この少女は、女子高生ではない。そんな結論を下すのに、時間はかからなかった。

「ああ、そこから動かないでね。勿論あなたもこれからこの男の人と同じくなってもらうから」

 シンプルでラフなワイシャツとハーフパンツに、色白の肌、化粧っけがない顔つき。素材そのままでの愛くるしさが印象づけられる容貌だった。
 何の温度も感じさせないその無表情さえ修正すれば、異性の目を惹くのはきっと容易だろうと思えるほどに。
 外見から判断するに、年齢は十代後半だ。制服こそ着用していないが、自分と同じく女子高生なのだろうか。
 いや、違う。彼女が女子高生であるわけがない。
 この日本で平和に生きる女子高生は、躊躇なく人を殺したりしない。体格の大きい男性の首を、一瞬のうちにごきりとへし折ったりするわけがない。
 命の危険などとは無縁に生きてきた自分ですら理解できてしまう、殺意という概念が籠った視線を、こうして向けてきたりしない。

「逃げたら丸焼きでじわじわ苦しみながら。逃げなかったら一瞬であの世。どっちがお得かな?」

 女子高生のような見た目の殺人者なんかと、どうして出会う羽目になってしまったのだろうか。自分が殺されるほどの罪でも犯したというのか。
 ……罪というものに、心当たりが無いわけではない。
 お気に入りのコスメブランドの新作だとか、推しているアーティストの武道館ライブを収録したブルーレイだとか、はっきり言って趣味ではないけれど友達付き合いの一環で買うことにした姉妹コーデ一式だとか。
 女子高生の青春を彩るための楽しみには、とにかく金が要る。そして金を稼ぐための最も手っ取り早い方法が、女子高生であること自体を売り物にすることだ。
 社会で働く成人男性と一緒に運動して気持ち良くなってもらう代わりに、お金を貰う。始めたばかりの頃は気色悪さで寝付けなかったルーチンワークも、すっかり慣れたものだ。この肢体が瑞々しさの全盛期を迎えている今だから可能な、最も効率的な稼ぎ方だった。
 この行いが公序良俗に反するということは、勿論わかっていた。その上で、バレなければ済むことだろうとも、社会は女子高生に重い罰なんか背負わせたりしないだろうとも、高を括っていたのも事実だ。
 いかなる法の裁きも飛び越えて直接的に命を奪われる事態なんて、想定していない。

「ううん。別にあなたが売女じみた真似をしたことに怒ってるわけじゃないよ」

 どうして。殺されなければいけないほどの罪だとでもいうのか。嘆いて怒って、彼女へと問いかけた。
 その回答は、実にあっさりとしたものだった。

「後ろめたそうに二人で路地裏に入っていったから、人目に付かなくて都合が良かっただけ」

 たったそれだけの理由で、自分は殺されるのか。嫌だ。死ねない。自分の青春を、こんなところで終わらせられるのは御免だ。
 震える脚を奮い立たせて、彼女に背を向けて走り出した。光の当たる道へ、早く。

「メンゴ~♪」

 その直後、視界の先でまた別の誰かが立っていることに気が付いた。足を払われ、みっともなく地面に転げ落ちる。

「逃がすわけないし。私のマスターは生き血、一滴でも多く欲しいんだってさ」

 立っていたのは、女子高生だった。制服を和装を折衷したような衣服の……違う、こいつも女子高生であるわけがない。
 ただの人間である女子高生は、頭に狐のような耳など生えていない。女子高生は、鈍色にぎらつく刀を携えたりなどしない。
 前にも後ろにも、そこにいるのは、殺人者の女子高生モドキが二人。

「セイバー。お願い」
「かしこまりぃ! ……じゃあ、これでオサラバね」

 うざったいなりに育ててくれた母の、鈍臭いけどすごく良い子だった友の、浮気性のくせになんだかんだで嫌いになれなかった彼氏の名を呼ぶ。その声は闇に、或いは街の喧しさに溶かされて、誰も助けには来てくれない。
 薄汚い路地裏で、翳された刀身だけが煌めく。首が一つ切り落とされるまで、あと数秒。

「……次に生まれ変わったら、もっと自分を大事にしなよ? JKのカラダをそんな風に、馬鹿みたいに安売りしないくらいには、ね?」

 憐れむような、蔑むような。最期に聞いたのは、女子高生であることの活かし方を誤った者への忠告だった。






「都会のネズミと田舎のネズミって、知ってる?」
「何それ?」

 いつか彼に尋ねたのと同じ質問を、レゼはセイバーに投げかけた。
 イソップ寓話の一つであるが、セイバーは知らないようであった。彼女は日本の平安時代に生きたとされる英霊なのだから、知らなくても当然か。

「田舎のネズミは安全に暮らせるけど、おいしい食事はできない。都会のネズミはおいしい食事をできるけど、人や猫に殺される危険性は高い。どっちが良いかって話」
「そんなの、もち都会でしょ。トレンドのためなら命張るくらい余裕過ぎじゃん?」

 自信満々に断言したセイバーは、ストローでカップの中の液体をずずっと啜る。去年頃から流行っているらしい、飲むチーズケーキだ。
 東京は現代日本の首都にして、数々の流行の発信地である。もし田舎に住むなら、こうした流行り物に触れるのは遅れるか、またはその機会すら巡ってこない。
 JK(じぇーけー)であることを志すセイバーからすれば、それは許されざる話というところか。

「……撮るのはいいけど、アップしたりしないよね?」
「え? するに決まってんじゃん。加工したやつ画面で一回見ないと」
「加工ってその耳も消すんだよね」
「消すわけないし! 私の誇りだってーの」
「ええ……」
「大丈夫ダイジョーブ。ちゃんと非公開のアカウントでやるし。自分で見る用ってやつ!」

 スパイ活動の一環としてハニートラップのイロハも叩き込まれたレゼだが、ストローを咥えながらのスマートフォンによる自撮りや、自分で写真を加工して見映えを良くするというのは馴染みが無い。
 レゼのスマートフォンをこうして貸し与えてみたら、入れられているアプリケーションの数はどんどん増え、SNSのアカウントまで一通り開設していた。勿論、いずれも純粋にセイバーの趣味故だ。
 今時の女子高生が共有する文化への適応は、セイバーの方が進んでいると言えるのかもしれない。それ故に、所々で趣味が合わなそうだが。

「こういう嗜みが女子の生き甲斐っしょ。マスターだってこういうことやれる都会のが好きでしょ?」
「私は田舎のネズミがいいなあ。平和に生きられるなら、流行りには乗れなくてもいいや」
「えー、それ勿体無くない? 青春まるごと損してるっしょ」
「殺されるのはもうコリゴリだもん」

 レゼは、一度死んだはずの身だ。しかし何の因果かこうして五体満足で生き返り、聖杯戦争のマスターとして参戦することを許されている。
 普通の女子高生として生き直してみたい。聖杯へレゼが願うのは、ただそれだけだった。
 普通に両親がいて、普通に学校に通って、普通に男の子とカフェでデートする。そんな、普通の日常。国の政争とも悪魔との共存とも無関係な、普通で平凡で穏当に流れていく日常。

「命の駆け引きするのなんて、これで最後にしたいよ」

 東京は、都会だ。これから戦争の勃発する場所だ。
 悪魔への変身に必要な血液をある程度補充しておきたかったため、これまで何人かを手にかけているが。同じように、レゼ自身もまた狩人の標的にされ得る、命の価値の軽い街だ。
 しかし、レゼが望む未来を獲得するためには、この街で生き残らなければならないのであった。

「ふぅん……マスターってさ、兵として育てられたんでしょ? なのに祖国の繁栄とか、それ系のは願わないんだ。ああ、ただの素朴なギモンねこれ」
「そういう生き方も良いのかなあって、思うきっかけがあったから」
「……もしかして、オトコ?」
「まあね」

 目を一層輝かせ、セイバーの顔が好奇心に染まっていく。いわゆる恋バナというやつになるのだなと、レゼは今更に気付くこととなった。
 サーヴァントとして喚ばれたからには付き従う。そんなテンプレートのような動機でレゼと繋がっているだけのセイバーだが、自分の身の上話で彼女の好感を稼げるのならば、悪くはない。
 この機会に、彼との出会いと別れを一通り話してみる。聞いている間、セイバーは終始はしゃぎっぱなしであった。

「抹殺するはずだった男に惚れるの、身に覚えあるんですけど……マジ? もしかしてそういう繋がりでマスターに喚ばれちゃった系……!?」
「どうなんだろう。そもそも、私がデンジ君に惹かれてたかっていうのも正直違う気もするけど」
「いやいやいやいや、これで好きじゃなかったら、マスターのタイプって何なのさ!?」
「そうだなあ……」

 セイバーがかつて心を燃やしたような本気の恋というものに、レゼはついぞ縁が無かった。恋などする機会も与えられなかったのだ。こんな自分では満足な答えなど提示できないだろうが、考えてはみる。
 具体的な人間性を挙げてみても、どうにもしっくり来ない。出会ってみて、その後で好意を抱くという流れの方が、今の自分でもまだイメージがしやすい気がする。そのための、関係を明るい方向へ築きやすい前条件はやはり必要だろう。
 ああ、つまりこういうことだ。

「私のことを好きになってくれる人、かな」

 それは、レゼが都会で生きて初めて知った、自身の性格だったのかもしれない。



【クラス】セイバー
【真名】鈴鹿御前
【出典】Fate/Grand Order
【性別】女性
【属性】中立・悪

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具EX

【クラススキル】
対魔力:A
 魔術に対する守り。
 A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:B
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種は乗りこなせない。

【保有スキル】
変化:?
 文字通り変化するスキル。
 詳細は不明だが、セイバーはこれにより本来存在しない狐耳と尻尾を生やした。

魔眼:B+
 目があった男性を魅了し、セイバーに対して強烈な恋愛感情を抱かせる。対魔力スキルで回避可能。

神通力:B
 神の力の一端。周囲の物体を自由に動かす事が出来る。
 だが現在はサーヴァントとして顕現してるため能力がランクダウンしており能力の対象は自身の持つアイテムのみとなっている。

神性:A
 その体に神性があるかないかの判定。
 第四天魔王の娘である鈴鹿御前は高い神霊適性を持つ。ある力を使用すると+が付いてしまう。

【宝具】
『天鬼雨(てんきあめ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~40 最大捕捉:250人
 セイバーが保有する三振りの宝剣のうち、黄金色の一振り。正しくは文殊智剣大通連(もんじゅちけんだいとうれん)。
 愛剣・大通連を250本まで分裂させ、敵に容赦なく降り落とす神通力。
 生前は大通連と夫婦剣だった夫の持つ素早丸(そはやまる)との連携技として、計500本の雨を降らせていたという。
 今は思い出のつまったかんざしを素早丸に見立てており、宙に浮く大通連と接触させることで天鬼雨を発動させている。かなり大雑把な射撃精度だが、『才知の祝福』発動時には「自身の周りに自分だけを避けるように降り落とす」等、細やかな操作が可能になる。

『才知の祝福(さいちのしゅくふく)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:1人
 セイバーが保有する三振りの宝剣のうち、白銀色の一振り。
 智慧の菩薩が打ったとされる小通連を装備する事により、INT(賢さ)を大幅に上げる事が出来る宝具。
雑だった剣筋は確かなものとなり、戦術もより広がる。
 また『天鬼雨』の性能が上がったり『三千大千世界』が使用可能となったりと良いこと尽くめなのだが、
 必要以上に頭が回転してしまう為、女子高生を演じる非効率的な生き方を省みて一時的に自己嫌悪に陥ってしまう。なので鈴鹿御前は積極的に使いたがらない。

『三千大千世界』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:1人
 鈴鹿御前の愛剣、顕明連(けんみょうれん)を朝日に当てる事で三千大千世界……あらゆる世界、並行世界すらも太刀の中に作り出し見渡す事が出来る。
 ……それが何を意味するか、鈴鹿御前は語らない。
 長時間使用すると英霊としての資格を剥奪される。

【weapon】
三振りの宝剣。

【人物背景】
平安時代、鈴鹿山を根城とし、坂上田村麻呂と共に鬼退治を行ったとされる舞姫。
その華麗さと強さから天女とも鬼とも謳われた絶世の美女。しかしてその正体は、何を隠そう天界から遣わされた第四天魔王の愛娘。
日本を魔国にするという命令を受け天下った鈴鹿御前はしかし、たかだか人間の国を混乱させる事に自ら手を下す事を良しとせず、多くの冒険、悲恋の末、恋人であった坂上田村麿呂の手で倒された。
まさに悲恋の天女姫であるが、美しさを追求し、美しさを極めんとする彼女がいきついた最先端のスタイルは───

「いや、やっぱJKっしょ!
 巫女もいいけど、恋をするなら女子高生、これ以外ないって感じ!」

───あの、お嬢様。それで本当にいいのですか?

【サーヴァントとしての願い】
本気の恋をする。



【マスター】
レゼ@チェンソーマン

【マスターとしての願い】
普通の女子高生になる。

【能力・技能】
『爆弾の悪魔』としての能力。
レゼは悪魔と融合した人間であり、爆発による攻撃を中心として戦う。
近距離での自分の手足を爆破、火花を飛ばして離れた対象を爆破、自身の肉体の一部を切り離して別個に操作し爆破、など様々な応用が可能。
ただし血が足りないと悪魔の姿に変身できない、水中では爆発できないといった弱点も持つ。

モルモットとしての能力。
身寄りの無い子供であったレゼは、ソ連によって人間兵器としての教育を施された。
悪魔への変身前の時点でも、格闘やナイフ術といった殺人技術に長ける。
対人コミュニケーション上での演技も得意。たとえば、好きでもない男子へ色目を使うように頬を赤らめるなど。

【人物背景】
「公安を辞めて、一緒に遠くへ逃げよう…」
少女レゼの思いがけない言葉に、心揺れるデンジ。だがレゼの正体は『銃の悪魔』の仲間、『爆弾の悪魔』だった!
デンジの心臓を狙い、特異課の隊員を次々と爆殺しながら迫るレゼ!! さらに『台風の悪魔』も現れ、戦いは町全体を巻き込む超特大バトルへと発展!!
最後はデンジがレゼを道連れに夜の海へとダイブし、決着となる。
戦いが終わっても、レゼへの想いが変わらないデンジは「一緒に逃げよう」と提案する。答えることなく姿を消したレゼを、いつもの喫茶店で待ち続けるデンジ
その頃レゼは、マキマと『天使の悪魔』の手により、その命を終えていた…。

【方針】
勝ち残り、聖杯を獲る。
人殺しは、悪目立ちし過ぎない程度に。

【備考】
与えられた社会的役割は、喫茶店で働くフリーター。学校には通っていない。

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最終更新:2021年07月13日 20:29