ぐつぐつ、鍋が沸騰していた。
鍋には二つのパックが入れられている。今日の晩御飯はレトルトカレーだ。
帰宅した私は、まず晩御飯の用意に掛かっていた。
ご飯を電子レンジに入れ、私は制服から私服へ着替えるべく自室へ向かった。
その途中、リビングの窓ガラスを見た。外は既に暗い、今のガラスには私の姿が鏡の様に映っていた。
胸の真っ赤なリボンを除き、黒いセーラー服は夜の闇に消えて良く見えないが、
短めに切りそろえられた茶髪と、私の顔は良く見える。
ガラスに向かって微笑むと、ガラスの私も微笑んだ。
こんなに柔らかく笑えるようになったのも、或いは『彼』のおかげだろうか。
私にはいつまでも慣れない新鮮さに浸っていた最中、スマホがピピピと騒がしい音を鳴らした。
ガラスに映った私は笑顔を崩し、ため息をついた。
スマホの画面を見ずに私は電話に出た。電話の相手は画面を見なくてもわかる。

「フィーラか?」
電話の向こうから老人のしゃがれた声が聞こえる。
彼の名はユーラム=コドニス。
フィーラ=コドニスの遺伝子・戸籍上の父に当たる人物だ。
私はいつものように返した。

「どうしたんですか?」

「すまんが、今日も帰りが遅くなる。
 夕食は一人で食べてくれ」
彼は予想通りの返答を返してきた。
この聖杯戦争に巻き込まれてから、彼が私の起きている時間に帰った記憶が無い。
怒りからか、呆れからか、この時私はいつもと違う返答をしてしまった。

「わかりました。ユーラム博士」

「博士…?」

発言した直後に己の失言に気づき、口を押えた。
「この世界」の彼は博士でもないし、そもそもフィーラは彼を博士と呼んだことは無い。
怪しまれぬよう、急いで訂正した。

「いえ、言い間違えました。お父さん
 電話してくれてありがとう。」

そう言って、急いで受話器を置いた私はその場にうずくまった。
呼吸が粗くなる。胸を押さえても動悸が止まらない。
たとえ何を言ってもNPCである彼が真実に気づくことは無い。
しかし、それでも、私がこのフィーラのあり得たかも知れない家庭を、乗っ取っている事実は消えない。

顔を上げると、ガラスに映った私は脂汗を流し、苦しそうだ。
或いは、こうなっているのも『彼』のせいか。
彼の頼りない顔を思い出してる最中、背後から少女の声が聞こえた。

「レンジがチンし終わってるではないか!
 おいマスター!ごはんが冷めてしまうぞ!」

背後を振り返ると、緑色の長髪をした少女がカレーの入った容器を両手に二つ持って歩いてきた。
手と首に付けられた鎖を揺らしながらやってくる彼女を見て、服にカレーが付きますよと言いそうになったが、彼女のボロ布のような服を見て言葉をひっこめた。
その服では汚れても困らないだろう。

「む?どうかしたのか?マスター」

「いえ、なんでもありません。
 ご飯にしましょう、アヴェンジャーさん」

心配するアヴェンジャーの声をありがたく思いながら、
私はカレーの容器を受け取った。
着替えるのはもういい、ご飯にしよう。

「~♪」
食卓に着き、アヴェンジャーはご機嫌にご飯とカレーをかき混ぜている。
一方、私はレトルトカレーを目の前にしても、食欲は湧かない。
なんとか1口、2口、口にしたところで、アヴェンジャーから声が掛かった。

「あの父親と、上手く行ってないのか?」

「え?」

「さっき電話を受けてから様子が変ではないか、愚か者が。」
彼女はそういって、スプーンを振り回してぷんぷんと怒り出した。
私の悩みは隠す必要のあることではないが、説明しても伝わるものではない。
どうしたものか。

「あの人と私は、元々親子ではないんです。」

「血が繋がっていないと言うことか?」

「いえ、遺伝子上は血縁ではあるのですが…」
元の世界では顔も知らないような関係だった。
そういって、適当に誤魔化そうとする前にアヴェンジャーがカレーのついた口を開いた。

「つまり生みの父はあやつだが、魂の出どころが別と言う事か?」

「――!?」
私の手からスプーンが零れ落ち、かちりと音を立てた。

「なぜ、わかるんですか?」

アヴェンジャーは腕を組み、ふふんと鼻を鳴らす。
思った通りの反応だったらしく、ご満悦の用だ。

「なあに、その手合いはよく見てきたというだけよ。つまり」

アヴェンジャーは椅子の上に立ち上がると、
持っていたスプーンで私を指し付け、自信あり気な顔で宣言する。

「お主も儂と同じ転生メギドと言う事!」

「確かに、私の状態は転生と呼んでも差し支えないものですが…メギドとは?」

耳慣れぬ言葉を聞き返すと、少女は不機嫌になり椅子に座りなおした。

「なんだ、違うのか。
 まったく期待させおって、カレーが冷めてしまうではないか。」

そう言ってアヴェンジャーはカレーをほおばる。
私がアヴェンジャーがスプーンを振り回したことで机に飛び散ったカレーを拭くと、彼女は訪ねてきた。

「それで、何が悩みだ?
 転生前より不自由になった事か?
 それとも、元々の魂を消してしまった罪悪感か?」

心臓を掴まれたような感覚がある。
誰とも分かち合えぬと思ったこの感覚を、なぜこんなに正確に言い当てられるというのだ。
食事の全く進まなくなった私は、スプーンを置いてアヴェンジャーの目をまっすぐと見た。
今の彼女の目は目下のカレーにくぎ付けだ。

「……なんでも、お見通しなんですね」

「儂も同じような連中と戦い続けたからな。
 それで、何が悩みだ?」

「私は、お察しの通りフィーラ=コドニスではなく、
 そのバックアップとして生まれた人格AIです。」

「ふむ」
アヴェンジャーはカレーをほおばった。

「事故と手違いの末、私も開発者も生まれを知らず、戦闘用ロボットの制御用AIとして搭載された私でしたが、
 後にフィーラの父、ユーラムに余分な記憶を削除されてフィーラとして蘇生しました。」

「ふぁるふぉど」
アヴェンジャーはカレーをほおばった。

「その後、私はフィーラとして生きていましたが、
 余分ではない記憶、戦闘記録データに私の記憶を潜り込ませていた私は蘇生しました。
 なんの罪もないフィーラを殺して、です。」

「ふぉういうふぉとふぁったのか…」
アヴェンジャーはカレーをほおばった。

「私の話、聞いてました?」

「!!ゴクッききき、聞いておったわ!
 ただ、このいつもより100円高いカレーを味わいたくてだな…」

「はあ…」
露骨に目をそらすアヴェンジャーを見て、私はため息をついた。
サーヴァント、アヴェンジャーと言う位だから復讐にのみ打ち込んだ、
真面目な人間かと思っていたが、外見通りの少女ではないか。

「まあ、なんだ。
 儂が言いたい事としてはだな…気にするな!」

「そうですか…」
なんのさしあたりも無さ過ぎる返事に、私は顔を落とした。
相談しない方が良かったかもしれない、そんな考えも脳裏を過った。
目の前のカレーを冷める前に食べた方が有意義だと思ったところで、彼女の言葉が続いた、

「己で生まれたいと思って、世界に零れ落ちる命なんぞ無いのだ。
 生まれることに罪などあるものか。」

「はい…?」

「長々と話しておったが、結局フィーラと言う存在を無視してお前が確立したのがお前の意志でもなければ、
 お前を元にフィーラとやらの人格が蘇生したのもお前の意志ではなかろう。
 何を悩む必要がある。」

私は落としていた顔を上げた、彼女の目はしっかりと私を見据えていた。

「………ありがとうございます」

「うむ!」

カレーを食べ終わったアヴェンジャーは、スプーンを置いて誇らしげな気がした。
本心で言っているのか、それとも慰めのつもりで適当に言っているのかはわからないが、
それなりに私を思って言ってるんだろう。
そうなら、私の答えはこれしかない。

「でもアヴェンジャーさん、私やっぱり気にします」

「なぬっ!?」

「こんなフィーラともAIともつかない私でも、幸せを願ってくれた友人がいたんです。
 罪から逃れることができないなら、せめてその人の幸せのために戦いたい。」

「わ、儂のさっきまでの言葉はなんだったんだ…?」

アヴェンジャーは私の手のひら返しに顎を開けて、愕然としている。
悪いことをしたと思いながら、少女のその仕草に私は微笑んだ。

「一緒に戦ってくれますか、アヴェンジャーさん」

「正直釈然とせぬが、いいだろう。
 どのみち戦おうとは思っていたからな!」

アヴェンジャーは自棄になって怒りながらそう言った。
私の結論のため、悪いことをしたと思う。
きっとあの人もこのために戦うと言ったら怒るだろう。

でも、あの人も私のために無茶苦茶言ったんだ。
私だってあの人のために私が無茶苦茶言ってはならない道理はないだろう。

「ぐぬぬ~儂の好意を無駄にしおって~」

コロコロと怒りの矛先を変える、今はカレーのやけ食いをするアヴェンジャーを見て思う。
或いはこの少女も、怒りの宛先を見失って自分以外の幸せに縋っているんだろうか。
勝手に友人の面影を重ねる私の視線をどう捉えたのか、彼女はカレーの容器を膝の上に隠した。

「やろんぞ」

「取りませんよ」

そう言って私は顔を背け、ガラスに映る自分の顔を見た。
罪を背負いながら、それでも人と一息つく闘いの日々と同じく、私<ファタ>の顔は微笑んでいた。

【クラス】アヴェンジャー
【真名】ベレト
【出典】メギド72
【性別】女性
【属性】混沌・中立

【パラメーター】
筋力:C++ 耐久:D 敏捷:B- 魔力:C 幸運:E 宝具:B

【クラススキル】
復讐者:A
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
復讐対象を見失ったのち、『怒りの代弁者』を自称し戦ったアヴェンジャーは高い適性を持つ。

忘却補正:A+++
人は己の記憶を『死ぬまで忘れない』と言うが、
人ならざる魂を持つアヴェンジャーは怒りを『死んでも忘れることは無かった』

自己回復:C+
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
怒りの宛先を見失った彼女は、不安定ながら己が燃え尽きるまで魔力が供給されることとなる。

【保有スキル】
追放メギド:B+++
宵界メギドラルより追放されたメギドの魂がヴァイガルドに転生し、人間<ヴィータ>として生まれ変わった存在。
このスキルを持つサーヴァントは、マスターに令呪を介してソロモンの指輪の所持者としての力を付与する。
すなわちマスターに、指輪所持者としての能力――魔力の視認・遠隔操作・オーブキャストなどを与える。
また、本来の世界で地中から湧き出る魔力(フォトン)を利用して戦ったことから、地中の魔力の利用効率が非常に高い。
この聖杯戦争でもマスターに地中から魔力を供給させることで、
マスター・サーヴァントの魔力の消耗を限りなく少なくすることができる。

被虐の誉れ:C
肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/2で済む。また、魔術の行使が無くても、一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されていく。

大魔王:E
世界に対する反逆者、即ち魔王であることを示すスキル。
同ランク以下の仕切り直し、および瞬間移動能力を無効【メリット】
ランクが高ければ高い程、聖属性・雷属性のダメージが増加【デメリット】

【宝具】
『リアニメイター』
 ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:30
 キャスターの本来の姿(メギド体)に変身して放つ"奥義"。
 その姿は、王冠を被った太った大カエルとしか形容できぬ異形の姿である。
 キャスターが生まれ落ちた時の姿であるとともに、キャスター自身の想像力が生み出す姿でもある。
 宝具発動のための変身時のみ、キャスターは魔性としての種族特性を得る。

この形態のアヴェンジャーは耐久が3ランク上昇する他、
メギドの異能として己、周囲の死骸をゾンビとして己の手中に収めることが可能。
ゾンビと化した存在はアヴェンジャーの怒りを受け非常に攻撃性が強くなり、主であるベレトとのコンビネーションにより容赦なく敵を屠る。
ゾンビの欠点としては強度として脆い他、回復効果を受けた場合に反転してダメージを受けてしまう。

『アンチャーター(偽)』
 ランク:D 種別:対魔宝具 レンジ:5 最大捕捉:1
世界そのものを移転させる超巨大ゲートの起動装置…の精巧なフェイク。
見た目としては古代メギドラル語が刻まれた青い箱の形をしており、
メギドの変身に足る膨大な魔力を兼ね備えた遺物である。
効果としてはとしては所有者にCランク相当の単独行動スキルを付与する他、メギドの変身時間を延長する。

『ベローナ』
ランク:D 種別:対魔宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
メギド、幻獣の召喚時に発生する力の欠片、オーブ。
ベローナはその中でもベレトの体から発生したオーブであり、普段は小さな赤いガラス片のような姿を取っているが、
魔力を込めることでベレトのメギド体を一頭身にしたような幻獣のビジョンが現れる。
発動時、アヴェンジャーにCランク相当の狂化・自然回復を付与。

【weapon】
先端が鈍器となった旗(人間体)
先端に巨大などくろを付けた鎖(メギド体)

【サーヴァントとしての願い】
怒りをぶつける

【マスター】ファタ
【出典】無敵凶刃ロザリオー
【性別】女

【マスターとしての願い】
友人オルク・サレオスのハッピーエンド

【能力・技能】
戦闘AI時代に獲得したロボット操縦能力。
また、地球外生命体「オールド・スクラッチ」を再現した肉体を持ち、
高い霊的能力を持つ。

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最終更新:2021年07月05日 22:02