――――1年がこんなにも早く過ぎてしまうのに、一生をどれだけうまく生きられるでしょう?
誰そ彼時。
学校の屋上で、一人の女が佇んでいた。
赤を基調としたブレザーに、肩まで伸ばしたお下げが特徴的な女。
結崎ひよの。
それが、この偽りの東京で女に…否、少女に与えられた名前だった。
「もう、『結崎ひよの』を演じる事は無いと思っていたんですけどね……」
燃える様に赤く輝き地平線へと沈んでいく夕日を眺めながら、ぽつりとひよのは呟いた。
そう。
彼女の言う通り、結崎ひよのという少女は本来存在しないのだ。
本名も、実年齢も、人生も、何もかもが偽り。
結崎ひよのという少女は、女が神に命じられるままに演じていた虚像なのだから。
事実、時が満ちれば神の指揮のままに、結崎ひよのは幻の様に消え失せた。
彼女が愛した神の弟の、最後にして最大の絶望となるべく。
そして、神の弟がその試練を乗り越えた時――結崎ひよのの、名も知れぬ女の役目も終わったのだ。
なのに、今彼女は此処にいる。
再び天に、結崎ひよのの名を与えられて。
万能の願望器を巡る戦いに挑めと、この地に招かれたのだ。
願う願いは確かにある。
たった一つ、真っ先に思い浮かんだ願いが。
「でも、それを願ってしまうのは果たして正しいんでしょうかねー…」
彼に生きていてほしい。
未来のない身体で、運命に呪われた子供たちの希望となるべく笑っていた彼に未来を届けたい。
全てが閉じていく円環ではなく、いつか遥かな地平へ辿り着く螺旋の未来へ送り届けたい。
その願いが、無慈悲とも呼べる現実と戦うことを選んだ彼への冒涜なのは理解している。
だが…それでも、現実にその手段が手の届く位置にあれば、手を伸ばすことを考えずにはいられない。
人は現実にしか生きられないが、夢を見ずに生きるのが全てとは思いたくない生き物なのだから。
ブレード・チルドレンに、破滅をもたらす因子など宿ってはおらず。
彼が残酷な運命を背負う必要のない、何処までも都合のいい世界。
自分が彼の隣に居れなくてもいい。その資格がない事は、分かっている。
だが、彼がいつまでも変わらぬ音色を響かせられるように。
なるべくなら、良い日々が多く送れるように。
―――そう願う事は、罪なのだろうか。
「……貴方は、どう思いますか。キャスター」
くるりと身を翻して、ひよのは己が従僕に尋ねる。
与えられたサーヴァント。彼女にとっての矛であり盾。
悠久の時を生きる種族と言われる彼女ならば、答えをもっているかもしれない。
そう考えての問いかけだった。
「それは、マスターが決めなきゃいけない」
瞬間、ひよのの眼前に一人の少女が現れる。
女と言っても、人間ではない。
純白のローブ、二つに結んだ白髪と、ヒトよりも長い耳が特徴的なエルフの少女。
その背丈はひよのよりも小さく華奢で、見た目からはとても信じられないだろう。
彼女が、千年を超える時を生き、魔王すら打倒した勇者一行の一員であったことなど。
史上最も多くの魔族を斃したと謳われ、葬送の二つ名を持つ大魔術師。
『葬送のフリーレン』は、マスターの問いかけに凛とした声で、そう答えた。
「…えぇ、そうですね、貴方に答えを乞おうとするのは卑怯だったかもしれません」
淡白な己のキャスターの返答も気にする様子はなく、ひよのは穏やかに笑みを浮かべる。
元よりこれは自分で決めなければならない事だから。
彼を裏切ってでも彼を救うか。彼を救える千載一遇の奇跡を見逃してでも彼の信念に殉じるか。
きっと、何方を選んでも悔恨の炎に焼かれる事になるだろう。
そんな夢を持ったことすら、後悔することになるかもしれない。
人は夢を見ずには居られない生き物だが、夢はたいてい人を裏切るものだから。
けれど、それを恐れずに進める者だけが…裏切りも暗闇も知りながらなお進めるものだけが、夢を叶える権利を得るのだ。
彼が生きられる世界という夢を獲るか、彼の選択を尊重するか。
答えは今はまだ出ない。
「……マスター」
この世の酸いも甘いも知り尽くした老婆の様な、初恋に身を焦がす乙女の様な、ひよのの横顔。
そんな横顔を見て、キャスターは杖を握りしめながら静かに告げる。
「貴方がもし、聖杯を目指すというなら、私は協力するよ
大切な仲間と過ごした日々に、背かない範囲でね」
「あら、てっきりキャスターはこの戦いにあまり興味が無い様子だと思っていましたけど…
もしかして、何か叶えたい願いが?」
「ううん、そういう訳じゃないよ。ただ……」
此処まで冷淡だったキャスターの思わぬ言葉に、意外そうな顔でひよのは彼女の顔を見つめた。
雪の妖精の様に白く美しい顔は感情に乏しく、ひよのの目からも真意を伺うのは難しい。
だけれど。
「―――置いて逝かれる事がどういう事かは、分かってるつもりだから」
この少女の言葉にはきっと嘘偽りはない。
その事だけは確信することができた。
「――そうですか。では、まずはこの聖杯戦争について調査することから始めましょうか。
今の私たちは置かれている状況に対して余りにも無知で、何もかもが未確定です。
答えを出すのは、ある程度情報が集まってからでも遅くはありません」
「そう。結論の先延ばしにならないようにね」
「えぇ、勿論。貴方の言葉を裏切らないように此方も最善を尽くさせてもらいます。
これでも名探偵の助手をやっていたので、情報収集には自信があるんですよ?」
そう言って、迷うことなくひよのは手を伸ばした。
キャスターはその手をじっと見つめた後、ゆっくりと差し出された手を握り返す。
そして、夕日が二人を照らす中でキャスターは思うのだ。
……知りたいと。
自分がかつて勇者に抱いた想いと似た想いを持つマスターを。
マスターの言う彼とは、どんな人間なのかを。
……知ろうと思った。
かつて、人間の事をもっと知ろうと旅に出た時の様に。
想いを胸に。
葬送のフリーレンの新しい旅路が、幕を開く。
【クラス】
キャスター
【真名】
フリーレン@葬送のフリーレン
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運A 宝具B
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。が、どうも性格的に向いていないらしく、工房を作る事さえ難しい。
高速神言:A
「高速詠唱」の最上位スキル。呪文・魔術回路との接続をせずとも魔術を発動させられる。大魔術であろうとも一工程(シングルアクション)で起動させられる。神代の言葉なので、現代人には発音できない。
フランメの教え:A
キャスターの師である人類魔術の開祖であるフランメの教え。
常に一定の魔力を放出することで魔力量の多寡を相手に誤認させる効果を持つ。
このスキルが発動している限り敵サーヴァントやマスターはキャスターの魔力量をCランク程度にしか認識できない。
千年以上守ってきた教えだけあって看破は非常に困難、真名看破に類するスキルを持っていなければキャスターの本当の実力を図るのは不可能に近い。
葬送のフリーレン:A
史上最も魔族を葬り去った魔術師として名を馳せ、魔王すら打倒した逸話から生まれたスキル。
魔に類するものと相対した瞬間、キャスターの魔力ステータスと高速神言、そして後述の宝具に特攻補正が発生する。
【宝具】
『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大補足:100
かつて魔王軍歴代の中でも屈指の魔術師であるクヴァールが開発、考案した史上初の貫通魔法。
あらゆる防御魔法や武具の魔法耐性を貫き被弾した人体を削り取り直接破壊する。
この宝具は例えAランク相当の対魔力や魔法耐性の宝具を以てしても軽減はできない。
かつてクヴァールが猛威を振るった地方では冒険者の四割と魔術師の七割がこの魔法によって命を落とした。
その後クヴァールは封印されゾルトラークも研究され尽くし、一般攻撃魔法呼ばれるまでに零落したが考案者のクヴァールとクヴァールをゾルトラークによって打倒したフリーレンだけはかつての逸話のままにこの宝具を放つことができる。
加えてフリーレンの放つゾルトラークは魔族にも特攻効果を持つ改良版であり、人魔の属性を持つサーヴァントに特攻効果を有する。
【weapon】
千年間で磨き上げた多種多様な魔術の数々
【人物背景】
勇者ヒンメルの仲間であったエルフ族の魔法使い。見た目は華奢な少女だが、1000年以上の刻を生きる伝説の魔法使いで、魔族からは「葬送のフリーレン」の名で恐れられている。
一方で、あまりにも長寿命故か、感情の起伏が乏しく、情緒が未発達で、見た目以上に子供っぽい一面もある。
趣味は魔法の収集で、実用性が薄い魔法や変わった魔法をよく集めている。同時に凄腕の使い手でもあり、敵味方問わず一目置かれる存在。しかし、魔王討伐から50年以上経過しているため、一般的な知名度は低い。
機微に疎く、寝起きが悪く、ミミックの罠によく引っ掛かるなど、ずぼらな一面もあるが、基本的に冷静沈着な性格で、こと魔族に対しては容赦がない。
【サーヴァントとしての願い】
未だ未知の魔術の探求、或いは…
【マスター】
結崎ひよの@スパイラル~推理の絆~
【マスターとしての願い】
鳴海歩に未来を与える。
【能力・技能】
高い情報収集能力と人並外れた度胸と行動力。銃器の扱いにも精通する。
【人物背景】
月臣学園2年で新聞部部長。
童顔で年上に見えず、亜麻色の髪と緩くしたおさげが特徴の、自称『恋に夢みる美少女』
本作の主人公である鳴海歩を献身的に支え続けた。
【方針】
現状は中立派。
序盤は聖杯戦争そのものの調査に動く。
【備考】
参戦時期は七十六話『優しく、羽飾りを』でピアスを受け取った後。
最終更新:2021年07月18日 00:40