事件は解決した。
あの狂人の死によって妹は解放され、ようやく父を除いた家族で幸せになれると思っていた。
なのに。
「ごめんね。私、そういうのやめたの」
なのに。
「だって私は」
なのに...!
「生まれ変わったんだから」
クルッテイタアイツハスベテヲウバイサッテイタンダ。
★
元凶は取り除いた。
手に伝わる不快な感触に心を痛めながらもやり遂げた。そうすればあいつは幸せになって、またいつもの生活が戻ると思っていた。
なのに。
「死んじゃえ人殺しいいいいいい!!」
なのに。
「最後の最後で圭一さんのフリを...しゃべるな...!!」
なのに...!!
「落ちろ!!落ちてしまええええええ!!」
クルッテイタセカイハオレカラナニモカモヲウバイサッテイッタンダ。
☆
「......」
「......」
二人の少年が背中合わせでうずくまっている。
何か言葉を交わすわけでもなく。しかし、今にも倒れてしまいそうな背中を互いに支え合うように。
「...夢を見ていたんだ」
ふと、フードを被った方の少年、
神戸あさひがそう口を開く。
「夢の中の俺は助けたい子の為に必死だった。その為に手を汚しさえした...これ、あんただよな?」
ピクリ、ともう一人の少年の肩が動く。
「...だったらなんだよ。お前も俺を疑うのか」
少年の問いにあさひはふるふると首を横に振る。
「俺はあの姿を見て思ったんだ。羨ましいって」
「どこがだよ」
「俺もあんたみたいにあいつを殺すつもりで立ち向かった。なのに、妹の言葉を理由に退いてしまった。
あいつは足を痛めていたから、しおさえ連れていければそれでいいと思ってしまった。...そんなわけ、ないのにな」
あさひの拳が血が滲み出るほど握りしめられ、少年はそれを視界の端で眺めていた。
「俺もあんたみたいにあいつを殺しておくべきだったんだ。そうすれば、たとえ俺が嫌われてもしおがあんな風にはならなかった。
時間がたてば俺とあいつのことを忘れてまた母さんと笑って過ごせたかもしれないんだ」
そんな都合よくいかないのは少年の夢を通して判っている。それでも今よりはいい未来になったはずだ。
あさひはそう信じている。
「...俺はお前が羨ましいよ」
今度は少年があさひにそう返す。
「俺はずっと一人だった。みんな自分が無力だのなんだのと嘆いて誰も沙都子を救おうとしなかった。だから俺はやったんだ!
あいつを殺して沙都子を解放した!なのに...誰も俺を信用しなかった。誰も俺に寄り添ってくれなかった。しまいにゃ俺じゃない俺まで現れるしまつだ!
そして俺はオヤシロ様の祟りの代行者になったんだ!ハハ、ハハハハハハハハ!!!」
ヤケクソ気味に大声で少年は笑う。
ひとしきり笑った後、ほどなくして落ち着き再び膝を抱えてうなだれる。
「...俺も、お前みたいに誰かに気にかけてほしかった。信じてほしかった。そうすれば、もっと別のやり方があったんじゃないかって思うんだ」
嘆く少年を見ながらあさひは思う。
彼は自分と同じだ。
救いたい者がいた。幸せになってほしい者がいた。
けれど、彼女の幸せを唐突に理不尽に奪われた。
ソイツのことが許せなかった。
お前さえいなければと憎悪を燃やした。
違ったのはそこからだ。
あさひにはそれでも気にかけ手を差し伸べてくれる者がいた。
少年には誰もいなかった。
あさひには己の手を血で汚す覚悟がなかった。
少年には己の手を血で汚す覚悟があった。
―――だから、全てを失ってしまった。取り返しのつかない事態にまでなってしまった。
「...きっと、俺たちは必要なものが互いに入れ替わってたんだな」
「ああ、そうさ。だから掴み損ねてしまった。俺たちが逆の立場ならもっといい未来が待っていたはずだ」
あさひに少年の殺意があれば。
少年にあさひのような絆があれば。
さとうを排除ししおを正常に戻すことができたかもしれない。
知恵を出し合い一人での排除以外にも答えができたかもしれない。
―――そして、きっと『あいつ』は幸せになれたはずだ。
だからこそ彼らは強固に結びつく。
「...やるぞキャスター」
「ああわかってる」
今までうなだれていた二人は顔を上げ立ち上がる。
二人の行動原理と願うは全く同じ。
『彼女』への愛の感情。『あいつ』への憎悪の感情。それだけでその身は疼く。
例え歪んでたって愛(それ)は。
たとえ腐ってたって未来(それ)は。
たとえ淀んでたって殺意(それ)は。
「「俺たちは、あいつの幸せを取り戻すんだ!!」」
『彼女』の幸福を願った末の形には変わりないから。
―――これは、全てを失いそれでも諦めきれぬ、哀れな少年たちの一世一代の頑張り物語である。
【クラス】キャスター
【真名】前原圭一
【出典】ひぐらしのなく頃に 祟殺し編
【性別】男性
【属性】秩序・善
【パラメーター】
筋力:D 耐久:+A 敏捷:D 魔力:C 幸運:E 宝具:D
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターの口先で丸め込める相手にのみ有効。
道具作成:E
無から道具を生み出す能力―――だが、このキャスターはそんな力を有さない。
生み出せるのは北条悟史の名が刻まれた一振りのバットだけである。
【保有スキル】
狂化:A
理性と引き換えに全ステータスを上昇させる。
本来はバーサーカーのスキルであるが、出典の関係上なぜか反映された。
オヤシロ様の代行者:A
単独行動と同じ効果を発揮する。
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間は現界可能。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
頑健:B
異様に丈夫で壊れにくい肉体を維持するスキル。耐久力を向上させる。
【宝具】
『祟り殺し』
ランク:D種別:対個人宝具 レンジ:1 最大捕捉:宣告した相手
キャスターが魔力と引き換えに宣告し、対象へと呪いをかける。
宣告を受けた者はキャスターの言葉通りの死に方をする。
ただし、この効果がすぐに発揮されるのか時間差で発揮されるのか、はたまた発揮されないのかは誰にもわからない。
オレゴトキニタタリコロサレルナヨ?
【人物背景】
雛見沢に引っ越してきた中学生男子。転校早々に周囲と打ち解け充実した毎日を送っていたが、仲間の
北条沙都子を虐待し人格崩壊寸前まで追い込んだ叔父、北条鉄平を殺したことからすべての終わりが始まる。
彼が鉄平を殺している最中、自分と遊んでいたという仲間たち。殺害後に埋めたはずの鉄平の死体の消失。
彼を信用してくれない大人たち。警察。そして、そんな彼らを憎む度に何故か死に、あるいは行方不明となって消えていく。
そんな中、彼は己に疑念を抱き恐怖する。
これはもしかして呪いなのだろうか。自分はオヤシロ様の祟りの代行者となっているのではないか―――と。
護りたかった者にすら突き放された彼が最後に願ったのは―――
【サーヴァントとしての願い】
北条鉄平を抹消し沙都子の笑顔とかつての生活を取り戻す。
【マスターとしての願い】
しおを幸せにするためにさとうを抹消する。
【能力・技能】
そんなものはない。強いて言えば我慢強いことくらいか。
【人物背景】
ただ家族と幸せになりたかっただけの少年。
なのに全部壊された。なのに全部奪われた。
口づけを交わしてくれた少女も。妹も。
家族に幸せになってほしいというささやかな願いは、あさひの名とは裏腹になにも照らせぬ哀れな結末となってしまった。
【方針】
聖杯を手に入れ、今度こそしおを幸せにする。
また、
NPC・マスター・サーヴァントの何れかに
松坂さとう及び北条鉄平がいたら殺す。
最終更新:2021年07月14日 22:09