昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、校庭から人が捌けていく。
「よぅ。なんかお困りかい?」
その隅っこにしゃがみ込む少年に、赤いツノ付き帽子をかぶった少年が声をかけた。
「あっ…えっと、あなたは?」
うろたえ、誰何する少年。
帽子の少年は、よく聞いてくれたと言わんばかりに口元をゆがめて答える。
「スケット団ス!」
ビシィ! と効果音すら聞こえるほどの決めポーズとドヤ顔。
しかし少年はしゃがみ込んだまま、「スケット団……?」と、帽子の少年の後方を見遣り尋ねた。
「お一人に見えますが……?」
「あ…そうだった」
◆◆◆
移動しながら簡単な自己紹介を済ませ、空き教室の椅子に腰かける。
「それで? ジグはサーヴァントだろ? こんなところで何してんだ?」
「うぇ!? なんでバレて…!?」
「いや、ステータス見えてるし」
赤いツノ付き帽子の少年――藤崎佑助(「ボッスン」と呼んでくれとのことだ)の指摘にあたふたするサーヴァントの少年。
雲沼ジグと名乗った彼の背には大仰な機械の翼が取り付けられているが、逆に言えば特異な点はそれだけ。
『いかにも』といった風体ではなかったが、頭上に表示されたステータスが彼をサーヴァントであると教えてくれていた。
とはいえ、そのステータスはお世辞にも高いとは言えない。「E」のオンパレードだ。
「で、なんでよ?」
改めて問い直すボッスンから、ジグは気まずそうに目を逸らす。
「実は僕…記憶が飛んじゃってて……」
「記憶? 召喚されてからの?」
「それもそうなんですけど、正直、生前の記憶も結構曖昧で……」
「へー、そういうこともあるんだな」
簡単に納得するボッスン。嘘を吐いているなどとは疑ってもいない素振りだ。
ジグからすれば実際そうなのだから疑われてもどうしようもないのだが。
「自分がサーヴァントって自覚は一応ありますし、宝具は多分、この背中の翼かなとは思います。 それと聖杯にかける願いはちゃんと覚えてます。
けど、生前の記憶とか、何のクラスなのかとか、マスターは誰なのかとか、なんで魔力パスが切れているのかとか。そういうのは全然で。
むしろボッスンさん、僕の名前とか逸話とか聞いたことあったりします? それがわかればクラスくらいは推測できるんじゃないかと思うんですけど」
「悪い、オレも歴史とか偉人とかそんなに詳しいわけじゃねえから」
「そうですか……」
肩を落とすジグ。
自分の正体がわからず、何の手がかりもつかめないというのはやはり不安で、聖杯から聖杯戦争に関する知識を与えられているマスターならば自分について知っているのでは、という淡い期待を抱いてしまったのも事実だっだ。
「なあジグ。いくつか訊いていいか?」
「はい。いいですよ」
「ジグの願いって何なの?」
ストレートな質問。
ジグとしても隠していることではないので素直に話す。
「僕の願いはこの翼にかけられている『呪い』を解くことです」
その背に取り付けられている翼を見遣る。
これは幼少期に患った重い病気に抗うための生命維持装置である。
その物々しい外見に道行く人は顔をしかめ、ある者は後ろ指を指し、ある者は石を投げた。
しかしそれは翼を取り付けたが故のただの結果。 『呪い』とはそんなものではなかった。
かつて死んだ魔術師が自分用に作ったというこの装置には、悪意を持って行われた攻撃に対し、問答無用で倍返しの反撃を行うという凶悪な呪いが掛けられていた。
この呪いのせいで、ジグは意図せず他者を傷つけてしまうようになり、愛する家族とも離れて暮らさなければならなくなった。
「だから僕はもう一度家族と共に暮らすために、この呪いを解きたいと願いました」
「なるほどね」
小さく嘆息し、少し思案した後「じゃあもう一つ」と続ける。
「さっき、魔力パスが切れてるって言ったよな?
それって誰とも契約してないってことだよな?」
「? はい。
まあ、そう、ですね。必然的に」
なるほど、と呟いたボッスンがジグの肩を優しくつかむ。
「ジグ。お前さえ良ければ、オレと契約してくれねえか?」
「なんで……」
想定外の言葉に瞠目し、狼狽するジグ。
ステータスはほぼ全項目が最低ランクで、サーヴァントとして自分はヘッポコもいいところだ。
それだけでも致命的なのに、クラスはわからない、スキルもわからない、宝具も曖昧、真名を明かしても正体が判然としない、元々の召喚者もわからなければ、その人物と魔力パスがつながっていない理由もわからないと、信用できる要素がひとつもない。
自分がマスターだったなら、絶対にこんなサーヴァントと契約などしないと断言できる。
「そうまでして、ボッスンさんは何を望んでいるんですか?」
そんな自分と契約してまで、彼は聖杯に何を願うのか。
契約を持ち掛けられたジグとしては―――否、そうでなかったとしても興味本位で訊いていたであろうその疑問に、ボッスンは気まずそうに、けれど真摯に答える。
「俺は高校卒業したら、海外でボランティアする予定だったんだよ。自転車で世界旅しながらさ。
だからまあ、そのためのチャリが欲しいなって思ったのがきっかけで、この聖杯戦争に巻き込まれちまったんだけどよ。
あわよくば優勝して、すっげー良いチャリ出してもらおーとか思ってたんだけど、何すればいいかよくわかってなくてな。
元の世界で通ってた学校の先生が一人、マスターとしてこっちに来てることを知ってさ。
事情話して、共同戦線張って――色々教えてもらったりしたんだけど、俺をかばって……その……殺されちまったんだ」
命からがら逃げ帰り、本物かどうかもわからない家族の顔を見たボッスンは思ったのだ。
「どんな願いをも叶える聖杯」などという胡散臭いもののために人間が命を散らすなんて、ばかげていると。
相槌も打てず彼の言葉に耳を傾けるジグに、ボッスンは「知ってるか?」と前置きする。
「聖杯戦争ってのは、聖杯を手に入れる為の競争行為ならなんでもいい―――例えば、聖杯が出品されたオークションがあったらそれも聖杯戦争として認定されるらしい」
突然の話題転換。ジグは発言の意図を掴みかねて首を傾げる。
それを見たボッスンはにやりと笑い、その本懐を語る。
「だから、犠牲者が可能な限り少ないうちに聖杯を奪っちまって、命賭けの殺し合いじゃなくて――大喜利大会とか、折り紙とか、ヒュペリオンとか――そういう手段で聖杯を争えねえかなって思ったんだよ」
そのとんでもない発想に再び瞠目するジグ。
ボッスンの為そうとしているのはつまり、聖杯戦争の主催者の立場を乗っ取ってしまおうというものだ。
あまつさえ、万能の願望器たる聖杯を、まるでコントのような手段で争わせようというのだ。
絶句するジグに「良いリアクションだ」と笑い、ボッスンは続ける。
「俺は死ぬのも殺すのも嫌で、サーヴァントを召喚しようともせず、時間が過ぎるのに身を任せちまってた。 けど、そういう俺のグズグズしたスタンスが先生を死なせちまった。
その時『どんな願いも叶える』なんてスゲえもんなら、そんな風に悲劇を積み重ねた先につかみ取られるべきじゃねえと思ったんだよ。
だからオレはこの戦いを、本気でぶつかり合ったとしても、最後には笑って手を取り合える―――そんな楽しい戦いにしようって決めたんだ」
大言を語るボッスン。
纏っていたどこか気の抜けたような雰囲気は消え去っていて、覚悟を決めた戦士の顔をしていた。
「先生もそうだけど、既に犠牲者は何人も出てる。 今朝もマンションの爆発事故があったけど、アレだってサーヴァントの仕業かもしれねえ。
でもなるべく早くとは言ったものの、サーヴァントがいなくちゃ聖杯なんて手に入れようがねえ。
かといってこんな願い持ってる人間の召喚に応じてくれるサーヴァントがいるともそうそう思えねえ。
ってことでマスターと契約してないジグを誘ってみてるんだけど、どうだ?」
決して平坦な道ではない。
けれど他者が傷つくのを是としないボッスンの心を、ジグは美しいと思った。
トロマが認めてくれた生き方を―――誰かに救われた分、他の誰かを助ける生き方を―――貫くためにその申し出は断れない。
―――『トロマ』って誰だっけ?
―――ああ、それは嘘だ。かかずらうべきものではない。
「ボッスンさん―――いや、マスター」
ジグは真っすぐにボッスンの目を見据えて告げる。
「僕でよければ喜んで契約します。
その夢路を行くマスターを支えさせてください」
「よせやい。
これからもボッスンって呼んでくれ。 ジグ」
照れくさそうに頭を掻きながらボッスンが右手を差し出し、ジグがそれを同じく右手で握る。
ここに、二人の契約が完了した。
【クラス】
???
【真名】
雲沼ジグ@ステルス交響曲
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具 不明
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
単独行動:C
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
ランクCならば、マスターを失っても一日間現界可能。
【保有スキル】
精神異常:D
精神が不安定。
ジグの場合、精神干渉の効果を大きく受けるデメリットスキルとなっている。
自己再生:D
負傷しても怪我の治りが早い。
軽傷なら一時間ほどで自然治癒する。
【宝具】
『自動反撃装置』
ランク:不明 種別:不明 レンジ:1000 最大補足:不明
ジグの背中に取り付けられた翼状の生命維持装置。中古品で、死んだ魔術師の呪いがかかっている。
悪意をもって行われた攻撃に反応して、自動で倍返しの反撃を行う。
実は「竜の遺産」と呼ばれる魔法の品である。
【weapon】
『自動反撃装置』
【人物背景】
幼いころに大病を患い、呪われた生命維持装置を取り付けられた少年。
その物々しい見た目と呪いを怖れた村人たちによって迫害されているため家族と離れ、村の救護院で暮らしていた。
この呪いを祓うために物語の舞台である『神防町』にやって来る―――というのが原作の流れである。
【サーヴァントとしての願い】
家族にもう一度会うために、生命維持装置の呪いを解く
【マスター】
藤崎佑助(ボッスン)@SKET DANCE
【マスターとしての願い】
今はもうない
【weapon】
スリングショット
【能力・技能】
赤いツノ付き帽子の上からかけているゴーグルを装着することによって人並み外れた集中力を発揮する「集中モード」。その集中力で驚異的な推理力を発揮したり、スリングショットで狙いを定めたところに弾を打ち込んだりできる。ただし集中のし過ぎで息をするのも忘れてしまうので、使用後は激しく咳き込んでしまう。
参戦時期的に帽子とゴーグルを後輩に引き継いでしまっているはずだが、こちらの世界で目を覚ました時に枕元に置いてあったようだ。
驚異的に手先が器用。
【人物背景】
開盟学園において「困っている人を助ける」をモットーに活動する「スケット団」の設立者にしてリーダー。
基本的にはお調子者だが困っている人は放っておけず、仲間を傷つけられることを許さない優しい性格。
実の両親は鬼籍に入っており、義母と義妹の三人家族。
何かと対立関係にあった生徒会副会長・椿佐介が生き別れた双子の弟であることが後に判明したりもする。
口車に乗せられて自転車の旅を行ったときに出会ったライアンという青年に憧れ、彼と共にボランティア活動をしながら世界を回ることを決意。高校卒業後に日本を発つ……予定だったが、聖杯戦争に巻き込まれてしまった。
【方針】
なるべく早く聖杯をかすめ取り、聖杯戦争の
ルールを命を賭けないものに変える。
◆◆◆
『次のニュースです』
『今朝8時頃、東京都台東区のマンションで大規模な爆発事故が発生しました。
現場ではこの事故によるものと思われる多数の死傷者が確認されています』
『また、現場を飛び去る人影のようなものが撮影、目撃されており、警察は事故との関係を調べています』
【クラス】
バーサーカー
【真名】
雲沼ジグ@ステルス交響曲
【ステータス】
筋力A++ 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具EX (黒竜化)
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
狂化:A-
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
ジグが応じれば一応意思疎通は可能。
単独行動:C
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
ランクCならば、マスターを失っても一日間現界可能。
【保有スキル】
現実逃避:C
自分にとって不都合な現実から逃避する心の動きがスキルとなったもの。
辛い目に遭ったときや深く絶望したとき、ジグは「これは『嘘』だ」と思い込み、否定・忘却することで精神的な防御としていた。しかし信頼していた救護院の院長が最初から自分を騙していたことを知った時、世界は彼にとって否定すべき『嘘』となった。
魔力放出:A-
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
咆哮と共に雷撃状の魔力を放出する。
ジグの場合、放出というよりは漏出に近い現象であり、細かいコントロールは利かない。故にジェット噴射のような運用はできない。
黒竜の肉体:A
『怪力』『自己再生』『頑健』を含む複合スキル。
竜の始祖・黒竜へと変生を遂げたジグの肉体。
マグマを泳ぎ、液体窒素を飲み干し、宇宙を生身で飛び回る竜―――その始祖たる黒竜には膂力で比肩できる者はなく、黒竜の力でなければ傷を負わず、重度の傷でもたちどころに治癒し、背中の機械が翼となり自由に空を駆ける。
ただし、サーヴァント化に伴い弱体化しており、通常の宝具でも傷つけるくらいは可能だし、竜特攻や竜を殺した逸話を持つ宝具なら問題なく殺しうる。
【宝具】
『黒竜孵す卵の殻』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
『自動反撃装置』の正体。
竜の始祖である黒竜の魂が装置の核として納められており、装着者を黒竜に変生させる。
反撃機能を使えば使うほど竜化は進行する。本人がそれを自覚するのは後戻りできなくなってからである。
【weapon】
黒竜と化した肉体
【人物背景】
黒竜復活の触媒として人生を弄ばれた少年。
物語の舞台である神防町にやってくる前は人里から離れた村で暮らしていた。
しかし妹の誕生日を祝うために自宅に一時帰宅していたところをチンピラの逆恨みで放火され、家族全員が死亡。 翼により悪意を持った放火であることを断定し、自動反撃で負傷して動けなくなったそのチンピラを殺害している。
その後も『凄惨な何か』があり、村人を少なくとも28人殺害。村を壊滅させた。
そうした事実を「嘘」として忘却・逃避することで精神的な防御としていた。 ただし心の奥底ではそれらを正しく理解している。
もちろん、生前の出来事も、その最期も、サーヴァントとして召喚されてから殺した人たちのことも―――。
【サーヴァントとしての願い】
家族と共に在りたい。
最終更新:2021年07月05日 22:04