とある館の一室。
 一人の青年が、座っている青年を見下ろす。
 苦虫を噛み潰したような顔で青年は銃を持ちながら言葉を紡ぐ。

「……なぜ、戻ってきた。」

 後戻りできない袋小路の中に彼はいる。
 これからしなければならないことは、彼が今までしてきたこと。
 だが、それをする相手は今までとは違う。表向きの彼ではなく、
 本来の彼にとって唯一無二の存在だということを。

「連絡がなかったとしても、同じことさ。」

 浅黒い肌をした眼鏡の青年は返す。
 どうなるか分かっているのに、穏やかな表情だ。
 例えるならば、家族と共にいる兄弟のような雰囲気で。

「なんで……なんで、戻ってきたんだ!?」

「アンジェロ。だって僕たち───」

 答える前か、答えると共に。
 彼の言葉と同時に銃声が響いた。





 夜の海。
 月明かりに照らされる暗き水面は、全てを飲み込むかのように。
 別の世界が広がる海を傍らに、砂浜を歩いている黒髪の青年がいた。
 顔立ちは悪くない。十分に美青年と言えるものだろう。
 だが、全てを打ち消すかのような隈に生気のない瞳。
 海のように暗く、底の見えない瞳で歩いていく。
 足跡は、波によって元の形へと戻される。

「あの、マスター……大丈夫ですか?」

 青年の背後に姿を見せる、一人の少女。
 青年よりも幼げな、金髪に甲冑を纏った重装備の騎士。
 一部の毛先が黒いため何処か犬の耳のようにも見える。
 青年は振り返ることないが、言葉に反応して立ち止まった。
 彼女がこの聖杯戦争で彼が召喚したサーヴァント、ランサーになる。

「食事もあまりとっていません。
 私はサーヴァントなので食事の必要はありませんが、
 マスターは歴とした人間です。流石に食べないと……」

「俺は、もう生きる必要がないからな。」

 波の音だけが聞こえる空間に響くかのような、
 気遣う少女の言葉を遮る冷たい言葉。
 心地よい風は寧ろ冷たさを助長させる。

「やることを終えた俺に、聖杯に今更何を願うんだ?
 生きる道を示す……それだけの為に、聖杯を目指して人を殺せばいいのか?」

「確かにそれだと気が引けるかもしれません……ですが、
 マスターにも元の世界で待ってる人が───」

「いない。」

「え?」

 サーヴァントの方へと振り向く。
 何も見てないかのような瞳で言葉を紡ぐ。

「───俺のやり終えたは、家族の復讐だ。」

 青年、アンジェロ・ラグーザは嘗て家族を奪われた。
 両親と弟をマフィアであるヴァネッティ含む三人の手によって。
 その復讐は今や完遂した。ファミリーは彼の目論見通り時期に壊滅。
 家族を奪ったヴァネッティに、家族を奪われる地獄をやり返した。
 ファミリーを家族のように思ってたならば、死ぬよりも苦しいだろうことを。
 そうして復讐を遂げることで、生きる意味を見出せるのではないかと。

「すべてがむだごとだったが。」

 だが行きついたのは空疎、虚無と言った虚しさだけ。
 七年以上持ち続けた想いが叶って、行きついた果て。
 そこにはカタルシスはあっただろうが、大した快感はない。
 生き甲斐と言う自分を形成する何かが消えただけに過ぎなかった。

 アヴィリオと言う器はとっくに壊れていた
 既に空っぽの器であり、同時に壊れた器。
 最早容器としての役割すらこなすことはない。

「家族と呼べる親友も自分の手で殺した。
 俺を待ってる奴は、誰一人としていない。
 生きて戻っても此処で死んでも。俺は同じことだ。」

 世界で唯一と言ってもよかった。
 偽りのアヴィリオ・ブルーノではなく、
 本来のアンジェロ・ラグーザを知るコルテオ。
 彼だけが世界で唯一の理解者だったのに殺した。
 そうしなければ復讐が果たせなかったから。

 心のどこかでは悟っていた。
 こんな復讐に意味があるのかと。
 だが退けば、何のためにコルテオは死んだのか。

「……私はマスターの親友の方を存じていませんし、
 復讐の内容も、深く理解しているわけでもありません。
 ですので、これは私の持論になることをご理解ください。」

 ランサーは悲運の騎士として死を遂げた。
 敬愛する騎士に、自分だと気付かれることすらないままに。
 今のアンジェロのように、自分のことなど欠片も見えていなかった。
 否。見えていたとしても、迷わず殺していただろうと言う確信がある。

「親友の方は、マスターに生きてほしいと思います。」

 だが、それでも。
 彼を恨むことは、糾弾したいとは思わない。
 今も昔も、彼女にとって敬愛する騎士として揺らぐことはない。
 世間には裏切りの騎士として名高い汚名があったとしても。
 彼女はその死に方に悔いはなかった。

「とは言え、持論のとおり死んじゃった私だから、
 とも言えるので……参考にはならないと思いますが。」

 頬を掻きながら目を逸らす。
 結局のところ彼女はコルテオではないし、
 意外と他の事を考えていたかもしれない。

「……あいつも、そう思ってるだろうな。」

 コルテオも生きてほしい。
 だから彼は自分から死を選んだ。
 彼女の言ってることは、恐らく間違いないだろう。
 幻影も恨みつらみを言うようなものばかりではなく、
 まるで支えてくれているかのような、そんな風に見える。

「一先ずは、生き残ることだけを考えてみませんか?
 もしかしたら、此処で答えが見つかるかもしれません。
 生きることに理由を求めず、ただ生きてみると言うことで。」

 この東京は嘗てのアメリカとは大違いだ。
 アンジェロからすれば百年以上時間が流れている以上、
 何をしても当時のアメリカと比べるまでもないほどに充実している。

『まずは一個から練習するんだな。』

 思い出すのはネロのジャグリングを真似たあの日。
 復讐の為ではなくただ生きていたとするならば、ネロとの逃避行の日々だろうか。
 三か月間と言う短い復讐劇の物語、その中でさらに短い出来事。
 あの時が復讐の最中でも感情が曝け出せていた気がした。

 子供のはしゃぐ光景に頬を御ほころばせたり、
 ネロに煽られて手品と言う名のスリの技術を披露したり、
 ジャグリングを真似てみたりと復讐に終始していたアンジェロが、
 それとは一切無関係の、逃げながらもどこか穏やかな日々があった。

「あるとは思えないが。」

「きっぱり言っちゃうんですか……」

 ああいうのがあれば変われるのかもしれないが、
 あれはネロといたから、と言うところもあるだろう。
 此処でどこの誰とも知らない相手と過ごすことで、
 何かが変わるとはあまり思えなかった。

「もう少しだけ生きてみるか……」

 別にガレスの言葉で希望を見出したわけではない。
 自分から死ぬ気すらないぐらいに、ただ無気力なだけである。

 アンジェロは砂浜を歩いていく。
 先程までとは歩く方角が違い、一応帰路へ向かうようだ。
 自分がいては目立つと、直ぐにランサーは霊体化して姿を消す。



 復讐の物語を終えた青年は砂浜を歩いていく。
 本来見るはずだった汚れた空は、今まだ見えない。



【マスター】
アンジェロ・ラグーザ@91Days

【能力・技能】
犯罪
主にスリと言った犯罪で生計を立てており、
銃やナイフと言った道具も使い慣れている。
同時に人を殺すことに躊躇もしない冷静さと欺く演技力。
一般人としては少なくともそれなりに強い部類。

【weapon】
ナイフ

【人物背景】
家族をマフィアに殺された青年。復讐と生きる目的を見出す為に、
アヴィリオ・ブルーノとしてファミリーへと接近し、復讐を遂げた。
だが親友であるコルテオを手にかけたことで精神をすり切らしていき、
復讐を終えた後も『すべてがむだごと』の感想しか出なかった。

【参戦時期】
最終回、ネロに連れ出される前。

【聖杯にかける願い】
特に望むものがない。

【方針】
ランサーに好きにやらせる。

【クラス】
ランサー

【真名】
ガレス@Fate/Grand Order

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力:C 耐久:B 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:C

【クラス別スキル】

対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
馬上槍の名手であるガレスは、ランサーが持ち得ない騎乗スキルを例外的に所有する。

【保有スキル】
狼は眠らず:B++
所謂戦闘続行スキルの強化版。通常の戦闘続行に加えクリティカル率の上昇。
他のスキルとも合わせることでカウンターの一撃が得意となる。

美しい手のガレス:B
変装して城で下働きをしてた際にケイ卿から美しい手、
ボーメイン呼ばれたことに由来するスキル(なおガレスは変装してたため気付かれてない)
原典からして詳細不明ではあるが、ゲームシステム上では被弾の度に攻撃力を強化していた。

【宝具】
猛り狂う乙女狼(イーラ・ルプス)
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1
馬上槍の技の冴えが宝具として昇華されたもの。
怒濤の連続攻撃を叩き込んだ後、必殺の一撃を以て敵を貫く。
数々の名だたる騎士を槍一本で制した程の槍の名手であり、
アーサー王に対して馬上槍試合に挑んだ際には、
その戦いぶりを王から『猛り狂う狼』として讃えられたという。

変身の指輪
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大捕捉:1
生前、貴婦人ライオネスから賜った神秘の指輪。
さまざまな色に変化する指輪であり、姿を変えることができる。
自らの身分を隠しながら馬上槍試合を繰り返していた際には、大いに役に立ったという。
ゲーム上での性能のターゲット集中から、目立つ姿にもなれる様子。

【weapon】
馬上槍
マーリンによって多重に強化されてある種の魔術礼装となっている。
結果、馬上槍なのにレーザーのようなものを放つこともできる一種のガンランス。
なんちゃってアロンダイト・オーバーロードと叫ぶことも。


【人物背景】
アーサー王の円卓の騎士で最も新しく加わった円卓第七席。
ガウェイン、ガヘリス、アグラヴェインを兄弟とする若き騎士。
生真面目であるベディヴィエールがちゃん付けで彼女を呼び、
モードレッドが彼女の存在からガウェインとは揉めないなど、
問題児が多い円卓の騎士の中でも共通して彼女は愛されてきた。
敬愛するランスロットに殺された悲運の騎士ではあるものの、
昼間のガウェインと二時間に及ぶ戦闘を続けることができたり、
数々の騎士を一対一で制したりと、歴とした騎士でもある。
一度信頼した相手は決して裏切らない、清廉潔白な存在。

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最終更新:2021年07月12日 20:46