北極の海で、一人の男が潜水艦に乗り込み沈んでいく。
それを見送るのは、男の宿敵だった一人の少年。
男は世界征服を企んでいた。
その為に己が持つ能力、組織力を十全に使い活動し、いずれは成し遂げることもできただろう。
だがそこに、宿敵だった少年が男の野望を阻むべく現れた。
少年は男の野望を非道と断じ、阻止するために戦いを挑む。
長く壮絶な戦いの果て、四度の敗北を期した男は悟る。
自分は決してこの少年には勝てないのだと。
だからこそ、男は一人北極海で眠ることを決断した。
少年はそれを受け入れ、見送る。
(長い戦いだった)
男の眠りを見送った少年は思う。
そして、もう二度と宿敵が目覚めることはない、と確信していた。
だが同時にこうも思った。
――これから僕は、どうすればいいのだろうか。
◆
「好きにしたらいいんじゃねえの?」
都内のとある一軒家。
表札に『山野』と書かれたこの家は、普段は両親と息子一人の三人家族が暮らすごく普通の一軒家である。
ただし、今は両親が共働きの上海外出張に行っているので、中学生の息子である浩一が一人暮らしをしている。
この家には今、二人の少年がいる。
一人は山野家の一人息子にして、家の中にも関わらず未だ学生服を着たままの山野浩一。
彼は正真正銘この家の住人である。
対し、もう一人は違う。
緑を基調としたジャージを着て、リビングでテレビゲームに興じながら、浩一と話す彼はこの家の住人ではない。友人でもない。
彼は、浩一のサーヴァント、セイヴァー。救世主のクラスを宛がわれた浩一の従者。
その彼は今、マスターである浩一の話を聞いて、困り顔を見せていた。
浩一の話とは、平たく言うなら人生相談だ。
己の全てをかけて倒すべき宿敵との戦いを終え、これから何をすればいいのか、という内容の。
「僕には、自分で言うのもなんですけど、元の世界なら世界征服を実現できるほどの力があります。
でも、僕はそんなことをしようとは思いません」
「じゃあいいじゃん」
「でも何もしない、というのも我慢できません。
僕の血を輸血すれば、助からないほどの大けがをした人でも助けられますし、僕の超能力を使えば、捕まえられない悪人は居ません」
「力があるから何かしなきゃいけないって訳でもないだろ。
いや、そういうこと言う奴は生前の仲間にもいたけど、俺はそうは思わねえし」
それに対し、セイヴァーは好きにしたらいいとしか言えない。
そもそも、セイヴァーの生前には力の有無に関わらず好きに生きていた人間が多い。
否、人間に限らず神でも悪魔でもそうだった。
だからこそ、浩一の悩みはセイヴァーには今一つ共感し辛い。
「したいことならする。しなきゃいけないことも、まあ面倒くせえけどやる。
やりたくないなら、出来る限りやらないようにする。これじゃ駄目なのか?」
「むむむ」
「何がむむむだ」
しかし、セイヴァーの彼なりに真面目な返答を聞いて、今度は浩一が困ってしまう。
浩一は己の運命に従い、使命を見つけ、その為に戦い抜いた人間だ。
そしてそれらの為に、人間としての生活、幸せ。全てを捨てた。
だからこそ、出来ることがあるならすべきで、自分の為に何かする、という考えが染みついているのだ。
「まあ、その辺りは聖杯戦争中に考えます」
「自分探しかよ」
結局、浩一の人生相談の結論は保留になった。
人生の意味など、そうやすやすと見つかるものではない。
「まあ、この聖杯戦争はマスター、サーヴァント問わず、色んな世界から来ているらしいぜ。
うまくすりゃ、浩一も違う世界に行けるかもな」
「違う世界……」
セイヴァーの何気ない言葉に対し、浩一は懐に入れている自分のスマホを取り出す。
もっとも、このスマホはあくまで聖杯戦争の間だけのもので、彼も使い方は理解している物の、見たのはこの模倣東京に来てからだった。
それもその筈、なぜなら彼はこの再現された東京の年代である2020年代より、半世紀ほど昔から来たのだから。
「僕からすれば、この東京がまず別の世界です。
僕は1970年代にいたのに、ここは2020年を超えて、電話が持ち運びできるようになったり、知らないものが一杯あったり。
後年号が二回も変わって、驚きました」
「年号は俺もビックリしたわ」
うんうん、と頷くセイヴァーだが、彼の場合、生前知っている日本は2010年の物なので、浩一に比べればジェネレーションギャップは少ない。
ほぼゼロと言ってもよかった。
だが浩一も、1970年代とは思えないほどのオーバーテクノロジーに触れ続けてきた身。
驚きはしつつも、この時代の住人と遜色ないほどにスマホなどを使いこなすのに、時間は必要なかった。
それより大事なことが、彼らにはある。
「セイヴァー、聞いていいですか?」
「あん? 何だよ」
訝し気に返答するセイヴァーに対し、浩一は真剣な表情で切り込んだ質問をする。
「セイヴァーは、聖杯に何か願いがありますか?」
「別にないんだよな、それが」
セイヴァーの答えに浩一が呆気に取られている間にも、彼のゲームをしながらの言葉が続く。
その様は正しく、聖杯よりも今遊んでいるこっちが大事だと言わんばかりの態度だ。
「正直、俺別に召喚されるつもりなかったし。戦争なんて物騒なことしてまで、叶えたい願いとかもねえし。
なのに何でここにいるんだろうな俺……俺より浩一の方が強いレベルだぞ。俺、一応サーヴァントなのに。
つーか俺のどこがセイヴァーなんだよ……救世主とかやったことねえっつの」
ついには落ち込み始めたセイヴァーに対し、浩一は二の句が継げない。
「正直もう、今久しぶりにゲームできて楽しいし、後はまあ、テレビでも見ながらピザだのラーメンだの食って、適当に現世楽しめたらそれでいいわ」
あまりにも安上がりなセイヴァーの結論に、浩一はどんな顔をすればいいか分からなかった。
それでも、彼はセイヴァーに自分が考えていた方針を提示する。
「セイヴァー。僕は、僕みたいに不本意にこの東京へ連れてこられた人を、助けたいと思います」
「おお、いいんじゃね? で、それ以外の奴は?」
「もし、世界征服みたいに邪悪な願いを持っている人がいたら、倒します。
そうじゃなかったら、まあ、狙われない限りは特に何もしません」
「あ、言い忘れてたけど、俺マスターは悪人でも殺さないからな。
というか、サーヴァントならまあ……ギリギリオッケーだと思えるけど、人は嫌だ。人じゃなったらセーフだけど」
セイヴァーのこの言葉に、浩一はさっきまでとは違う驚きに襲われた。
浩一は、無辜の民や弱い者は極力守ろうとする。
勿論、手を伸ばしても届かないこともあるが、それでもできる限りは助けようとする。
だが敵は違う。浩一は、敵に与するなら殺す。
催眠術などで、当人の意志を無視して操られているというのなら別だが、自分の意志で悪に与するなら容赦はない。
だからこそ、悪でも人は殺したくないというセイヴァーの言葉に驚いたのだ。
なので、セイヴァーが嫌なら自分でやろう、と浩一は結論を出した。
最後に、彼は自身の従者に問う。
「分かりました。セイヴァーが人を殺したくないことは、頭に入れておきます。
それより、僕は、まだあなたの真名を聞いていません」
「ああ、そういや言ってなかったっけ?」
うっかりしてた、と呟いてセイヴァーはゲームを止め、浩一に顔を向けてから自己紹介をする。
「俺の名前は――」
【クラス】
セイヴァー
【真名】
佐藤和真@この素晴らしい世界に祝福を!
【パラメーター】
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運A+++ 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
カリスマ:E
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
生前はなんだかんだ意外と人望があり、結構指示に従ってもらえた。
対英雄:D
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
Dランクなら敵サーヴァントのパラメーターのうち、ランダムで宝具以外のどれか一つだけを一ランク下げる。
これは正道を歩まず、姑息な作戦や意外な発想で戦うセイヴァーの、英霊らしくなさの象徴。
【保有スキル】
冒険者:B
専科百般の亜種スキル。
セイヴァーが生前教わったスキルの全てを総称したものであり、Dランクのスキルとして使用可能。
ただし、このうちの二つが後述の宝具となっており、それらはスキルとして扱わない。
幸運:A++
このスキルの持ち主は、パラメーターの幸運に無条件で+が二つ付く。また、自身が不利な状況の場合は更に一つ追加される。
更に、敵と幸運対抗ロールをした場合、自身より幸運が低い相手ならば無条件で勝利する。
ただし、幸運がEランクの味方サーヴァントが自身の付近にいる場合、自身の幸運ランクがCランクまでダウンする。
その際、スキル効果で付いているプラスは取り除かれない。
【宝具】
『この右手にお宝を!(スティール)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
相手の持っている物をランダムで一つ奪うスキル。
セイヴァーは生前、確実に相手が一番奪われたくない物を的確に奪う逸話がある為、宝具となった。
この宝具を喰らった者は、一番奪われたくないものを奪われる。
ただし、何を奪うかはセイヴァー自身にも分からないが、どういうわけか女性に使用すると下着を盗むことが多い。
『この素晴らしい世界に爆焔を!(エクスプロージョン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:2-100 最大補足:1000
セイヴァーがいた世界における最強の魔法。威力、射程共に最高ランク。
あらゆる存在に効果を発揮するが、習得難易度が高い上に、魔力消費も激しすぎるので使い手がほとんどいない魔法でもある。
その為、セイヴァーがこの宝具を一度発動した場合、魔力消費で自身は消滅する。
ただし、セイヴァーは生前この魔法で魔王を倒した逸話があるので、敵サーヴァントに命中した場合、無条件で相手を確殺する。
『この素晴らしい世界に祝福を!』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
生前のセイヴァーと仲間たちと、彼らが暮らしていた始まりの町アクセルを心象風景として展開する固有結界。
発動者を中心にアクセルを展開し、彼の仲間であるアクア、めぐみん、ダクネスを召喚する。
彼自身は魔術師ではないが、彼の仲間たち全員で術を展開することにより、固有結界の発動を可能にしている。
【weapon】
セイヴァーが生前、日本刀を模して鍛冶師に作らせた刀。
ただし、彼の知識の曖昧さのせいで、剣としては普通のものである。
更に、セイヴァーの剣術は知人曰く『子供のチャンバラごっこ』レベルのものなので、生前はほぼ使われたことがない。
名前のセンスは彼の仲間、めぐみんの物である。
ごく普通の弓矢。
セイヴァーが持つ狙撃スキル(冒険者の内一つ)のおかげで、命中率はほぼ百発百中を誇る。
ただし、筋力や敏捷が低いので攻撃力は低く、物理耐久が高ければ跳ね返されることも。
頑丈な金属でできたワイヤー。敵を拘束するときに使う。
セイヴァーお気に入りの一張羅。ごく普通のジャージ。
【人物背景】
元々は現代日本で暮らしていた引きこもりの16歳。
しかしある日、トラクターに轢かれると勘違いしてショック死し、彼は異世界転生を果たす。
異世界に転生したセイヴァーの下に、一癖も二癖もある仲間がなぜか集まり、成り行きで巻き込まれたトラブルをなんとかしたり、強敵と戦い勝っていく末に、彼はついに魔王すら打倒した。
【サーヴァントとしての願い】
別になかったけど、呼ばれた以上は久々の日本を楽しみたい。
【マスター】
山野浩一(バビル2世)@バビル2世(原作漫画版)
【マスターとしての願い】
自分のやりたいことを見つけたい
【weapon】
彼が従える三つのしもべ。以下に示す。
・ロデム
どんな姿にも変身ッ可能な、スライム型の不定形生命体。普段は黒ヒョウの姿を取る。
彼には意思があり、浩一とテレパシーで会話し、サポートをする。
・ロプロス
巨大な鳥型のロボット。
超音速で空を飛び、口からロケット弾と超音波を放つ。
・ポセイドン
巨大な人型ロボット。強力な攻撃力と防御力が売り。
海中を高速で移動し、海を拠点とするが陸での行動可能。
ただし、いずれも現状では使用不可。
さしもの彼らも、界聖杯内の模倣東京までは来られないのか、それとも――
なお、5000年前に作られたものなので、神秘も相応に備わっていると思われる。
【能力・技能】
とにかく多彩な能力を使いこなす。
ただし、能力を使いすぎると激しく疲労し、キャパシティを超えて急激に消耗すると、老化現象を起こす。
長くなるので詳しくはwikipedia(ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%93%E3%83%AB2%E4%B8%96#%E8%B6%85%E8%83%BD%E5%8A%9B)にて。
【人物背景】
元々は普通の家族の元で暮らしていた普通の中学生。
しかしある日から妙な夢を見始めた。それが運命の始まり。
浩一は、バベルの塔の製作者である宇宙人バビルの遠い子孫であり、超能力者だったのだ。
彼は、バビルの遺産であるバベルの塔と三つのしもべを受け継いだ。
しばらくしてから、浩一は自身と同じくバビルの子孫であり、同じく超能力者であるヨミと出会う。
ヨミは世界征服を企んでおり、浩一に対し仲間になるよう迫るが彼はこれを拒否。
それから、浩一とヨミの壮絶な戦いの日々が始まった。
長い戦いの末、ついにヨミとの決着をつけ、彼は北極海に沈んでいく。
浩一がそれを見送ったところで、彼はこの聖杯に呼ばれた。
【方針】
聖杯戦争に不本意で巻き込まれた人々を助ける。
【備考】
参戦時期は第4部終了後です。その名は101は経験していません。
与えられたロールは都内の中学生です。
最終更新:2021年07月10日 20:24