「それじゃあ、またねー! 三風ちゃん!」
「うん、またね。ウェンディちゃん」

 夕焼けの空の下、手を振りながら茶髪の女の子とお別れした。
 彼女はウェンディちゃん。私が通う中学校の留学生で、日本語がとても上手なんだ。
 私のクラスに転入したウェンディちゃんとは席が隣同士。その縁でいっぱいお話しするようになって、仲良くなったの。
 まだ、家には呼べていないけど。

「明るい子だな、ウェンディちゃん。でも、あの子もNPC……なのかな」

 ウェンディちゃんの背中が見えなくなった頃、私は呟く。
 私、宮美三風は聖杯戦争のマスターに選ばれちゃったの。
 どんな願いでも叶えてくれる神秘の器……聖杯を巡り、マスターとサーヴァントがペアを組んで戦って、生き残らないといけない。舞台となった街には、現実に生きる人達を元にしたNPCという住民が暮らしているみたい。
 でも、どうして私がマスターになったのか、未だにわからないよ。
 気が付いたら、頭の中にたくさんの情報が詰め込まれちゃった。最初はパニックになりそうだったけど、サーヴァントさんのおかげで落ち着くことができた。

「……私、誰かを押し除けてまで叶えたい願いなんて、ないんだけどなぁ」

 道を歩く生徒の数が少なくなった頃、ため息混じりに呟く。
 聖杯を手に入れれば、どんな願いでも現実にできる。とても素敵な話に聞こえるけど、その為に誰かを傷付けるなんて絶対にイヤだ。
 それは、私の素敵な家族だって同じだから。


 私の生活は、普通の人たちとはちょっと違う。
 赤ちゃんの頃に施設に捨てられたから、私はお母さんの顔や声を知らない。
 かんろ児院という施設に預けられ、家族のことを何も知らないまま育てられた。赤ちゃんだった私が入っていたバスケットには、『宮美三風』と書かれたタグが添えられていたから、そのまま私の名前になっている。
 そして、バスケットには水色に輝くハートのペンダントも入っていた。私とお母さんを繋いでくれるたった一つの宝物だから、いつも持っているよ。


 そんな私だって、いつまでも子どもでいられない。
 中学校と高校を卒業すれば、社会に出て働く義務が生まれる。かんろ児院を離れて、誰の助けも借りずに一人で生きていくことはとても不安だよ。
 でも、私の日常に大きな変化が訪れる。ある日、国の偉い人から『中学生自立練習計画』という練習が持ちかけられ、施設を離れて同じ年代の女の子と一緒に暮らすことになったんだ。
 毎日のお仕事はもちろん、料理や掃除などの家事、病気になった時の備えなど……社会に出て生活するには大変なことがいっぱいある。将来、自立が必要になった時の練習として、私はこの計画に参加することを決めた。
 そうして、施設から出た私が訪れた『家』には……私と全く同じ顔の女の子が3人もいたの!
 ひとりぼっちだと思っていた私には、姉妹がいることがわかったよ!


 四つ子の四姉妹がいて、私・宮美三風は三女なの。
 しっかり者で頼りになる長女の宮美一花ちゃん。
 とても明るくて関西弁の次女の宮美二鳥ちゃん。
 おとなしいけど頭脳明晰な四女の宮美四月ちゃん。
 みんな、私の自慢の家族だよ!



 だけど、素敵な四つ子の暮らしはメチャクチャにされてしまう。
 何の前触れもなく、私だけが聖杯戦争に巻き込まれちゃって、いかりを覚えているよ。
 みんなはいなくなった私を心配しているだろうし、もしかしたら他のみんなも聖杯戦争に巻き込まれているかもしれないと考えると、不安になる。

「……ウェンディかぁ」
「わあっ!?」

 いきなり後ろから声が聞こえてきて、私はビックリしちゃう。
 振り向くと、私のサーヴァントさんが姿を現していた。普段は霊体……透明になって私を見守ってくれるみたいだけど、自分の意思で姿を見せてくれるの。
 背中に大きな剣を背負い、銀色に輝く兜や鎧を纏っていて、まるでおとぎ話に出てきそうな騎士だった。体格もよくて、赤い髪もライオンのたてがみのようにボリュームが溢れているよ。
 この人はデュランさん。セイバーのクラスになって、私のサーヴァントとして召喚された男の人なんだ。

「でゅ、デュランさん!? いきなり出てこないでくださいよ!」

 デュランさんが唐突に出てきたせいで、私の心臓はバクバクと音を鳴らしている。

「わ、悪い! マスター! 驚かせちまって……
 いや、あのウェンディって女の子が、俺の妹によく似ていてよ……」
「妹? もしかして、デュランさんにも妹さんがいるのですか?」
「あぁ。俺のたった一人の妹さ。
 父さんと母さんは、俺がガキの頃に亡くなった……身寄りのない俺達を、ステラ伯母さんが育ててくれた。
 俺の父さん……ロキは、本当にスゲー騎士だったんだぜ? 黄金の騎士と称される程に強くて、俺はそんな父さんに憧れて剣の道を目指したのさ。
 ウェンディやステラ伯母さんだけじゃない……みんなを守れるようになる為にな!」

 どこか寂しげに、それでいて誇らしい瞳でデュランさんは語る。
 不謹慎とわかっているけど、デュランさんが羨ましかった。私は施設に預けられたから、お父さんとお母さんの顔は知らない。私のお母さんは雅さんという名前だけど、どこで何をしているのかわからないよ。
 だから、家族と一緒に育ったデュランさんが、私にとって遠い存在に見えちゃう。

「素敵なお父さんだったんですね」

 でも、デュランさんの姿はとても大きく見えた。
 デュランさんのお父さん・ロキさんは今も生きている。デュランさんの心の中で、いつだって支えてくれているはずだ。
 雅さんだって、遠くから私のことを励ましてくれている。ペンダントがある限り、私とお母さんは繋がっているから。

「当たり前だろ? いつだって、父さんは俺に道を示してくれているのさ! 俺は父さんに負けないよう、どこまでも強くなりたいと思ってるぜ!
 黄金の騎士ロキから、多くのものを受け継いだ騎士として……そして、一人の男としてな!」
「そっか……とても、いいことですよ! あっ、でも……」
「どうしたんだ? マスター」

 私の声のトーンが落ちて、デュランさんは首を傾げてしまう。

「……それって、他のマスターさんやサーヴァントさんを傷付ける……って、ことになりますよね?」

 ずっと気になっていた疑問を、私は口にした。
 デュランさんはとても頼りになる人だよ。そのテンションには置いて行かれそうになるけど、私を本気で守ってくれる。
 でも、その為に他の誰かが死ぬかもしれないことを考えると……私の胸は苦しくなる。
 願いが叶うなら、今すぐ家に帰りたい。でも、それは私だけじゃなく、他の人たちも同じのはずだよ。

「確かに、そうなるな。もしかしたら、相手の命を奪うことになるかもしれねえ」
「……どうにか、なりませんか?」
「それができたら、みんな幸せだろうな。父さんだって、きっと命を落とさずに済んだかもしれねえ……でも、どうにもならねえ相手もいるのさ」

 デュランさんの目はとても真剣だ。
 デュランさんだって相手の命を奪いたいと思っていない。でも、世の中にはどうにもできない相手もいる。
 そんな人たちから、みんなを守りたいと願ったからこそ、デュランさんとロキさんは強くなったはずだよ。


 デュランさんの言うこともわかる。世の中には、どうにもならない相手がいることも事実だよ。
 例えば、二鳥ちゃんの里親さんになってくれた佐歩子さんと武司さん。あの二人は一方的な思い込みから、愛する娘として育てていた二鳥ちゃんのことを遠ざけて、そして二鳥ちゃんを捨ててしまった。
 二鳥ちゃんがどれだけ気持ちを伝えても、あの人たちは二鳥ちゃんの話に耳を傾けず、自分達の都合のいい理屈をふりかざした。
 そんな二人のことを二鳥ちゃんは許してくれた。でも、二鳥ちゃんは泣いていたよ。
 だから、私は……私たちは今の家族を絶対に捨てたりしないと、心から思うようになった。


「……ただ、俺の剣は誰かを守るためにあるのさ。マスターだけじゃない。マスターの家族のことだって、俺が守ってやるよ」

 私の心を察しているように、デュランさんはニッと朗らかな笑みを見せてくれる。

「ありがとうございます、デュランさん」
「いいってことよ。さっき驚かせたお詫びさ! 今度からは、出てくる前にはきちんと声をかけるぜ!」

 夕焼けの下、デュランさんの声は豪快に響く。
 とても頼りになる姿で、胸が熱くなりそう。私達にお兄さんがいたら、こうしてお話をしながら歩いたりするのかな。
 今度、双子の兄弟のトウキくんとリオくんに聞いてみようかな。


 そうして、私は家に帰る為に歩き続けている。
 私達四姉妹が暮らすようになった大切な家が、この世界にもある。
 家の作りは全く同じ。一花ちゃんも、二鳥ちゃんも、四月ちゃんも、私の大切な家族はみんな暮らしているよ。
 だけど、もしかしたら彼女たちはNPCかもしれない。そんな不安が、私の中で芽生えていた。


 みんな、いつもと変わらない様子で私と暮らしてくれる。
 でも、私の大切な家族が利用されることが許せない。まるで、私たちの生活を踏み荒らされたみたいでいやだ。
 もちろん、例えみんながNPCでも、私は否定するつもりはないよ。だって、無理やり生み出されただけのみんなに、責任なんてないから。

(そういえば、もしも私たちがみんなNPCになっていたら、私達は四つ子じゃなくて八つ子になるのかな?)

 ふと、私の中で疑問が芽生える。
 たとえば、朝に起きて一花ちゃんに「おはよう」を言うと……

「おはよう、三風!」
「「おはよう、一花ちゃん!」」

 ここにいる私と、NPCの私が同時に挨拶をしちゃうの。
 そんな光景を、二鳥ちゃんは楽しそうに笑ってくれるはずだよ。


「あははっ! 一花、今どっちの三風ちゃんにおはようって言うたの? 今のうちらは、四人じゃなくて八人になったことを、忘れたらあかんって!」
「それを言うたら、うちらも同じやろ? うち、宮美二鳥だって、二人もおるんや!」
「ホンマや! うちは二鳥やから、二人もいるんやな!」

 二鳥ちゃんだって、私が知っている二鳥ちゃんとNPCの二鳥ちゃんで二人もいる。
 そうすると、家の中がもっと明るくなるよね。

「そんなのんきな話じゃないわ! 私たちが8人になったら、これからの生活がもっと大変なことになるのよ?」
「その通りよ! 食事代だってかかるし、洗い物や洗濯物だって増えるわ。スケジュールだって、見直さないといけないし……」
「「……くすっ」」

 二人の一花ちゃんも、この状況に悩むかもしれないけど、お互いに支え合うはずだよ。
 だから、文句を言いつつも、笑ってくれるかもしれない。

「えっと……僕たちで、これからの呼び方も考えませんか? 今まで通りだと、不便かもしれませんし」
「そうですよ。三風姉さんも、同時に応えちゃいましたから……人間の僕たちと、NPCの僕たちで、それぞれわけた方がいいと思います」

 四月ちゃんだって、二人になっても落ち着いてアイディアを出してくれる。
 むしろ、四月ちゃんが二人になれば、推理力だって二倍になるのかな?


 入学当初、私たちが同じクラスになったら、どうなるかを想像したことがある。
 人間の私たちと、NPCの私たちが一緒に暮らすことになったら、大変なことになるのは確かだよ。でも、今まで以上に、おもしろいことになりそうだね!

「ふふっ!」
「どうした、マスター? 何かいいことでもあったのか?」
「はい! 私の周りには、素敵な人たちがいっぱいいることに、嬉しくなったんです!」

 家で待ってくれている家族のみんなと、私の隣を歩いてくれるデュランさん。
 私は過酷な戦いに巻き込まれちゃったけど、落ち込むことはない。だって、私のことを想ってくれる人が、たくさんいる。
 だから、私はいつだって笑っていられるよ。


【クラス】
セイバー

【真名】
デュラン@聖剣伝説3 TRIALS of MANA

【属性】

秩序・善

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:A 敏捷:B 魔力:E 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】

対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】

クラス4:A
大魔術師グラン・クロワの導きを受けて、黄金の騎士ロキとの一騎打ちに勝利したデュランが得た力。
勇気のオーブにより、デュランは比類なき力を発揮できる。世界を破滅に導こうとする大魔女アニスが相手になろうとも、決して負けることはない。

【宝具】

『救世主が振るうは、光陣剣(トライアルズ・オブ・セイヴァー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:1人

クラス4・セイヴァーにクラスチェンジしたデュランが振るう光の剣。
魔法陣で敵を拘束し、光の如く勢いで駆け抜けながらダメージを与えて、最後に極光を炸裂させる。
斬撃はもちろん、その輝きを浴びた者は致命傷を避けられない。

【Weapon】

勝利の剣

【人物背景】

草原の王国フォルセナで生まれ、黄金の騎士と称された父・ロキに憧れて剣士に憧れた青年。
強さを得るために自己研鑽を欠かさず、負けず嫌いな性格。言動は荒っぽいが、身近な人間からは慕われており、英雄王リチャードに対しては敬意を欠かさない。

その実力はフォルセナでもトップレベルで、祖国を守るファイターとして活躍していた。しかし、ある夜に魔法王国アルテナから紅蓮の魔導士の襲撃を受けて、圧倒的な魔力に敗北する。
幸いにも命は助かったが、紅蓮の魔導士の犠牲になった仲間は多く、デュランの誇りが砕け散ってしまう。
だが、英雄王リチャードを侮辱した紅蓮の魔導士を許すことができず、デュランは強くなりたいと心から願うようになり、旅立った。

旅の中でデュランは数多くの仲間達と出会い、共に戦い、確実に強くなった。
やがて、デュランと仲間たちは世界の運命を左右する戦いにも関わるようになる。世界を救う為、大魔術師グラン・クロワの祝福を受けてセイヴァーにクラスチェンジした。
クラスチェンジを果たしたデュランは、仲間達と力を合わせて数多くの戦いに勝利する。そして、大魔女アニスやブラックラビはもちろん、マナの聖域を襲った巨悪の打倒を果たした。


【サーヴァントとしての願い】

マスターと、マスターの家族を守るためにこの剣を振るう。


【マスター】

宮美三風@四つ子ぐらし

【マスターとしての願い】

家族みんなで過ごせる家に帰りたい。

【ロール】

普通の中学生。
宮美家の四姉妹として過ごしています。

【能力・技能】

運動はやや苦手だけど、手芸や絵が得意。
得意科目は国語で、理科と数学が苦手科目。ただし、テスト勉強をしたおかげで点数を取れるようになった。
また、四つ子で生活したおかげで家事スキルも身についている。

【人物背景】

宮美家の三女。
生まれてすぐに施設に預けられ、家族のことを知らないまま育ったものの、ある日から自分には家族がいることを知る。
姉の一花と二鳥、妹の四月と共に暮らすようになり、姉妹の絆を深め合っていく。

【方針】

元の世界にいるみんなも、この世界にいるみんなも大切にしたい。

【備考】
原作第8巻以降からの参戦です。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年07月05日 22:08