「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公――」


模倣東京の郊外に建つ、とある魔術師の邸宅。


「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」


そこで一人の男がサーヴァントの召喚を行っていた。


「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」


長く伸ばされた青い髪、吊り上がった双眸。大きな赤っ鼻が特徴的な中年の男。


「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」


足元には血痕が付着したナイフ。
彼が既に何らかの荒事を為したことが見て取れる。


「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。」


滞りなく唱えられる詠唱。


「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし」


しかしそこに通常のものとは異なる一文が滑り込む。


「汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」


それはサーヴァントを狂化させる詞。
これにより、この儀式で召喚されるサーヴァントは破壊に特化したバーサーカーに限定されることとなる。


「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」


輝きと共に召喚陣より現れるは、雪よりも白い和装に身を包んだ小男。
160cmにも満たないであろう体躯にバーコードヘア。39歳である自分よりも一回り上に見える年齢。
とても強そうには見えないその姿に赤っ鼻の男はガックリと肩を落とす。

「ハズレを引いちまったか?」

赤っ鼻の男が欲したのは忠実な下僕であり、決して裏切らない手足だ。
どうせなら強い方が良いと、わざわざバーサーカーとして召喚したにもかかわらず、現れたのが冴えない中年のチビだ。落胆するのも無理はない。

まあいい、と気を取り直す。
己のサーヴァントとして召喚された以上、このチビは使い捨ての戦力として使いつぶそう。
そんな風に考え、召喚陣の中心に立つ小男に向かって一歩踏み出した赤っ鼻の男。
しかし突如その視界が揺らぐ。

(なんだ?)と疑問符を浮かべる男の視界が上から下へ急降下していく。
ゴツン、と何かが頭に激突する。

(なんだ!? なんだ!? 何が起こりやがった!?)

状況を確認しようとするが首が全く動かない。
必死に目を動かして周囲を見回し――あおむけに倒れた自分の胴体を視認してようやく、己の首が切り落とされたことを理解した。



◆◆◆



模倣東京において激戦区となっている23区から離れた郊外にその山は存在していた。
その山頂には鎌倉時代から続く寺が建立されており、霊験あらたかな山として人々の信仰を集めていた。
また、模倣東京内でも有数の霊地であり、霊脈を目当てに多くの参加者がこの地を求めて争った。

現在ではその争いに勝利した二組の主従がこの地を拠点とし、聖杯戦争の打倒を企図していた。

「おや?」

その内の一人であるキャスターが、手元の式盤を覗き込みながら声を上げた。

「どうした? キャスター」
「サーヴァントが一騎こちらに近づいてきています」
「ほう、まだこの辺りにマスターがいたのか」

もう一人のサーヴァントであるシールダーが感心したようにつぶやく。

実際、この霊山を巡って、近辺では何度も戦いが発生した。
予選も後半か終盤に差し掛かりそれらが一段落した現時点で、生き残っている主従は自分たちくらいのものであろう。そう考えていたので、このタイミングまで隠れ潜んでいたマスターの辛抱強さに思うところもあった。
しかしシールダーの思いに反して、キャスターは困ったように言う。

「それが、マスターが私の感知に引っかかって来ないのです」
「サーヴァントが単騎で攻め込んできている、ということか?」
「おそらくは」

ふむ、とあごに手を当て思案する。
考えられるとすれば単独行動スキルを持つアーチャーあたりがマスターを殺害して、新たなマスターを探して徘徊しているということか。
しかしそれなら霊体化するほうが効率的だ。実体化してそれを行うのは少々合理性に欠ける。
あまりにもその意図が読めなさ過ぎた。

「しーるだー、どうするの?」
傍らの幼いマスターが不安げに訪ねてくる。
本来なら彼が意思決定をすべきなのだが、まだランドセルを背負うようになったばかりの彼にマスターの役目を全うしろというのは少々無理があろう。

「大丈夫ですよ」
微笑んで、彼の頭を撫でる。

どれほど行動意図が読めない敵であろうと、自分達に近づくものへの対処は決まっている。

「接触します。敵対するならこれまで同様討ち滅ぼすのみです」


そう決断を下し、キャスターを率いて山門を出る。
この寺に立ち入るには山門に繋がる石段を上り、一本道の石道を通り抜けなければならない。
逆に言えば石段を上って来ないならば無理に敵対する必要はない。
シールダーもキャスターも、彼らのマスターたちも争いを好む性質ではなく、戦わずに済むならそれに越したことはないとは考えている。

しかし、キャスターの式盤がそんな甘い考えが通じないことを教えてくれる。
ゆっくりと、しかし確実に敵サーヴァントを表す碁石はこちらに近づいてくる。

やがて石段を上り切った敵サーヴァントが、四人の前にその姿を晒す。

バーコードヘアーで中年の小男だ。
純白だったと思しき和服は既に何人もその手にかけたのだろう、鮮血で真紅に染まっていた。
敵対的なのはほぼ確実だが問答無用で攻撃するわけにもいかない。とりあえず誰何する。

「止まれ! 我々には争う気はない! 対話に応じるならばクラス名を名乗れ!
 止まらなければ敵と見做し排除する!」

小男はシールダーの声には応えず、それどころか全く意に介することなく歩を進める。
生気を感じさせないその様はまるで幽鬼のよう。
真名はともかく、クラスはバーサーカーと考えて間違いないだろう。

対話は不可能。
彼らの陣営の全員がそう判断し、戦闘陣形を取る。
キャスターとマスターたちは飛翔して山門の上に上り、シールダーは一歩前に出て各々の宝具を構える。

不意にバーサーカーがピタリと動きを止めた。
盾を構えたまま、シールダーが眉をしかめる。
先ほどの制止に今更従ったわけではあるまい。
その証拠に、手に持つ刀は無造作に垂れ下げられ、鞘に納めようとする気配もない。

1秒、2秒と敵の様子を窺うシールダー。
動いた瞬間に制圧に動けるよう身構える彼の耳に―――

「シールダー!!」

―――キャスターの叫びが届く。

それと同時、ギィイン! とけたたましい金属音が響き、盾を持つ右腕に衝撃が伝わる。


(バカな!?)


大慌てて飛び退き距離を取る。

「何をしているのです!? 何故間合いに入られるまで動かないのですか!?」
「うるさい! キャスターは支援を急げ!」

動かないのではない。動けないのだ。
なにせキャスターに声をかけられるまで――否、その刀が己の盾に直撃するまで、バーサーカーが攻撃行動に入っていることすら認識できなかったのだ。

キャスターの陰陽術が天から降り注ぎ、地から生え伸びバーサーカーを襲う。
しかしバーサーカーはすり抜けるように滑らかにその攻撃を回避する。

その隙に、シールダーは己の宝具に魔力を充填する。


シールダーが為さんとするのは真名開放。
盾のみを手にして閉ざされた城門の前に一人立ち塞がり、1000を超える敵兵を打ち砕いた、この英霊の伝説の再現。

「『万敵砕きし晶門の守護盾』!!」

宝具の真名が高らかに宣言され、山門は城壁に書き換わり、城門が具現化される。
その前にはシールダー自身が立ち塞がり、バーサーカーと一対一で対峙する。
魔力によって強化されたその盾は対軍宝具すら容易に防ぎきるだろう。

城壁の上からキャスターが陰陽術を放ち退路と迂回路を塞ぐ。
これによりバーサーカーは正面からシールダーに攻撃を仕掛ける外なくなった。


「来るがいい狂戦士!
 我が盾が貴様の振るう刃全てを弾いてみせよう!」

威勢よく切られる啖呵が空気を揺らす。

バーサーカーはこれに応えるかのように、あるいは完全に無視するかのように、歩み寄る。

「敵、間合いを詰めています! 気をつけて!」

キャスターの忠言が飛ぶ。

シールダーにはバーサーカーの動きを認識できない。
けれど理性を失ったバーサーカーの行動を予測することなど容易である。
先ほどの不可思議な歩法にしても離れたところから俯瞰する者があれば、タイミングを計ることも不可能ではない。

ならば数の利を活かし、安全かつ確実に仕留めに行く。
バーサーカーの動きを俯瞰できる場所にキャスターを置き、自分はタイミングを教えてもらい防御と反撃を行う。
それだけで、決着がつく。


「斬撃、来ます!!」

キャスターの叫びに呼応し、さらなる魔力を盾に込める。
もはやどんな宝具もこの守りを突破することは適わない。そう確信した瞬間、バーサーカーの刃が盾に激突し―――




―――そのまま、シールダーの胴体もろとも、豆腐のように切り裂いた。



◆◆◆



「おうおう。 ハデにやりやがったな」

バーサーカーが二騎のサーヴァントと二人のマスターを屠る様を空中から眺める人影。
長く伸ばされた青い髪、吊り上がった双眸。大きな赤っ鼻が特徴的な中年の男。
その名も千両道化のバギー。海賊派遣組織『バギーズデリバリー』の座長であり、バラバラの実を食べた「バラバラ人間」である。
この能力により体の各部を自在に分離させる事ができ、斬っても斬ってもすぐにくっつけることができてしまう能力を持つ。

その能力ゆえに彼は己のバーサーカーに首を切り落とされても全く問題なかったのだが……

(まったく……あのとき死んだふりしといて正解だったぜ)

己のバーサーカーを観察していたバギーはその学習能力の高さを心底怖ろしいと思った。
聖杯戦争では多くのサーヴァントが鎬を削る。
そんな戦場では当然、未知の宝具や全く想定し得ない能力を持つ者も数多く存在しているのだ。対処が後手に回れば命取りとなることもある。

しかしこのバーサーカーはそれらをまるで最初から想定していたかのように対処した。
そして次の瞬間にはそれを打ち破るための方法をその場で編み出し、敵を斬り伏せた。

あのシールダーとの戦いだってそうだ。
敵の盾が魔力で強化されていると判断し、刀で触れたところから盾の魔力を吸収。防御力を下げた上で斬り伏せたのだろう。
そんな風に、敵の切り札を様々な方法で攻略するのをバギーは何度も見せつけられた。

召喚したとき、いつものように効かないアピールをして斬られ続けていれば、その内覇気すら身につけていたかもしれない。
そうなってしまえばもう対処することはできない。
己はただ斬られるのを待つ巻藁になっていただろう。


(ま、聞いてた話とはだいぶ違ぇが、これはこれで悪くねえ)
故にバギーはこの状況に順応する。
『バーサーカー』というクラスの特徴を聞き、当初想定していたのとは多少異なる戦術を取らねばならないし、それに備えて行っていた仕込みも大体無駄になった。
その上、決してバーサーカーに見つからないようにしながら、近すぎず遠すぎない距離を保ちつつその後ろを付いていかなければならないというしょーもないハンデを背負うこととなった。

しかし、それを補って余りあるほどに己のサーヴァントは強かった。
何せこれまでに4騎のサーヴァントを一刀のもとに切り伏せている。NPCやマスターに至っては50を超えた辺りで数えるのを止めてしまった
これほどの強さがあれば激戦区に突入させても一定以上の成果を上げられよう。


(さあさあバーサーカー…!
 俺のために精々ハデに働いてくれよお……!)

心と顔だけで呵々大笑しながら、バギーは己のバーサーカーの追跡を続けるのだった


【クラス】
バーサーカー

【真名】
偽ジロウ・スズキ@魔法少女プリティ☆ベル

筋力C 耐久D 敏捷C+++ 魔力D 幸運E 宝具A+++

敏捷は攻撃を回避する時大きく向上する。

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
哲学的ゾンビ:B
個人複製技術によって作成されたクローン生命体。その内、本人の十全な同意なく作られたため自我を持たない失敗作を指す。この個体は偶然何らかの方向性を得てオリジナルの能力と知識だけを持った、制御不可能な存在となってしまった。
自我を持たないため、一切の精神干渉を受け付けない。マスターの命令も受け付けない。

狂化:-
バーサーカーにあるまじきことだが狂化スキルを所持していない。
これは狂うための自我が存在していないためである。

【保有スキル】
効率戦闘:A
効率的な戦いができ、非常に燃費が良い。
ごくわずかな体力消費で戦闘を行うことができ、魔力を体力回復に充てることで疲れ知らずで戦うことができる。
また戦闘中でも消費魔力量より自然回復量の方が多いため永遠に戦い続けることができる。
ただし、サーヴァント化に伴い魔力を自然回復させることはできなくなっており、マスターからの供給を受ける必要がある(とはいえ並のサーヴァントと比べてもマスターへの負担は微々たるもの)。

縮地:C+++
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。
ジロウの場合「間合いを詰められている」「間合いが詰められてしまった」ことを敵に認識させない技術となる。このため傍から見ると普通に歩いて近づいているだけに見える。
また、ごく短距離を移動する場合に限りAランク相当の効果を発揮する。

戦闘続行:D
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
偽ジロウの場合腕一本と刀が残っていれば戦闘を続行できる。
空爆により木端微塵の肉片にされてもなお、プリティ☆ベルに切りかかった逸話による。

【宝具】
『個の極致』
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
オリジナルのジロウ・スズキが生前積み上げた経験と技術が宝具に昇華されたもの。
想定外の事態に直面したとき、積み上げてきた膨大な経験からその状況に対応できる手札を即座に作り出すことができる。
ジロウ・スズキの代名詞ともいえる「見えていても予測していても回避を許さない、完全な無拍子で繰り出される斬撃」はこうした経験から身につけた技術の一つに過ぎない。

【weapon】
日本刀

【人物背景】 
東の魔王軍の王 ジロウ・スズキのクローン。本人の十全な同意なく作られているため自我が存在しない「哲学的ゾンビ」。
「永遠に斬殺し続ける誰も勝てない殺戮永久機関」と評されたジロウ・スズキと物理的には完全に同一。その知識と経験、技術を持っているが「哲学的ゾンビ」であるため、本来なら操作不能、自立行動不能の肉塊として生を終えるはずだった。
しかし偶然なんらかの方向性を得てしまい研究所を脱走。50人以上の魔族を斬り殺した他、厚志や桜といった魔王クラスの大物をも撃破した。

【サーヴァントとしての願い】
なし

【把握方法】
原作17、18巻。
オリジナルであるジロウ・スズキの戦闘能力については2巻、3巻、11巻



【マスター】
バギー@ONE PIECE

【マスターとしての願い】
金銀財宝が欲しい。海賊なんだから当然だろう?

【weapon】
なし

【能力・技能】
『バラバラの実』
超人系悪魔の実の能力者。切り離した体のパーツは自在に操る事が可能で、空中に浮遊させたり、それぞれに別々の動きをさせたりするのもお手の物。
ただしすべてのパーツは「足」を絶対の基準としており、ここから一定以上の離れるとバラバラにしたパーツが動かせなくなる。

【人物背景】
”東の海”出身の海賊。かつては海賊王ゴールド・ロジャーの船にも乗っていた。
ルフィに敗れた後インペルダウンに投獄され、ルフィと共に脱獄したあとは頂上戦争を経て、脱獄の際に自分に付き従うようになった(自分よりはるかに強い)囚人たちを連れて海賊派遣組織『バギーズデリバリー』を結成。その座長となった。
また王下七武海に名を連ねていたが世界会議(レヴェリー)にて王下七武海制度の廃止が可決され、バギーの元にも討伐軍が送られた。

【方針】
聖杯を獲得する。

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最終更新:2021年07月13日 20:27