「ゴミカスがァー。なにが魔術師よ。この神聖皇帝たるオレに逆らおうなんぞ笑わせるわァ!!」
血にまみれた教会にふんぞりかえって、そう言い放つ巨躯の男。
禿頭に真珠の数珠と僧侶のようないで立ちだが、しかし凶悪な刺青と鋲を打った僧衣がただの僧侶ではなくならずものの印象を際立たせていた。
おお、ブッダ。なんたることか。
神の地たる教会にて人間をひねり潰し、整然としていたはずの長椅子を組み換え、寝転がってスシをむさぼり、酒を飲む。
俗物で狂暴な悪徳坊主そのものの冒涜的光景だった。
彼の名はイヴォーカー。
ランサーのサーヴァントにして、新進気鋭の過激派宗教団体、アンタイブッダ帝国の自称神聖皇帝である。
ランサーが拠点とする高層ビル。その最上階に建てられた教会という奇妙でおかしな位置にある施設に住まうそのマスター、言峰綺礼は死人のような目でランサーを睨んでいた。
自分は第四次聖杯戦争に居たはずだ。
それがなぜこんな意味不明な場所に呼ばれ、わけのわからないサーヴァントを相棒とせねばならないのか。
「神父の見る前、教会で悪徳とはたいした度胸だな、ランサー」
「ふん。ニンジャこそ救いよ! お前もクリスチャンなどやめ、早く我が軍門に下り楽になればいいものをなァ、キレイ=サン」
巻き舌でランサーはねちっこく絡んだ。彼が言峰を殺そうとしないのは、ひとえに一蓮托生のマスターであるから……
そして、目の奥に悪徳に惹かれるオハギのような闇が見えたからだ。
そうでなければ偉大な教えをくどくどと否定し、カラテをストイックに鍛錬する聖職者など、ボーで打ち据え殺していただろう。
「カネ! ドラッグ! セックス! 全て救いだ。俺が下賜する救いだ」
そう言ってランサーが違法薬物を菓子をむさぼるようにぞんざいに摂取する光景は、存在そのものが神仏の破壊者としての体現だった。
「……そのような堕落をしたところで、楽になれると思ってはいない」
「ヘハッ! では聞くがよォ。なぜおまえはその「堕落」とやらを体現するこの俺……サーヴァントを召喚し、このような異端の地をさまようハメになっている?」
「……知るものか。私が聞きたいくらいだ」
では答えようと、ランサーは自信満々に言った。
「決まっている。ブッダが悪いのだ。ブッダがゲイのサディストだからだ!!!」
まるでスカムな禅問答の回答に「なるほどそうか」との反応はなく。しらけたような空気がマスターの周囲に漂った。
「私は神に仕える身だ。仏陀の理など知るものか」
「ならばこう言おうか」
教会にそびえる十字架に磔にされた神聖な像を指さして、ニンジャはおごそかに言った。
「「あの男」が悪いのだ」
なにを世迷言をぬかすのだこの男は、と神父は顔をゆがめた。しかしまくしたてるようにニンジャは喋り続ける。
「よいのだ。キレイ=サンよ。恨んでよいのだ。俺を褒めたたえよ! ニンジャをあがめよ! なぜ誰もこのマッポーの世を救ってくれない? なぜお前のような狂った感覚のものが生まれる? それはブッダが悪い。オーディンが悪い。ゼウスが悪い。「あの男」が悪い。悪いのでなければ……」
唐突に。
今まで終始浮かべていた凶悪な笑顔が抜け落ちた表情となって、アンタイブッダ帝国の主はポツリと言った。
「なぜ、このどうしようもない世界を……誰も助けてくれないのだ」
それは、見捨てられた子供が放つような声音の言葉だった。
ランサーはなにを思ったか「サケとスシが切れちまったなァ」と言い、急に霊体化してどこかへと去った。
ひとり残された言峰は苦々しげに吐き捨てる。
「バカげている」
まるで責任転嫁だ。助けてくれない神仏を恨めとすがっているだけのダダっ子めいた稚拙な理論。
幼稚だ。
だが信仰に悩んだ真摯な思考の末ではあったのだろうと伺えた。
言い訳じみている。
だが困ったことに一定の筋は通っている。
醜悪だ。
だがそれはもう一方の理性とは違う言峰の感覚に照らすと……ひどく、美しく見えた。
なにより。自身の存在をすんなりと証明できる理屈にも思えてしまった。
だからこそ、信仰を重んじる言峰は彼を認めるわけにはいかなかった。
「「「「ブッダを恨む権利は誰にでもある」」」」
(なにが恨む権利だ。私は信仰を否定する権利を得たいのではない。答えを得たいのだ)
己のサガに苦悩こそせよ、信仰の対象たる主に言峰はもとより恨みなど持ち合わせていない。
だが。
ただ「あの男が悪い」「主が悪い」とぬけぬけと言えれば、どれほどすっきりするだろうか。どれほど愉しいだろうか。
それを想うと……
「違う!」
叫び声が教会を揺らした。
言峰綺礼はランサー、イヴォーカーを否定し続ける。
何度も何度も。
まるで、否定し続けなければ認めてしまう自分が怖いかのように。
その醜さに愛着を抱きかねない自分を否定するかのように。
否定し続ける。
しかし。
言峰はこの界聖杯内界に来てから、ランサーの蛮行を一度も無理やり止めようとはしなかった。
令呪は、今も言峰の肉体に残っている。
第四次聖杯戦争の途中から呼び出された時のまま、大量の預託令呪までもが。
それらは決して一度も使われていない。
ランサーがどのような悪行をなした時であろうと、一度たりとも。
【クラス】
ランサー
【真名】
イヴォーカー(グノーケ)@ニンジャスレイヤー
【パラメータ】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
ボンジャン・カラテ:B+
バトルボンズが習得、鍛錬する習練のカラテ。
八極拳に酷似した動きと攻撃を可能としている。
アンタイブッダ:A+
カリスマにも類似したスキル。神仏を憎悪せよ、我をあがめよとの教えを広め敵対組織のニンジャをもたやすく魅了した言動がスキルへと昇華された。
サーヴァント、マスター、一般人を問わず周囲に対し低確率で憎悪の信仰を植え付けることができる。
このスキルはまた神性のある存在に対し否定者として多少の優位性を持つことができる。
【宝具】
『聖なるボー』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:10
ルーンカタカナの掘りこまれた6フィートの棒。本来は神器を封じるための宝具。使用者の意志を反映し伸縮し、稲妻を放つ。
なお聖なるブレーサーとは反する存在のため同時使用はできない。
『聖なるブレーサー』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
可変し腕を包み拳に鉤の付いたガントレットへと変形するブレーサー。持ち主の精神に呼応し、ランサーの場合は鎧となって身体を包む。
ただしランサーはこの宝具の本来の使い手ではないため、その力のすべてを引き出すことはできていない。
そのためランクの強さと実際にランサーが発揮できる威力は噛み合っておらず、さらに使うたび精神を浸食されていく。
【人物背景】
元はキョート共和国の高位バトルボンズ。しかしニンジャソウルによって独自の思想に至り、元居たテンプルを襲撃、虐殺を行い宝具のボーを奪取する。
「ブッダを憎め、ニンジャが救い」の信念をかかげ武装宗教組織アンタイブッダ帝国を組織し、自身は神聖皇帝を名乗りはじめる。
その後テンプルの唯一の生き残りアコライトと彼が装備した聖なるブレーサーによって襲われるが、なんとブレーサーをも奪うことに成功。
しかしニンジャスレイヤーとアコライトとの再戦で敗北し、死にかけのまま正気を失いつつも逃走する。
最終的に聖なるブレーサーを回収に来たニンジャ、ダークニンジャと接敵し死の間際ブッダに救いを懇願しながらも介錯され、完全に死亡した。
【サーヴァントとしての願い】
欲望のままに生き、破壊し、勝利する。今度こそ万人にブッダを恨む権利を知らしめ人々にニンジャが救いだと証明する。
【マスター】
言峰綺礼@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
信仰を保ち続け、この聖杯戦争から一刻も早く脱出する。
自分がなんなのかを知りたい。
【能力・技能】
八極拳の使い手。また黒鍵と呼ばれる聖書を加工した特殊な刀剣を使いこなす。
初歩的な魔術も使用可能だが、その起源から治癒に関してだけは他より長じている。
【人物背景】
聖杯戦争を管理する教会の息子。組織としては聖堂教会に所属している。
勤勉に鍛錬を行い聖職者として生きてきたが、その感覚と噛み合わない自らの「他者の苦難や悪徳」を見て喜びを覚える感性に対して苦悩と不安を覚えている。
しかし、裏の同盟相手が召喚したサーヴァント、ギルガメッシュの存在によりその精神はさらに揺らいでいく。
【方針】
とにかく帰還を第一優先にする。できればランサーを排除したい。
最終更新:2021年06月03日 21:09