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――日誌 ロールシャッハ記、19(書き間違えたのか、歪な横線で消されている)
20XX年、XX月XX日
輪廻、と言う言葉を思い出した。昔、ニュージャージーの児童矯正施設にいた時、宗教学を齧っていた。その時に学んだ言葉だ。
要は、生まれ変わりだ。仏教の概念だったか。死ねば誰もが、生まれ変わる。そう言う考え方だ。今は人間として生きている者も、次に生きる時は人間だとは限らない。
犬かも知れない、山猫かも知れない、鳥かも知れない、蟻かも知れない、微細な細菌になる可能性だってあり得る。
いやそもそも、俺達が生きる世界だとも限らない。古い記憶だが、ずっと戦い続けねばならない世界だとか、飢えた犬畜生共の世界だとか、地獄そのものの世界に生れ落ちる可能性だってあった筈だ。
生前の倣いに従い、俺は当然地獄に案内されると思っていた。だがそこは、硫黄の臭いもしなければ、罪人をあぶる鉄の網も、鞭を振るう警吏の姿も見られなかった。
全てを終わらせる戦争を終わらせる為に、ハリー・トルーマンが核を落とすと言う英断を下した国。ナパームによって焼き尽くされた街。俺は、日本国の、東京にいた。
都市の機能を跡形もなく焼き尽くされ、国として二度と立ち直れぬようにと念を入れた国家は、それが過去の話だと言わんばかりの隆盛を誇っていた。
街は清潔で、皆ゴミ箱に缶を律義に捨て、タバコも歩いて吸う者もいない。治安が悪いから寄らない方が良いと言われている場所の路地裏ですら、ニューヨークの表通りよりも行儀が良い。
娼婦や売春婦共が甘えた声で男共に抱き着く姿もなければ、ドラッグの臭いを漂わせる小僧共の姿も見られない。都市とは、こんな場所だったのだろうか。もっと、猥雑で、俺の顔を見れば恐怖で顔が歪む場所ではなかったのか。
だがやはり、ここも地獄なのだと言う事を俺は理解してしまった。
脳裏に刻まれる、様々な不快な情報。聖杯戦争、界聖杯(ユグドラシル)、奴隷(サーヴァント)……。
これらの単語と意味する情報、それらの統合が進むごとに、不愉快は怒りに変わって行く。要は俺に、殺し合えと言っているらしい。
……ジョナサン・オスターマンの下した処断によって、俺は、その怒りすらも、タキオンだとか素粒子と化して消えたのではないかと不安だった。
だが。俺の中に宿るこの思いは、ジョンの奴にも砕き得なかった事を知り、俺は、再び歩む事を決意した。
書店に入り、異国の国で書かれた歴史の本を眺める。何故か、読める。アメリカの歴史を、俺は見る。
ヒロシマ、ナガサキに落とされた原爆。焼かれた東京。キューバ危機。熱を帯びぬ冷たい戦争。――ソ連の、崩壊。免れた核戦争。そして、今度は中東との戦争。
冷たい戦争が終わったと言うのに、世界の終末は防げたと言うのに、再び、戦争の狂熱にアメリカは身を投じたいらしかった。
この世界は腐っている(余白に、この一文は記されていた。)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
簡単な行水すらしないせいで酷い体臭を放ち、上げ底のシークレットシューズを履く位には見栄坊な性格である事が解るこの男に対して、彼のサーヴァントは思った。
俺だ、と。この男は、嘗て俺が通った道を、迷いはないとあれだけ思っていた筈なのに、全てを終えれば後悔でしかなかったあの道を、今歩いているのだと。
「……食いたいのか? 大した味でもないし、アンタは食事の必要がないと言うが……】
男の――自らを『ロールシャッハ』と名乗っていた人物の声には、感情らしい感情が感じられなかった。
その上イントネーションも、独特だ。訛りとも吃音とも、聾唖の者が辛うじて口にする言葉の連なりとも違う。極普通の教育を受けて上で、歪みを感じるのだ。
ロールシャッハは口にしていた、ビーンスープの缶詰を、自らのサーヴァントに差し出した。
スーパーで、一缶税込み89円。アズキや炒られた大豆に煮た色の豆が、コンソメの味のするスープに浸されたその食事は、本来ならそれだけで主食となるような量もカロリーもない。
しかもその上、本来なら温めて食べるものである。四十も半ばを過ぎる男の夕食が、その冷えたコンソメ味の豆スープ。疑いようもない、社会の底辺、世故に倣い常識に頭を垂れる事を止めた者の食事であった。
「いや、必要ない。お前の言う通り腹が減らん。それに……三日も四日も、飯も食わず活動する事など慣れているのでな」
そう返した男は、典型的な東アジアの顔立ちをしていた。
ロールシャッハは日本人と呼ばれる人種を押しなべて、チビで出っ歯で卑怯な猿と考えていたが、イメージを改めねばならない時であった。
背丈はロールシャッハよりもずっと大きく――そもそも彼の方が小さい――、身体つきは精悍かつ鍛え上げられている事が一目で解るそれ。
顔立ちも、肉体的な苦労と精神面での心労を味わいつくした、深みのある男前だ。このサーヴァントの髭は、寧ろよく似合う。
纏っている漆黒の具足は、驚く程このサーヴァントとマッチしており、まるで彼の身体の一部のようだと思わせる程。彼の身体に合わせて作られた、特注品なのだろう。深みのある黒は、ロールシャッハの目から見ても、美しいものがあった。
「良い心掛けだ。俺の……相棒だった男にも、見習わせてやりたい】
言ってロールシャッハは、再びビーンスープを口に運ぶ。
被っている全頭型の白地のマスク。それをずらし、口元だけを露出させている。食事をとる為である。無精ひげ、黄ばんだ歯、腐ったような口臭。歯医者も長年行ってはいるまい。
この東京に初めてやって来た時、完全な素顔の状態だったロールシャッハ……コバックスは、このマスクを探そうと懐を必死にまさぐり、それを見つけ、少し安堵した。
そのマスクがある限り、コバックスは、ロールシャッハを名乗れるのだから。白地のマスクに、黒い文様がラバライトのように不規則に流動するそのマスクは、
流動しているその最中に時間を止めてしまえば、心理学のロールシャッハテストで使う模様のようにも、見えなくもなかっただろう。
「相棒か……如何言う男だった?」
「優柔不断で、見っともなくて……諦めが悪い……、俺のような善人だった。しかし、頭の良いアイツの事だ、もう妥協した生き方をして……俺の事など忘れているのだろう】
「……そうか」
良い相棒を持ったのだな、とサーヴァントは続けた。それと同時に、脳裏に浮かぶのは、對島で一時期は背を預けて戦った事もある男の姿だった。
故郷を蒙古に侵略された時、彼は、その男と共に刀を振るい、故郷を取り戻すのだと本心で思っていたのだ。だが、そのような事は起こらなかった。
男は……竜三と言う名のその牢人は、飢えと困窮とに喘ぐ部下達を助ける為に、蒙古に寝返った。そして、蒙古に強要されたとしても、竜三は確かに、その松明で民を焼き殺したのだ。
お前さえいれば、と惜しむ程に実力を認めていた男はその瞬間に敵となり、誰に知られる事もなく斬り殺された。もう、竜三の名を知る者など、故郷に……對島の島に、いなかろう。
「……マスター、誉れを忘れるんじゃないぞ」
ビーンスープを口に運ぶ手を、ロールシャッハが止めた。マスクの黒い文様が、サーヴァントの方に、向いたような気がした。マスクの下では、両目は此方を向いているのだろう。
「誉れ、とはなんだ】
「己に恥じぬ生き方。誰もが見事だ、潔いと思える戦い方。民の模範となる行動。己を守れぬ者らを、守る事。その、全て」
「失望させるな、アサシン】
ロールシャッハは嫌悪と侮蔑を以って、アサシンの言葉を切り捨てた。
「アーサー王やシャルルマーニュの時代がいつ終わったと思っている。何を口にすると思えば、騎士道精神のコピーか。そんなもの、聞く耳も持たん】
「聞け、マスター。お前はやり直せる」
「やり直すつもりなど、ない。俺は真実に開眼している。今更ヒーローの真似など……】
「お前の身に何があったのか、俺は深く聞かない。だが、その生き方には後悔しか残らないぞ。引き返すのなら、今だ」
そこでロールシャッハは、まだ中身が入っているビーンスープの缶を放り捨ててから、スプリングのはみ出たボロのベッドから立ち上がり、アサシンの方に向き直った。
東京に、まだこんな物件が存在する事自体が最早不思議としか思えぬ、ボロのアパート。そこが、ロールシャッハの住まいであった。
「俺に、妥協しろと言うのか】
その声にだけは、感情が宿っていた。怒り。
「騎士道など、人間の皮膚の一枚下に眠る、獣性と欲望を覆い隠すコンドーム。自らの権威を長引かせ、己が醜さと欲望を正当化しようと考えた下種な政治屋共の、プロパガンダに過ぎない。その安易な道を歩んだ瞬間に、俺は正義ではなくなる。唾棄すべき妥協だ。選択肢にも数えない】
「そうではない。誉れとは、お前の考えるような生き方じゃない。大事なものを失わない為の……真に失ってはならないものを失わない為の、財産なのだ」
「ではお前は、その大切なものを守れたのか】
その一言は、アサシンの胸部に突き刺さった。押し黙る様子は、痛い所を突かれた事の証であった。
「男の中の男は、見るだけで解る。アサシンお前は、妥協しなかったのだろう。一切の手を抜かず、目的に打ち込んだから、お前は英霊と呼ばれているのではないのか】
その一言の間に、アサシンは己の人生を反芻していた。ロールシャッハの言った事が、何一つ間違ってない事を、思い知らされるだけだった。
誉れなき蒙古の侵略に、初めは誉れの教えを胸に戦った。そして、仏教の説く所の末世末法のような、蒙古の民に対する仕打ちを見て、嘗てない怒りが芽生えた。
初めの内は、武士(さむらい)の誇りを以って、真正面から戦った。だが、すぐに限界が来た。自分の身体が疲れるだけなら、幾らでも耐えられた。
だが、守るべき民が今までのやり方では救えず、取りこぼす可能性もあると解ったその時。
――恩人の家族が、凄惨な殺され方をしたのを目の当たりにしたその時、境井家の武士である境井仁は死に、冥人である境井仁が、産声を上げた。
蒙古の脅威から民を救う為に、彼は何でもやった。
飛び道具を使う。爆薬を使う。背後から短刀を突き刺す。頭上から脳天を刀で貫く。隠れて弓矢で射殺す。吹き矢で毒を放って苦しめて殺す。食べるものに毒を混ぜる。
教えに背く戦い方をすればするほど、アサシンは成果を上げ、蒙古から悪魔と恐れられるに至り――遂には、『境井仁』の名は、恐るべき冥人の名と共に、畏怖の対象として刻まれた。
ロールシャッハの言葉は、一字一句違わず、正しかった。
その通りである。境井仁は、容赦しなかった。手を緩めなかった。妥協、しなかった。
誉れで民が救えるかと言わんばかりに、蒙古も、それと手を組む恥知らずの者共も殺し、そうして遂に、蒙古達の長であるコトゥン・ハーンを抹殺した。
軍を率いる事をせず、一人の兵が百軍を払い千軍を突き破るなど既に嘘である事が証明された時代に於いて、彼はこれをやって見せたのだ。故にこそ、境井仁は英霊なのである。何も、間違っていない。
「……この身が英雄であるかは兎も角……俺は確かに、全力を尽くした。お前風に言うのなら、……妥協、しなかった」
「では誉れは、身を救ったか】
ロールシャッハの問いに対し、境はややあって、首を横に振るった。
「そうだろう。だが、それがお前の尊敬を損なう理由にはならない。アサシン、俺はお前の強さと意志の強さに敬意を払う。死力を尽くしたお前の精神は称賛に値する】
「マスター、聞け。お前が望むのなら、俺は幾らでも冥人として振舞おう。蒙古共を恐れさせた力をお前の為に発揮しよう。だが、何度でも言う。誉れを捨てるな。お前が嘗て、下らぬものと言って切り捨てた甘さと若さ、それを今こそ思い出せ」
「貴様……!!】
「最後に残った家族をも、俺は失ったのだ……!!」
人は、失ってから初めてその価値と意味に気付くのだ、と言う黄金律は、境井仁が生きた時代ですら同じだった。
仁が、蒙古を打ち払う為に捨てた誉れとは、世に乱世と混沌を齎さない為の、偉大なる詭弁であり、発明であったのだと言う事実を、取り返しの付かない段になって初めて仁は学んだ。
生涯一の恩人であり、教えを授けてくれた志村は死んだ。誉れある死を迎えたい、その意向を受け、仁が、殺した。
志村の腹に、短刀を刺した時の感触は、生涯忘れる事はなかった。英霊になった今でも、仁は覚えていた。
地頭の役目をお前に譲るとまで言ってくれた男だった。
仁が教えに背いていた事を知っても、怒る事をせず、初めの内は許してくれた程の器量の持ち主だった。
蒙古を退けた暁に与えられる、本土からの武士を鍛える任を、仁と共にやって行けるものだと、信じて疑わなかった人物だった。
そして仁もまた、この敬愛する叔父と共に對島を守り抜き、時には對島の秘湯を巡り、時には對島で取れた果物や魚食べ、甘く煮た野菜と大盛りの米を食べながら政治の話をするのだと。信じて、疑わなかった。
現実は非情で、無情だった。
境井の家は改易、つまり取り潰しにあった。もう残ってすらいない。
そして、嘗ては地頭として絶大な権勢を誇っていた志村家もまた、謀叛人となった境井仁を葬る任を完遂出来なかった責を問われ、改易にあった。
そうだ。蒙古から逃げ出したとか、再起不能の傷を負わされたからだとか、そんな程度ならここまで悲惨な結末にならなかった。
誉れを忘れたから……、民に示すべき武士の真の姿を見せられなかったから……。――武士も所詮、毒を盛り不意を打てば殺せると、示してしまったから。
冥人として誉れを捨てる。たったそれだけの選択の過ちで、境井仁は、家名も財産も、たった一人の家族にして恩人も、全部失ってしまったのである。
死して浄土で会おうと言う、志村の最期の約束すら果たせず、英霊として座に登録され、紅葉が舞い散る境井家七代の墓が、最後の解れの場所になってしまったのである。
「……恵まれた男だな、お前は。失って、悲しめるだけの家族がいる】
たっぷり、10秒の沈黙の後で、ロールシャッハは告げた。
「母親が死んだと聞かされた時……よかった、としか思わなかった。その程度だ】
押し黙る仁。ロールシャッハの精神は、余りにも強固で、嘗て仁が見てきたあらゆる武士よりも、超人に限りなく近かった。
「誉れとは、大切な物を守るためのもの。そう言ったな】
「ああ」
そこで、ロールシャッハは言葉を続けた
「大切なものなど、初めから俺にはなかったのかも知れない】
言葉を切り、マスクを戻し口元を隠してから、こう言った。
「俺の大切な物は、初めから、死にながらにして産まれていたのだと思う】
――誉れは浜で死にました――
その言葉を聞いて、仁は、叔父である志村に対して告げた、決定的な楔となった言葉を思い出した。
小茂田の浜で、死ぬるを覚悟で突撃したあの時、仁にとっては間違いなく誉れとは大切なものだった。
いや誉れだけじゃない。一生仕え続けると思っていた志村は勿論、大切な同胞である安達家に、気さくな奴らの集まりだった菅笠衆だって。全部、仁にとっては愛するべき宝物だったのだ。
ロールシャッハには、それがなかったと言うのか。
世界の事を腐敗した臓物の掃きだめと認識しているこの男の考えは、人生のある日を境に生まれた思想なのではなく、生れ落ちたその瞬間より抱いていた思想だとでも、言うのか?
そうだとしたら、この男は余りにも――
「……いや、そうだな】
ややあってからロールシャッハは言った。
「ヴェイトの提案は相棒……ダニエルの奴が生きられる未来だったのに、それに否を突き付けた俺には……やはり、大事な物なんてなかったのだろう】
その言葉は何処か、寂しいものがあった。仁は、目を細める。
もう話す事もなくなったのか、ロールシャッハは再びベッドに座った。
彼が放り捨てたビーンスープの缶詰には、もうゴキブリがたかっていた。欲望と、見るに堪えぬ本能の渦巻くこの世の縮図を、ロールシャッハはその光景に見たのであった。
おれたちの無言の声が、今お前たちがこうしてひねりつぶしている声よりもっと力強く、ものを言う時がそのうちやって来る
――オーガスト・スピーズ、ヘイマーケット事件の暴徒の一人。警官隊に爆弾を投げ、その咎によって絞首刑に処される。その時の最期の言葉
【クラス】
アサシン
【真名】
境井仁@Ghost Of Tsushima
【ステータス】
筋力C+ 耐久B+ 敏捷C 魔力D 幸運D+++ 宝具B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
【保有スキル】
鋼鉄の決意:B
武士(さむらい)の矜持であり、魂である『誉れ』の教えを捨ててでも、民を守り、蒙古を滅ぼす決意の表れ。そしてそれを成す精神力と行動力。
アサシンの場合、勇猛と戦闘続行を兼ねた複合スキルとして機能し、また痛みに対する強い耐性も併せ持つ。
神々の加護:C++
記紀神話における神々の加護。アサシンは信心に篤く、蒙古との戦いの最中に於いても、寺社への参拝は欠かさなかった。
危機に陥った際、あるいはこちらが優勢の際に、幸運のバックアップが高い確率で保障される。また、アサシンの場合はことに、稲荷大明神の加護と関係が深く、戦闘時に於いてステータスのボーナスを常に得る。
風の導き:C
風を読む力。或いは、誉れを捨て、御家が潰されてもなお、息子であるアサシンを導こうとする父・境井正の意思か。
アサシンは自らが望んだ場所について、其処が何処なのかを導いている風や、空気の流れを認識出来る。魔術的な対策で、これは対策される。
仕切り直し:C+++
戦闘から離脱する能力。或いは、不利な状況を脱せられる天与の才、運の良さ。
アサシンは生涯、幾つもの命の危機に見舞われたが、その度に、運の良さや持ち前の機転、そして、自らの精神力と肉体的な頑健さで生き延びてきた。
またアサシンの生前の逸話の一つに、非常に強力なトリカブトの毒を受けて尚死ぬことがなかったと言う逸話から、毒に対して極めて高いレジスト能力を持つ上に、仮に毒に掛かったとしても、すぐに回復する。
無辜の怪物(冥人):EX
蒙古に対する怒りと、ゴミのように殺される対馬の民の無念を受けて、地獄から蘇った冥人様(くろうどさま)。
対馬を蹂躙する蒙古を殺し尽くさんと言う強烈な復讐心は、首魁であるコトゥン・ハーン及びその配下であった百戸・十戸長の全てを殺害したと言う事実を以って完遂された。
冥人とは何だったのか。対馬の民は、我々を救いなすった英雄だと語る。悪党野盗牢人共は、毒があれば武士だって容易く殺せる事を証明した御方だと持ち上げた。
そして、本土の武士達は誉れの教えを捨て、剰え、家督を譲るのだと自慢していた実の叔父を殺した不届き者として忌み嫌い、民に与える影響が余りにも悪すぎる事から、語り継ぐ事すら禁じた。
過去の在り方や本来の性格が混濁され、民草や武士が信じる冥人とはこのような人物だった、と言うイメージが先行されている。このスキルは外せない。
【宝具】
『冥人の型』
ランク:- 種別:対人魔剣 最大捕捉:5人
アサシンが生前習得した独自の剣術体系。彼のみが使うとされた、誰にも継承されずそれ故に、後世の誰も使う事が出来なかった剣術。
この魔剣を発動した瞬間、アサシンの鋼鉄の決意スキルはAランク相当にまで上方修正され、同時にCランク相当の威圧スキルが発動する。
魔剣としての内容は単純明快で、摂理や道理すら捻じ曲げる程の強烈な意志力と怒りの想念を以って、相手に対して斬りかかるという物。
粛清防御を除く、対魔力を筆頭としたあらゆる防御・ダメージ軽減系のスキルや、宝具による防護能力すら無視して、相手に大ダメージを与える事が出来、
その粛清防御にしても、内容やランク次第では貫いてダメージを与える事を可能とする。また、威圧によって怯える相手であれば、斬りかかりに成功した時点で相手を即死させる事が可能。
『冥人奇譚(ゴースト・オブ・ツシマ)』
ランク:EX 種別:伝承宝具 レンジ:- 最大補足:-
アサシンが召喚された時点で、彼の意思を無視して発動する常時発動型の宝具。彼を英霊の座へと押し上げるに至った、冥人としての伝説が宝具となったもの。
アサシンはサーヴァントと交戦を行って生存に成功するか、サーヴァント及び
NPC・マスターを暗殺する事で、不特定多数の人物の意識に、冥人の伝説や存在を根付かせる事が出来る。
伝説の内容は様々で、冥府の力を経て蘇った不死身の男だったり、敵と認識した者は絶対に殺すであったり、山より大きな体躯をしていたとか、種々様々。
共通して言えるのは、実際のアサシンの姿や実態を大幅に誇張している、尾ひれの付いた噂であると言う事。そして、アサシン自体の誉れは兎も角、戦闘能力を損なう類の噂じゃないと言う事。
この宝具は、『その流布された噂通りの強さを、この宝具によって伝播されたNPCやサーヴァント、マスターの数に応じてアサシンに付与する』と言う宝具である。
上述のような不死身性の獲得や高い武芸・武術スキルの獲得、気配遮断スキルの向上など序の口。任意によって身体のサイズを変動させる事も、天候の操作も如意自在。
広がる噂の総量次第では、自分と全く同等の技術と宝具やスキルを持った分身を複数体生み出す事だって可能であるし、動物の使役や任意の存在の傷を癒す事も出来る。
最終的には、自分が有する武器の数々が神造兵装一歩手前の性能のそれにまで昇華される。
性質上聖杯戦争が長引き、其処でアサシンが生き残っていればいる程この宝具は真価を発揮し、状況次第ではまさに手の付けられない存在へとアサシンを昇華『させてしまう』宝具である。
この宝具の発動は前述の通り、召喚した瞬間に発動している為阻害出来ないが、万が一、この宝具の存在を停止あるいは破棄された場合、
冥人としての伝説と不可分の存在であるアサシンは、その宝具の停止ないし破棄に連動して消滅する。またアサシンは、この宝具の存在を、余りにも忌み嫌っており、この宝具の有用性を認識しつつも、これを前面にだした戦法には否定的。
【weapon】
無銘・刀:
武家である境井家に伝わる、文字通りの伝家の宝刀。これ自体には特別な力はないが、生前のアサシンが死ぬまで振るい続けた業物である。
特別な力は現状ないと言うだけで、宝具・冥人奇譚によって様々な性質が付与される。
無銘・短刀:
同じく、武家である境井家に伝わる短刀。主に暗殺用に用いる。これも特別な力はないが、宝具・冥人奇譚によって様々な性質が付与される。
無銘・半弓:
対馬随一の弓取りであった、石川定信によって弟子と認められた証。特別な力はないが、やはり宝具・冥人奇譚によって様々な性質が付与される。
吹き矢:
消音性と携帯性に非常に優れた暗器。対馬に生えていた葦を加工して作られている。アサシンはこれを用いて、毒矢を吹く事がある。毒の性質もまた、冥人奇譚によって強化される。
暗器:
生前蒙古軍を打ち払う時に用いた暗器の数々。くないや『てつはう』、鳥もちを用いた爆弾や、逃走用や暗殺用の煙玉、毒が噴出する仕組みを仕掛けた鈴など様々。
アサシンが生前に、お家取り潰しにあった理由の一つである。
毒:
アサシンの乳母である、百合と言う名の女性によって口伝された毒。相手を凶暴化させ同士討ちさせる毒と、相手に苦痛を与えて殺す毒の2つに分けられる。
アサシンはこれを矢に塗り刀に塗り、吹き矢として放つなどして戦い、暗殺する。生前にアサシンがお家取り潰しにあった、最大の理由でもある。
冥人の鎧:
友人である鍛冶屋、たかの遺作。黒塗りの鎧。冥人奇譚によって、性能が強化され得る。
【人物背景】
冥人の伝説や、成り立ちについて、今は最早、私以上に知る者は少ないでしょう。
冥人とは元号が文永から至元に代わったその折に、対馬に上陸された兀云汗様、つまり後世の学者共が語る所の『コトゥン・ハーン』に対抗するべくでっちあげられた、
民を鼓舞する為の張り子のようなもので御座いました。今日では冥人を名乗る野盗や牢人は数多いものですが、ハーンや私が冥人と呼ぶ者は、ただ一人。
嘗ては対馬の名家として君臨したものの、自らの愚かしさによって改易された境井家の武士、境井仁を於いて他におりませぬ。
コトゥン様は大層な御方でありました。武士の考える浅知恵や戦略の常に先を往き、誉れの教えに凝り固まった彼らにはおよそ考えも付かぬ身も凍る恐ろしい策で迎え撃つ一方で、
冷酷さと寛大さと言う普通であれば相反する二つの性情を巧みに御して、多くの部下を支配する万軍の長、一国の頭に相応しき大人物で御座いました。
そのような御方をして、冥人の存在は恐るべき懸念であり、ハーンがお亡くなりになられる直前までは、彼奴の動きについて常に目を光らせていた程でありました。
無理もありますまい、毎日のように冥人は雑兵は勿論、十戸、百戸長などのいわゆる地頭に相当する兵士を惨たらしく殺し、
それだけの数を殺しているにも関わらず、誰も彼もが殺している一瞬を発見する事が出来ず、意気を挫かれ恐れをなして逃げ去る蒙古の兵ですら容赦なく頭を矢で射貫いて殺すなど、
悪鬼もかくやの所業を日々重ねていました。わけても、毒を扱わせれば冥人の右に出る者はおらず、多くの猛き兵士達が冥人の使う毒によって殺されたので御座います。
そして運命の時が訪れました。冥人は並み居る蒙古の精鋭達を屠り、船上に追い詰められた大ハーン・コトゥン様を殺めてしまわれたのです。
実に、愚かな事をしてしまった物だと、僧籍に身を置く者としては甚だ未熟ではありましょうが、怒りを隠しきれませぬ。
唐天竺をも支配せしめる元国の寵愛を賜らば、京の帝には今以上の権勢が約束され、武士の世も末永く、民草もまた素晴らしき生き方を全う出来たというものを……。
その後の冥人がどうなったのかは解りませぬ。
対馬に燻る蒙古の全てを殺し尽くした後、自害を選んだとも伝わっております。
本土に渡り、人知れぬ山奥に隠れ住み、忍びの流派を興したとも言われております。
博多の港に上陸した元の軍勢を迎え撃つべく、郎党を装い戦ったのだとも人は噂しますし、一人小舟に乗って元に渡り、殺しの限りを尽くしたのではとも……。
ただ一つ言えることがあるとするならば、彼奴……境井仁は、生涯を通し、誰ぞに殺される事は、なかったのだろうと言う事であります。
【サーヴァントとしての願い】
ない。だが出来るのなら、誉れを以って自分は戦いたいし、マスターにも、誉れは忘れないでいて欲しい
【マスター】
ロールシャッハ(ウォルター・ジョゼフ・コバックス)@ウォッチメン(漫画版)
【マスターとしての願い】
ない。界聖杯を求めて戦う者を、叩き潰す。こう見えても不殺を心掛けているので、その一線は超えない(状況による)
【weapon】
ワイヤーガン:
ガス圧でかぎ爪が取り付けられたワイヤーを発射する道具。専ら移動用で、ビルの屋上までには平気で届く。
人体に向けて放つと、至近距離であるのなら、骨が砕ける威力となる。
【能力・技能】
格闘術:
これでもヒーローとして活動していた時期がある為、それなりには戦える。但し年の為、無理は出来ない。
また、今戦っている場所に転がっている様々なアイテムを駆使した戦いが得意であり、その戦い方は予測不能。
ピッキング技能:
卓越している。最高機密を保持している軍事施設や、大企業の社長室のロックまで、外せるレベル。
【人物背景】
「キーン条例」によりヒーロー活動が禁止されたアメリカ合衆国、ニューヨークにおいて、違法に自警活動を続け、ストリートで犯罪者を叩き潰している、たった一人のヒーロー。
条例制定時には、連続レイプ魔の死体に「断る!」と手紙を添えて警察署の前に放置したため、殺人容疑をかけられて警察には追われているし、
その暴力的な活動方針から一般市民にも疎まれている。明らかな狂人、パラノイアの領域であるが、世界を良くしようという意思は、本物である。
原作終了後に参戦。
【方針】
界聖杯を求める者を優先的に追い詰める。殺すのではなく、サーヴァントを無力化させると言う形の方が良いが……
最終更新:2021年09月06日 22:30