地下の奥底、その底の底で丸々と太った中年男性が物憂げに考え込んでいた。
男の名は大槻太郎。大手金融会社帝愛グループが秘密裏に建設する地下王国のE班班長である。

大槻は時たま思い出したようにため息をつくと、「くぅ~~~~」などと一人で悶え始めるのを何度も繰り返していた。

「班長、どうかしたんすか……?」

「そうそう、悩んでるなんて班長っぽくないっすよ。なんか困ってるならオレたちが相談乗りますよ」

その様子を見かねた同じくE班側近の石和と沼川が声をかけた。

すると大槻はしばらく逡巡していたが、意を決したように口を開いた。

「もし、だぞ……。もし、お前たちが聖杯戦争に巻き込まれたらどうする……?」

思っても見なかった質問に石和と沼川は一瞬顔を見合わせたが、いつもの酒の席でのバカ話が存外気になったのだろうと思い直し、二人も真面目に考え始めた。

「う~ん、そうっすねえ。オレならやっぱりセイバー引いて敵の魔術師どもの巣窟に宝具をどかーんとぶちかましてみたいですね!」

大雑把で能天気な石和は相変わらずだった。

「……いや、一般人のオレたちにできることなんてそうそうないだろ。オレだったらずっとこの地下に籠もっていい感じに漁夫の利を狙いますね」

一方、思慮深い沼川はいやに現実的な案を出してきた。

「うん、うんうん。そうだよな……」

大槻は沼川の答えを聞くと何度かうなずき、最終的に何か納得したような顔になった。

「あ、そんなことより班長。今週の1日外出券、どうします? オレ、この前になかなか良さそうな店見つけたんすよね……!」

「いや、今週は――というより当分はワシは外出は止めておこうと思う」

石和たちが誘ったにも関わらず、外出券の行使に応じないどころか当分は外出しないなどと言い出す大槻。こんなのはめったにないことであった。

「ど、どうしたんすか……っ!? もしかして外出用のペリカが尽きたとか……?」

「いや……そうじゃない……! そうじゃないんだが……」

今日の大槻はどことなく歯切れが悪い。

「……すまん。ちょっと外の風に当たってくる」

地下の強制労働施設に風など吹くはずもないのだが、ともかく大槻は二人を置いて班長用個室に閉じこもってしまった。

「ふぅ……」

ため息をもう一度つく大槻。
すると、ヒョコッとかわいらしいマスコット的な謎の存在がどこからともなく姿を見せた。

(言えるか……っ! このワシが聖杯戦争に巻き込まれたなんぞ……っ!)

そう、大槻の悩みとはそれであった。
大槻がこの界聖杯内に招かれたのはつい一週間前のことだ。
あてがわれたサーヴァントのクラスは最弱と名高い『暗殺者(アサシン)』。
しかも、その姿は歴戦の英雄ならいざ知らず、どうにも頼りないものであった。

しかも、しかもである。
この東京都を模した異世界に存在する人間たちは全員、大槻の元いた世界の住人とは違うらしいではないか。
つまり、石和も沼川も、地下監視役の宮本さんも全員が全員、実は異世界人ということになる。
大槻が元の石和や沼川に比べてイマイチ心を開けない原因はここにあった。

今はいわゆる予選期間中とのことで、地上では血を血で洗う恐ろしい戦いが繰り広げられているのだろう。
そう考えるとどうにも気が休まらなかった。

そんな大槻の気も知らず、アサシンはのんきにも大槻の周りを人懐っこ気に飛び回っている。

「……ん?」

すると大槻の心情をやっと理解してくれたのか、アサシンが跳ね回るのをやめると、指をクイクイっとさせてこちらへ来るよう促してきた。
導かれるままついて行くと、そこは強制労働施設の廃棄資材置き場であった。

「どうした……? ここには生コンと木材の切れ端ぐらいしか置いとらんはずだが……」

アサシンはその奥の青いビニールで覆われた場所を指差した。どうやら覆いを外してほしいようだ。

「やれやれ……。これを外したら他のマスターたちの首がゴロリなんてことは無いだろうな……」

そう冗談めかしながら大槻はせーのでビニールをめくった。

「ひ、ひいいい……っ!」

そこにあったのは、首、首、首。大量の生首だった。
どこからどう見ても作り物ではない、本物の首だ。
それが十個や二十個ではきかないほど積み上げられていた。

するとアサシンは自慢するようにあるのかないのか分からない胸を張った。
どうやら褒めてほしいようだ。

しかし、当の大槻は腰を抜かして立てない。
失禁もしそうだった。

「な、なんじゃこりゃあ……っ!」

疑問と当惑。
しかし、大槻の中では同時にある一つの考えが頭をもたげてきた。

「このサーヴァント、実はめちゃくちゃ強いのでは……?」

大槻は立ち上がった。

「ク、ククク……!」

その顔には先ほどと打って変わって笑みが浮かんでいる。

「『勝てるか……っ?』ではない……っ! 勝つのだ……っ! ワシなら、ワシたちならやれる……っ!」

自分に言い聞かせるようにそう呟くと、大槻はアサシンの頭をなでた。

「泥に塗れた聖杯なんぞ貰っても酷い目に合うだけ……っ! ならばワシのやるべきこと……! それは――――」

「――地下生活をできる限り満喫し、いい頃合いに元の世界へ戻ること……!」

待っとれよ、石和、沼川。
その男の糸目には、漆黒の決意と希望の光が滲んでいた。




【クラス】
アサシン

【真名】
インポスター@Among Us

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:A+ 宝具:C

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
気配遮断:C++
自身の気配を消すスキル。
攻撃態勢に移るとランクが下がる特性がある。
インポスターの場合は、第一宝具使用時に効果が跳ね上がる特性を持つ。

【保有スキル】
情報抹消:A
対戦が終了した瞬間に、目撃者と対戦相手の記憶・記録から彼の外見特徴に関する情報が消失する。
これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

でたらめプランニング:B
無謀極まりない殺人計画でも、あらゆる幸運が彼を味方する。
敏捷か幸運、または宝具のステータスランクをランダムに1段階上昇させる。

破壊工作:A
戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす能力。
ただし、このスキルの高さに比例して、英雄としての霊格が低下する。

【宝具】
『妨害(サボタージュ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:∞
屋内でのみ使用可能。停電を発生させ、対象の視界を極度に狭めたり、ドアを閉鎖して密室を作り出したり、インターネット通信を阻害したりと様々な妨害が可能。
ただし、この効果で殺害を行うことはできない。あくまで混乱を引き起こすことが主目的の宝具である。

『殺害(キル)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:1
範囲内の対象一人を殺害する。
これは因果を超えたものであり、どんな存在であろうとこの宝具の対象になった時点で死亡し、蘇生も復活もできない。
また、消費魔力量は意外にも少ないが、『クールタイム』と呼ばれるインターバルが適宜必要なため、連続使用は不可能。

【weapon】
基本的に素手だが、たまに刃物やビームが身体から出る。

【人物背景】
宇宙空間に存在する宇宙船の乗組員。
動機は不明だが、普通の乗組員(クルー)を皆殺しにすることを企んでいる。
YES/NO程度の意思疎通は可能だが、基本的に喋れない。

【サーヴァントとしての願い】
不明。





【マスター】
大槻太郎@1日外出録ハンチョウ

【マスターとしての願い】
生き残り、元の世界へ戻る。

【能力・技能】
人間のクズどもを借金地獄に嵌める悪魔的発想、およびイカサマチンチロの腕前。

【人物背景】
帝愛グループの建設する地下王国のE班担当の班長。
地上で仕入れた嗜好品をぼったくり価格で売りつけたり、チンチロリンで四五六賽を駆使してペリカを巻き上げたりする。

【方針】
暫くは地下に潜ってアサシンに任せる。

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最終更新:2021年06月03日 21:07