◆◇◆◇◇◇◇
――遠い空の果て。
――星はそっと流れてく。
――小さな光が咲く一瞬が。
――とても ま『タン!!』「ぶっ」
◆◇◆◇◇◇◇
英霊はいつ死ぬ?
人から忘れられたとき。
偶像はいつ死ぬ?
人から見放されたとき。
偶像はいつ成る?
人の前で神話になったとき。
人はいつ死ぬ?
銃弾に撃ち抜かれたとき。
では、あの時。
彼らは、一体何を見た?
――――“銃撃”だ。
◆◇◆◇◇◇◇
――――『タン!!』
◆◇◆◇◇◇◇
―――あなたにとって。
―――アイドルとは?
“仰ぎ見るもの”
“画面の中に存在する”
“カメラ越しの神様”
“でも、本当は―――”
“ねえ”
“なみちゃん”
“あなたも”
“哀しかったんだよね”
“だから……”
“ごめんなさい”
“どうか、今だけは”
◆◇◆◇◇◇◇
――――『タン!!』
◆◇◆◇◇◇◇
―――あなたにとって。
―――アイドルとは?
“んー”
“なんていうかぁ”
“こう”
“眩しいくらいに煩いところで”
“綺麗な光に照らされて”
“私の色を、見せつけること”
“誰かの色を、見つけること”
“そういうものが、アイドル”
“……じゃないですかねー?”
◆◇◆◇◇◇◇
――――『タン!!』
◆◇◆◇◇◇◇
―――あなたにとって。
―――アイドルとは?
“私の心を、誰かが見つけてくれて”
“私の為に、誰かが祈ってくれて”
“たくさんのことを、分けてもらって”
“たくさんのものを、譲ってもらって”
“だから私は、お返ししたいなって”
“なにかを届けたいって、思うんです”
“『おはよう』って……朝を伝えてあげるみたいに”
“それが私にとっての、アイドルです”
◆◇◆◇◇◇◇
――――『タン!!』
◆◇◆◇◇◇◇
――――『タン!!』
◆◇◆◇◇◇◇
――――『タン!!』
◆◇◆◇◇◇◇◇
―――あなたにとって。
―――アイドルとは?
”あ?知るか”
“マニアにでも訊いてこい”
“競艇負けたばかりで気分悪ィんだよ”
“……んだよ”
“物好きな奴だな”
“ただのガキ共だろ”
“それ以外ににあるかよ”
“くだらねぇな”
◆◇◆◇◇◇◇
――――『タン!!』
「ハイ、お疲れ」
「解散解散」
◆◇◆◇◇◇◇
人を殺す“現実”の弾丸か?
神話を創る“理念”の弾丸か?
彼女を撃ち抜いたのは。
彼女達を撃ち抜くのは。
一体どちらなのか?
◆◇◆◇
疲弊と憔悴に、打ちのめされて。
“彼女の死”を引き金に、視界が闇へと落ちて。
幾許の時間が過ぎ去ったのかも分からなかった。
ただ一つ、言えることは。
その眼も、その意識も。
不思議なほどに、冴え渡っていた。
日陰に居ることも厭わず。
うだるような暑さが、肌に纏わりつく。
身体が、じっとりと汗ばむ。
真夏の熱と、伸し掛かる疲労感と、深い動揺。
全身を蝕むような熱に、
田中摩美々は不快感を抱く。
先程まで無意識の中に沈んでいたことさえも、全てが嘘だったかのように。
田中摩美々は、自らの認識を取り戻す。
その瞼を開いて、傾いた視界の中で現状を確認する。
自分はまだ、生きてるんだ。
そんな想いを、ぼんやりと抱く。
脳裏に、記憶が蘇る。
入り乱れる、歌と銃声。
やがて、その感覚は。
拭えぬ哀しみと、深い喪失感に。
ゆっくりと、変わっていく。
ああ―――。
咲耶。“にちか”。
ここに辿り着くまでに、失ったもの。
この旅の中で、取り零してしまったもの。
摩美々の脳裏に過る、記憶の欠片。
ひどく遣る瀬無くて。ひどく、憂鬱で。
朝は、再びやってくる。
櫻木真乃。ひとつの翼が欠け落ちて、ひとりの仲間が喪われても。
それでも朝は、何も変わらずにやってくる。
やがて摩美々は、視線を動かす。
「おはよう……摩美々ちゃん」
すぐ傍で、霧子が呼びかける。
摩美々の顔を覗き込む、その微笑みは。
どこか寂しげなものに映った。
◆◇◆◇◇◇◇
若き希望が、街を往く。
漆色の車両に乗って。
大衆の歓声と信仰を背負い。
若き偶像は、行進する。
神話の果てが、迫るとしても。
魔法の弾丸に、狙われたとしても。
祝福の凱旋は、続いていく。
8mmのフィルムに見つめられながら。
それは、混沌の時代へと向かう狼煙か。
あるいは、希望の世界を臨む祈りか――。
ああ。
唄が寄り添っている。
銃声が歩み寄っている。
◆◇◆◇◇◇◇
最終更新:2023年07月31日 23:53