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――テレビの中で煌めいていた、皆の「夢」の素敵な貴方。
叶うならば、私も貴方のようになりたかった。
……なんて過去形にしまうには、まだ早い。
だって、私の「夢」は――
◆
私、北条加蓮の歩んだ歴史の話をしよう。
歴史って言っても、こうしてフツーに生きてるわけだし、全然途中の、未完成の歴史なんだけど。
エピソードならいくらでもある。
運命の出会いを本気で信じているまゆの気持ちをきっかけに、女の子が持つ愛の重さを確かめたり。
本当は目指している先が違っていた凛と奈緒と喧嘩しながら、お互いの譲れない信念を認め合ったり。
アイドルの後輩ってことになるりあむや雪美を、貴方達も太陽みたいに輝けるんだって自分なりの言葉で励ましたり。
……いつの間にか人にエラそーなこと言えるようになったんだって感じだね。
うん、じゃあ私がこんな風に自分に自信を持てるようになったきっかけの話をするよ。
私……アタシの、記念すべき『第1話』ってところかな?
いろいろあって、最低最悪の人生諦めムードにどっぷり浸りながら、ただの女子高生として過ごしていた頃、アタシは
プロデューサーさんと出会って。アタシをアイドルにしたい、そう彼に告げられた。
アイドルになるためにはたくさん努力とか必要だけど、アタシそういうキャラじゃないんだよね。なんて、最初は断ったよ……怖かったんだよね、何もできないかもしれないアタシ自身と、向き合うのが。
それでも、
プロデューサーさんはアタシを受け入れた。その日から、アタシのアイドルを目指す日々は始まった。
ハッキリ言って、最初はただひたすらしんどかったなあ。
できる限りの努力はしたし、多少の無理すらしているつもりだったけど、アタシの身体はまるでついてきてくれないんだもん。ブランク長かったからねえ。
少しずつ実力は上がっていると
プロデューサーさんは褒めてくれるけど、結局目に見えた結果を出せてない。悔しくて、申し訳なくて、焦ってた。
そんな頃、アタシにもようやくデビューの仕事が舞い込んできた。小さい会場のミニライブだったけど、アタシが初めてアイドルとしてステージに一人で上がる日がやってきた。
今も覚えている。ステージの前日、
プロデューサーさんは体調を万全に整えるためにもレッスンをやり過ぎないようにって釘を差したんだけど……アタシは言うことを聞かなくて、夜になってからもこっそり追加の自主レッスンに打ち込んだ。
弱くて駄目なアタシが、せめて失敗しないために。怖じ気付くアタシの心から、目を背けるうに。頑固者、わからず屋なんて
プロデューサーさんに言ったけど、どっちがだって話だよね。
結論だけ言えば、失敗だった。
ライブの途中から、アタシはほとんど意識が無いような状態だった。そしてライブが終わった途端、貧血で倒れてしまったらしい。言うまでもなく、前の日に体力使い過ぎたのが響いたってわけ。
そんなアタシに、
プロデューサーさんははっきりと言った。
歌いきったから成功だ。でも心配させたから失敗だ。
……効いたなあ。
アタシはアタシだけでなく、アタシのことを信じてくれた
プロデューサーさんも信じていなかったんだと、嫌というほど自覚した。
ライブ前の体調管理が及ばなかったこと。ライブの仕事を引き受けたこと。日々の体力作りが不完全だったこと。それともアイドルとなる前に……
どれも違う。そんな言い訳は、アタシが犯した失敗の本質じゃない。
アタシは……北条加蓮は、結局、周囲の期待に応えられない人間だ。だって、アタシがアタシ自身に何も期待していなかったんだから。
目の前が真っ暗になったアタシの口が、ごめんなさいを何度も唱えて……でも、の一言も零れた。アタシの、諦めたくない本心だった。
そんなアタシを
プロデューサーさんは真っ直ぐに見つめて、わかってる、とただ一言だけ答えた。両目は確かな光を宿して、訴えていた。祈っていた。アタシ自身を、今度こそ信じてほしいと。
その時、理解した。ああ、この人はまたチャンスをくれる。これからどれだけ失敗しても、悪態をついても、泣きそうになっても、絶対にアタシを見捨てず、手を差し伸べてくれる人なんだ。
だからアタシは、アタシの心を救ってくれた
プロデューサーさんの前で約束したの。信じられるもの、一つずつ増やしていくから。これまで、あんまり信じられなかった分、一つずつ……って。
一番大切な人が、傷付けることを覚悟の上でアタシと向き合って、何も誤魔化すことなくちゃんと叱ってくれた。この経験が、アタシを奮起させる力の源になっていた。
体調管理がなっていないって、得意先に
プロデューサーさんが嫌味を言われて頭を下げたらしいと後から聞いた時は、やっぱり恥ずかしくなったけれど、
プロデューサーさんがアタシを叱った言葉には決して八つ当たりのような思いが籠っていなかったことを思い出して、気を引き締め直した。
アタシの失敗を嗤い合う誰かの声を聞いた。でも、平気だった。失敗だと突き付けられるのなんか、アタシの中ではとっくに終わった話だったから。次を成功させればアンタ達も文句ないんでしょ? って心の中で言い返しちゃったりして。
……アタシは、絶対に屈しなかった。諦めなかった。夢を、手放さなかったよ。
こうして、アタシは自分に自信をつけられるようになり始めて、今じゃみんなご存知の武闘派な負けず嫌いちゃんになったのでしたとさ。おしまい。
これが、アタシのアイドルとしての『第1話』。
とりあえず、アタシの歩いてきた道を語る上で大事なエピソードを一つ挙げるなら、こんなところかな。
勿論、その後も色々あったんだよ。さっき例に挙げた以外にも、たくさんの経験を積んで。
……そして、誰もが夢見る『シンデレラガール』の称号を、ついにこの手で掴んだりもして。
でも、まだ終わりじゃない。これからも思い出は増えていく。
アタシの……私、アイドル北条加蓮の物語はまだまだ続いていく。
「夢」は「夢」で終われない。
ハッピーエンドなんかじゃ、まだまだ満たされないんだ。
◆
キャスターのサーヴァントとして召喚された僕のマスターである少女、北条加蓮は、聖杯に頼らなければならないような願いを持たず、ただ無事に生還できればそれで良いのだという。
実に残念なことだ。僕にはこの仮初の生を通してでも実現したい理想があり、そのための恩恵を得られる聖杯を獲得できるなら是非ともそうさせてもらうつもりだ。
サーヴァントを喪って暇を持て余している他のマスターを見つけた場合、そちらに鞍替えさせてもらおうと方針を決めるまで、時間はかからなかった。この意向は、既にマスターへ伝えさせてもらっている。
無論、何の貢献にもならない無益な死など生みたいわけではないし、サーヴァントとして呼び出された以上は最低限の責務くらい果たすべきだとは思うので、マスターがこの世界から脱出するための方法を確立するまでの間は契約を解消しないが。僕とお前との間柄は、それで終わる程度の薄いものであるべきだ。
第一、患者でもない健やかな日々を送っている人間など、本来は僕の関わるべき相手ではない。完全に管轄外だ、くだらん。
しかし、マスターは僕との交友が拒絶されるのは寂しいのだという。
訳が分からない。お前は縁もゆかりも無い人間だろう。僕の真名を忘れたか? お前にとっては数千年も前の、神話の時代を生きた身だ。西暦の世で呑気に生きている……じぇいけーであいどる、だったか。そんなお前とは生きた時も場所も隔絶している。倫理観だって、そうなのだろう。それとも人類皆友達などと博愛主義でも謳うのかマスターは? 生憎、媚びる義理など無い。お互い不快な思いをするだけだ。
まさか書物に残される以上の僕の過去でも垣間見て、勝手に親近感でも抱いたのではあるまいな? ああ、なんでもサーヴァントの生前の光景をマスターが夢に見る事例が、稀に起こるらしい。もしそうだというなら……なんだ、違うのか。昨日は穢れの無い瞳を輝かせる幼女と化したりあむのママになる夢を見て酷い寝汗をかいた? 知るか、誰だりあむって。
ともかく、僕の過去を無闇に漁ったわけでないならそれで構わない。診察ではない状況で行われる詮索など、気持ちの良いものではないからな。まったく、どんな理屈で僕はお前などに呼ばれてしまったというのか。
何、今日はオフだから一緒に街の散策に行こう? 探索の聞き間違いだと信じたいところだが?
過去の貴方のことは知らないけど、今ここにいる貴方とはちゃんと仲良くしたい。それに
プロデューサーさんでもないのに現役アイドルと一日デートできる特権を逃すのは損だよ……無礼もここまで来ると、僕の方が目眩を覚えそうだ。
行くなら一人で行け、そして勝手に襲われていろ。何、死にかける頃合いになったらきちんと助けに行ってやる。希少な臨床データを取る良い機会になるだろうからな。喧しい子供の分際で、僕の心を射止めようなどと思い上がるのは甚だ……
おい、何をしている。「カッチーン」「令呪を以て命じまぁーすっ!」だと? ふざけるな。こんな阿呆な要望のために……くそ、目が本気だ……!? ああ、わかったよ! 散策とやらに付き合えばいいんだろう、だから令呪を使おうとするのを即刻止めろ! 死ぬリスクを無駄に上げるな!
……なんて無茶苦茶なザマだ。イアソンに見られたら、餓鬼の分際で俺の船医をこき使うな、とでも怒り出しそうなものだな。いや、僕はあの男の所有物でもないが。
◆
指差した先の大画面のモニターには、澄んだ海水のような透明感のある佇まいの、四人の少女が映し出されていた。
加蓮とは別の芸能プロダクションに所属する、幼馴染み同士で結成したというそのアイドルユニットは、初期の頃こそ始末書クラスの暴走を見せつけたことで良くも悪くも注目を集めたが。今では着実にファン数を増やし、感謝祭イベントに参加できる程には成長しているそうだ。
暴れん坊はどこにでもいるものだねーと、加蓮は笑う。どの口が言うか。
「詳しいな。敵の事情にも精通しなければならないということか」
「敵じゃなくてライバルね。学べることは多いんだよ? どんどん出てくる後輩に追い越されたりしないためにもさ。それに、前に李衣菜と夏樹が他所と対バン企画やったんだけど、そういうのも私だっていつかやりたいし」
「……学べるというのは、異性の同業でも同じということか?」
「その通り。ほら、こうして今のキャスターさんのコーディネートに活かせてるわけじゃん?」
キャスターが着せられることになった、シンプルながらも品位を保っているワイシャツとスラックスの組み合わせは、加蓮が買い揃えたものだ。元医者の男性アイドルとかいう人物が業界内にいて、彼のグラビア写真を参考にしたそうだ。
掛けている眼鏡は伊達眼鏡だ。そして今は、加蓮も伊達眼鏡を掛けていた。視力の矯正ではなく変装用としての眼鏡も現代では当たり前で、加蓮はプライベートで伊達眼鏡が必要になる程度には大変な有名人になっているのだという。
現役アイドルが若い男と一緒に広場で座ってファストフードをいただく姿は、発覚したらとんだスキャンダルだ、用心せねば……などと加蓮は語るのだが。
「だったら自宅まで持ち帰ればいいだろう。テイクアウトというのはそのための仕組みじゃないのか」
「駄目駄目。ポテトはアツアツでホクホクのうちに食べるのが良いんだよ?」
「大体、何なんだこの油分の多さ最優先の、あからさまに健康への意識を投げ捨てた食事は。人を肥えた家畜にするつもりか」
「残念ながら、これが売りなの。ていうか健康志向を目指してた頃は売上ガクッと落ちちゃってたんだよね。それ止めたからまたトップに返り咲けたのでして」
「知るか」
不貞腐れながら、キャスターはまたコーヒーを一口呷った。
加蓮に付き合わされて現代日本の観光に勤しんだことは……それで加蓮の気が済むのなら、もしかしたら全くの無意味ではないのかもしれないが。キャスターとしては、観光というならせめて医療施設でも見せてもらいたかったものだ。
「あー……病院かあ……」
キャスターの溢す愚痴を聞いた加蓮の目が、気まずさを帯びながら泳ぐ。物の例えで挙げただけなのに、まるで、思い当たる節でもあるかのような。
「ん? あれは……」
「ああ、あれ私だね」
モニターに映し出される映像が、別のものへと変わっていた。とある人気アイドルのドキュメンタリー映画が公開されたらしく、そのコマーシャル映像だ。主役として抜擢されたのが、今まさにキャスターの隣でポテトをつまんでいる北条加蓮であった。
三十秒程度の短い映像であったが、その中で情報をピックアップすれば。一つは、今の加蓮が本当に日本でも有数の人気アイドルに成り上がったのだということ、もう一つは、アイドルになる前の幼い頃の加蓮が、ベッドの上で毎日を過ごしていたのだということ。
正直、意表をつかれたような思いだった。ただのお転婆娘という印象しか抱けないような加蓮が、昔は重い病を患っていたとは。随分と変化するものだ。
「……うん。元々、今日ちゃんと説明するつもりだったし。言うね」
そう切り出して、加蓮は語り始めた。
真っ白な部屋と、消毒液の匂いと、繰り返される採血の痛みだけが与えられた、遠い昔の白々しい日々。
唐突に健康な身体を取り戻すことが叶い、しかし諦めることに慣れてしまった心までは治されなかった、少し昔の苦々しい日々。
己への失望と他者への嫉妬に呑まれた過去は、加蓮にとっては弱さの象徴のようで。または、同情で人目を引くための材料のようにも思えて。だから、
プロデューサーと、特に親交の深い数名の仲間にしか打ち明けていなかったのだという。
しかし、同じだけ仲の良い仲間が増えるにつれて、知る者の数も少しずつ増えて。多少は打ち解けたと思える程度の仲でも、加蓮の方から明かせるようになり。演劇の名目で、過去の捻くれていた自分を擬似的に再現できるようになり。
そして、ドキュメンタリー映画という形で、日本の全国民へ向けて、自らの過去を赤裸々に表明することを決意したのであった。
「詮索されるのが嫌なのではなかったのか」
「そうだったんだけどさ。今なら本当に、自信が持てると思ったの。私の築き上げたものは、もう同情に頼ったものじゃない……それよりもファンや、昔の私と同じ立場の子に……いろんな人に映画を観てもらって、希望を与えたくなったから」
語る横顔は、凛然とした生命の力強さに満ちたものだった。
「私の夢は、今もまだ続いている。昔の私がテレビの中に見出だした輝きには……追い付けていないもん。栄光を手にしてハッピーエンドだなんて言う人もいるけど、まだまだ。私の物語は、終わらない」
こほん、と一つ咳払いをして。加蓮は、キャスターの正面に立った。
「キャスターさん……ううん、アスクレピオスさん」
呼び掛けられたのは、キャスターの真の名。
ジョン・ハンターやフローレンス・ナイチンゲールといった、西暦における医療分野での偉人達の生きた時代よりも、遥か以前。ギリシャ神話において医療という概念を築き上げたと伝えられる、医の道を志す万人にとっての祖となる神の名。
「貴方は、私と何の関わりも無いと言ったけど。私にとって、貴方は恩人」
「……昔のことを指しているのなら、お前を診たのは決して僕自身ではない。お前と同じ時代を生きたドクターだ」
「うん。あの日の私はお医者さんに……医療によって救われた。
プロデューサーさんと出会えた日まで健康に生きられたおかげで、私はこうしてアイドルになれた」
加蓮は『魔法使い』と出会い、憧れの『シンデレラ』へと変身した。諦めずに自分の足で歩き続けた成果だ。
しかし、もしかしたら。シンデレラストーリーは始まることすらなく、病が加蓮の命を奪っていた可能性だって、あり得たかもしれないのだ。
「アイドル北条加蓮が始めた物語に、第1話や2話3話、10話や100話があって。それぞれに
プロデューサーさんや仲間のアイドル達、スタッフさんやファンのみんなが恩人として登場するんだとしたら」
最悪の事態は、実現しなかった。加蓮の病を完治させるに至った医学の力によるものだ。
そしてそのルーツは、奇しくも加蓮が『マスター』の立場となったことで巡り合った『魔術師』が、死を克服せんと重ねた研鑽にある。
「貴方は……貴方が確立して、そしてこの21世紀まで発展してきた医療は。私の『第0話』の恩人なんだよ」
彼に出会えたこの奇跡の中で、贈るのだ。
加蓮が『アイドル』になるその日まで命を繋いでくれた、偉大なる『医神』へ。
「ありがとう。私を……アタシを救ってくれて」
『ヒロイン』から、『ヒーロー』へ。
心からの感謝を、贈るのだ。
「……それで」
目元を指で強く押さえる。伝えるべき感情を、整理しなければならない。
「今日の散策が、僕への御礼のつもりだったとでもいうのか」
「……まあ、その、他に今すぐできそうなことを思い付かなかったというのもあるけど。貴方にも、見てほしかったから」
「見てほしかった?」
「医療で救われた後の人が、どんな風に生きていくのかを。だってキャスターさん、医療の進歩のことには興味津々だけど、患者のことには関心無そうだったし。退院したらもう知らん、って感じで」
苦笑する加蓮を見て、交流を拒絶されるのが寂しいと語った真意を察する。
ちなみに、キャスターに対する態度が些か無礼ではないかとの自覚は、さすがに持っていたらしい。それでも、朗らかなコミュニケーションを好まないキャスターとの距離感を埋めるため、敢えてアイドル仲間や
プロデューサーと普段接するような振る舞いを選択したという。
加蓮なりに、キャスターを楽しませようと思案していたようだ。
「だとしたら……とんだ迷惑だな」
しかし、本音は伝えなければならない。
キャスターは医術の発展する先に拓かれる未来にしか、喜楽を見出ださない。他者との不必要な交流を行わないのは、単に合理性故の選択だ。
人と人との営みが持つとされる価値を知らないわけでも、恐れているわけでもない。そうでなければ、あの喧しい船長の率いるアルゴノーツなど、自ら下りていたものだ。
確かな意思のもと、キャスターはきっぱりと告げた。お前の献身は、徒労なのだと。
「そっか、うん……ごめんなさい」
キャスターは、決して答えを誤ったなどとは思わない。不本意ながらも神に祀り上げられた自分と、今の世を生きる命との間に生じる価値観の違いは、絶えず在り続けるものだ……その表明によって、加蓮の好意的な感情を消沈させてしまう結果になるとしても。決して、キャスターの非ではない。
また、嫌気が差す。これだから成熟していない子供の面倒見というのは煩わしいし、好んで関与したいとも思わないのだ。
「…………ドラッグストア」
ああ、本当に煩わしい。
「え?」
「先程、案内で見かけた。この敷地内にもあるんだろう。医薬品をどんな庶民でも手軽に買えるという商店が。現代で実現している薬学の水準がどの程度のものか、興味が湧いた。病院が無理なら、そこを僕に見せろ。せっかく霊体化を解除したまま歩き回れる衣装をこうして着せられたんだ」
「キャスターさん……」
「……その時間を、今日のマスターからの礼ということで受け取ってやる」
加蓮の瞳が、表情が、再び煌めき始めるのが見て取れた。
「……うん、オッケー!」
揚々とした声色で先導を始める加蓮の後ろ姿は、今日ですっかり見慣れた快活な若者のそれへと戻っていた。
どうやら、悪くはない選択肢を選べていたようだ。
◆
画面の前にいた頃の私に……みんなに伝えたいんだ。
いつか見た夢の世界……私は今、そこにいるよって!
この世界は、そことつながってるんだよって!
【クラス】キャスター
【真名】アスクレピオス
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男性
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A+
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地である「工房」を作成する。
Aランクを所有するため「工房」を上回る「神殿」を構築することが可能。 無論、彼にとってのそれはただ医療行為の為だけの、診察室、処置室、手術室などの意味合いを持った場所である。
道具作成:EX
医術に関わる道具しか基本的に作らないが、作るものは超高性能。
彼がその道具のターゲットとした傷病には、ほとんどの場合、多かれ少なかれ効果がある。ただしそれ以外の部分はまったくない。
【保有スキル】
神性:A
アポロンの子として(嫌々ながら)高い神性をもつ。
医神:EX
現代にまで伝わる、『医療』という概念の祖、医学の神としての存在を示すスキル。
一説によれば薬草による治療を初めて行った存在がケイローンであり、それを学び発展させ初めて『臨床医療』を行った存在がアスクレピオスであるという。
アポロンの子:A
ギリシャの神アポロンの系譜であることを示すスキル。
アポロンは弓矢、芸能、予言、太陽等様々なものを司る神であるが、疫病の神でもあり、その二面性の発露として、医術も司っていた。
本人的にはできれば忘れたいスキルであるが、その血の力でなくては救えない患者がもし眼前にといるとすれば。おそらく彼は舌打ちしながらも、その使用を躊躇うことはないだろう。
蛇遣い:B
不滅の命の象徴である蛇を使役し、また医療に用いる技術。
古代ギリシャでは蛇は神の使いとして神聖視されていた。 死者を蘇生させた罰としてゼウスの雷霆で殺されたアスクレピオスは、死後へびつかい座(神の座)へと召し上げられた。
本人がそれを望んでいたとは限らないが。今も医の象徴として使われている意匠『アスクレピオスの杖』には一匹の蛇が巻き付いている。
【宝具】
『倣薬・不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
アスクレピオスが作り出す、死者を蘇らせる蘇生薬。
……なのだが、この宝具は『そのもの』ではなく、彼がそれを模倣した薬である。
かつて実際に作成し用いた蘇生薬は、唯一無二の特殊な原材料を用いたものであり、英霊となった今でも自動的に引っ張ってこられるようなものではなかった。
故に通常の聖杯戦争においては、彼はこの模倣蘇生薬を用いることになる。
模倣品であるため元々のものより効能が落ちており、実際に死者を蘇生させるには様々な条件を満たしていなければならない。
死亡後の経過時間や、死体の状態などである。
現代医療の知識を得た彼は「単純に、少し出来のいいAEDのようなものだ」と自嘲気味に語る。
また、この模倣薬自体もそれなりに貴重なものであり、何度も使えるわけではない。
『真薬・不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
使用不能宝具。
かつてハデスの領域を侵し、ゼウスを怒らせた真なる蘇生薬そのもの。
かなり無茶な状態からでも人や半神を完全に蘇生させる力を持つ。
彼はこれを用いてミノス王の子グラウコス、テセウスの子ヒッポリュトスらを蘇らせたと言われる。
この薬の原料はアテナから渡された(アテナはペルセウスから捧げられた)ゴルゴーンの血である。
ゴルゴーンの左半身から流れ出た血は人を破滅させ、右半身からの血は人を救済する力があったという。
実のところ、ただゴルゴーンから血を採っただけでは上手くいかない。
ヒッポリュトスを蘇生させたときには『アルテミスの力を得て為した』とされているため、蘇生薬はこの血に純度の高い(アテナ・アルテミス級の)神の力が込められてこそ初めて完成するものなのだろう。他にも隠し味として必要なものがあるのかもしれない。
結局のところ、かつての蘇生薬は彼の医術だけでなく様々な要因と偶然も関与して作り出せたものであって、アスクレピオス本人もこの蘇生薬の作り方について完全にマスターしているわけではないのである。
―――勿論、だからこそ、彼は今日もその再現に心血を注いでいるのだが。
【weapon】
「アスクレピオスの杖」に巻き付いた蛇の使役。
【人物背景】
アスクレピオスはケイローンのもとで医術を学び、のちに『医神』と呼ばれるようになるギリシャ英雄である。
イアソン率いるアルゴノーツの一員でもある。
アポロンの子であった彼はやがて死者を蘇らせるほどの力を持つようになり、それを問題視した神の雷霆によって撃ち殺された。
【サーヴァントとしての願い】
医療の進歩、そのための『真薬』の再現。
【マスター】
北条加蓮@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
アイドルになれた私の未来を、ここで終わらせない。
【weapon】
特に無し。
【能力・技能】
アイドルとしての練習を積んだため、歌やダンスの腕前は常人より上。
元病人ということもあって体力は平均レベル、あるいはそれ以下……だったが、それも昔の話である。
【人物背景】
長い入院生活を余儀なくされていた元・病弱な女子高生。
テレビ画面の中のアイドルに憧れ、
プロデューサーとの出会いをきっかけに自らアイドルデビューした。
当初は斜に構えた気怠げな態度を取るも、経験を積むうちに本来の真面目な素顔が前面に表れ、煌めく乙女へと変わっていく。
『シンデレラガール』の栄冠を勝ち取ってからも、彼女の未来は続いていく。
【方針】
ただ生きて帰れたらそれで良い。ただし、人を傷付けたくはない。
できればキャスターのためにも何かしてみたい。
最終更新:2021年07月03日 16:34