薄暗い電灯と、ややアンティークな木製のテーブルで彩られたバー。
その明るさとレトロな雰囲気には、それなりの年季と趣きが取れている。
黒檀のカウンターテーブルの上で、劈く様なミキサーの音が鳴り響く。
厨房側から透明のミキサーの中で踊る桃色の液体を眺めるのは、黒いジャケット姿の男性。
席側からそれを座りながら見つめているのは、バーテンダー…ではなく、赤と黒の背広の上に黒いジャケットを羽織った髭の男性であった。
やがてミキサーの音が鳴り止み、薄暗い店の雰囲気に似つかわしい静寂が取り戻されていく。
ミキサーから取り出された桃色の液体が、グラスに注がれ、ストローを添えて髭の目前のテーブルに置かれる。
「お待ちどおさま、伊達一義特製いちごミルクです。」
「済まない。」
伊達一義、そう名乗った男性から、髭の男はいちごミルクを受け取り、ストローに優しく口を咥える。
「お味は如何ですか?」
「いちごの菓子は俺の好物だが、いちごミルクもまた格別だな。昔自動販売機で特に好んで買って飲んでいた頃を思い出す。」
気取った様な敬語で喋る男性は、その笑顔に続いて、更に私的な話での言葉を加える。
「先程は助けていただいて、ありがとうございます。」
「例には及ばない。俺はサーヴァントとしての役割を果たしただけだ。」
客席に座る髭面のこの男は、そう、伊達のサーヴァントである。
そして、伊達は、聖杯戦争に参加することを強いられた"マスター"の一人なのである。
左掌に付いている、銃弾とトランプの道化師(ジョーカー)を混ぜたような模様が、何よりの証だ。
「うーん、でも、俺聖杯戦争に乗る気しないんですよねー。」
「ないのか?叶えたい願いは。」
「……。」
この殺し合いを共に生き抜くことになるであろうサーヴァントからの疑問に、曖昧な態度で返す伊達。
サーヴァントは、いちごミルクのストローを加えながら、何も言わず、ただ品定めするようで、どこか優しさを捨てられないような目つきでそれを見つめるだけであった。
「まだ決まっている訳ではないのか。」
「いやそういうわけでもないかなー。うーん。」
こめかみに指を置きながら首を左右に傾げ続ける伊達。
彼がこの運動を続ければ続けていくほどに、サーヴァントのいちごミルクはストローを通って彼の口の中を伝っていき、少しずつそのグラスの中身を減らしていく。
やがていちごミルクのグラスが空っぽになり、僅かな水滴と空気をストローが啜りきろうとする音のみが残った時。
伊達がようやく首を傾げ続けるのを止め、懐から緑色の茎を取り出し、慎重にテーブルに並行にして両端を握った。
サーヴァントはそれを真顔で見つめるだけであった。
「よーく見てくださいアーチャーさん。この茎の端に手を添えると……パッ!!」
何と、色とりどりの花びらが出てきた。
彼の見事な手品に、サーヴァント……アーチャーは、称賛の拍手を思わずパチパチと叩き始める。
「凄いでしょ~。」
「ブラボー――――じゃない、お前の願いは何なんだと聞いているんだ!!!!!」
彼に乗せられそうになりながらも、机から思わず立ち上がり、怒鳴るアーチャー。
その言葉に、思わず「てへっ」のポーズを取りながらも、伊達は再び頭を抱える。
「何故、俺の願いにそこまで……。」
「お前が戦う理由によって、俺が聖杯戦争に乗るかどうかも自然と決まるからだ。」
だが、伊達は口を開けなかった。
否が応でも話そうとしない彼に、アーチャーは食い下がることは出来ず、結局そのまま数分の間沈黙が続き―
「お客様、そろそろ閉店のお時間です。」
「逃げるのか。」
「閉店は閉店でーす、お片付けしなくちゃいけないのでお先にお帰り下さーい。」
「ここは貸し切りだったはずだが?」
「貸し切りであろうと開店時間と閉店時間が無効になったわけじゃないからねー、ほら、出てった出てった。」
結局、アーチャーは己のマスターより店を追い出されることになった。
このバーは地下に出来ているらしく、アーチャーは地上に繋がる階段をゆっくり上がって退店することになった。
こうして地下で話し、階段を上がって出ていくのは、以前喫茶店の地下室に仲間と共に集まっていた頃のことを思い出し、不覚にも少し懐かしくなってしまう。
バーよりも更に暗くなった路上に上がり、階段を振り返れば、近くにあった店の看板には名前が刻まれていた。
『BAR joker』
誰かの名前だろうか、と思って見ていたその時、看板を照らす外灯がプツンと消される。
それを暫く物憂げに見つめていたアーチャーは、そのまま踵を返し、店を後にし、闇に溶け込んでいく。
◆ ◆ ◆
伊達一義がアーチャーとコンタクトを交わしたのは、つい数時間前のことだった。
太陽の輝きとも、賑やかなざわつきとも縁のない、夜19時の港。
そこで聖杯戦争の参加条件を満たし、伊達の手元に令呪が浮かんだ直後、伊達は剣を操る未来風の甲冑を着た戦士に出くわした。
直後、戦士を見る伊達の目に『Saber』という文字が浮かび上がり、同時に幾つもの数値が脳内を駆け巡る。
――この男が、サーヴァント……。
まず、命乞いするかのように説得を試みようとするも――やはり通じることはなく、結局戦士は剣を振りかざしてきた。
警官時代に培った格闘術と、暴漢に襲われるのは日常茶飯事な経験を活かして彼の剣から身を交わすも、間もなく伊達の身体は次第に披露していく。
ここで終わりか……と思いつめ、死んだ両親の顔が浮かび上がってきたその時。
――SCRASHDRIVER――――DANGER――
――変身。
やかましい電子音声とともに、まるで子供の頃に見たヒーローの様に戦士の背後に立ちふさがったのが、アーチャーだった。
アーチャーは、万力を模した様なバックルに、紺色の容器を差し込み、押し潰した瞬間、ビーカーの中に包まれ、ビーカーが割れた時には、ワニを模した様な異形の戦士に変わっていた。
パラメータは、高い方ではあったが、この戦士に勝てるかと言われればやや怪しい部分があった。
しかしアーチャーは決して逃げることはしなかった。どこからかパイプを模した赤黒い短刀を取り出したかと思えば、それを手にセイバーに立ち向かっていく。
伊達の見立てでは、アーチャーの体術は英雄と言われるだけあって悪くはなかった。寧ろ良い方だった。
だが、その技で聖杯戦争を制する程の腕前を持っているわけではなかった。一方でセイバーは、その剣技で名を馳せたであろうか、優れた剣の動かし方と反応の良さで彼を捌き切っていた。
戦闘時間はこの流れを変えぬまま十分を経過。セイバーは動きにブレがないが、アーチャーはそうも行かないのか、徐々に攻撃が当たらず、回避が困難になりつつあった。
この立ち合いでは、アーチャーはセイバーに勝つことは難しい、そう思った時。
――マスター、早速で悪いが、ここで宝具を使わせてもらうぞ。
宝具。
その言葉その意味は、まるで警察学校で勉強したそれと同じ様に、伊達の知識の引き出しの中にいつの間にか入り込んでいた。
宝具とは、謂わばサーヴァントにとっての切り札であるとは聞いている。
この初戦でそれを使うことの了承を求めるということは、それなりのリスクが伴うということを表していることなのだろう。
そして、同時に、それを使わざるを得ないという現状を、アーチャーは理解しているということになる。
伊達が頷いた直後のアーチャーの反応は早かった。
その時のアーチャーは、セイバーと辛うじて鍔迫り合っている状態であった。
が、その時セイバーは正にその刃を徐々にアーチャーの短刀の柄の所にまで滑らせようとしている所であった。
このままでは、アーチャーの腕に深刻なダメージが入る。その時である。
アーチャーは短刀を握っていない左手を動かし、短刀に力を込める……のではなく、瞬時にバルブを二回転させる。
――ELEKI STEAM――
電子音声を合図とし、刃から電撃が奔る。
それは鍔迫り合っているセイバーの刃を通し、剣士の甲冑に、肉体に次第に伝導していく。
セイバーの肉体が痺れ始め、動けなくなる。
その隙を、アーチャーは逃がすことはなく、直ぐ様バックルのレンチに手を伸ばす。
――『喰らい砕く黒鰐の牙(クラックアップフィニッシュ)』――
電子音声とともに、アーチャーの左手にエネルギーが籠もっていく。
紫色のエネルギーを纏った左拳を、アーチャーはセイバーの鳩尾に叩き込む。
セイバーは背後のコンテナにまで大きく仰け反り、漸く痺れが治まってきたのか、鳩尾を刀剣を持っていない片手で抑える。
セイバーの刀剣に光が灯っていく。
恐らくそれは彼の宝具であるその剣の在り様であろうか。
ともかく、この技を凌ぎ切るのは、アーチャーにとっては困難であった。
しかしアーチャーの猛攻は留まらなかった。
アーチャーが取り出したのは、今度はサメの模様が彫られた紫色の容器。
それをシャカシャカ振った後に蓋を開けて銀色のハンドガンに装填し、今度は紫色の一回り大きなハンドガンに、バックルにハマっている方の容器を装填する。
――FULL BOTTLE――
――CROCODILE――
左手に銀の銃、右手に紫の銃を構えたアーチャーは、それを同時にセイバー目掛けて構えたかと思えば、同時に引き金を離す。
その時にはセイバーが魔力をフルチャージした剣を振りかざした頃であった。
――STEAM ATTACK――
――FUNKY BREAK――CROCODILE――Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
開かれた双銃の銃口からは、サメとワニのエネルギー体が並びながらも海原を駆けるかの如く襲いかかる。
光の込められた刃からは、眩い斬撃波が空間に刻まれる。
アーチャーの放った光弾は、確かに剣士を射抜いていた。
しかし、剣士はその直後に真上に跳躍し、ぶつかる場所を失ったサメとワニの弾丸は剣士の背後のコンテナに衝突。
先程の衝撃で大穴が空いていたコンテナは二度目の突撃に耐えられずに崩壊、貫通される。
コンテナを貫通した二頭の光の弾丸はそのまま真後ろにある海へと沈没、霧散してしまう。
アーチャーが仮面の下で驚愕の表情を浮かべているのも束の間。
セイバーの斬撃波は先程までサメとワニの通った間の場所の中間を見事にすり抜け、アーチャーの胸部に命中したのだ。
今度はアーチャーが仰け反って背後のコンテナに衝突する。
アーチャーの耐久ランクは非常に高いのもあって、コンテナに大きなクレーターが空いていた割にダメージはそこまで通らなかった。
そのまま立ち上がり、突進しようと構えるが、近くにいた伊達を見つめて一旦俯いた後、再びセイバーを見つめその場に立ち止まった。
セイバーも剣を構えたまま、アーチャーを見つめているだけで何もしてこない。
お互いの出方を見計らっているのだろう。そのまま静かな沈黙が続く。
20秒にもなるだろう駆け引きの中で、まず先にカードを引いたのは、アーチャーであった。
アーチャーは再び、あの容器を取り出す。だが今度はサメではなく、蝙蝠の容器である。
しかし今度は、鰐をバックルより取り外し、代わりに蝙蝠の方を装填し、再びレンチを倒す。
――CHARGE BOTTLE――TSUBURENAI――
その電子音声と共に、アーチャーの背中に一回り大きな、蝙蝠の如き翼が生える。
頑強なアーチャーの身体にはとても似つかわしくなかったが、ダークなカラーリングが良く似合う。
――やはり、こいつが一番身体に馴染む。
――CHARGE CRASH――
懐かしむ様な口調でそう言うと、アーチャーはその巨大な翼を羽ばたかせ、上空に飛び上がる。
当然、セイバーはその場で限定的に魔力を剣に込め、小規模の斬撃波を上空のアーチャー目掛けて放つ。
だがアーチャーはそれを躱したかと思えば、移動しながらも短刀と紫の方のハンドガンに合体させ、更に鰐のボトルを装填する。
――RIFLE MODE――FUNKY――CROCODILE――
月を背に、ライフル形態になった銃を構えるアーチャー。
同じくセイバーもまた、剣にエネルギーを込める。
引き金が放たれるのと、柄が振りかざされるタイミングは、ほぼ同時であった。
――FUNKY SHOT――CROCODILE――Aaaaaaaaaaaaa!!
紫色の弾丸と、山吹色の剣戟が、同時に炸裂する。
周囲には爆風が広がり、その勢いで近くにいた伊達も数m後ろにまでに吹き飛ばされる。
アスファルトにぶつかり、右肘に擦り傷を負う。
前方を見上げれば、爆風で何も見えない。
そこに、蝙蝠の翼を生やしたままのアーチャーが飛んでくる。
――今だ、逃げるぞマスター。
そう言うと、翼を畳んで右腕で伊達を覆うように抱き込む。
アーチャーは紫のハンドガンで煙を散布した後、伊達が気がついた時には、港とは比較的遠い路上に移動していた。
◆ ◆ ◆
伊達一義が初めて人を刺したのは、まだ十歳の頃であった。
ドラム缶の中に閉じ込められた両親を借金の肩として躊躇なく殺害した極道の男を、躊躇なく、子供の身でありながらも刺すことが出来た。
それは恐らく向こうが子供だと舐めて掛かっていたからであろう。殺すまでには至らなかったが、結局男は倒れた。
伊達の行動は正当防衛として認められ、男はそのまま逮捕された。
だが、伊達の罪が彼の中で消えることはなかった。
嘗て自身を助けてくれた"三上"と名乗る刑事は、伊達の行動は正しかったと説得してくれた。
今思えば、あの言葉を受け入れなければ、きっと自分は路頭にでも迷っていたのだろう。
伊達は三上を追いかけるように警察官になった。
しかし刑事になって直ぐに、己の両親を殺害した男と再会する。
男に脅された伊達は三上に相談すると、三上は伊達にある仕事を紹介した。
この世界には、法の裁きを免れた犯罪者は何人も存在する。
権力による法への圧力、周到な証拠隠滅まで、様々な手段を以ってして多くの犯罪者達が、人を殺めても尚のうのうと生き続けている。
そんな理不尽な社会に抗う仕事もまた、この世界に存在していた。
近頃、未解決事件の容疑者が、原因不明の失踪を連続で起こす事件が多発していた。
警察はそれを『神隠し』と呼んでいる。
そしてその神隠しの正体こそ、『ジョーカー』であり、伊達の恩人である三上であったのだ。
三上は、伊達をその神隠しに誘っているのだという。
犯罪者に威力の低い麻酔銃を向け、撃ち、どこか知れぬ所へ終身刑にする。そんな仕事であった。
最初は三上のサポートをするだけであった。
初めての仕事は両親を殺した男を裁くことだったが、人を傷つけることは、幼い頃に人を傷つけた過去のある伊達には何よりも堪える物があった。
が、伊達は引き金を引いた。男はそのままどこかへと送られていった。
伊達が初めて仕事を請け負った相手は、警察の官僚の男だった。
官僚は息子の治療費を稼ぐためにヤクザから賄賂を受け取っており、その内金に目が眩んで自分を見失ってしまったという。
彼にも家族がいる、守りたい明日がある。それを思う度に伊達の手元はより一層狂いを見せそうになっていく。
自分が中高生になった時、三上は諭してくれた。
―――何度も言っているだろう、あのヤクザは一命を取り留めた、別に殺したわけじゃ……
―――でも人を刺した!
―――ほっといてくれよ!俺の苦しみなんか誰も分かっちゃくれない!!
―――良いか!?お前が刺してなければ、あのヤクザは逃げ延びて、また同じ様に誰かを殺していたんだ。お前は……正義の為に戦っただけだ。
―――お前が苦しんでいるのなら、痛みを抱えているのなら、俺も一緒に…背負ってやる。
この男を野放しにしておけば、他の大勢の人達が明日を失うことになる。
そう思えば自然と覚悟が決まり、激しい取っ組み合いの末に、伊達は彼を撃った。
男を捕まえる際、三上はこう言った。
――お前はこいつの明日を奪った。
――だが代わりに、多くの人間が救われた。
それからも、伊達は多くの法から逃れた者を裁き続けた。
快楽のため、金のため、正義のため、犯行動機は多種多様だが、大半は裁かれることもなければ罪を認め自首することもなかった。
そして法の下で裁かれる余地がないと判断した瞬間、伊達は犯人の引き金を引き、彼等をどこかへと送り続けていた。
だがそれでも、伊達の罪は消えることはない。
人を傷つけることは、絶対に許されることじゃない。
例え自分の行動が社会のためになろうとも、それが変わることはなかった。
伊達のやろうとしていることは、子供の頃、あのヤクザを刺した時と全く変わらない。
あの苦しみを、同じ様に味わおうとしているのだ。
それを忘れない様に心がけながらも、伊達は今日まで、十数人もの犯罪者を裁き続けた。
その過程での、加害者家族へのケアも怠らずに。
◆ ◆ ◆
アーチャーが姿を消した後、伊達は元の世界では殆ど戻らなかった自宅のアパートに帰る。
鍵を閉め、シャワーを浴び、着替え、寝床にばったりと倒れ込む。
神隠しの仕事の際に来るバーに徹夜でいることが多かった伊達にとっては、帰宅するのは月に一回あるかどうかだった。
なので、このアパートにも、自分で誂えたはずの家具が揃った部屋にも、最近はあまり見慣れなくなってきた。
どちらかと言えば、あのバーの方が家の様に見慣れて来ている気がする。
神隠しを行うタイミングは比較的低い方だったが、それでも事件という物は毎日のように起きる。
大抵の場合、犯人は逮捕されるが、それでも釈放になるホシが出る確率も決して低くはない。
それを調べるために、伊達は毎日のように調査しているのだ。
犯人だと確証が出来たと同時に、法で裁けないと確信するために。
もし無罪だと完璧に証明されたのなら、骨折り損だがそのままにしておく。
だがもし有罪でありかつ法で裁ける確率がゼロなのであるなら―迷わず犯人に銃を向ける。
故に、伊達は神隠しを毎回行わずともほぼ徹夜でこの仕事をしなければならないのである。
その為に居眠りや遅刻は多く、毎回同僚には叱られてばかりだ。
誰もいない、真っ暗な寝室で、伊達は寝間着姿で大の字になりながらも、この世界の出来事に独りごちる。
この世界は、そもそも何かが違う。
伊達の所持品も調べてはみたものの、警察手帳も財布の中身もどれもこれも変わらない。
だがこの世界に、神隠しという事件は存在しない。
この間、女性が毒殺された事件の被疑者が釈放された後、自宅から姿を消す事件はあった。
しかしそちらに関してはヨーロッパ行の便で飛び立ったという調査が見つかっており、神隠しとは全く関係ない。
にも関わらず、伊達がさっきまで経営していたバーには何も変わりはなかった。
店名が『BAR joker』という名前に変わっているのを覗いて。
(いやしかし、何で俺があの店を切り盛りすることになったんだろうねー、あの店は、三上さんが……)
この店は、元の世界で三上が警察を辞めた後、神隠しの拠点も兼ねて借りた建物とそっくりそのままな物を使っている。
伊達がこの店でいちごミルクを飲むようになって5年が立ち、そろそろ椅子や壁に付いている傷や癖も覚えるようになってきているが、これもまた全く変わっていない。
何故この店を切り盛りすることになったのか。それが唯一の違和感であった。
(まるで、俺が元の世界と殆ど変わらない日々を過ごしている様に誰かが仕組んだみたいだな)
というようなある種の気味の悪さも覚える。
この店を伊達が切り盛りしているのは、確かに元の世界の自分と変わらない。
しかしそれは、この店を経営していた男がいなくなったからである。
――神隠しを……やめないでくれ。
今から5年前、伊達の同期である警察官が、何者かに刺殺された事件。
その犯人こそが、元刑事にして伊達の恩人でもある、あの三上だった。
殺された警察官は、神隠し……ジョーカーの存在を突き止めていた。
だが三上はそれを許さなかった。
妻子を殺され、その犯人がのうのうと生きているのに絶望した三上にとって、紹介してもらったジョーカーは助け舟の様な物であった。
彼もまた許せなかったのだろう、法の裁きを逃れた者達がいるこの現実を。
しかし、同時に彼は裁かれるのを望んでもいた。
伊達と共に多くの犯罪者を裁いていく中で、三上は自分を常に呪い続けていた。
だが、証拠は一切残っていない。三上が裁かれることはないのだ。他の神隠しの被害者達と同じ様に。
だからあの日、伊達に自分を殺させる様に、終身刑にするように仕向けようとしていた。
三上は同じなのだ、嘗ての伊達と。
だが伊達は殺さなかった。裁きもしなかった。
三上がこれまで伊達が裁いてきた犯人との最大の違いは一つ。己の罪を自覚していることだった。
つまり、自首して法の下で罪を裁かれる余地があるということである。
だからこそ、伊達は三上を裁かなかった、そのまま、警察に手錠を嵌めさせ、今も尚服役の身に置かれている。
◆ ◆ ◆
その日の夢は、夢と言うには妙に鮮やかであった。
よく、両親を殺したヤクザを刺した日の夢は見るが、あれ以上に今見ている光景は鮮明であった。
現実的(リアリティ)に溢れている。起こっていることは非現実的すぎる。なのに……
これは現実なのだろうか、いやそうじゃないかもしれない、いやそうじゃないじゃないかもしれない……
JAXAらしき施設の広場で起きた、謎の物質に関する展示会。
そこには大勢の客人が出席していた。
伊達はそこの客人の一人になりきっていた。
ガラスケースの中に入っているのは、一個の年代を感じさせる灰色のキューブ状の石。
ケースが開かれ、いよいよそれが公の場にさらされた時……
一人の作業員が、関係者を押し飛ばし、キューブに手を触れた。
刹那。
触れられた瞬間、キューブがまるでスイッチの押された照明の様に眩しく光り輝き、その気の狂いそうな眩い光の中に伊達の視界も巻き込まれる。
光が止んだかと思えば、近くの地面から出現した三つの大きな壁が、上にいた人々を押し飛ばし、まるでパイを一気に三人分に分けたかの様に地面を隔てていく。
当然、伊達も冷静さを失い、大勢の人々に紛れ逃げ惑う。
まるで誰かに操られているかのように感じられたが、これは夢だからであろうか。
その瞬間、視界が暗転する。
次の瞬間、伊達は真っ黒な地下室の中にいた。
目の前には、複数の作業服姿の人々が、何かを叫ぶように、何かを讃えるように叫んでいた。
――ファウスト!
――ファウスト!
――ファウスト!
イギリスの著名な古典文学に出てきた、一人のマッドサイエンティストの名を、神でも讃えるかのように彼等は叫び続ける。
たった一人、その光景に戸惑いを隠せない作業員を除いて。
伊達は、その手に何かを握っているのかを確認する。
それは、アーチャーが昨夜の戦いで使っていた銀色のハンドガンであった。
ふと、伊達は聖杯戦争に巻き込まれた時に一つの物事を思い出す。
(そうか、これはアーチャーの夢か)
マスターは、魔力バイパスを通し、時折サーヴァントの記憶を夢として見るらしい。
つまり、伊達は今、アーチャーになりきり、彼の記憶を追体験しているということになる。
伊達……アーチャーがもう片方の手に握っているのは、ピンク色の容器であった。
蝙蝠を象ってはいるが、あの時の戦いで使っていたのとはデザインも色も何もかもが別物だ。禍々しい。
それをスロットに装填したかと思えば、アーチャーは何やら口を動かす。
口と同時に動きを見せたその身振り手振りは、宛ら自分をより良く見せようとする為政者の演説の様であった。
――嘗て俺の中に流れていた"血"は、俺の燃え盛る野心によって"蒸"発した!
――もう昔の俺は要らない……"蒸血"。
そう言うと、アーチャーは銃口から視界を塞ぐ霧を噴出し、自身を包み込む。
次の瞬間、アーチャーの視界には何かしらの計器らしき表記がチカチカと写り込んでいる様な状態になっていた。
まるでVRゴーグルか何かをつけられたかの様な気分だ。いやこの瞬間が正にVRなのだが。
――今の俺の名は、ナイトローグ。
ナイトローグ。
暗闇の悪党。
それが、伊達の喚び出したサーヴァントの真名であった。
視界が暗転する。
次の瞬間に戻っても、伊達の視界はまるでパワードスーツの様な計器に包まれたままであった。
アーチャー……ナイトローグは、フカフカのソファーに座りながらも何かを眺めていた。
視界の中では、ガスマスクに身を包んだ作業員達に囲まれている、吸引器を咥えさせられた一人の青年の入った水槽を眺めていた。
青年は暫くの間藻掻き苦しんでいたが、暫くして意識を失う。
すると、青年の隣に、紅い宇宙飛行士の様な格好に身を包んだ男が現れる。
頭部の煙突には、ナイトローグに近い意匠が見え隠れしていた。
宇宙飛行士は、意識を失った男を、そのままどこかへ運び込んでいった。
(アーチャー、お前は一体、何をしようとしていたんだ……)
再び視界が暗転した後も、ナイトローグは相変わらずソファーに座り込んで水槽を見物していた。
水槽で藻掻いているのは、先程の青年とは少し年上の男性であった。
だが男性は、暫くしている内に、形を見る見る変質させていった。
それは人間ではなく、ただの化け物であったのだ。
ナイトローグは、人間を化け物にする研究を初めていた、ファウストに勝るとも劣らない正真正銘のマッドサイエンティストだったのだ。
視界が暗転する。
今度は、藻掻き苦しむ女性を眺めながら、ケータイ……スマートフォンを片手に握っていた。
話している相手は、この女性の恋人らしい。
ナイトローグは、女性を人質にしているようであった。
暫くすると、女性もまた、禍々しき怪物に変貌していく。
伊達に言わせれば、この男は紛れもなく悪党であった。
罰せねばならない悪党であった。
だがまだ、その時ではない。
そう思った時、再び視界が暗転する。
次の瞬間、水槽に浸かっていたのは……自分であった。
見てみれば、あの計器が消え去っている。今のアーチャーはナイトローグではないのだ。
先程の紅い宇宙飛行士が、アーチャーの心臓に優しく触れ込む。
まるで何かを弄るかのように。
次の瞬間、アーチャーは暗い部屋の中にいた。
だが、そこには水槽も、作業服もない。
あるのは、ドラム缶などの障害物と、幾つもの死体のみ。
何かを蹴り上げる。
蹴った男の首は半分裂かれていて、両側を挟み込むように立っていたのは全身が歯車の、対象的なデザインの二つの戦士であった。
それは正に兄弟の様であった。
だがアーチャーは怯えずに、何かを手に取る。
それは、彼が鰐男に変身するときに使っていたあのバックルだった。
バックルを巻き、ワニ模様の容器を装填する。
暫くは悶え苦しむが、辛うじてバックルは答え、アーチャーは鰐男へと変貌を遂げていく。
――CROCODILE IN ROGUE――O-raaaaaaaaaaaaa!! Aaaaaaaaaaaaaa!!
喧しい電子音声を合図に、アーチャーは猛突進していく。
疲労が溜まっているのか、その動きはぎこちなかったが、再び計器に包まれた視界の中で、どうにか歯車兄弟に立ち向かう。
柵の奥で、眼鏡の男が叫ぶ声が聞こえる。
どうやら、その歯車の兄弟はアーチャー……ナイトローグの部下だったらしい。
だがアーチャーは、嘲笑った。ひたすらに嘲笑った。何かを堪えるかのように笑い続けた。
その様は、伊達を窮地から救い、いちごミルクを美味しそうに啜っていた彼からは全く想像もつかない様であった。
バックルのレンチを倒す。
再び力が込み上がり、あの時、セイバーを弾き飛ばしたパンチが歯車の一人を粉砕する。
――俺は……ローグだ!!
再びバックルのレンチを倒す。
生き残った方の歯車を、今度は巨大な鰐の足へと変貌した足で、粉々に喰らい砕く。
――仮面ライダー……ローグだぁぁぁぁ!!
アーチャーが、虚空に向かって雄叫びを上げる。
ここで、伊達の夢は一旦終わった。
◆ ◆ ◆
その次の日、伊達は警察の仕事を終えた後、バーを一旦臨時休業に切り替え、アーチャーに先日セイバーと戦った港に来るように命じた。
しかし伊達はバーに戻り、黒いポリエステル製のジャケットに着替え、麻酔銃に弾丸を込める。
伊達は、聖杯戦争に来て以来初めての神隠しを行おうとしているのだった。それも、自分のサーヴァントに。
サーヴァントを殺す。
それが、この聖杯戦争においてどの様な意味を持つかは、参加させられて数日も経たない伊達にも十分理解し得ることだった。
だが、自分の信念を曲げてまでみっともなく生き延びること。それだけは、伊達は絶対にしたくなかったのだ。
何より。
――アーチャーは、本当に悪人なのだろうか?
彼とは出会って間もないが、見た所、サーヴァントとしての役割を忠実に果たそうとする、生真面目でどこか抜けている、自分と同い年ぐらいの男性なのである。
アーチャーの属性も『悪』、だがそれでも主を絶対に守り抜こうとする意志はあの戦いで感じ取れた。
伊達は、試そうとしているのだ。
自分のサーヴァントが、本当にあのナイトローグなのか、それとも否かを。
この近くにあったラーメン屋は、相も変わらず繁盛していた。
伊達は、神隠しを一人で行って以来、ずっとこのラーメン屋に通いつめていた。
店の女店主の顔も変わらない、店の形も変わらない。味も変わらない。
その度に、初めて神隠しにしたあの警察官僚の姿を思い浮かべ、割り箸を割り、ラーメンを啜り、スープまで飲み込む。
時刻は午後10時。
先程セイバーと戦った港の海から見える日差しを物憂げに眺めていたアーチャーの目前に、一人の男が現れる。
だが伊達の手には、一丁の拳銃が握られていた。拳銃を握る手には、道化師を象る令呪が僅かに灯りを見せていた。
麻酔銃を撃った上で、令呪で自害させるつもりなのだ。勿論、サーヴァントに麻酔銃等効かないに等しいのは分かっている。
本来なら『自害せよ』で済ませようものだったが、それでも伊達は自分の流儀を曲げることを拒んだのだ。
だからこそ、一日立つのを待ってまでラーメンを啜り、麻酔銃を射つ形で終わらせようとしているのだ。
「……何のつもりだ。」
「法から逃れた者を裁く、それだけだ。」
訝しげな表情を浮かべるアーチャーに対し、伊達は彼に銃を向け、忽然と言い放った。お前を裁くと。
その表情は、最早陽気なマスターではなく、冷酷な人殺しの顔であった。たった一つ、物憂げな目を覗いて。
「法?この聖杯戦争には関係ない――」
「いやあるさ、お前は多くの人々を人体実験のモルモットに変え、怪物に変え、幾つもの明日を奪って来た。そうだな?ナイトローグ。」
ナイトローグ。
その言葉に、アーチャーの表情が一瞬変わる。
「見たのか……俺の記憶を。」
「お前は何のために聖杯戦争に現界した?己の欲を満たすためか?誰かの苦しみを味わうためか?それともメフィストフェレスでも作ることか?」
アーチャーは俯いたまま黙っていた。
伊達はそれをずっと見つめていた。
「大義のためだ。」
アーチャーの口が開く。
伊達は表情を変えずに銃を向けたままだ。
「大義?」
「俺が現界したのは、愛と平和の為に戦うという大義故だ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「…………。」
「あの光を浴びて以来、俺は目に見える者全てを敵とみなしてきた。多くの人々を苦しめてきた。
だがそれは全て俺自身が犯してきたことだ、俺が何を言おうと言い訳にしかならんだろう。」
「なら、償う意志はあるのか?」
「幾ら償おうと償いきれないがな。」
「……。」
「お前が今俺を自害させようとしたがっているのは分かる。だがそれでも、俺は愛と平和の為に、なにかを助けたい、救いたいんだ。それだけは、叶えさせてくれ……。」
アーチャーは地面を見つめ俯いたまま、両膝を地面に付き、続いて両手を地面に置いて四つん這いの姿勢になった。
それはこの日本で言う『土下座』と呼ばれる、最も恥ずべきことをした人間が行う一種の行為であった。
「頼むっ……。」
その様に、伊達の銃を握る腕が力を失う。
銃を懐に仕舞うと、その手で伊達は、土下座している男の手を握る。
アーチャーが顔を上げると、彼のその表情は、いつも飄々としたマスターの姿と相違なかった。
「俺も同じだ、アーチャー。」
「……?」
「俺も、誰かの明日の為に戦いたい。そのために力を貸してくれないか。」
その言葉に目頭が熱くなったアーチャーは、直ぐ様彼の手に力を掛けて立ち上がる。
◆ ◆ ◆
その後、伊達とアーチャーは今後の方針について話し合った。
「もし俺みたいに、唐突にこの世界に巻き込まれた人がいるってことは、俺みたいな人は沢山いるってことでしょ?」
「ならどうする。」
「仲間を作る。俺達と同じ様に、この聖杯戦争に納得を示さない主従と、同盟を組むんだ。」
以前、監察官の久遠をジョーカーに迎えた時、三上に反対された時のことを思い返す。
だが、今は誰もが遅かれ早かれ互いの存在を知られることになるであろう状況だ。その様なリスクは度外視して構わない。
「同盟……か。」
その言葉に、アーチャーの顔がくしゃっと少し綻ぶ。
あの狂気の蝙蝠男の姿がアーチャーとどうしても重ならなくなり、伊達の中で違和感が少しだけ増えるも、表情は敢えて変えずに言葉を続ける。
「仲間は多い方が楽だろ?」
「そうだな……以前、共に仲間と戦った時のことを思い出す。」
「仲間……もしかして、あの研究員のことを言っているのか?ナイトローグ。」
「もうその名前で呼ぶのは止せ。その名はとうに捨てた。」
「なら、仮面ライダーローグ、と呼んだ方が良かったか?」
アーチャーの顔がやや赤くなっていき、不貞腐れたように口を動かす。
「氷室幻徳、それが俺の真名だ。」
「氷室、幻徳……じゃあ幻さんか。」
「その名で呼んだ奴は、これで三人目だ。」
恥ずかしがるように答えられる。
ますますアーチャー……幻さんのことが分からなくなってきた。
「それで、今後のお前の方針は、聖杯戦争の打破、ということで良いんだな?」
表情を整え直したアーチャーのその言葉に、伊達は忽然と頷き、再び麻酔銃を引き抜く。
しかし今度はアーチャーではなく、港の向こうにある月に向けられた。
「この聖杯戦争という出鱈目なゲームを創り出し、多くの人々を弄んだ主催者は、未だ裁かれていない。裁けない。だから俺が裁く。」
「まるで、正義の英雄(ヒーロー)みたいなことを言うな。」
「いや、俺のやってきたことは少なくとも正義だと思ってやってきたわけではない。戦いを望まない者は助けるが、その代り、他者の明日を奪う様な連中は絶対に倒す。
それを法は許さない。だから、俺達がこれからやっていくことは許されるわけには行かないんだ。けどそれでも俺は、誰かの"明日"を守りたい。」
「なら、お前は悪か。」
「………。」
こうして語っている間にも、伊達は相も変わらず月に拳銃を向け続けている。
アーチャー……氷室幻徳からして、伊達一義のその姿は嘗てぶつかり合い、共に戦い、己が全てを託したある一人の戦士と重なっていた。
その戦士は真っ直ぐであり続けていた。
誰かの力になりたくて、戦い続けようとしてきた。
誰かを守りたくて、立ち上がり続けてきた。
自分が信じた道を突き進むために。大勢の人々の"明日"を、この手で創る為に。
"幻さん"という呼び名と言い、軽い言動といい、真っ直ぐな姿勢と言い、どこか似ているかと思えば……
「成る程、お前が、俺を喚んだ理由が分かってきた気がするよ。」
「ん?」
すぼんだような表情で振り向く伊達。
振り向けば、幻徳はいつの間にかあのバックルを手にとっていた。
スクラッシュドライバー。
10年前にあの眩い光を放ち、国を隔てたあの箱より湧き出た力を人間の手で操り、兵器としての機能を発揮させる『ライダーシステム』の集大成。
戦争に打ち勝つための兵器としての機能が余りにも完成しすぎていた力。
非人道的な人体実験の末に、幻徳が手にした大義を成し遂げるための術。
血に塗れ、血が糊のように彼にくっつけているそのベルトは、ライダーシステムが兵器としての概念を放棄し、英霊の座に召し上げても尚、彼の手元に残っていた。
「随分、哀しそうな目で見つめているな。」
「何が悲しい物か。」
「その力で、大切な人を殺めたのを悔やんでいるのか。」
「……何とでも言え。」
その目は、慚愧の眼差しであった。
伊達がこれまで何度も目にした顔であった。
三上、久遠、そして自分自身。それに今の彼が重なる。
そう、きっと彼もまた、今もなおどこかで苦しんでいる"普通じゃない"人間なのだろう。
そして、そんな慚愧の眼差しをかなぐり捨てるかのように、だが表向きは極めて平静に、彼はバックル…スクラッシュドライバーを腰に巻いた。
――SCRASH DRIVER――
続いて、あの鰐の容器……クロコダイルクラックフルボトルの蓋を開き、バックルに刺す。
「変身。」
――割れる!喰われる!砕け散る!――CROCODILE IN ROGUE――
大義の為に、他者も、己すらも犠牲にせんとする漆黒の戦士・仮面ライダーローグに、彼は再び変貌を遂げる。
その様を、やはり落ち着いた、だが何かを覗こうとする眼差しで伊達は見つめている。
そして伊達は口を開く。
「一つ、訊きたいことがある。」
「何だ。」
「俺はこれから許されざる行為を時にやろうとする。それを手伝うことに、お前は躊躇するか?」
「俺は悪党(ローグ)だ。悪を成すことに、今更何を戸惑うことがある?」
だが幻徳は、だがと付け加える。
「もしお前が、大義の為に、愛と平和の為に戦うというのなら、俺はこの手を血に染める覚悟はいつでも出来ているぞ、マスター。」
自分は再び悪の名を背負う。
そう誓ったマスターに喚ばれたからこそ、幻徳は仲間達と共に地球外生命体エボルトに立ち向かった頃の姿ではなく、西都の用心棒だった頃の姿で喚ばれたのだと確信している。
「分かった、これからも俺に力を貸してくれ、アーチャー。」
アーチャーは腕を組み、その言葉にコクリ、と頷く。
それを一瞥した伊達は、月を人睨みする。
あの月が偽物であることは察しがつく。
無論、この夜空もまた、偽りであることを。
その偽りの壁を壊すことを宣言するかの如く、伊達は引き金を引く。
引き金が引かれる。
数m先へと放たれた麻酔弾は、実弾と比べて勢いは低く、そのまま勢いを失って直ぐに海へと落下し、ポチャリと沈んでいった。
だが、これで十分だった。聖杯に裁きを与えるという宣戦布告と、その誓いとしては。
海に落ちた弾丸を見つめた伊達は、冷たい声で言い放つ。これまで、多くの人々を裁いた時と同じ様に。
「お前に明日は来ない。」
【クラス名】アーチャー
【真名】氷室幻徳/仮面ライダーローグ
【出典】仮面ライダービルド
【性別】男
【属性】秩序・悪
【パラメータ】筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具B(ローグ変身時・初期値)
【クラス別スキル】
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法等大掛かりな物は防げない。
マスター無しで現界を保つ能力。
Bランクなら、マスターが死んでも2日は現界を保てる。
【保有スキル】
パンドラボックスに秘められし力であるネビュラガスを吸い、遺伝子構造を組み替えることで手に入れた能力。
ネビュラガス由来のアイテムの行使、或いは耐性に補正が掛かる。
人体実験で高いハザードレベルを手にしており、闘志が高まればランクも上がっていく。
西都に属していた頃の姿で召喚されているため、現状ではスクラッシュドライバーが使用できるCランク程だが、意志が高まればある程度上昇し、上手く行けば1ランク向上も夢ではない。
ただし、人間の限界値を逸脱しなければならないAランクへの到達は不可能と言える。
プライムローグ変身時には1ランク上昇し、更に人々の応援を受けることで一時的にハザードレベルも向上する。
不利な戦闘から離脱する能力。
戦闘状態を一からやり直す効果もある。
ネビュラスチームガンを使用すればより高確率で離脱できる。
国の明日を背負い戦う仮面ライダー。ラブ&ピースの誓い。
プライムローグ変身時にのみランクが()に修正され、誰かを守る時に耐久に補正が掛かる。
鋼に例えられる、アーチャーの不撓不屈の精神。
10年の間に重ねた罪を清算するため、父親が愛するこの国を救う大義の為に戦い、父が死んでも尚国を守るために戦い続けた。
同ランクの『勇猛』『冷静沈着』を兼ねる他、耐久ランクに補正が掛かる。
【宝具】
『空を隔てる六十の鍵(フルボトル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
火星で発見されたパンドラボックスに内包されていた容器型のアイテム。
内部にはネビュラガスを、地球上の概念を模した力に性質を変化させた物質が詰まっている。
使用時にはボトルをシャカシャカ振って成分を活性化させることが必要。
アーチャーは西都の擁する仮面ライダーであった逸話から、西都が嘗て保有していた20本のボトルを所持している。
スクラッシュドライバーやネビュラスチームガンに装填して必殺技を放つ際に使用する。
『喰らい砕く黒鰐の牙(クラックアップフィニッシュ)』
ランク:C→C+ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1人
アーチャーの仮面ライダーローグとしての必殺技が、彼の生き様を現す宝具として昇華された物。
クロコダイルクラックフルボトルの装填されたスクラッシュドライバーのレンチを再度引くことで、ボトルのエネルギーを活性化。
拳にチャージされた際には、腕の強度を向上させ、敵に強烈なパンチを叩き込む技として機能する。
脚部にチャージされた際には、巨大なワニを思わせる紫色のエネルギーを発言させ、敵を両側から連続で噛みついて倒す技として機能する。
因みに蹴り技として使用した場合、両足で敵を挟み込む体制になるため、命中率が非常に高くなる。
ブラッド族の生き残りの一人を倒し、エボルトに一矢報いた逸話から、『人類の脅威』の特性を持つ敵に対し特攻が掛かる。
後述の宝具の必殺技『プライムスクラップブレイク』発動時にもこの宝具は機能し、ランクが上昇する。
『金色に咲き誇れ大義晩成(プライムローグ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
父から託されたこの国を守り抜こうと決意したアーチャーの気高き意志の宝具化。
桐生戦兎が作成したローグの強化アイテム『プライムローグフルボトル』をビルドドライバーと共に召喚する。
このフルボトルをビルドドライバーに装填することでアーチャーはプライムローグへと変身を遂げる。
戦闘力はローグよりも格段に向上し、背中のプライムセイバーマントは高い防御力を発揮し、特に『人類の脅威』に対しては防御性能が格段に向上する。
魔力消費も比較的多い上、西都の仮面ライダーとして召喚された為に普段は封印されている。
その代わり敵を討ち滅ぼすのではなく、誰かの明日を守りたいという想いが一定の閾値を越える事で初めてこの宝具は解放される。
【Weapon】
『スクラッシュドライバー』
アーチャーが難波重工から受け取ったバックル型アイテム。
フルボトルに内包されている成分をゲル化させることで成分の可塑性と柔軟性を高め、更なる戦闘力を発揮することが可能。
腰に装着し、ボトルを装填することでボトルの成分をヴァリアブルゼリーへと変化させ噴出、アーチャーを仮面ライダーローグへと変身させる。
ローグに変身することで初めてアーチャーは自在に力を振るうことができる。
また、フルボトルを装填することで、そのボトルの能力を発現させることも可能である。
『クロコダイルクラックフルボトル』
アーチャーが仮面ライダーローグに変身するために必要なアイテム。
ネビュラガスを凝縮させたトランジェルソリッドが含まれている。
難波重工が独自に開発した特殊なフルボトルであり、スクラッシュドライバーに反応する数少ないボトルの一つ。
フタを開いただけで『デンジャー!!』という音声が鳴ったりと極めて危険なボトルであることが示唆されている。
『ネビュラスチームガン』
最上魁星が開発したカイザーシステムを難波重工が再現、改良したハンドガン型のアイテム。
ネビュラガスを封じたギアを装填することで変身アイテムとしても使えるが、生憎ギアは持ってきていない。
フルボトルを装填した特殊攻撃も可能な他、改良時にトランスチームガンのデータも使っているのかスチームブレードを連結させられる。
ネビュラガスを変化させた煙を巻くことでその煙を覆った対象を別の場所に転送させることが可能。
『トランスチームガン』
アーチャーが嘗てナイトローグと名乗っていた頃に使っていたハンドガン型のアイテム。
ネビュラスチームガンを元に葛城巧がライダーシステムの実戦テストの相手をさせるために作ったトランスチームシステムのコア。
ボトルの成分を煙に変えて放出し、特殊パルスで変質させる効果があり、この機能を利用し以前はバットロストフルボトルを使用してナイトローグに変身していた。
仮面ライダーローグとして召喚されているためにバットロストフルボトルは所持していないが、同時にアーチャーのクラスで喚ばれた事で持ってこられた。
ネビュラスチームガンと同様にフルボトルを装填出来る他、スチームブレードとの合体オプションも搭載されている。
『スチームブレード』
カイザーシステムを改良したトランスチームシステム専用の装備である小型ブレード。
氷結ガスを放出する『アイススチーム』、電撃を放つ『エレキスチーム』、ネビュラガスを放出して対象を怪物『スマッシュ』に変貌させる『デビルスチーム』が使える。
消費魔力はないに等しいが、デビルスチームに関してはスマッシュに神秘を与える過程で魔力を消費する。最も今のアーチャーは使うつもりは毛頭ないのだが。
デビルスチームはスマッシュに変化させずに攻撃にも転用可能。因みにスマッシュはアーチャーが消滅すれば同時にガスも消失して元に戻る。
ネビュラスチームガン、トランスチームガンと合体することでライフルモードになり、射程距離を高められる。
『ビルドドライバー』
葛城親子が開発した、エボルトの力の源であるエボルドライバーを人間の科学技術で再現したバックル型アイテム。
スクラッシュドライバーの原型となったベルトだが、ハザードレベルの上昇率は低い分ボトルの組み合わせや外部アイテムとの併用による高い拡張性を秘めている。
プライムローグ変身時に召喚される。
『プライムローグフルボトル』
『金色に咲き誇れ大義晩成』の発動時に召喚されるフルボトル。
クロコダイルクラックフルボトルの成分を二倍にして内包し、更にジーニアスフルボトルの物質生成機能で生成した添加剤を混ぜている。
【人物背景】
愛と平和の為に戦う仮面ライダーの一人。
死んでも尚消えることのない罪を背負い続ける"悪党(ローグ)"。
死亡時までの記憶を宿しているが、罪を背負おうとし続けているマスターの影響で西都の仮面ライダーだった頃の姿で召喚されている。
その為ネタスキル『文字T』は付与されていない。
【聖杯にかける願い】
望みたいことは確かにあるが、今の自分にその資格はない。
今はただ、愛と平和の為に戦うのみ。
【マスター名】伊達一義
【出典】JOKER 許されざる捜査官
【性別】男
【Weapon】
『麻酔銃』
伊達が神隠しの際に使用する銃。サイレンサー付き。
通常の銃と比べると反動も少ないため、普通に片手で撃てる。
相手を傷つけずに眠らせて安全に車に乗せられる。
『警察装備』
警察手帳、警棒、その他諸々。
いざとなれば机からオートマチック式の拳銃も引っ張り出せる。
【能力・技能】
張り込み等における高い推察力。
どんなに立件不可能な証拠であろうと僅かなヒントは絶対に逃さない。
若くして警視庁の警部になれるほどの実力者。
一応心得はある。
チンピラ程度なら軽く取り押さえられるが、暴漢に殺されかけたりと決して強い訳ではない。
口の中からトランプのカードを出したり、パッと花びらを出現させたりと手先が器用。
会話中に相手を和ませる時などに使用する、彼の特技。
中の人特有の不敵な笑顔を決して絶やさずに事情聴取を行う話術。
優しく容疑者の言葉を聞き出そうとするが、場合によっては容疑者の精神を追い込むような方法も平然と行う。
同僚の来栖淳之介曰く『時間ギリギリになって漸く状況を動かすタイプ』。
【人物背景】
法から逃れた犯罪者に裁きを下すジョーカーの後継者。
裁く度に増えていく罪を背負い続ける"許されざる捜査官"。
TVスペシャル後からの参戦。
【聖杯にかける願い】
聖杯に裁きを下す。
【方針】
同じく聖杯戦争に消極的な主従と同盟を結ぶ。
最終更新:2021年06月07日 21:50