息を切らした少年が夜路を駆ける。
何度も後ろを振り返っては表情をこわばらせ、脚を急がせる。

「畜生……畜生……!」

誘いこまれるように路地裏から路地裏へ。
光が遠ざかり、闇が濃くなっていく。

「令呪を使うか……?」

走りながら左手に光る紋様に一瞬目を遣り、しかしすぐにかぶりを振る。

「いや駄目だ。いつまで続くかもわからないのに、こんな序盤で軽率に切れるかよ……!」

足手まといだから先に逃げろ。そう言って殿を買って出た己のサーヴァントを思い出す。
あちらは無事だろうか。

「大丈夫……もう少し! もう少しだ……!」

もう少し先に行けばあまり知られていない抜け道から大通りに出ることができる。
人混みに紛れてしまえば逃げ切り完了。あとはゆっくり彼女と合流すればいい。
逃げ切りの目途が立ったことで少年の顔に笑みが浮かぶ。

角を曲がり、その抜け道に入る少年。
しかし、彼はそこで足を止めてしまった。

「……は?」


逃げ込んだ細道を塞ぐように、工事用フェンスが聳え立っていたので。


「ざっけんな! 何で行き止まりなんだよ!」

渾身の力でフェンスを叩くがびくともしない。
二度三度とフェンスを叩く少年だったが、突如はじかれたように今来た道を振り返る。

「畜生…こうなりゃ俺一人でだってやってやる……!」

何もない空間に向かって呻く。まるでそこに誰か、自分の命を脅かす何者かがいるかのように。
完全に体を反転させて、魔力で生成した円錐形の弾丸を浮かべる。


「俺だって聖杯戦争に選ばれたマスターなんだ! やってやるよぉおお!!」

少年は闘争とも超常とも、とんと縁のない普通の高校生だった。
しかし彼は一般的な魔術師の数十倍の量の魔力をその体内に秘めていた。
この聖杯戦争にマスターとして召集された彼は、召喚したサーヴァントに魔術を教わったことで十分な戦闘力を持つ魔術師となったのだ。

咆哮と共に放たれた魔力弾が前方の建物を粉々に破壊する。
粉砕された建物から巻き上がる煙が視界を遮った。

「やったか!? 畜生、姿を見せやがれ卑怯者!」

一発受ければ対魔力をもつサーヴァントにも傷を負わせうる威力の弾丸を、二発、三発と生成しては虚空に向けて撃ち込む少年。
その顔から恐怖の色が引くことはない。
まるで、追いすがる見えない何かの手を振り払わんとするかのように。
四発、五発。もはや狙いもつけず闇雲に撃ち込む。

「汚えぞ! クソパンダ野郎ぉおお!!」

再び少年が咆哮し、六発目を生成する。
これまでとは比べ物にならない量の魔力が込められた巨大な弾丸。
当たればサーヴァントの霊核すら砕くであろう一撃。

「……お?」

突如、その叫びが止まり、生成されつつあった弾丸が霧消する。

膝をつく少年。
その腹部は赤く染まっていた。

「なんだ…これ?」

愕然とする少年の首に赤い線が走り、鮮血が噴出した。


30秒後、倒れ伏したその少年を、パンダの着ぐるみを着た男が見下ろしていた。


◆◆◆


二騎のサーヴァントが激突し、轟音が周囲に響く。

片方はキャスター。ポニーテールを揺らして快活に飛び回る少女。
片方はライダー。眼鏡をかけた痩身の小男。

ライダーの背後、何もない空間から召喚されたバルカン砲が火を噴けば、キャスターの魔力障壁が弾丸をはじく。

キャスターが浮かべた魔方陣から魔力弾を放てば、ライダーの召喚した鋼鉄の腕がそれをはじく。

「そんな豆鉄砲がオイラに効くと思ってるでやんすか?」
「それはアタシのセリフよ!」

互いに挑発しながら繰り返される、一進一退の飛び道具合戦。
一見互角に見えるが、その実優位に立っているのはキャスターの方である。
キャスターの魔力弾や魔力障壁は通常攻撃だが、ライダーの召喚する鋼鉄の腕は宝具である。魔力の消費量は比べるまでもない。
このままではライダーはジリ貧に陥り敗北してしまう。

だが5分ほど続けたところでキャスターが痺れを切らした。
ライダーの銃撃に合わせて大きく後方に跳んで距離を取る。


「これ以上削り合うのも不毛だし、先に逃がしたマスターも心配。
 だから、そろそろ決着つけさせてちょうだい」

告げると同時、手に持つ杖を構え詠唱を始める――これまでの攻防で一度も行わなかった詠唱を。

さきほどキャスターの魔力弾を『豆鉄砲』などと挑発したライダーだったが、さすがにこれには瞠目せざるを得なかった。

これまで放たれていた魔力弾は低く見積もってもBランク相当。宝具だから受けることができていたが、身体に直撃すれば一撃で霊核が吹き飛びかねない代物だった。
それを無詠唱で放つ手合いが、わざわざ詠唱を行って放つ攻撃。どれほどの威力になるか想像したくもない。

召喚するバルカン砲を二門に増やして十字砲火を行うが、魔力障壁に阻まれキャスターには届かない。

そしてキャスターの背後から空に向かって、無数の魔方陣が展開されていく。
そのひとつひとつに魔力が充填されて、闇夜を照らす星のように輝く。

「いいんでやんすか? こんな序盤でそんなに魔力を使ってしまって!」
「問題ないわ。 アタシのマスターの魔力は底なしだもの!」

バルカン砲を斉射しながら揺さぶりをかけるも効果はなく、魔力障壁も魔力の充填もほころぶ気配がない。

「さあ、消し飛びなさい!」

ついに詠唱が完了し、魔方陣が一層輝きを増した。
放たれる砲撃は、彼の召喚する鋼鉄の腕もろともライダーを消滅せしめるだろう。
キャスターが己の宝具を解き放ち、この戦いは終わりを告げる。


「『極大魔術――――え?」

そのはずだった。


違和感を感じ振り返ったキャスターが見たものは、己の展開した魔方陣が次々に霧散し夜空に消えていく様。
起きている現象が理解できずに狼狽するキャスターの魔力障壁を突き破り、バルカン砲の弾丸が腹部に突き刺さる。

「どうして…」

信じられなかった。
戦いが始まってから己の勝利を疑ったことなどなかったのだ。

キャスタークラスの中でも指折りの戦闘力を持つ自分が、素質あるマスターに引き当てられた。
宝具を解放して緒戦を勝利で飾れることを確信するには十分な要素がそろっていた。
そのはずだったのに。


「さあ? どうしてでやんすかねえ!?」

そんな言葉と共に振り下ろされたドリルが、キャスターの全身を粉砕した。


◆◆◆


『飛ぶやつ』と呼ばれるロケットで空を飛び、ライダーが着ぐるみ男と合流する。

「お、そっちも終わったか」
「けっこうギリギリだったでやんす。 もう少し早く殺してほしかったでやんす」
「結構しぶとかったんだよ、このガキも。 お前こそもう少し魔力を使わずに勝てなかったのかよ」
「カタログスペックでは完全に向こうが上だったでやんすからね」

この着ぐるみ男も先ほど殺された少年同様、聖杯戦争に選ばれし者であり、ライダーのマスターでもあった。
互いの仕事に対する不満を垂れながらも、志を同じくしているため互いに深くは責めない。

「こんな調子で本当に優勝なんてできるのかよ」
「とりあえずしばらくは情報収集に徹したいところでやんす。
 その異能(シギル)とかいう力も偵察においては最強でやんすから、マスターにも苦労をかけるでやんすよ」
「あんまりアテにされても困るぞ。これで色々制約はあるんだからよ」
「そうは言うでやんすがね。オイラは直接戦闘はあまり得意じゃない、集団を率いて戦う方が得意なのでやんす。
 手足になってくれる駒を作るためにも、独力で倒せるサーヴァントを割り出しておきたいのでやんす」
「それでサーヴァントを失った元マスターに甘言囁いて手駒にしていくと」

そうして言いなりになる存在を手駒としてうまく使い、優勝を目指すのが彼らの方針だ。
先ほどの主従のような強すぎる存在はとっとと殺してしまうに限る。

「悪いやつだなあ」
「教師でありながら水商売の女に入れあげて何人も殺してる人間に言われたくないでやんす」
「リカさんに会うためだ。 やむを得ない犠牲ってやつだよ」


そうして拠点としている安アパートに向かって歩きだす。


マスターは入れ込んだキャバ嬢に会うために。
サーヴァントは世界征服を果たすために。


聖杯を求める二人の戦いが始まった。




【クラス】
ライダー

【真名】
カメダ@パワプロクンポケットシリーズ

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運E 宝具EX

【属性】
中立・悪

【クラススキル】
騎乗:C
 正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

対魔力:D
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力

【保有スキル】
ラスボスからの凋落:A
 初登場時は物語の黒幕・ラスボスとして登場したものの、シリーズを追うごとに噛ませ犬や単なる被害者といったポジションに落ちぶれていったことを象徴するスキル。
 召喚直後はステータスが本来よりも大きく向上した状態で召喚されるが時間経過と共に下降し、更にやることなすことがうまくいかなくなっていく。
 マスターもサーヴァント本人もこのスキルの存在を認知することができない。

不撓不屈:A
 幾度敗北し、失敗しても決してあきらめなかった精神がスキルとなったもの。
 窮地に陥るとステータスが向上する他、決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお最終的な勝利のために足掻き続ける。

カリスマ(偽):B
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
Bランクでは国を率いるに十分な度量。
(偽)であるため不信任や利害の不一致などを原因として容易に離反や造反を招く。

直感:C
 つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
 カメダの場合戦闘中には発動しない代わりに、戦術、戦略上己の妨げとなる事象の発生を察知できる。

【宝具】
『時空渡る機巧巨人(ガンダーロボ)』
ランク:B 種別:対人~対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:4人
 カメダの操る巨大ロボット。全長18m。
 大規模破壊用ゴーレムであるため本来は紛れもなく対軍宝具だったのだが、主人公達に白兵戦で負けまくったという逸話から宝具としての格が落ちてしまった。
 基本的に全身は見せず、体の一部だけを召喚し攻撃する。
 真名開放を行うことで全身が具現化され、搭乗することができるようになる。
 兵装はガンダービーム、バルカン砲、火炎放射器、ミサイル、ガンダーパンチ、ガンダードリル、自己修復機能

『時空間移動装置』
ランク:EX 種別:対人~対界宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
『時空渡る機巧巨人』に搭載されている機能の一つ。
 異なる並行世界に移動することができる。 ただし、同じ世界の同じ時代には一度しか行くことができない。
 使用すれば聖杯戦争の舞台からも脱出可能な代物……なのだがジオット・セヴェルスにパスワードをかけられてしまい、起動させることができなくなってしまった。
 カメダが終生解けなかったという逸話からこのパスワードは呪いの域に達しており、ジオット本人が入力しない限り(たとえ入力しうるすべての数列を入力したとしても)解除されることは決してない。

【weapon】
  • 『時空渡る機巧巨人』に搭載されている各種兵装
  • 飛ぶやつ

【人物背景】
世界征服を目論む悪人。
極めて利己的且つ冷酷非情な性格でいくつもの事件を引き起こしているが悔いるそぶりすら見せない。
世界の征服を試みては撃破され失敗しており、失敗するたびに時空間移動装置でほかの並行世界に移動して世界征服をやり直す、ということをしているが、シリーズを重ねるごとに悪役としての扱いがぞんざいになっていく。
最終的には時空間移動装置にパスワードをかけられ世界移動ができなくなり、遂にカメダの野望は潰えてしまった。

【サーヴァントとしての願い】
世界征服


【マスター】
バンダ君/カトウ@ダーウィンズゲーム

【マスターとしての願い】
もう一度、そして何度でもリカさんに会うための金(ポイント)を得る

【weapon】
包丁
西京パンデミックスのマスコットキャラクター『バンダ君』の着ぐるみ

【能力・技能】
異能(シギル)『隠形(ステルス)』
 ダーウィンズゲームでカトウが得た異能(シギル)。
『全身を衣類で覆うこと』が発動条件で、連続使用はできず、早く動くと背景から浮き上がってしまうなどの弱点はあるが、効果は所持品や衣類にもおよび、暗殺や偵察に使える強力な異能である。

【人物背景】
主人公・スドウ カナメの通う高校の体育教師。
ポイントを他の参加者と奪い合う『ダーウィンズゲーム』のプレイヤーの一人で、新人狩りとして知られていた。
キャバクラ通いが嵩んで借金で首が回らなくなり、Dゲームのポイントを金銭に換えるため無関係な人間をゲームに招待しては殺害していたが、カナメにバトルを仕掛けて返り討ちに遭い、ポイントをすべて失い死亡した。

【方針】
聖杯の獲得を目指す。

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最終更新:2021年06月09日 22:40