することができたはずなのに、それでも何も発することができなかった。
刃こぼれした日本刀が、私の手の甲を奔る。巻かれた包帯だけを綺麗に切断し、はらりと包帯が解ける。
露になったのは、赤い紋様。確か、『令呪』と言ったソレ。
「ハァ…やはりおまえも、マスターだったか」
吐息と共に漏れたその言葉には、こちらを見定めるような感情が共に滲み出ていた。
おそらく。ニュースで零した水が、左手の令呪を隠していた包帯を濡らしたとき。ほんの少し、うっすらと令呪が見えたのだろう。急いで隠したが、この男に通じなかったらしい。
恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。こんなはずではなかった。『ニュースキャスター』という役割を与えられてから、危険なマスターを自然を装って地上波で流し、他のマスターに始末させる予定だった。
だって、生き残りたかったのだ。死にたくなかったのだ。最初は殺し合いなんて許せないと思ったけれど、日に日に現実味を帯びていく日常に恐れの方が勝ってしまった。
「ち、違うの…わたしは巻き込まれただけで…ニュースキャスターの役割を貰ったのも偶然で…ほんとはこんなことしたくなかった、したくなかったのに」
「おまえは、聖杯が欲しいか? 願いはあるか?」
おまえの言葉など聞いていないと。包帯の男は言葉を続ける。
ああ、この男は聖杯を欲しているんだ。そう理解した。だから聖杯が欲しいのかと聞いている。ここでライバルに、障害になり得るかどうか、試しているのだ。
深呼吸して心を落ち着ける。上手く立ち回れ。生き残りさえすれば、聖杯なんていらない。
言葉を選べ。正解を手繰り寄せろ。それさえ完璧にこなせれば、生き延びられる道がそこにはある。
「い、いらない! わたしには叶えたい願いなんてない!」
「……」
「そうよ! 令呪を使ってサーヴァントにもあなたの味方をするように命じる! ニュースでも何とか犯人像をあなたとかけ離れた存在になるよう努力する! 勝ったら聖杯はあなたにあげる、だから」
「そうか」
ゆったりとした男の声。
ああ、良かった。意思は伝わったのだと安堵し。
「おまえの言葉に耳を傾けた、時間が無駄だった」
最後に。
宙を舞う首は、遠く離れた自分の胴体を見て───
▽ ▽
「ただの一般人なら、それで良かった…が」
包帯の男───ステインは、刃こぼれした日本刀を鞘に収める。血は綺麗に落とした後。出血に特化した武器であるとはいえ、他者の血液が残っているのも、彼の『個性』都合上よろしくない。
胴体と泣き別れしたその首を見て、もう一度溜息を吐く。
「悪戯に悪意を振り撒く悪も…己の為に他者を陥れる人間も…私欲で聖杯を求めるマスターも…」
まるで。塵を見るような目で、足元に転がった死体に目を向けながら。
ただ、一言。
「『粛清対象』だ」
要するに。今はただの肉塊と化したこの女も、ステインにとっては生かすに値しない人間だったというだけ。
利己的に生きる害のある人間ならば、殺さねばならぬ。
ヒーローとは。英雄とは。富や名声ではなく、自己犠牲の果てに得るべき称号でなくてはならない。
一般人なら構うまい。それはヒーローに庇護されるべき対象だ。
だが、しかし。
マスターとなり、この聖杯戦争に望むのならば。聖杯を欲するのであれば。
私欲で生きる人間に、願いが叶う聖杯は相応しくない。
「───おや。結構、派手にやったね。君の武器は特殊なんだ、もうちょっと凶器の痕跡を隠す努力をしないと」
「ハァ…アサシンか」
「相手のサーヴァントを抑える僕のことも考えてほしいね。まあ、負けるつもりはないけどさ」
ステインは深く息を吐き。学生服を身に纏った、茶髪の少年───アサシンに目を向ける。
相も変わらず貼り付けたような笑み。ステインにとっては、不愉快極まりない。
「それが、」
「契約だ、だろ? わかってるさ。君は君の言う『贋物』を殺せばいい。僕もその手助けをしよう」
アサシンは、切り裂かれた胴体から流れる血液の湖を歩き。
掌に出現させたサーベルで、落ちた女の頭蓋を、貫いた。
「───聖杯は相応しい人間に渡す。君と僕の利害は一致している。思想も…まあ、一部は理解できないこともないけれど」
「勿論だ。正しき信念の下に戦うものがいるのなら…聖杯を渡す。私欲で力を振るい、信念無き力に願望器を手に入れる価値は、ない」
勿論。ステインと、アサシンにも。
二人にとって、この結論は共通事項だった。聖杯を手に入れるつもりもない。ただし、相応しくない人間に渡すつもりもない。
正しく力を使う見込みのあるものに、聖杯を託す。それが、ステインとアサシンの願いであり、契約だった。
最初から。聖杯を手に入れるつもりなど、ないのだ。
「信念なき殺意に意味はない。弱いもの、信念なきものから淘汰されていく。聖杯に相応しい見込みのあるものがいなければ───皆殺しも仕方ない」
ステインは、切り落とした女の後片付けもしないまま、路地裏の闇に消えていく。マスターとなった以上、聖杯を狙う以上、力を持つものだ。
そして、力を持ちそれが利己的で私利私欲に塗れ、悪戯に力を振るう者ならば、粛清対象である。
アサシンは、ひょいと胴体から流れ出し形成された血液の湖を飛び越えながら。
「ヒーローは弱きを助け、強きを挫く…見返りを求めず、己の心に従い人を助ける…」
「…なんだ」
「いや? …ちょっと、昔の知り合い…『そういうヤツら』がいただけさ」
なんて。懐かしい顔を、少し思い出した。
【マスター】
ステイン@僕のヒーローアカデミア
【マスターとしての願い】
聖杯に相応しくないマスター(私欲で聖杯を狙うもの、信念無き殺戮を楽しんでいるもの、己のためだけに聖杯を狙うもの)を殺す。
その結果、もし自分が聖杯を手にすることになったとしても破壊する。聖杯で作り上げた偽物のヒーローになど興味はない。
ただ。もし、『生かす価値のある人間』に出会ったのなら、聖杯を渡してもよい。
【能力・技能】
個性『凝血』。
対象の血液を舐める、摂取することで相手の身体の自由を最大八分まで奪う個性。
対象者の血液型によって効果時間は異なり、O<A<AB<Bの順で拘束できる時間が増える。
まずほんの少量とはいえ流血させなければいけない、効果時間も相手の血液型によって異なるという決して強くはない個性だが、桁外れの戦闘能力も相まって凶悪になっている。相手が強力な個性持ちであったとしても即時分析し、スピード特化の個性持ちに対しても適応する身のこなしと速さ、強力な打撃を喰らってもなお立ち上がるタフネス───そして、決して膝を折らぬその『信念』が、彼の力の源である。
【人物背景】
誰しもがヒーローを目指す世界。その世界において、平和の象徴・オールマイトに憧れてヒーロー科高校に入学。ヒーローを目指す。
しかし彼が見たものは、あのオールマイトとは程遠い、『商業と化したヒーロー』の姿だった。
己をヒーローとしてどの路線で売り出すか。強みを、特徴を特化させどう人気を得るか。人を助けるのはその延長線上でしかない。
これがヒーローか。これが英雄か。
───違う。断じて違う。
ヒーローとは見返りを求めず。報酬を求めず。ただ心の底から人を救いたいという思いから成るべきもの。ヒーローを名乗るからには誰しもが平和の象徴・オールマイトのようにならなければならない。
だというのに、この世には。
贋物が、多すぎる。
「ヒーロー観の根本的腐敗」を感じた彼は、ヒーロー科を一年で中退。「英雄回帰」を訴える街頭演説を開始するが、「言葉に力はない」と諦念。以降の10年を「義務達成」のため、独学で殺人術の鍛錬に費やす。
かつてのヒーローを憧れた青年も、自警団を務めた「スタンダール」ももういない。
あるべきものは、一人だけ。
誰かが血に染まらねば。ヒーローを贋物から英雄のものへと取り戻さねば。
歪んだ正義が、暴走する。
【方針】
いつものように、力を持ち相応しくないモノを殺す。
ヒーローであろうとヴィランであろうと、関係ない。
ただ、一般人なら手を下すつもりはないが…場合によっては(戦う意思を見せる・ヒーローを名乗るなど)標的になる。
【クラス】アサシン
【真名】明智吾郎@ペルソナ5R
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:C
【クラススキル】
気配遮断:B
アサシンのクラススキル。自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
探偵の殻:A
宝具を発動していない間は能力値が低下し、サーヴァントとしても感知されなくなる。また、このランクともなると相手の警戒心を解き懐に入り込むことも難なく可能。
疑いの的(犯人候補)から外れる、自身の肉体に作用するスキル。
ワイルド(偽):B
アサシンの精神性から発動するスキル。本来は多種多様な顔を持つことにより、多くの人間との関係性を持つことが可能になるスキルだが、諸事情によりランクダウン。
『嘘』と『恨み』───そしてそれらが混ざり合った三面性を持つ。正義の属性を持つ人間と関係が深まり易い。
名探偵の達眼:A
戦闘開始時、戦闘相手の弱点となる属性や情報を知ることができるスキル。どの攻撃が有効なのか、どの部分に有効なのか、それらを把握することができる。
また、必要な情報さえ揃っていれば真名看破としてのスキルとしても使用することができる。
反逆の仮面:A
理不尽に抑えつけられ、抗えない権力と巨大な力に押し潰されても立ち上がるスキル。一種の戦闘続行スキル。
アサシンの場合、追い詰められれば追い詰められるほど攻撃の火力が上昇し、反逆の力は大きく羽ばたく。
【宝具】
『射殺せ、正義の狩人(ペルソナ・ザ・ロビンフッド)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
学生服だったアサシンが姿を変え、王子のような純白の衣装に赤いマント、貴族の儀礼服を連想させる美しい姿と赤いペストマスクの如き赤い仮面を装備する。
アサシンの赤い仮面が消え、召喚されるのがこの宝具である。
中世イングランドで活躍したとされる、伝説の義賊───が、もう一人の自分として実体化、召喚されたもの。
マスターを含む味方の魔力消費を抑え、祝福属性と呪怨属性での攻撃を可能とする。
また、この宝具によりアーチャークラス相当の狙撃も可能としており、筋力B相当の狙撃が可能。
アサシンの心の『嘘』の部分。
『降臨せよ、堕ちた革命の星(ペルソナ・ザ・ロキ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
アサシンが更に姿を変え、ボロボロの黒いマントに黒のスーツ、黒の仮面を纏う。
北欧神話の邪神、邪悪なだけの神ではないが悪知恵に長けた神───が、もう一人の自分として実体化、召喚されたもの。
呪いへの耐性が上昇し、戦闘開始と同時に己のステータスを上昇させる。
また、万能属性によるあらゆる存在に通る攻撃や銃撃・斬撃共に大幅にダメージが上がっており───特に『レーヴァテイン』の一撃は至高の域に達している。
他人にスキル『狂化』を付与させステータス一段階上昇させる能力を所持しているが…この『狂化』は、己にも使用可能である。
アサシンの心の『恨み』の部分。
『顕現せよ、革命の狩人(ペルソナ・ザ・ヘリワード)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ロビンフッドのモデルとされている、11世紀の伝説的なサクソン人───が、もう一人の自分として実体化、召喚されたもの。
『射殺せ、正義の狩人』と同じようにアーチャークラス相当の狙撃と可能とし、『降臨せよ、堕ちた革命の星』 のように万能属性による攻撃や斬撃・銃撃共に大幅にダメージが上昇している。
前述の二つの宝具を合体させ昇華させたような能力をしており、この宝具でのみ扱える『反逆の刃』はあらゆるモノを切り裂き、隙を見せたモノに対して特攻ダメージを与える。
しかし、この宝具を使用するには彼の『嘘』と『恨み』を一つにし───『本当の自分』を現せるほど、関係性を深める必要がある。
関係性を深める相手はマスターでなくともよい。彼が絆を深めた相手が、この宝具には必要なのだ。
【WEPON】
【人物背景】
望まれなかった子供は、望まれるように変化した。
大人に求められるよう。誰かに求められるよう。
努力し這いつくばり、それでも求められる『誰か』を演じた。
そんな彼に悪神からささやかなプレゼントが与えられた。
力をペルソナ。仮面の力。
彼は、復讐の為に立ち上がった。望まれなかった子供は、望まなかった父親に全てを捧げ、全てを勝ち取った瞬間に絶望に引きずり落とす。
そのためだけに。多くの人を殺した。
だというのに、自分と同じ能力を持った人間が。
自分より劣った人間が。自分が持っていないモノ───仲間を、持っている。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
彼は恨みのまま、『彼』と対峙する。
もう少し出会うのが早かったら、彼は外道に堕ちずに済んだかもしれない。
しかし、それはもしもの話。
外道に堕ちた彼は、更なる外道によって始末された。
『彼』に、願いを託して。
【サーヴァントとしての願い】
無い。死んだこの身、こうして呼び出されることが屈辱でしかない。
が。もし、この男の行動で『正義』を持つ人間が生まれるのなら。弱きの為に立ち上がる、『誰か』がいるのなら。───その人間に、聖杯を託すのも良い。
最終更新:2021年06月29日 20:17