彼らが居る公園は、東京の中にいくらでもあるごく普通の公園だった。
だが、彼らは普通ではなかった。
どこにでもあるあような公園の中で……おかしなかっこうの2人組が立っていた。片方は大人、片方は子供。
どちらも顔は外から見てわからない。
顔の上半分を隠すように目だけが出たマスクをかぶって、マントとバッジをつけた少年。
そして真っ赤なタイツのようなスーツで全身をすっぽりと包んで、巨大なグローブを手に付けた男。
前者の少年はマスクとマント以外は普通の短パンとシャツ姿だが、後者の男の顔部分には肩という文字、胸元には弱という文字と肩への矢印がペイントしてある。
まるで「肩が弱いです」と言ってまわっているような姿だった。
2人はまるで何かを待っているようにボンヤリしていた。
「あのー、本当にこれで敵がくるんですかねえ」
少年は疑問を素直に口に出した。男はそれに対して、弁解するように言う。
「ベンチに座ってくつろいでるフリして敵を誘い出す、僕がよくやってた戦法さ」
常套手段。そういわれると、良い策な気がしないでもなかった。
「なるほど。手際が良いんだなあ」
「ハハハそうだろう」
男からすると実際自分自身を餌にする罠は効果こそかなりあったのだが、居合わせたサラリーマンからサボってるなんだと散々に言われたのは秘密である。
が、その姿をまず見つけたのは「敵」ではない。公園に入ったひとりの女性だった。
一般人らしきその女性は、困惑の目を向けつつ、小走りで離れながらスマートフォンを握りしめる。
どうやら不審者と勘違いされたようだ。
うわあちょっと待ってくださいと2人が女性を静止せんとした、その時。
女の前に、人外が立ちふさがった。
「え……」
「敵」は確かに男たちの狙い通りタイミングもあって誘い出されていた。と同時に、こちらの隙を伺っていたのだ。
野獣のような巨体を持ったそのクラスもわからぬ、サーヴァントかそれとも宝具かも判明しないそれは、一般人の存在による一瞬の動揺を狙い、女性ごと同時に攻撃を加えていく。
「アサシンさん!」
と、アサシンのマスター、パーマンが叫んだその直前には。
肩弱と書かれた赤いタイツの男、サーヴァント・アサシンの不定形のトゲが怪物を貫いた。
そこにはなんの無駄も無い。動揺など皆無の動きだった。
人間を巻き添えにすることもなく、むしろ保護するようにキャッチして、ケダモノを刺し貫き、引き裂く。
が、生命力が強いのか、裂いてもまだ再生してくる。しかし初めて見るそれらの能力を以外に思うでもなくアサシンは敵を解体し、破片すら残さず対処を続ける。
ただ速いのではない。一切のモーションが無い。
一切の恐れを見せず、ためらいもなく、相手を貫く。
やがて……跡形もなく怪物が消えた後、アサシンは抱えていた女性を解放した。
「ええと、大丈夫です、か……?」
アサシンはおそるおそる聞くも。
「「気絶してる……」」
●
とりあえず気を失った女性が持っていたスマートフォンによる通報をそのまま引き継ぐと、2人は「変身」を解いてその場を逃げた。
自宅とされる場所にこそこそとしながら帰る両名。
そばかすだらけの頬。低い背。丸い鼻と死んだような光の無い目。
先ほどアサシンと呼ばれた男。アサシン、ヤスザキマンへと変身していた存在だった。
安崎みちひろ22歳。こう見えて、英霊である。
そして髪の毛の一部が逆立った、快活そうだがやや間の抜けたマスターの少年。
言わずもがな、先ほどマスクをかぶっていた子供だ。
須和ミツ夫小学5年生。こう見えて、ヒーロー「パーマン」である。
「あーあ、大変でしたね安崎さん」
正体隠しでの苦労はミツ夫はよく知っていた。なにせ元々パーマンの正体は誰にも秘密という条件で活動していたのだから
「う、ううん。そうだね。ごめんねこんな戦いにあれこれさせちゃって……」
「そんな! 謝らなくても良いですよ!」
「まあ……うん。君みたいな子供を巻き込むのはちょっとねハハハ……安崎お兄さんヒーローだからさ、避けたいんだよね」
目をそらしながら挙動不審に言うが、内容自体はごく普通の善意じみたものだった。
ヒーローの正体が陰気でさえない男性、というのはミツ夫からするとそこまで意外ではない。
なにせ元の世界で自分がやっていたパーマンというヒーローの同僚にはチンパンジーが居たのだ。その状態よりかはいくらかまともに見えた。
それに。この状態の安崎みちひろも油断無き強者ではあった。
この姿だと身体能力や強さは普通の人間でしかないが、危険を察知した瞬間に宝具を使い、一瞬で変身し攻撃し敵を倒す。
そこに迷いはない。
ミツ夫を出会った直後もそうだ。おたがい戸惑っていたが、襲い来る敵サーヴァントを見た瞬間に彼は「ヤスザキマン」へと変貌し、直後には切り伏せていた。
どんくさく喧嘩にも勝てないような青年だが、敵を殺すということに関してのみ彼は自動機械のような判断力と行動速度を有していた。
もとはただの青年だっただろうこの男性が、いったいそのレベルになるまでどれほど殺し合いを潜り抜けてきたのだろう。
ヒーローではあり鉄火場をそれなりにくぐってきた身ではあるが、あくまで人助けが主体だったミツ夫には想像すらできなかった。
まるで手慣れた作業のように彼は自らの命を危険にさらし、そして敵を討つ。
ショルダータックル、ヤスザキマン。その異名たる弱点を防護するための肩についたプロテクターすら、敵をおびきよせるためならば外し拳に付け替えた。
睡眠すら必要とせず。休憩している時でも必要とあらばそれを瞬間的に切り替えて。
彼は怪人を。人を喰らう化物を、殺し続けた。
命乞いをしようと。
策を講じようと。
多勢で襲い掛かろうと。
迅速に、全てを、殺し続けた。
そうしなければ、居場所が無かったからである。
そんなサーヴァントを励ますように、ミツ夫はちょっと大げさに振る舞う。
「お気遣いなく。僕だってヒーローですからね! 今はパーマンとしての活動がバードマンに認められて、バード星に留学だってしてるんですから!」
「へぇ凄い……うん?」
ミツ夫の自慢げな口調に、安崎は少し不穏なものを感じた。
「ちょ、ちょちょちょ……ちょっと待ってよ! きみ……いくつだっけ? たしか」
「小5ですけど……」
(ほぼ僕の半分の年齢……!?)
キョトン、としているミツ夫に対して、安崎はどもりながらも質問を続ける。
今までの戦い。出自。それらをすでに大雑把にこそ安崎は知っていたものの、より細かい戦いの記憶が少年の口から掘り起こされる。
どこかコミカルだが、仲間たちと行った数々の窮地を乗り越える戦いと人助け。そしてバード星への留学生として選ばれた日の話まで。
「……そ、それで、今はお母さんやお父さんと離れてるんだよね?」
「はい。コピーロボットをロックしてもらったから親は気付いてませんけど。出発の日は嫌で、事情も知らない親に泣きついちゃったんですよね。別れたくないと騒いで。バード星に最初行きたがったのは僕なのに」
おかしい。
なにがとは、言えなかったが。なにかが間違いなくおかしい。安崎はそう思った。
別にパーマンはミツ夫ではなくても誰でも装備できる……改造も才能もなにもいらない力らしい。
だが正体がばれたら、バードマンとかいう宇宙人の上司から光線銃で動物に変えられるとかで。
彼は、僕よりもまだ未来があって、友達もいる子供で。
なのに命を危険にさらすような目にあったり、苦しんで。
何度か激務をやめたいと思っても、災害などに苦しむ人が思い浮かび、自分なら助けられるはずだと我慢できず飛びだして。
母親と長い間離れたくないと言う当たり前の願いをまるで恥ずかしい逸話みたいに思っていて。
それで、今でもずるずるとバード星という場所から帰れなくて。
なのにその人生を栄誉みたいに考えていて。
なにかが。
色々な「なにか」の前提がとてつもなく歪んでいる気がした。
だが、安崎はそれを指摘できなかった。
安崎が口下手なのもある。一概にミツ夫を問題だとか、狂っていると否定はできないのもある。
少なくとも奉仕の精神は立派だし、どちらが明るくまともな思考回路をしているかと言われたら安崎よりもミツ夫の方だろう。言動としてはごく普通の少年だ。
喜怒哀楽も、危険に対する恐怖もある。おっちょこちょいでアイドル好きで、勇気も正義感もある普通の少年。
なによりミツ夫が言う通り、ある意味ではこの少年よりずっと悲惨な目にあっているのは安崎の方だ。
改造され1日23時間人外を殺戮し続ける運命にあり、それをやり続けなければ社会から存在を認めてすらもらえないゴミ掃除屋。
だが。それでも……安崎みちひろの目からすると。
自分よりヒロイックな人生を歩んでいるはずのミツ夫が、なぜか自分より哀れな存在に見えた。救われるべき対象に見えた。
ただ、安崎はどうすれば彼を救えるのかがなにもわからなかった。
(つうか救ってほしいのは僕の方なんだよチクショー……とは言えねえー!!)
ヤスザキマンが得意なのは、人助けではなく「人類の敵を殺す」ことだけなのだから。
【クラス】
アサシン
【真名】
ヤスザキマン@ショルダータックルヤスザキマン
【パラメータ】
筋力A 耐久E+++ 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
気配遮断:B
【保有スキル】
殺戮の鬼:A
人類の敵を1日中殺して殺して殺し続けてきたことによる対人外や非常事態における殺戮技術、観察眼、対応能力。
不意打ちといった事態にも対応し、瞬時に行動パターンを読み、初見のどのような姿の相手でも迅速に殺してのける。
このスキルはアサシンが経験によって得た技術であるため、宝具の存在やパラメータと無関係に常時発揮されている。
【宝具】
『肩弱の安崎(ショルダータックル・ヤスザキマン)』
ランク:B 種別:対人外宝具 レンジ:10 最大補足:40
アサシンが変身する戦闘形態の宝具。不定形のグローブ(本来肩部にあるプロテクターであるため、肩にも展開可能)を付けたスーツ姿のヒーロー。グローブはトゲや刃物、ハンマーなど意のままに変化する。
上記のパラメータはこの宝具を使用時のもので、使用してない状態だと全てのパラメータはEランク。
さらにアサシンの精神状態の安定を保つためこの宝具の発動は1日のうち23時間が限界となっている。
また肩部を破壊された場合この宝具は喪失する。
【人物背景】
本名安崎みちひろ。22歳の陰気でコミュニケーション能力の低いパッとしない男性。
知らない間に誰かに改造され、人類を喰らう自然発生した怪人を1日23時間狩り続ける人生を送り続けている。
勝手な市民の応対、1時間の精神休養以外は一切の自由が無く殺し続ける毎日と根の要領の悪さから彼はノイローゼになりかけていた。
【サーヴァントとしての願い】
ヤスザキマンやめたい。なんで座にまでヤスザキマン主体で登録されてるんだよ。
【マスター】
須和ミツ夫@パーマン
【マスターとしての願い】
安崎さんが不憫だからどうにかしてあげたい。
【能力・技能】
普通の小学5年生並み。ただし勇気やいざという時の機転はきく。
パーマンセットと言う宇宙人からの道具(マスク、マント、バッジ)を装備することにより6600倍の腕力と119kmの飛行能力といった強化された肉体を得る。
ただし、パーマンセットは機械なので状況によっては故障、不調になりやすい。また強化されてはいるが防御力は無敵ではなくただの銃弾などでも大怪我はする。
【人物背景】
バードマンという宇宙人からパーマンセットと言う超人になれる道具を渡され、日夜正体を隠して平和のために奉仕活動と戦いを続けていた小学生。
同じくパーマンセットを渡された仲間たちと事件解決や悪党退治を続け、やがて勇気あるふるまいが仲間の中でもバードマンに評価され、バード星に一時留学することになる。
が、また別の時系列の物語だと彼は大人になってもいまだ地球に帰ることができていない事実が示唆されている。
【方針】
悪いサーヴァントのみを排除する。マスターは人間なので取り押さえる。
最終更新:2021年07月14日 22:14