東京と言う人が何処にでもいるような場所ではあるが、
 人払いをされたのか、驚くほど周囲は静寂に包まれている夜の公園。
 コンクリートの大地を駆け巡りながら、二つの刃が交差する。
 刃を握るはかたや屈強な老人、かたや十代中頃の少女と対照的だ。
 何方も剣技に優れたセイバーなのは、聖杯戦争に疎い人物でも一目瞭然である。
 老人のマスターの少年は警戒する。うら若い年の少女でサーヴァントとして召喚されている。
 つまり、その年で英霊足りうる条件を満たしているということに他ならない。
 故に少年も決して警戒を解かない。たとえ彼のセイバーが優位だとしても。

「すごい……これがサーヴァントとしての剣技なんだね!」

 事実、彼女は劣勢でありながら楽しそうだった。
 岩も容易く両断するセイバーの一撃を、高揚とした表情で剣劇を続ける。
 互角か、それ以上に追い詰めているはずなのになぜ楽しそうにいられるのか。
 一瞬でも油断すれば死、ないし消滅と隣り合わせとは思えない表情。
 だが狂ってるかと言われると驚くほどに理性的な面を持ち合わせる。
 何にしても優勢。宝具を使われる前に仕留めてもらおうとするが、

「やあああああ!!」

 急に速度を上げた少女が繰り出した技。
 相手の流派は剣術に博識な少年には何かは分かっていた。
 新陰流から柳生宗矩が継承していった流派、柳生新陰流。
 だから彼女の出した技に、驚きが隠せない。

 彼女が出した剣技は、彼のセイバーと殆ど似たものだからだ。
 少年のセイバーも日本由来の剣術を持っている剣豪の逸話がある。
 しかし一度見ただけで見様見真似にしては余りに再現度が高く、
 その一撃を受けたセイバーも、驚きの声を上げたまま消滅する。
 先ほどまで優位だった、間違いなく強いサーヴァントだった、なのになぜ。

「命まで取りたくないから、退いて。」

 状況の理解が追いつかず困惑してる中、
 サーヴァントを喪ったマスターへと刃を向けながら呟く少女。
 東京と言う舞台では余りに浮いた、山伏に似た格好が目立つうら若い乙女。
 恰好と先の戦いの剣技を前に、英霊であることを差し引いても何処か神聖さを感じる。
 殺意は大して感じられないし、このまま刃を振るうことに忌避感のある表情。
 思い返せばセイバーを倒したときの表情も、何処かもの悲しげな表情だった。
 サーヴァントがいないのではどうしようもないのもあって、素直に彼は撤退する。
 少女のマスターも、特に何も言わずにそれを見過ごすことにした。





「えっと、勝手に逃がしちゃったけど……よかった?」

 山伏の少女は刀を収め、
 コンクリートの道に倒れるマスターを見ながら車椅子を起こす。
 車椅子、と呼ぶにはかなり奇抜なデザインのものだとセイバーも感じた。
 頭部に繋がったコードもあわせ、どこか近未来的な姿をしている。

「必要ないなら、別にいい……」

 インナーの少女は小さく呟きながら車椅子へ向かう。
 当然セイバーは放っておけるわけなく彼女を抱えて車椅子へと乗せる。

「よかったぁ~。もしダメだったらどうしようって思ってたけど。」

 彼女は今しがた召喚されたばかりのサーヴァントだ。
 相手がマスターを狙っていたので、まともな意思疎通する暇もなく戦いに応じた。
 勝手に自分で行動して微妙に不安だったが、マスターの言葉に安堵の息をつく。

「ただ、必要な時は別。」

「……だよね。」

 マスターを逃がすと言うことは、
 また何らかの方法で仕返しされる可能性がある。
 サーヴァントの情報も得た以上対策もされやすい。
 これを繰り返していては、その可能性は増え続ける一方だ。
 車椅子の少女もその辺は割り切っていて、セイバーは目を逸らす。

「聖杯戦争……」

 初めて聞いた名前。
 知識は得たが、余り驚いてる様子はない。
 殺伐とした舞台など、元居た世界と大差ないのだから。

「……セイバー。お願い、私を優勝させて。」
「え!?」

 泣きつくような勢いで頼んできたことでセイバーは驚く。
 内気で大人しい子と言うイメージが強かった第一印象とは思えないほどに、
 今の彼女は張り詰めた声で語りかけてくるとは思わなかった。

『アンタだってほんとは嫌なんだろ?
 自分の力を利用されるのも、誰かに支配されんのもよ。』

 思い出した本来の記憶。
 この舞台に来る前に、部屋へ乗り込んだ彼から言われた。
 あの部屋は地獄でしかなかった。毎日能力を戦争の道具に利用されて、
 女だからと都合のいい慰み者にされて、ずっと諦め続けていた日々
 そんな世界に絶望してたところ彼に自分で決めるように言われて、
 こうして訪れた唯一の希望がある。

「私は戦争の道具から抜け出したい!
 性欲処理なんて立場なんてもう嫌なの!
 だからセイバーお願い……私を聖杯戦争で勝たせて!」

 これは最後のチャンス。
 道具としての自分とはさよならだ。
 此処から自分の意志、朝狗羅由真として生きたい。
 神秘の秘匿なんてものあったものではない。深夜の公園に彼女の声が響き渡る。
 涙を流しながら悲痛の声と共に紡がれる彼女の境遇は、セイバーも言葉を失ってしまう。

「お、落ち着いて! ちょっと話せる場所に移動しよ!」

 ただでさえサーヴァント同士の戦いが起きた場所。
 此処にいては危険で、由真を車椅子に乗せて早急にその場から離れる。
 彼女の自宅として割り当てられた無機質な家へと戻って、二人は向かい合う。
 家の内装は何処を見ても無機質で、窓もなく窮屈極まりない雰囲気が感じられる。
 ともすれば牢屋とか監禁とか、そういう風に見えてしまう。

「……今思えば、気付くべきだった。」

 凡そ普通の人が生活する家ではない、欠陥住宅もいい所だ。
 なのに違和感を感じなかった。来る以前の由真が過ごした部屋、
 そことあまり違いがないのだから。

「セイバー。マスターは殺せる?」

「えっと、できないってわけじゃないんだけど……」

 聖杯戦争とはあくまで殺し合いの場だが、
 当のセイバーは殺し合いではなく立ち合いを望む。
 だから英霊であるサーヴァントならまだ辛うじて斬れるが、
 生きているマスターを相手に斬る行為はあまりしたくなかった。

『私は戦争の道具から抜け出したい!』

 由真の悲痛の叫び。
 それが後ろ髪を引かれる。
 セイバー自身、その気持ちが理解できる立場にある。
 神薙ぎの巫女としての立場で、人を守るべくその剣を振るった。
 だがセイバーは強くなりすぎた。政治的な面でも危険視されかねない程に。
 一歩間違えれば戦争の道具にすらなりかねない程の強さになってしまったのだ。
 だから彼女は俗世を離れ山へと籠った。自分の存在によって、
 仲間が同じ風に見られないように。

「サーヴァントだけ……は、無理だよね。」

 彼女は車椅子と言うハンデを背負っている。
 戦闘も不利だし、逃げることも満足にできない。
 マスター同士の戦いで勝てる可能性は常人よりも絶望的だ。
 ともすれば自分が頼みの綱。譲渡を望める雰囲気ではなかった。

「必要ないなら、なるべくしないように考える。」

 優勝こそしたいが、
 彼女はそもそもそこまで戦いを好まない主義だ。
 無理矢理戦争の道具として電脳世界を操作してたが、
 本質的には何処にでもいる少女とそこまで変わらない。

「でもさっきも言ったけど、必要ならする。」

 一方で完全な博愛主義に非ず。
 暴力が支配する世界に生きてた以上、
 気を付けるべき領分は弁えている。

「……うん、わかった。」

 由真の境遇からすれば令呪で命令もしただろうに、
 それをせず最大限の譲渡を考慮してくれている。
 これ以上何かを言えるものでもなく、彼女もそれを受け入れた。
 何より、戦争の道具なんてものを聞いた手前他人事ではない。

「私は朝狗羅由真……お願い、セイバー。」

「サーヴァントセイバー、衛藤可奈美。これからよろしくね!」

 快活に、主へと手を伸ばす。
 その手を手に取り、過去との決別の戦いが始まる。
 同時に、あるべき未来へ至ることのなくなった戦いが始まった。


【マスター】
朝狗羅由真@大番長

【能力・技能】
B能力・特待生
所謂異能力者。彼女は電脳世界を自在に操れる
繋がってる機械の椅子から電脳世界へアクセスして情報収集、
優れたハッキング能力によってジャミングなどの機械への妨害が可能
元々知っていたプログラムを差し引いても、瞬時に書き換える程に速い

【weapon】
車椅子
車椅子に付属の電子パネル操作で、エネルギー弾のようなものが出せる
威力は常人が受ければ結構なものだが、射程以外は特別強くない

【人物背景】
志津岡を拠点とするPGGで利用され続けていた、下半身が不自由な少女
嘗ては境遇に諦念し人にされるがまま、命令されるがままに過ごしていたが、
斬真狼牙との邂逅によって自分の道を考えようとしていた
その考えが纏まる前に、彼女はこの戦争へと招かれた

【聖杯にかける願い】
戦争の道具として利用されない、自分として生きたい

【方針】
戦闘はセイバーに一任し、情報収集に徹する
なるべくセイバーにあわせるつもりではあるが、
必要であればマスターも殺す覚悟はある

【クラス】セイバー
【真名】衛藤可奈美(ANOTHER)@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:C+ 耐久:C+ 敏捷:A+ 魔力:D+ 幸運:C 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:D
一工程による魔術行使を無効化する
魔力避けのアミュレット程度の対魔力

騎乗:E
彼女は乗り物を乗りこなした逸話はない為最低限のランクしかない

【保有スキル】
刀使:EX
御刀の神力を引き出すことができる巫女。荒魂を斬って祓う唯一の存在
荒魂に対するダメージが上がり、神性を付与した状態で攻撃ができる
また神力を引き出すことで写シ等の特殊な能力を使用することが可能
(主にダメージの大幅軽減、敏捷強化、筋力増強等)
彼女は別の道を辿ったことで生身で荒魂を感知したり鎮めたりもできて、
刀使として異例ばかりの力を有した結果、スキルが測定不能になっている
御刀が手元にある限り、このスキルを封印することは不可能

柳生新陰流:C
柳生新陰流を修めているが、かの剣聖程の精神耐性も得るほどの領域ではない
無念無想にはなれないし、寧ろ剣技を前にしてしまうと楽しんでしまう為ランクが低い
強敵に恐怖よりも歓喜するのは、ある種の精神耐性とも言えるのかもしれないが
その代わりに、無刀取りも低ランクながら内包してる

心眼(真):B
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理
可奈美は天・地・人の三才を正確に読み取り、その場で瞬時に戦いを組み立てることが可能
未来予知に等しい演算を相手にすら対応ができる

【宝具】
極地無峰之剣
ランク:B 種別:対人魔剣 レンジ:1 最大捕捉:人
常時発動型宝具。元々可奈美は模倣が得意だったがANOTHERはよりそれが強く反映、
新たな剣技を見ることによって、他者の流派を即座に模倣することができる宝具へ昇華した
つまるところ岡田以蔵の始末剣の亜種であり、再現不可能な類についても共通
ただ剣術と同時に流派の模倣なので、タイ捨流等ある程度の体術も模倣可能
同時に元から完成された剣術を持つので、余程優れた剣術でないと成長は今一つ
サーヴァント相手なら、その余程優れた剣術なのだろうが

【weapon】
千鳥
神性を帯びた稀少金属・珠鋼を精錬して作り出された日本刀
隠世と呼ばれる異世界より様々な超常の力を引き出し、荒魂に対抗できる唯一の武器
珠鋼によって造られたことで神性を帯び、錆びることも折れることもない
御刀の千鳥も雷を斬った逸話を持ってる為、雷に関する特効が存在する

脇差
ANOTHERの際に挿してる御刀でなければ、由来も不明のただの脇差
千鳥程の神秘は持ち合わせていない

【人物背景】
荒魂を祓う刀使の巫女……の、辿ったかもしれなかった可能性(ANOTHER)の一つ
彼女は強くなりすぎてしまい、対等に並ぶことができる相手は何処にもいなくなった
強さの領域は、友人からも自分達よりも遠くにいると称されてしまう程に至っている
自身の存在は最早刀使に留まらず、荒魂退治以外の利用すら考えられるようになり、
刀使そのものが危険視されないよう、自身は行方をくらまして孤高の道を歩む
結果さらに高みへと至り、下手をすれば姫和のみしかできない筈の第五段階迅移すら可能の節がある
彼女はそんな可能性の一つにおける成れの果てだが、根本は変わってるわけではない
明るく社交的で、剣術オタクで研鑽を続けて、一人で背負い続けてしまう中学生の少女

【方針】
不殺の精神を持ってはいるものの、
それを貫けられる状況でないことも理解している
サーヴァントに対して割り切ることはぎりぎりできたが、
マスター殺しもできることならしたくないが、
彼女の境遇を聞いてはとても言えない

【聖杯にかける願い】
戦える存在を心のどこかで欲していた彼女には、
既に叶ったとも言える。今更欲しいものでもない
あるなら、荒魂も刀使も平和でいられる世界を望むぐらいか

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最終更新:2021年06月04日 20:48