「あ、あぁ……そんな……」

 少年は目の前の光景が信じられない。
 自身のサーヴァントが消滅していくという、絶望的な光景が。


 少年は魔術師である。故に聖杯戦争というものを知っていた。
 この模倣東京にやってきた当初は、知識にある聖杯戦争との違いに戸惑ったが、すぐに割り切った。
 違いが気にならないと言えば嘘になるが、そんなことより重要なことがある。

 栄誉だ。
 聖杯戦争に勝ち残り、聖杯を手に入れることができれば、それはとてつもない栄誉となる。
 そうなれば、魔術師としての栄光と聖杯と言う実利を一挙に手に入れることになる。

 その実現の為に彼はすぐにバーサーカーのサーヴァントを召喚をした。
 意思無き英霊を選んだのには訳がある。
 自分は誇り高き魔術師なので、使い魔ごときに指図されたくなかったのだ。
 そしてこの判断は正しかったと、彼は確信した。

 召喚されたバーサーカーは、全身鎧に大剣を振るう大男だ。
 彼が振るう剣は、これまでどんなサーヴァントであろうとも倒してきた。
 これまで倒したマスターが素人であることを差し引いても、バーサーカーは当たりだと思い、少年なりに信用していた。

 だから目の前で起きたことを現実と認識した時、少年が抱いたのはバーサーカーに対する憤慨ではなく驚愕だった。

 夜の闇に潜みながら進めるのが王道の聖杯戦争。
 その闇の中で少年の眼前にいるのは、マスターの少女とサーヴァントであるライダー。そしてライダーが呼び出した使い魔。

 マスターの少女ははっきり言って問題にもならない。
 少年よりも小さい、中学生くらいの少女で明らかに素人だ。事実、ここまで彼女は何もしていない。

 だが問題はライダーだ。
 最初、少年はライダーを大したことないと高を括っていた。
 外見はマスターの少女と同じかそれより小さいくらいで、赤い帽子とジャケットを纏ったただの少年にしか見えない。
 そして、ステータスも幸運と宝具以外最低ランクだ。
 これで侮らずに戦える気がしないくらいに、少年はライダーを見下していた。

「いけっ、ピカチュウ」

 しかし、ライダーが使い魔を繰り出してからは一変する。
 使い魔は黄色の、まるでねずみの様な、大きさは40cmほどと小さい生物だ。

「でんこうせっか」

 そして速い。ピカチュウと呼ばれた使い魔は、どう見ても身の丈に合わない速度を出し、バーサーカーを翻弄する。
 その姿をバーサーカーは捉えられない。
 ならば、とばかりに少年は戦略を変えた。

「バーサーカー! ライダーを狙え!!」

 少年が選んだのはごくシンプルな手。
 ライダーが使役しているねずみはおそらく宝具。
 ならば所有者であるライダー当人を潰せば、必然あのねずみも消える筈。

「■■■■■■■■――――――ッ!!」

 主の命に従い狂戦士は、この期に及んでまだ使い魔に指示を出し続けるライダーに向けて、大剣を振るう。

 ドォォォォオオオオン!!

 振るわれたバーサーカーの大剣は、地面に激突し轟音と共に土煙を生じさせ、辺りを覆い視界を阻む。
 だが少年は確信していた。
 あれでライダーは消滅したと。もうバーサーカーを阻むものはない筈だと。
 その筈なのに――


「ピカチュウ」

 ライダーの声が響く。それに対し、最早少年はパニックを隠し切れない。

「何で!? 何で!? 何でだ!?」

 バーサーカーの攻撃が躱された? いいや違う。ライダーはあの場から一歩も動いていない。 
 防がれた? 受け止められた? どっちも違う。

 少年は思いつく可能性を次々否定していかなければならなかった。
 根拠は土煙が晴れて見えたライダーの足元にある。

 ライダーが立っている足元には、振り下ろしたバーサーカーの大剣が生み出した地面のヒビがある。
 これが意味することは、『バーサーカーの攻撃がライダーをすり抜けた』ということだ。
 この事実に気が付いた時、少年は茫然とした。

「…………」

 だがそんな少年を見かねたのかは不明だが、なんとライダーは攻撃が通用しなかった訳を説明し始めた。

 『ポケモンバトル』
 それは曰く、ライダーの世界のルールが宝具となったもので、敵サーヴァントとライダーの使い魔が決着をつけない限りマスターとライダーに対しての攻撃が無効化されるというもの。
 そしてライダーは、使い魔が全滅すると消滅するそうだ。

「……上等だ、やってや――」
「10まんボルト」

 ライダーの説明を聞き、事態を把握した少年は奮起するが、その瞬間にライダーは使い魔に攻撃の指示を出す。

 それは、とてつもない電流。
 辺りを照らす目を焼くほどの稲光が、尋常ではない電力がここに流れていることを思い知らせる。
 その光がバーサーカーを容赦なく焼き尽くした。

「■■■■■■■■――――――!!」

 バーサーカーの雄たけびが、ダメージの深刻さを伝えるが、この狂戦士もまた英霊。
 例え強烈でも、電撃の一つではまだ倒れぬと立ち続ける。
 だがあまりの電流に”まひ”したのか、バーサーカーは動けずその場に立ち尽くしてしまう。

「ピカチュウ」

 そしてライダーは容赦なく使い魔に追撃を指示する。
 すると、空にはさっきまでなかったはずの雷雲が集まり始め、ピカピカと空を照らす。

「天候、操作……っ!!」

 その意味を理解した時、少年は戦慄した。
 そんな並の英霊でも出来なさそうなことを、英霊のしもべごときが成しているのだから。
 その間もバーサーカーは少しでも逃げようともがいているが、雷光はそれを許さない。

「かみなり」

 ライダーの指示で雷がバーサーカーに降り注ぐ。
 さっきバーサーカーが出した轟音をはるかに超える爆音が辺りに響きわたり、その中には狂戦士の悲鳴も紛れていたが、誰一人それに気づくことなくバーサーカーは消滅した。
 そして話は冒頭に戻る。

「あ、あぁ……そんな……」

 サーヴァントの消滅。それは、聖杯戦争の敗北を意味する。
 勿論、ここからマスターを失ったサーヴァントを探して再契約すれば、復帰自体は可能かもしれない。
 だがそれより先に殺される未来の方が、可能性としては遥かに上だ。
 そんな絶望的な事実に怯えているのか、少年の目の前が徐々に暗くなっていき――





「消えた……?」

 それが、バーサーカーが敗北してから最初の、ライダーのマスター、桐森蘭の発言だった。
 この言葉の意味はバーサーカーではなく、そのマスターにある。
 マスターである少年が、バーサーカーと同じく消滅したのだ。

「死んじゃったの?」
「…………」

 蘭の問いにライダーは首を横に振る。
 これもライダーの宝具の一つ『ダメだ!  しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!』の効果。
 それは、宝具『ポケモンバトル』が敵マスターの同行時に発動すると、決着がつくまで勝負から逃がさないのと、決着がついた際に敗北したマスターを強制的に、最後に休息した場所に転移させるというものだ。
 その際、転移と同時に所持金の半分が勝利したマスターの所持金に加わるのだ。

「わっ、本当だ」

 ライダーの説明を聞いた蘭が自分の財布を検めると、確かに所持金が増えていた。
 蘭が思わぬ軍資金に驚いていると、どこからかパトカーのサイレンが響く。
 轟音に続く爆音に近隣住民が通報したのか、と考える蘭。

「逃げよう」
「…………」

 捕まるわけにはいかないので、蘭はライダーの手を引きこの場を逃げ出した。


 場所は変わり公園。
 流石にこの時間には誰もいないが、それでも蘭は慎重に辺りを見回し、人がいないことを確認する。
 そしていないと判断した蘭は、やっと一息ついた。

「ライダー、強かったんだね。ごめん、正直弱いと思ってた」
「…………」

 蘭の謝罪にライダーは軽く手を振り、気にしていないと伝える。
 それよりライダーが気にしていたのは、マスターの聖杯戦争に対するスタンスである。
 さっきは遭遇したから戦ったが、マスターが聖杯戦争をどう思っているかはまだ聞いてなかった。

「…………」

 だが人に聞く前にライダーは自分のことから話した。
 彼は聖杯に叶えてほしい願いはない。
 彼はただ、戦いに来ただけだ。生前では決して出会えない強敵と、未知なる戦いを求めてやって来たに過ぎない。
 だからマスターが聖杯を望もうとも、望まなかろうともどちらでもいい。
 その上で、ライダーはマスターに問う。

 すると蘭は、少々言葉に詰まりながらもライダーの問いに答えた。

「……私ね、少し前にお母さんが死んだんだ。
 それも悪い男に、お金目当てで」

 それをなかったことにして、お母さんを助けたい。蘭はそう言った。
 強い眼つきでそう言い切った。

「だからねライダー。
 悪いけど、相手に宝具のことを説明したりしないで」

 さっきみたいに『ポケモンバトル』について説明して、フェアに行こうとしないでほしい。
 蘭の切なる願いに、ライダーは頷く。

「いいの?」
「…………」

 蘭の不安げな声に、ライダーは首を縦に振った。
 そもそもライダーはさっきも言った通り、戦いに来ただけだ。
 そんな個人の享楽より、母親の為に命を懸ける少女の思いに応えようと思う善意が彼にもあった。


 これより始まるのは少女の願いに、少年が献身する物語。
 されど、少女の願いは正しいのか。
 その問いに対する答えは、少なくともここにはない。


【クラス】
ライダー

【真名】
レッド@ポケットモンスター 金・銀・クリスタル

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運A 宝具A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
騎乗:A++
乗り物を乗りこなす能力。
A++ランクでは竜種も含めた全ての乗り物を乗りこなすことが出来る。

対魔力:E
魔術に対する抵抗力。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
攻撃無効:-(EX)
普段は機能していない。
だが、ライダーの宝具『ポケモンバトル』が展開されるとこのスキルが発動し、自身とマスター、そして相手マスターに対して直接攻撃が無効となる。

仕切り直し:E~A
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
場に出ている『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』の力量が、相手より上回っているだけこのスキルのランクは上昇する。

カリスマ(使い魔):A
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
ライダーのカリスマはポケモンなど使い魔限定。
ただし自身の使い魔のみならず、人から指揮権を委ねられただけの相手でも、彼の指揮下に入れば十全に従う。
8つのトレーナーバッジを持つ者に、従えられない使い魔は存在しない。

【宝具】
『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』
ランク:A 種別:対?宝具 レンジ:??? 最大補足:6
ライダーの手持ちポケモンにして、共に歩んだ仲間たち。
手持ちはピカチュウ・エーフィ・カビゴン・フシギバナ・リザードン・カメックスの6匹。
この宝具はいかなる攻撃を受けてもも死亡することは無い。ただし、一定以上のダメージを受けると「ひんし」となる。
そして、6匹全てが「ひんし」になるとライダーは聖杯戦争に敗北した扱いとなり消滅する。
「ひんし」を回復させるためにはライダーが一休み(ベッドなどで一定時間休息を取る)しなければならない。この間、ライダーは無防備となる。
また、この宝具が繰り出せる技にはわざポイント(以下PP)があり、繰り出せる回数が決まっている。
PPがなくなるとこの宝具は「わるあがき」しか出来なくなってしまう。
PPを回復させる場合もライダーは一休みしなければならない。

『ポケモンバトル』
ランク:C 種別:特殊宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーの居た世界のルールが、聖杯戦争に際して宝具と化したもの。
戦意を持ったサーヴァントもしくはその使い魔がライダーの前に現れる、またはライダーが敵マスター、サーヴァントもしくは使い魔に勝負を挑むと発動する宝具。
この宝具が発動すると、ライダーは一体ずつしか『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』を繰り出せず、また相手も一体ずつしか戦闘できなくなる。
ただし、群体型に関しては一群で一体としてカウントされる。
また、この宝具が発動している間は自身、マスター及び相手マスターは自軍に対して指示、もしくは支援しか行う事が出来ず、相手に対する直接攻撃は禁止となる。

『ダメだ!  しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!』
ランク:C 種別:特殊宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーの居た世界のルールが、聖杯戦争に際して宝具と化したもの。
マスターとサーヴァントが共に行動している相手に『ポケモンバトル』が発動すると、更に追加で発動する宝具。
この宝具が発動すると、お互いに勝敗が決するまで逃走できなくなる。これは逃走用のスキルや宝具も無効化する。
そして決着がついた際、勝利したマスターに敗北したマスターの所持金半分が強制的に移動する。
最後にサーヴァンが消滅したマスターは、マスター自身が最後に休息した場所の前に強制的に転移される。
ただし、サーヴァントが消滅する前にマスターの意志で降参することは可能。
この場合、所持金の移動は起こるものの強制的な転移は起こらない。

【weapon】
『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』

【人物背景】
カントー地方ポケモンリーグチャンピオン。
だが彼はその頂に立ったことで、満足な戦いを出来る相手が殆ど居なくなってしまった。

【サーヴァントとしての願い】
より強い相手と戦いたい。聖杯はマスターに捧げる。


【マスター】
桐森蘭@金田一少年の事件簿 暗黒城殺人事件

【マスターとしての願い】
過去に戻り、あの男から母を守る。

【weapon】
なし

【能力・技能】
特になし。
ただ、年齢に見合わぬ発想力と行動力、そして決断力がある。

【人物背景】
元々は母子家庭で暮らす中学一年生の女子だった。
しかし、聖杯戦争に参加させられる少し前に母親が桐森岳志という男と再婚し、その直後に急死。
その死を怪しんだ蘭は、調べていく末に義理の父である岳志が保険金目当てに母親を殺害したと知った。
蘭は母の復讐の為に計画を練っていたが、それを構築するより先に聖杯戦争に呼び寄せられた。

【方針】
聖杯を手に入れる。
ライダーの性能がピーキーなので、どう活かすかを考える。

【備考】
参戦時期は本編登場前です。

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最終更新:2021年06月08日 22:43