「聖杯……確か、ヨーロッパ文学の聖杯伝説に登場する架空の器でしたよね? あるいは、キリスト教にとても関係が深いものとも聞きました」

 僕・宮美四月は図書館で調べ物をしています。
 ある日、僕は聖杯戦争と呼ばれる戦いに巻き込まれて、聖杯を巡って生き残ることになりました。
 聖杯とは、わかりやすく言えばどんな願いも叶えてくれる魔法のランプです。魔人が出てくるかはともかく、万能の願望機と呼ばれていますね。
 でも、本当はキリスト教の聖遺物で、儀式に必要な道具だったはず。とても神秘的で、聖杯伝説に限らず、たくさんの作品で登場しているでしょう。

「ただ、願いを叶えるというのは……フィクションの中だけの話じゃないでしょうか」

 聖杯戦争という名前の通り、この戦いでも聖杯が大きなカギを握ります。
 ですが、僕は聖杯の効果について疑っています。いったいどんな原理で願いを叶えるのかわかりませんし、科学的な裏付けだってありません。そもそも、聖杯自体がサギやニセ科学の可能性もあります。
 あいまいなものを信じても、後で痛い目を見るだけです。だから、僕は図書館に訪れて情報を集めることにしました。

「どうやら、聖杯について徹底的に調べる必要がありますね。あと、サーヴァントのヒントになる本も、見つけないと」

 この図書館に訪れた理由はもう一つあります。
 僕のパートナーになってくれた人……サーヴァントさんに少しでも関係がありそうな本を探すことでした。
 過去に偉業を成し遂げた人が、たくさんの祈りや願いを元にして現代に召喚された存在がサーヴァントのようです。わかりやすく言えば、ファンタジーの世界に登場する精霊や幽霊に近いですね。
 あと、幽霊といえば、肝試しで四ツ橋家の夜の森に訪れたことがあります。姉さんたちや、四ツ橋家の双子と一緒にくらい森を歩きましたよ。(この時の話が気になっていたら、『おもしろい話、集めました。R(ルビー)』の短編を読んでくださいね)


 僕の元に召喚されたサーヴァントは、『幽霊』や『精霊』のようなオカルトではなく、僕を守ってくれる『パートナー』です。
 今だって、僕と一緒に本を探してくれていますから。

「四月さん。お探しの本は、こちらでしょうか?」

 穏やかな女の人の声に、僕は振り向きます。
 僕や姉さんたちよりも背が高い女の人が、きれいな顔で優しくほほ笑んでくれます。ブロンドヘアーはとてもキラキラし、緑色のリボンでふんわりとまとめていました。
 彼女はリースさん。ランサーのサーヴァントとして召喚されて、僕のことを守ってくれます。
 でも、僕はマスターと呼ばれたくありません。なので、お互いに名前で呼び合うことを決めました。

「こ、この本、ですね……! リース、さん。ありがとう、ございます……」
「どういたしまして!」

 リースさんが持ってきてくれた本を、僕は受け取ります。聖杯にまつわる物語や偉人の伝記、さらにはファンタジーや宗教など、ジャンルは幅広いです。
 だけど、にこやかな笑顔を見せてくれるリースさんに対して、僕はどこかぎこちない返事しかできません。
 失礼とわかっていますが、僕自身でもどうにもできず、とてもくやしいです。


 僕は生まれてすぐに施設に預けられました。
 でも、そこで僕はいじめを受けてしまいます。僕が暮らした施設には子どもの数が多いので、大人も気付くことができませんでした。
 僕はいじめに耐えていましたが、忘れもしないあの日……雪も降る程に寒い中、いじめっ子は僕の宝物を川に投げ捨ててしまいます。
 寒さに耐えながらも、宝物を見つけることができました。でも、僕のたった一人の友達の英莉ちゃんがいじめっ子たちに怒ってくれましたが……そのせいで、英莉ちゃんまでもがいじめに巻き込まれます。
 だから、僕は施設から逃げるように『中学生自立練習計画』に参加して、生き別れになった3人の姉さんたちと出会いました。


 僕がいる限り、周りの人たちがどんどん不幸になる。
 友達も作っちゃいけないし、姉さんたちとも家族になってもいけない。そう思っていましたが、姉さんたちは僕を抱きしめてくれました。
 三風姉さんも、一花姉さんも、二鳥姉さんも、僕のことを家族と呼んでくれます。姉さんたちの暖かさと優しさに、僕は涙を流しました。
 そして、僕たちは初めてのバースデーパーティーを開きました。僕たち4人だけで食べたケーキの味と、プレゼント交換の喜びは、これから一生忘れられないでしょう。


 姉さんたちと一緒に色んな所に出かけて、たくさんの人と出会いました。
 大河内直幸くんという優しい男の子とも出会い、僕は何度も助けられています。
 今回も、リースさんに出会えてよかったです。でも、やっぱり他の人と話そうとすると緊張します。
 一花姉さんにも言われましたが、知らない人と不用意に話すのは危険です。リースさんは優しい人ですから、悪いことは何も考えていないでしょう。
 ただ、不安に思っています。僕のお手伝いをしているせいで、リースさんが周りから不審な目で見られるのではないか。
 リースさんみたいな優しい人が、誘拐犯と誤解されるのはイヤだ。
 もちろん、霊体になってくれれば、誰かに見つかることはない。でも、聖杯戦争ではリースさんがいつまでも隠れられるとも限りません。


「それにしても、四月さんは勉強熱心ですね! こんなに本を読もうと考えるなんて、すごいです!」
「昔から……図書館で、本を読むことが……僕は得意なんです……だから、まずは調べ物をした方がいいと思いました」
「頑張り屋さんじゃないですか!」
「理由は、もう一つ。この戦いのカギを握る聖杯について、僕は疑問を抱いています。
 万能の願望器と呼びますが、それならどうしてたった一組の主従しか、願いを叶えることができないのか? 『万能』という言葉を使っているのに、スケールがあまりにも小さすぎます。
 また、仮に効果が本当でも、聖杯の獲得と僕たちが戦うことにどんな関係があるのか? もちろん、いたずらに聖杯を使わせないために、所有者を限定させたいのでしょう。
 ですが、僕たちが傷付け合う正当な理由にはなりません。むやみに使われたくないなら、戦いをせずとも、厳重に封印すればいいだけです」

 気が付くと、僕は抱えていた疑問を早口で伝えちゃいました。
 もちろん、リースさんはあっけに取られちゃいます。いけない! つい、推理をする時のクセが出てしまった。
 姉さんたちや直幸くん以外に、一方的に話したりなんかしたら、きっと変に思われる。

「そこまで考えているなんて、凄いですね!」

 でも、僕の不安をよそに、リースさんの顔がひまわりのように明るくなりました。

「まるで探偵さんみたいです!」
「……推理小説もよく読んでいたので、その影響で考えるクセがつきました」
「だから、聖杯についても疑問を抱けたのですね。でしたら、これからわからないことがあれば、四月さんに聞いてもよろしいでしょうか? 申し訳ありませんが、私は四月さんの文化について、ほとんど知らないので……」
「僕が知っている程度でしたら……大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」

 リースさんの笑顔はとてもまっすぐで、まるで姉さんたちみたいです。
 でも、リースさんの服装についてを考える必要があります。
 羽飾りが付いた金色の兜と、妙に露出度が高い衣装は街中では充分に目立ちます。リースさんの生きてきた時代や文化を考えると、仕方がないかもしれませんが、現代の東京では職務質問をされるでしょう。
 でも、僕たち姉妹の洋服も、リースさんの背丈には合いません。だから、デパートで新しく揃える必要がありますが、姉さんたちにどう説明するべきか。
 きっと、姉さんたちは僕が聖杯戦争のマスターにされたことを知らない。僕がこんな戦いに関与していることを知ったら、絶対に止めます。今回だって、調べ物があるので図書館に行くと姉さんたちに話しました。
 この世界にいる姉さんたちが、本当の姉さんたちなのかわかりません。でも、どちらの姉さんも僕に優しくしてくれます。

「四月ちゃん! 今日は一緒に家の掃除をしようか!」
「四月! 今から買い物に行くけど、必要なものがあったら遠慮なく言ってね!」
「なぁなぁ、シヅちゃん! 宿題でわからないことがあったら、遠慮なく相談してもええんやで!」

 三風姉さんと一花姉さん、それに二鳥姉さんは僕に笑顔を見せました。
 その暖かさに、僕の心が安らぎます。姉さんたちが僕に優しさをくれたから、今の僕がある。
 姉さんたちの優しさを裏切りたくありませんから、僕は聖杯なんて必要ありません。
 僕たちは姉妹4人で、そして周りの皆さんと力を合わせることを誓いました。だから、どんな願いがあろうとも、自分たちで叶えられると信じています。

「そういえば……四月さんには、素敵なお姉さんが3人もいますよね?」
「はい。三風姉さんも、一花姉さんも、二鳥姉さんも……みんな、僕の自慢の家族、です……」
「そうでしたか! 私、ちょっとだけ四月さんの気持ちがわかります! 私の場合はエリオット……弟が一人だけいますね。
 エリオットが誇れる姉でいられるよう、私は頑張りました!」

 リースさんは大きく胸を張ります。
 実は言うと、リースさんはお姉さんです。だから、不思議と心を許せるのかもしれません。

「お父様とお母様の分だけ、私はエリオットに接しました。二人は、今も私の心の中で生きていますから。家族みんなの愛が、私の中に宿っています!」
「家族みんなの、愛……」

 自分の胸に手を当てながら、はかない笑顔を見せてくれるリースさん。
 彼女のご両親は……亡くなりました。
 お母さんはエリオットくんを産んですぐに、お父さんは戦争で命を落としています。それでも、リースさんは悲しみを乗り越えて、悪い人たちにさらわれてしまったエリオットくんを助けるために戦いました。
 彼女と僕は境遇が似ていると、最初は思いました。でも、リースさんは自分の王国をめちゃくちゃにされて、たった一人で戦う運命を背負っています。
 ローラント王国の王女として、そしてエリオットくんのたった一人の姉として。
 リースさんは頼りになる仲間たちと出会って、力を合わせてローラント王国を取り戻し、エリオットくんを助けました。

「……僕も、姉さんたちからたくさんの愛をもらいました。前に、僕は勝手な思い込みで……姉さんたちと、距離を取ってしまったことが、あります。
 でも、姉さんたちは……そんな僕のことを、家族と認めてくれました」
「素晴らしいじゃないですか! 四月さんも、家族みんなの愛で守られているのですね!
 私はサーヴァントとして召喚されたからには、四月さんを……そして、四月さんに宿る愛を絶対に守ります。だから、四月さんも不安なことがあれば、いつでも言ってくださいね」
「……はい」

 リースさんは綺麗な手で、僕の頭を優しくなでてくれます。
 彼女の笑顔と手のひらのぬくもりに、僕はほほ笑みます。きっと、エリオットくんもこうしてリースさんから優しさをもらったのでしょう。
 僕は戦いなんか好きじゃありませんし、聖杯なんてうさんくさいものにも興味ありません。姉妹みんなで幸せになりたい願いはありますが、それは僕たちが力を合わせて実現すると決めました。
 まだ、わからないことは多いですが、これからたくさん調べればいいだけです。今までだって、困難にぶつかっても大丈夫でした。
 隣には頼れるパートナーのリースさんがいますし、家では帰りを待っている姉さんたちだっています。
 こんなにも素敵な人たちが味方をしてくれるから、僕が悲しむ理由なんて一つもありませんよ。


【クラス】
ランサー

【真名】
リース@聖剣伝説3 TRIALS of MANA

【属性】
秩序・善

【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:A 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】
ミーティア:A
大魔術師グラン・クロワから大魔女アニスの存在を知ったリースが、試練を乗り越えて到達した新たなるクラス。
慈愛のオーブによって得られる光のクラス4であり、彼女が槍を振るうだけであらゆる闇を貫くことはもちろん、ステータスアップ及び回復スキルを多数保有する。

救済の光:B
宝具を使用後、味方全員の傷を癒す。

【宝具】
『天星槍』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:‐ 最大補足:-
風の導きの元、自らを中心に巨大な竜巻を起こし、浄化の星……巨大な隕石を呼び起こして敵にダメージを与える。
その範囲は超神や大魔女アニスにダメージを与えるほどに凄まじく、一国の軍隊を巻き込むほどの範囲を誇る。

【Weapon】
ブリュンヒルド

【人物背景】
風の王国ローラントの王女にして、王国が誇るアマゾネス軍のリーダーとなった少女。
品行方正を体現する程に真面目で、周囲に対する気遣いを常に欠かさない程にしっかりしている一方、頑固で融通の利かない一面もある。幼い頃に母・ミネルバを失ってから、たった一人の弟のエリオットには深い愛情で向き合っている。
しかしある日、ナバール盗賊団の襲撃によって王国を滅ぼされてしまう。父・ジョスターを殺害され、またリースの不注意によりエリオットは誘拐されてしまう。
城が燃え盛る中、生き残ったリースは父の無念を晴らすため、またエリオット救出とローラント王国の再建を目指して旅立った。

リースはマナの妖精・フェアリーに選ばれて、共に戦う二人の仲間と巡り会う。
やがてリースは港町パロで信頼するアマゾネス兵達と再会し、共に力を合わせてローラント王国奪還に成功する。やがて、マナの聖域にたどり着いたリース達はマナの剣を手に入れるが、ローラント王国を……そしてエリオットを奪った犯人・美獣イザベラとの決着をつけるためにダークキャッスルへ向かう。
美獣との戦いに勝利するも、世界には未だに脅威が存在した。マナの力とエリオットの体を奪い、超神として君臨しようと企む黒の貴公子と、世界全てを魔界に飲み込もうとする大魔女アニスだ。
二つの脅威に立ち向かうため、リースは大魔術師グラン・クロワの言葉に従って試練を乗り越えて、ミーティアにクラスチェンジする。
ジョスターとミネルバの愛を背負い、ローラント王国の王女になると誓ったリースに敵は存在しない。仲間たちと共に戦った彼女は全ての脅威を打ち倒す。
ローラント王国に帰国したリースはエリオットと再会し、自らの使命を果たしたことを父と母に告げた。

【サーヴァントとしての願い】
どんなことがあろうとも、四月さんを守る。


【マスター】
宮美四月@四つ子ぐらし

【マスターとしての願い】
聖杯戦争の謎を突き止めて、戦いを止める方法を考える。

【ロール】
普通の中学生。
宮美家の四姉妹として過ごしています。

【能力・技能】
運動や人付き合いが苦手だが、勉強は非常に得意。
また、推理力が優れている。

【人物背景】
宮美家の四女。
施設に預けられて育ったが、ずっといじめを受けたせいで人と話すことが苦手。
学校や施設よりも図書館にいた時間の方が長く、その影響で推理力は非常に高い。
いじめから逃げるように参加した『中学生自立練習計画』の中で、生き別れになった3人の姉と出会う。
過去にたった一人の友達までもがいじめに巻き込まれた負い目から、家族や友達を作ってはいけないと思い込んでしまう。しかし姉たちの優しさを受け取った四月は悲しみを乗り越えて、本当の意味で宮美家の一員になった。

【方針】
まずはリースさんと一緒に情報を集める。

【備考】
『おもしろい話、集めました。R(ルビー)』の短編の出来事を経験しているため、四ツ橋桃希と四ツ橋李央の二人と面識がある時期の参戦です。

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最終更新:2021年07月11日 20:30