ここは荒れ果てたスタジアム。
つい数刻前までは観客の歓声が轟き、活気が溢れていた姿はもうそこにはない。
あるのは災厄が到来を象徴するかのように空を覆う赤黒い雲に、無残にも破壊されたスタジアムの設備の残骸だけ。
そして残骸の一部を宙に浮かせてしまうほどに激しく突風がなびいている。

この格闘大会、キング・オブ・ファイターズ決勝戦の会場だった場所はまさに地獄絵図であった。
観客はとうに逃げたか、または破壊されたスタジアムに生き埋めにされたか。
そこにいたのは、三人の格闘家に一人の女性、
そしてスタジアムを風だけで破壊した牧師風の格好をした男性であった。

「驚きですね。これ程までとは…」

その男、ゲーニッツは膝をつく。

「神楽さん。あなたが見込んだ方々、なかなかのものでした。しかし、あなた方の手でオロチを封じようなどとは考えない事です。手を引く事をおすすめしますよ」

オロチ。地球意思と呼ばれる人類を滅ぼす存在。今は封印されているが、
それが解かれればオロチの圧倒的な力により人類は無に還るだろう。
ゲーニッツは封印の護り手・神楽ちづるを殺害するためにスタジアムを襲撃したのだが、
キング・オブ・ファイターズ優勝チームの格闘家達との死闘の末、敗北したのだ。

「封じてみせるわ…必ず…」
「勝ち気なお方だ…――いい風が来ました。そろそろ頃合いです」

ゲーニッツの言葉とともに強風がさらに激しさを増す。
当のゲーニッツはというと、敗北したにも関わらず冷静且つ落ち着いている。
よく見ると跪いた姿勢で手のひらに風を集めている。
風が強くなったのはこれが原因のようだ。

「逃げる!?」

その様子を見て彼が何かする気だと悟ったのか、優勝チームの格闘家の一人が声を上げる。
が、ゲーニッツは天を仰ぎながらそれを否定する。

「いえ、召されるのです。――天へ」

その瞬間、言葉に代わってゲーニッツの口から吐き出されたのは彼自身の血であった。



◆ ◆ ◆



(ですが、残念でなりません。物語の最後を…見れないとは…終幕です…)



自害する刹那、ゲーニッツの魂は何処かへと旅立った。



◆ ◆ ◆




天にまします我らの父よ、願わくは、み名を崇めさせたまえ

み国を来らせたまえ み心の天になるごとく、地にもなさせたまえ

我らの日曜の糧を今日も与えたまえ、我らに罪を犯すものを、

我らが赦すごとく、我らの罪をも赦したまえ 我らをこころみにあわせあず、

悪より救いだしたまえ 国と力と栄光(さかえ)とは、限りなく汝のものものなればなり 



「アーメン」

牧師が主の祈りを唱え終わる。
教会に設置された時計が礼拝の終わりを告げるように音を鳴らす。
ここは無宗教者が多い日本だからか、礼拝に来た信徒は十人にも満たず、時計の音がやけに大きく聞こえる。
教会のつくりは質素ながらも独特な西洋の雰囲気があり、牧師の後ろにそびえる十字架が妙に神々しい。

礼拝が終わると、信徒たちは長椅子から立ち上がり、
ある者は用事のために教会の出口へ向かい、ある者は感動のあまり余韻に浸り、ある者は聖書をもう一度開いた。

「ゲーニッツ先生」

信徒の一人が前に来て牧師に話しかけた。
敬虔な信徒であるようで、その瞳は輝いている。
牧師・ゲーニッツの説教に心を打たれたことが分かる。

「先ほどの説教、私の心にとても響くものがありました。もし時間がありましたらもっと詳しい話を聞かせていただきたいのですが…」
「もちろん、構いませんよ。立ち話もなんですから、控室にご案内しましょう」

ゲーニッツの手引きに信徒がついていく。
彼らを見て本格的に礼拝の終わりを感じたのか、釣られるように残った信徒達もあとに続き、礼拝堂には誰もいなくなった。



控室には膝丈くらいの広いテーブルに、それを挟んで対面する形で置かれている椅子。
ゲーニッツが「どうぞ、座って」という言葉に甘えて信徒は座った。

「さて、先ほどの説教の話ですが」

そう言いながらゲーニッツはテーブルに2つのコップと氷水が入ったピッチャーを置き、信徒に対面して座った。
それを見た信徒は慌てて「注ぎます!」とピッチャーを持ち、水でコップを満たそうとする。

「主が水をワインに変えた話を知っていますね?」
「ええ、主が『これがわたしの血である』と言って弟子に与えたんですよね」

信徒はどんな話をしてくれるのか期待に胸が膨らむあまり、
水をこぼす心配をよそに顔をゲーニッツに向ける。




ガ  オ  ン  !




「ええ、その通りです。――ほら、水がワインに変わっていますよ?」
「え?」

信徒がコップに目を戻すと、確かに水をコップに注いでいたはずなのにワインが入っている。
それにピッチャーで水を注いでいたはずなのにピッチャーが見つからない。それどころか手も――

「あ…あ…あああ?」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」

現状を理解した途端、信徒は悲鳴を上げた。
信徒の両手がなくなっていたのだ。ワインに見えたそれは、両手の断面から溢れた信徒の血。

「ワ………ワインの正体は………本当に血だったァーーーーーしかもわたしの血でェ~~~~――」

その台詞を最後に、もう信徒の声は聞こえることはなかった。
言い終わったと思った時にはスデに頭部が消えていたからだ。

その様子を見届けたゲーニッツがふと視線を横にそらすと――
そこには、金のハート型アクセサリが特徴的な長身の男が立っていた。
彼はドアをノックして入ったわけではないし、最初から隠れていたわけでもない。
『現れた』のだ。
その男は信徒の死体に指を食い込ませると、死体がみるみる干からびていく。
原因は男に血を吸われているからである。それは同時に、男が吸血鬼であることも示している。
男の名はヴァニラ・アイス。サーヴァントで、クラスは「アサシン」にあたる。

「……なるほど、これが人間の血か。……力がみなぎってくる感じがする。
……このような肉体をくださったDIO様はやはり素晴らしいお方だ」
「気が済みましたか、アサシン?」

ゲーニッツは別段驚きもせずに淡々と話す。丁寧な口調も変わらない。

「それにしても、困りますね。少しは慎重にその『クリーム』を使ってくれませんか」
「……私の勝手だ」
「勝手にされてはあなたの死に繋がることを忘れないでください。暗黒空間に飲み込まれれば、私とて無事ではないことはあなたも知っているはず」
「……フン」

アサシンは干からびた信徒の死体をスタンド『クリーム』の口に入れながら気だるげに答えた。
『クリーム』。『クリーム』の暗黒空間に飲み込まれた者は何もかもが粉みじんになって消えてしまう。
それはマスターであるゲーニッツも例外ではない。
マスターの近くにいなければならないというサーヴァントの特性上、
『クリーム』の能力は慎重に扱わなければならないのだ。
それゆえに、少しでも長い時間離れられるように、魂食いをする必要があった。
不定期に教会の控室に入ってくるNPCはもれなくアサシンの餌食となり、暗黒空間に飲み込まれるというわけである。

「……おい」
「何か質問でも?」
「貴様の聖杯にかける願いは何だ?」

それを聞いたゲーニッツは「ふむ」と唇に手を当てて、

「神を目覚めさせる…ですかね」

と短く答えた。
その神の覚醒とは、言うまでもなくオロチの覚醒を意味している。
三人の格闘家に敗れて自害しようとした時には残りの同志達に後を任せ、自らの物語は終わったものと思っていた。
が、聖杯戦争の舞台に立ったその時、ゲーニッツは再現された東京から尋常でないエネルギーを感じた。
聖杯を勝ち取れば、オロチを完全に覚醒させることができる。
あの時の自害はまだ起承転結の『承』でしかなかったことを確信したのだ。

「神の覚醒などと…馬鹿馬鹿しい上に短絡的な…」
「ほう?」

その答えに対し、アサシンは鼻を鳴らす。

「貴様にはその神の『最大の障害』はいなかったのか?」

障害……確かにいる。オロチを封印した忌まわしき三種の神器の子孫。神楽ちづる。草薙京。八神庵。
特に今もオロチの封印を護る神楽ちづるはまさに最大の障害であった。

「なるほど。アサシン、あなたの願いは『最大の障害の存在を抹消する』ことですね?それならばあなたにとっての神も『安心』を得られる…そう言いたいのですね?」
「DIO様は世界の中心となるにふさわしいお方だ。多少の障害は私が出るまでもない。そこらのスタンド使いが挑んだところで軽くあしらわれるだけだ」

すると突然、「だがッ!!」とアサシンが声を張り上げた。唇がピクピク蠢いており、殺意が満ち溢れるような形相で続ける。

「ジョースター…ジョースターの者共は違う!奴らはDIO様を脅かす『最大の障害』ッ!!聖杯の力をもってしても奴らを消さねばならんッ!!」

アサシンの聖杯にかける願い。それは忌まわしきジョースターの者共の抹殺。DIOに『安心』を捧げることだった。
その願いを叶えるためにも、邪魔する者は全員暗黒空間にばらまき、粉みじんにしなければならない。
――このゲーニッツという男も。
界聖杯が叶えられる願いは一つだけ。ゲーニッツにも願いがあることが分かった以上、いつまでも放っておくわけにはいかない。
令呪がある分、今のところは向こうが有利だが――必ず願いを叶えてみせる。
DIO様への忠誠に誓って。

(そちらにも願いがありましたか…こちらには令呪がありますが、いつ裏切られてもおかしくはないと思うべきですね)

行動を共にするものを排除しようと考えているのは無論アサシンだけではない。
ゲーニッツもまた、オロチの完全なる覚醒のために聖杯を勝ち取らなければならない。
機を見てゲーニッツを消そうとしてくることも視野に入れておかねばならないが…やはりここは『協力』が必要だろう。
一時的な協力だが、やはりアサシンの宝具が味方にいるのならば心強い。
こちらもマスターといえど、『吹き荒ぶ風のゲーニッツ』の異名を持ち、同志からも一目置かれるくらいには実力がある。



―――全ての参加者を排除する。
お互いの『最後の障害』はそれから考えればいい。



アサシンの望みを聞いたゲーニッツは立ち上がり、控室の窓を開ける。
その瞳は人のものではなく、蛇のように縦に割れていた。

「いい風が来ました。アサシン、お互いにとっての神のために―――聖杯を勝ち取ろうではありませんか」


【クラス】
アサシン

【真名】
ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険

【パラメータ】
筋力B 耐久A+ 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
気配遮断:-
自身の気配を消す能力。
宝具によって気配を断つため、このスキルには該当しない。

【保有スキル】
邪悪の加護:EX
邪悪の化身への忠誠に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の忠誠から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。
EXともなると『バリバリと裂けるドス黒いクレバス』のような歪んだ精神になる。

戦闘続行:A
信仰の強さ。DIOに仇なす者を消すことへの執念でもある。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負ってなお戦闘可能。
また、吸血鬼スキルにより脳髄にダメージを追っても行動を続行できる。

吸血鬼:D
多くの伝承に存在する、生命の根源である血を糧とする不死者。
一度は死んだもののDIOの血により蘇生されたことで肉体が吸血鬼と化した。
しかし吸血鬼になって間もない状態の上、一人の生き血も啜らずに死亡したためランクは低い。
並外れた筋力に吸血、再生能力など人を超越した様々な異能力を持つが、
ランクが低いために使えるのは前の三つだけである。
代償として紫外線、特に太陽光に弱いという致命的な弱点も持つ。

【宝具】
『亜空の瘴気(クリーム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
生命が持つ精神エネルギーが具現化した存在。所有者の意思で動かせるビジョン『スタンド』。
口から先はあらゆるものを『粉みじん』にする暗黒空間へと繋がっており、アサシン以外は入った瞬間に耐久値に関係なく消滅してしまう。
また『スタンドの口の中に入る→スタンドがスタンド自身を脚から順に飲み込む』といった手順で通常空間から姿を消し、
暗黒空間への入り口を球状に露出させて『触れるもの全てを消滅させる不可視の球体』になることもできる。
この状態で移動する際は臭いも音もなく色も完全に透明であり、
攻撃しようにもアサシン本体に届く前に攻撃が消滅してしまうため、相手は逃げる以外の一切の抵抗が出来ない。

アサシンはこの宝具を気配遮断スキルの代用としているが、
厳密には気配を遮断しているのではなく『この世から魂と肉体を別世界にうつしている状態』である。
そのため、『気配遮断を無効化する能力』ですら『亜空の瘴気』には無力である。

ただし、暗黒空間からは外の様子が見えず、攻撃の際に一切の衝撃・手ごたえが無い。
そのため、逐一顔を出して相手の位置を確認する必要がある。
あらゆるものを無差別に暗黒空間へ飲み込むという特性上、マスターをも飲み込む危険があるので細心の注意が必要。

【weapon】
  • 宝具『亜空の瘴気』のスタンドビジョン
スタンドで格闘戦を行うことが可能。
ステータスはサーヴァント換算で、
筋力B、耐久C、敏捷B相当。
暗黒空間に隠れて移動するときはこちらのパラメータが適用される。

【人物背景】
エジプトのDIOの館にて、ジョースター一行の前に立ち塞がった最強にして最後の刺客。
DIOに心からの忠誠を誓っており、自らの首を切断してDIOに血を捧げたほど。
この時、DIOの血で蘇生された時に身体が吸血鬼と化しており、それに本人は気づいていなかった。
普段は冷徹だが、DIOが関わると、
『砂で作られたDIOの像を壊させた』という理由で蹴りだけでイギーを殺してしまうほどに
激昂して普段以上の残忍さを見せる。
上記の凶悪なスタンド攻撃によりアヴドゥルを即死させ、イギーを蹴り殺したが、
最期はポルナレフに吸血鬼であることを看破され、日光を浴びて死亡した。

【サーヴァントとしての願い】
DIOの永遠の栄光。
ジョースターの血を引く者が生きていれば最優先で抹殺する。

【マスター】
ゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERS '96

【マスターとしての願い】
オロチを完全に覚醒させ、人類を滅ぼす

【weapon】
己の肉体

【能力・技能】
  • オロチの力
「風」の力を操る。
ゲーニッツ含むオロチ四天王は、自然現象すらも自らの力で行使することができる特別な存在である。
任意の場所に竜巻を起こしたり、かまいたちを発生させて相手を切り裂くことができる。
オロチ八傑集は人類を滅ぼすべく行動を開始した1800年前の時点でその存在が確認されており、
それゆえにその能力の纏う神秘の位は非常に高く、生半可な対魔力では意味をなさない。
また、ゲーニッツは現代まで人類に紛れて力を蓄えてきたため、保有する魔力も常人とは比べ物にならない。

【人物背景】
「地球意思」と称されるオロチの血と力と意思を受け継ぐ者達の中でも特に優れる力を持つオロチ八傑集の一人であり、その中でも特に優れた力を持つオロチ四天王の一人。
「風」の力を操り、『吹きすさぶ風のゲーニッツ』の二つ名を持つ。
八傑集随一の実力者で、オロチ復活を目論む一族の実質的なリーダーだったと思われる。
他の八傑集も同様だが、人の形をした完全な人外で、はるか昔から転生を繰り返して現代まで生き延びてきた。
戦闘能力は若い頃からズバ抜けたものがあり、
オロチの力を奪おうとしたルガール・バーンシュタインと一戦交え、右目を奪って退けている。
そのやり方は極めて冷徹で、オロチ復活に非協力的だった八傑集の一人を、
その娘に宿るオロチ八傑集の力を暴走させることで両親を殺害させる。
その行動理念は全てオロチの意思によるものであり、普段のゲーニッツはそれほど残忍ではない。
職業は牧師。神父ではなく牧師である。

本編となるキング・オブ・ファイターズが開催される直前には、三種に神器の力を測るために草薙京に野試合を仕掛けて片手で圧倒した。
この時点で結束が不十分な三種の神器は脅威になり得ないと判断したゲーニッツは
封印の最後の護り手、ちづるを排除すべくキング・オブ・ファイターズの決勝戦会場を強襲するが、
優勝チームに敗れ自らの風の力を使い自害した。

【方針】
聖杯狙い。邪魔する者は消す。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年07月13日 20:34