どうしてこんなことに。


 なんで僕がこんな目に。


 誰が悪い?


 神か。
 ベヒモスか。
 それとも、僕を裏切ったクラスメイトの誰かか。

 いや、そんなことは――




 高校二年生の少年、南雲ハジメが目を覚ました時、一番最初に目にしたものは、眼前に迫ってくる一本の槍だった。

「うわぁ!?」

 生存本能か、それとも他の何かが働いたのか。
 槍を咄嗟に躱し、ハジメは迷うことなく後ろを向いて逃げ出す。

「へぇ……やるじゃねえか」
「ちょっと、何仕留め損なってるのよ!」

 その後ろでは槍の持ち主がせせら笑い、それを主が叱咤している。
 だがそんなことはハジメからすればどうでもいい。
 彼は今、逃走しながら情報の多さに混乱していた。

 逃げているハジメの脳内にいつの間にか入力されていた、聖杯戦争の知識とこの世界でのロールについて。
 それによるとこの世界では、地球と変わらない両親の元で過ごす普通の高校二年生が彼のロールであり、彼は今コンビニに夜食を買いに行こうとしている最中だった。
 その状況を槍使い達― ランサーとそのマスター ―に目撃され、さらに体に宿っている令呪を目撃したのでハジメは襲撃された、のだろうと彼は推測した。
 しかし、今彼が問題視しているのは別の部分だ。

(僕のサーヴァントは、どこだ?)

 現時点で、ハジメのサーヴァントは彼の視界のどこにも存在していない。
 まだ召喚されていないのか。
 それとも召喚されているのに姿を隠しているのか。
 どちらにしてもハジメからすれば最悪だ。

「あっ!?」

 考えながら走っていたせいか、ハジメは足を滑らせ体を転ばせてしまう。
 彼はすぐに立ち上がろうとするも、その前にランサーは追いつき槍を突き付ける。

「ま、気にすんな。お前は運が悪かっただけだ」
「そんな……」

 死刑宣告というにはあまりにも軽すぎる言葉に、ハジメは絶望するしかない。
 その刹那、彼の頭に浮かんだのはこの界聖杯の奪い合いに参加するまでのこと。

 南雲ハジメは元々、普通の男性高校生だった。
 しかしある日、彼はクラスメイト達と共に剣と魔法の異世界『トータス』に召喚されてしまう。
 その世界では人間族と魔人族が宗教戦争をしており、ハジメ達は人間族側の勇者として戦うことになってしまう。
 異世界召喚ということでチート能力が与えられている、と期待したのもつかの間。
 ハジメ以外には強力な力があったものの、彼にあったのは他に代わりがいる普通の能力なうえ、身体能力も一般人並。
 これにより、彼はクラスメイト達の大半と現地人に無能扱いされることになる。

 それからしばらくして、ハジメ達はダンジョンで魔物と戦いながら訓練をすることになった。
 訓練自体は問題なく終わりそうだったのだが、クラスメイトの一人がダンジョントラップに掛かり、彼らはダンジョンの難易度が高い下層へと転移したうえ、強力な魔物と対峙する。
 紆余曲折の末、ハジメは魔物の足止めに成功し、クラスメイト達を安全な場所まで逃がすものの、彼自身はダンジョンの足場が崩れたことと、クラスメイトの裏切りでさらなる下層に落ちてしまった。

 そして今、ハジメは聖杯戦争の為の世界に囚われ、聖杯の為の犠牲になろうとしている。

(ああ、これが走馬灯ってやつなのかな……)

 諦めかけてしまうハジメ。だが彼の脳裏には徐々に黒い感情が浮かび上がる。

(なぜ僕がこんな目に……何が原因だ……)
(なぜ苦しまなきゃいけないんだ)
(神は理不尽に異世界へ誘拐した)
(ベヒモスは僕を道連れに引きずり込んだ)
(クラスメイトは僕を裏切った)
(そして僕は今、訳の分からない殺し合いが理由で殺されそうになっている)

 ハジメの思考は、次第に諦めから怒りへと変わっていく。

(僕はどうしたい?)
(決まっている。僕は”生”が欲しい)
(ならばどうする? 答えなんて一つだ)

 ――殺す。

 その瞬間、ハジメから怒りが消えた。

(誰が悪いとか、どうしてこうなったとか)
(そんなことは、もうどうでもいい)

 ここまでで、時間にするなら一秒も経っていない。
 だがそれで充分。
 地球でもトータスでも味合わなかった強烈すぎる死の恐怖が、ハジメの思考を塗り替えるには。

「お前は僕の生を阻む。
 なら、お前は敵だ。
 敵は、殺す。それだけでいい」
「何をごちゃごちゃと!」

 ハジメの言葉が気に障ったのか、苛立ちながら槍を振り下ろすランサー。
 しかしその時、ハジメは咄嗟に地面を柔らかくし、ランサーの足場を崩す。

 これがハジメが異世界トータスで得た能力。錬成。
 本来なら武具を作る能力だが、彼はこれを地面に使い戦闘に応用したのだ。

「死ね」

 ハジメはそれに続いて地面を鋭く尖らせ、ランサーに向かって伸ばす。
 何もしなければ体を貫くだろうが、英霊たるランサーは槍を軽く振るうことでしのいだ。
 しかし、その時彼は目の前の男の瞳を見て、思わず戦慄した。

 ハジメの瞳には何もなかった。
 戦闘に対する高揚も、怒りも。悲嘆も絶望も。
 あるのはただ、生きたいという渇望のみ。

 ランサーが敵対しているが故、今は彼にその目を向けているが、例え敵が野生動物でも変わらず同じ瞳を向けるだろう。
 そう断言できるほど、彼は敵に対し何の感情も抱いていなかった。

(ヤバい! コイツはヤバい!!)

 ランサーは確信した。
 こんな目の奴がサーヴァントを従えたらどうなるか。
 決まっている。何でもやる。
 己が生き残る為なら、誰が死のうが何が壊れようがお構いなしな、真の鬼畜に成り果てる。

(ここで始末しねえと――)

 主の為に思考するランサー。しかしそれは最後まで続かない。
 なぜならば

「あ、ああ……」

 ランサーの首から上と下は分断され、消滅したからだ。
 代わりに現れたのは、巨大な蟲に乗った小柄な人影。
 頭が布で覆われた、子供ほどの背丈をした男だった。

「サーヴァントキャスター、召喚に従い参上した」

 彼がハジメのサーヴァント、キャスター。
 この男は、自身が今乗っている蟲が持つ刃でランサーを切り裂き殺しながら、マスターの元へ現れたのだ。

「くっ!」

 一方、ランサーを信頼していたがゆえに黙ってみていた彼の主は、槍使いの消滅と同時に踵を返す。
 だが――

「う、そで……しょ……なん、で……?」

 急に苦しみだしたかと思うと、その場に倒れ伏した。

「あれは、お前が?」
「そうだ」

 ハジメがランサーのマスターを指さしながら問うと、キャスターはこともなげに答えた。
 それからハジメはポンポンと自分についた汚れを手で払いながら立ち上がると、キャスターに話しかける。

「色々聞きたいことはあるけど、とりあえず名前だけは聞くか。
 僕は……いや、”俺”は南雲ハジメだ」
「……我が名はシキ。究極にして最強の戦闘術、道(タオ)の正統たる使い手だ」

 この時は名前だけだが、のちに話し合ったとき二人は理解する。
 二人とも、たった一つの目的の為だけにこの場にいることを。

 その為なら、何をしても構わないと思っていると。



【クラス】
キャスター

【真名】
シキ@BLACK CAT

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:-
道(タオ)に陣地など必要ない

道具作成:A
魔力を帯びた器物を作成できる。
飲んだものに道(タオ)の力を与える「神氣湯」に加え、符術の為の札などが製作可能。

【保有スキル】
道士(タオシー):A++
人間の氣を能力に変える道(タオ)の使い手。
正統なる血統の持ち主であるキャスターは最高ランクである。

符術:A++
キャスターが扱う道(タオ)
後述の宝具の他、爆破、防御など使える技は多岐に及ぶ。

妄執:A+
キャスターは道(タオ)が最強であることを証明する、という願いに妄執レベルで囚われている。
同ランクまでの精神干渉系魔術を無効化する。
また、敵サーヴァントと敵マスターに同時に遭遇した場合、優先して敵サーヴァントを狙うようになる。
これは『マスター狙いなどせずとも私の道(タオ)は勝利する』という彼の妄執が理由である。

【宝具】
『我が氣を抑えよ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
キャスターが普段から顔に巻いている布。
これは普段から呪水を染み込ませた特殊な布で、頭部を覆い力を抑え、無用な消耗を控えている。
力を抑えている状態では魔力はC相当となり、ステータスにもそう表記される。
この布を外した時、キャスターは真の力を発揮する。

『蟲(INSECT)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大補足:???
キャスターが扱う道(タオ)。
符に氣を籠めることであらゆる蟲を生み出し、自在に操る。
蟲にできることは多彩で、小さな蟲で対象に毒を注入し体を操る、生み出した蟲の鱗粉で神経を麻痺させる、
視点用の蟲を飛ばして水晶玉を通して遠くの様子を見る、人を数人乗せられるだけの大きさの蟲を作り出し移動手段にするなど、とにかく出来ることが多い。
その中で一番の戦闘力を誇るのが後述の宝具である。

『戦闘魔蟲”刹鬼”』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
キャスターが作り出す最強の蟲。
この宝具はキャスターの命令で動くものの、人間並みの知能を持つのでキャスターが逐一指示する必要がない。
また、キャスターが分け与える限り、何度破壊されても修復可能。
ステータスはキャスターが籠める氣によって変わるが、幸運はCランクで一定し、宝具のランクは存在しない。

ただし、この宝具を発動している間は他の『蟲(INSECT)』は使用不可能となる。

【weapon】
道(タオ)用の札。
水晶玉。

【人物背景】
革命組織『星の使徒』のメンバー。
自身の一族を25年前に滅ぼされ、滅ぼした当事者であるクロノスを道(タオ)の力で滅ぼそうとしている。
ただしそれは復讐が理由ではなく、『道(タオ)が世界最強である』と世界に示す為である。
むしろ一族に関しては道(タオ)を持ちながら敗れるなど不甲斐ないと蔑んでいる。

本来なら彼は、己の道(タオ)を全霊で用いて戦うもある掃除屋に敗北し、新しい道を探す人生を送った筈だった。
しかし、マスターのただ一つのみを優先しそれ以外を切り捨てる精神性に影響されたのか、今の彼にはその掃除屋との戦闘を始める直前までの記憶しか存在しない。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、道(タオ)が最強であることを証明する。
聖杯を手に入れた暁にはクロノスも、道(タオ)を愚弄したクリードも滅ぼす。


【マスター】
南雲ハジメ@ありふれた職業で世界最強

【マスターとしての願い】
生きて本物の日本へ帰る

【weapon】
なし

【能力・技能】
  • 錬成師
いわゆる鍛冶職。材料を錬成し武器や防具などを制作することができる。
材料と時間と魔力さえあれば、ハジメはあらゆるものを製作可能。
銃や刀から、義手にバイク、飛行船に潜水艦。それから衛星兵器でも。
ただし今の彼はどれ一つとして持っていない。
その為、彼は地面を錬成して落とし穴や剣を作って戦うと言った戦法を取る。

  • 神の使徒
異世界トータスの神、エヒトによって召喚された者のこと。
ただし、彼は他の神の使徒と違い、一般人レベルの力しか持っていない。
一応、訓練によって多少はマシになったが、聖杯戦争のマスターとして見るなら『一般人よりはマシ』レベル。

なお、この聖杯戦争で役立つかは不明だが、彼は『言語理解』というスキルを持っているので、外国語や本来知らない異世界言語も理解できる。

  • オタク
ハジメはゲーム会社社長の父と少女漫画家の母を持つハイブリッドオタク。
アニメ、漫画、ゲームの知識や機械工学など、結構様々な知識を持つ。
また、プログラミングからイラストなど様々な技能を持つが、デザインセンスはない。

【人物背景】
元々は『趣味の合間に人生』をモットーとして生きるオタクで、クラスのほぼ全員から嫌われ気味な高校二年生の男子。
しかしある日突然、異世界『トータス』にクラスメイトと共に召喚され、トータスの創造神エヒトの使徒として、人間族の為敵対種族である魔人族と戦争することになる。
戦争の為の訓練にダンジョンでモンスター相手に戦闘をしていたが、一人のクラスメイトが罠にかかったせいでクラス全員が強力な魔物に襲われてしまう。
ハジメが足止めをかって出たことでクラスメイト達は無事に脱出したものの、ダンジョンの足場が崩れたうえ、一人のクラスメイトの裏切りで彼はダンジョンの地下へと落ちていった。

【方針】
生存優先。敵は殺す。

【備考】
参戦時期はオルクス大迷宮65層から落下してから、真のオルクス大迷宮で目覚めるまでの間。

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最終更新:2021年06月11日 23:50