「こ、ここは…!?聖杯戦争って…え…」
西村茜は、困惑していた。
突然知らない世界に連れてこられたかと思えば、脳裏に刻まれる聖杯戦争という名のこの世界での
ルール。
ただの小学生である彼女には、途方もない話であり、到底受け入れがたいことであった。
しかし、それでもなんとか頭の中の整理をして、状況を飲み込むと…
「お前がマスターか」
そこに、一人の男性が現れた。
黒い服装に金髪、その目つきは鋭く、ヤクザのようだ。
一瞬怖いと思いつつ、茜は彼から目をそらさなかった。
彼女は、そのギョロっとした死んだ魚のような目つきを不気味がられ、死神というあだ名でからかわれていた。
だから、見た目で目の前の人物を怖がるのは失礼だと思ったのだ。
「えっと…あ、もしかしてあなたが…サーヴァント、さん?」
「ああそうだ、マスター。クラスはキャスター、真名はアイゼンだ」
「よろしくお願いします、アイゼンさん」
そういって茜はアイゼンに近づこうとするが…
「俺には近づかない方がいい。俺は死神だからな」
「え?死神」
「死神の呪いは自分や他人に不幸をもたらす。おそらくマスターであろうと例外ではないだろう」
「…もしかして、あなたも周りの人からからかわれてるんですか?」
「…からかわれる?」
「私も、死神って呼ばれてるんです」
茜は、元の世界で自分が死神と呼ばれている理由を話す。
その話を聞いたアイゼンは、呆れた様子でハア、とため息をつく。
「死神だというから気になって聞いてみれば…つまり、本当にそういう呪いを持っているわけではないのだな?」
「は、はい…えっと、アイゼンさんは、もしかして本当にそういう呪いを?」
「ああ、そうだ。俺の死神の呪いは、自分や周囲に不幸な出来事をもたらす呪いだ。お前のクラスメイトとやらが冗談半分で言っていたことが、俺の周囲では本当に起こる」
そういうとアイゼンは、自らの死神の逸話を語り出した。
島の人が全員死んだり、ぶつかった人がしゃっくりが止まらなくなったり…
最初は作り話なのかなとも思ったのだが、アイゼンの語る様子はとても嘘をついているようには見えず、本当の話なのだと理解した。
(本物の呪いを持ってる人がいるなんて…!)
アイゼンの話を聞いた茜は、驚く。
今までクラスメイト達が自分をからかってくるのを、くだらない幼稚な話だと聞き流していた。
しかし、そんな話を現実にしてしまう人が、この世にいるとは思わなかった。
「そういうわけだ。お前がマスターである以上、守ってはやるが、必要以上に近づくことはよしたほうがいい」
「……………」
アイゼンの言葉に、茜は黙って俯く。
しかし、すぐに顔をあげると言った。
「嫌です」
「…なに?」
「アイゼンさんが死神だからって、避けるなんて…そんなの嫌です」
茜は元の世界で、死神と呼ばれてクラスメイトからからかわれ、いじめられていた。
気にしないようにしていても、やっぱり傷つくものだ。
だから、ここでアイゼンを死神だからと恐れ、拒絶するのは、自分と同じ苦しみを彼に強いるようで、自分があのいじめっ子たちと同じになるみたいで嫌だった。
「分かっているのか?俺はお前と違って本物の死神だ。冗談ではなく、本物の呪いがお前を襲うんだぞ」
アイゼンの言葉に、しかし茜は薄く笑みを浮かべて、退かない。
「私の学校に、すごく変わった転校生がやってきたんです」
「なに?」
「その人は、死神って呼ばれてる私をかっこいい!羨ましい!って言ってくれて…私のことを、認めてくれたんです」
高田太陽。
彼は、変わり者だった。
死神と呼ばれている自分を、バカにするどころか、かっこいいと褒めてくれる。
他の人があれこれ言ってきても、その少し抜けたとこのある天然なメンタルで煙に巻いてしまう。
太陽という名にふさわしく、まぶしい存在だ。
茜にとって高田くんは、ヒーローのような存在であり、憧れだった。
だから…
「アイゼンさん…私、あなたと仲良くなりたい!高田くんが私を受け入れてくれたように…私も、死神であるあなたを含めて、受け止めたいんです!」
茜の言葉に、アイゼンはハッとしたような驚いた顔をしていた。
しかし、やがてその表情からは笑みが浮かび…
「死神である俺も受け止める、か…全く、どこの世界でも変わり者はいたもんだ」
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「マスター、お前に問おう。お前はこの聖杯戦争に、何を願う?」
「え?願い?」
アイゼンの言葉に、茜は戸惑う。
この世界では、聖杯と呼ばれるものを奪い合って、自分たちマスターが戦うらしい。
しかしいきなり願いと言われても…
それに、願いを叶えるために人を殺すというのも、実感がわかない。
「ごめんなさい。まだ、願いとか殺し合いとか、全然実感がわかなくて…」
「急かすわけではないが、一つ忠告しておく。羅針盤のない…進むべき道が見えていない航海ほど危険なものはない。自分がどうしたいのか、よく考えることだ」
「はい…」
「それと、お前に与えられたロールだが…この近くの学校の転校生という設定らしい。明日から、学校に通うことになる」
「学校…」
茜の脳裏に浮かぶのは、元の世界での学校生活。
そしてそこにいる…一人の男の子。
この世界の学校には…彼はいない。
高田くんだけじゃない。
日野君も、海未ちゃんも、笠原さんも。
みんな…いない。
「嫌…そんなの嫌!」
「みんなに…会いたいよ!元の世界に、帰りたい!」
「なるほど、それがマスター…お前の願いだな」
「へ?」
「マスターの願い…サーヴァントとして俺も協力してやる」
「願いの協力って…ま、まさか、聖杯を手に入れるの!?」
「マスターが望むならそうするが。俺も海賊として、聖杯という宝がどんなものか興味はあるしな」
「だ、ダメだよ!その為に人を殺すなんて…私にはそんな命令できないし、アイゼンさんにもしてほしくないよ!」
「他のマスターを殺すことだけが聖杯を手に入れる方法とは限らないだろう。それに、元の世界に帰るというだけなら聖杯を手に入れる必要もないかもしれない。俺は海賊だ。別に王道を目指すつもりはない。だが…」
そこでいったん言葉を切ると、アイゼンは茜を睨む。
「マスター。お前はどうやら戦いとは無縁の世界を生きてきたようだ。殺しをしたくないと思うのは当然だし俺もそこを否定するつもりはない。だがな…どんなに綺麗事を並べようと、ここが戦場であるという事実は覆らねえ。殺す覚悟はできなくとも、戦う覚悟だけはしておけ」
「は、はい!」
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(聖杯…願いを叶える願望器か)
アイゼンは、考える。
もし聖杯を手に入れたら、死神の呪いを解き、妹のエドナと会えるのだろうか。
(マスターだったなら…俺が生きてる時なら、それも悪くなかったかもしれねえな)
アイゼンはサーヴァント。英霊と呼ばれる、過去の亡霊だ。
おそらく今も元の世界で生きているであろうエドナと会うことなど叶わない。
あるいは聖杯なら、呪いを解いた上でアイゼンを蘇らせるという芸当もできるかもしれないが、そこまで望む気にはなれない。
アイゼンはあの世界で、精一杯生きぬいた。
その生涯に、心残りはあっても、悔いはない。
蘇るということは…そんな自身の人生への侮辱だ。
ちらりと、隣を歩くマスターを見る。
彼女、西村茜は強く優しい少女だ。
エドナのことを知れば、なんとか会わせてあげたいなどと考えるかもしれない。
だからこそ、アイゼンは茜にこのことを明かすつもりがなかった。
アイゼンには、「自分の舵は自分で取る」という流儀がある。
茜に自分の胸の内を明かすということは、自分の舵を彼女に取らせることと同義だ。
(西村茜、お前はお前だけの舵を、お前の為の航海をしろ。それが俺の…願いだ)
【クラス】
キャスター
【真名】
アイゼン@テイルズオブベルセリア
【ステータス】
筋力B 耐久D 敏捷C 魔力C 幸運E- 宝具C
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
陣地作成:A
自らに有利な陣地を作り上げる。
「島がないなら俺が島を作る」
【保有スキル】
死神の呪い:A
自分や他人に際限なく不幸をもたらしてしまう特異体質。
サヴァイブロード:C
リーチの長い突進で敵を突き飛ばし、耐久力バフを解除する。
当たり所がよければ敵をダウンすることができる。
竜種:D
竜に変身時のみ発動。
筋力が上がり、被ダメージカット状態を付与する。
【宝具】
『ドラグーン・ハイリング』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大補足:5
竜の力を解き放ち、敵を引き摺り回してから咆哮で焼き尽くす。
発動後、一定時間竜の姿となる。
【weapon】
拳。
死神の呪いにより武器は装備してもすぐに壊れる。
【人物背景】
アイフリード海賊団副長にして、周囲に不幸をもたらしてきた経緯から「死神」と呼ばれる男。
とある地脈から聖隷として生まれ、同じ地脈から生まれたエドナと兄妹として暮らすようになる。
しかし妹が成長した後、妹の周りで不幸な事が起こるようになる。自らが聖隷としてもたらす筈の加護を反転させ、自他に際限なく不幸を振り撒いてしまう特異体質「死神の呪い」を持つことを知ったアイゼンは、妹に「死神の呪い」が降りかからないよう離れて暮らす決心をし、自分の呪いを解くために旅に出た。
旅の途中、海賊バン・アイフリードと出会い、呪いを含めてアイゼン自身なのだと諭された上で、仲間として迎えられた。「降臨の日」以降全ての人間が聖隷が見えるようになった事でアイフリード以外の団員たちにも姿が認識され、副長と呼ばれるようになる。
【サーヴァントとしての願い】
マスターが「自分の舵を自分で取る」ことができるよう、導く。
【マスター】
西村茜@事情を知らない転校生がグイグイくる。
【マスターとしての願い】
聖杯への願いは特にない。
元の世界に帰ってみんなと会いたい。
【weapon】
なし
【能力・技能】
少し内気なただの小学生で、これといった能力はない。
強いて言えば、目つきが少し特徴的で人によっては不気味がられること。
【人物背景】
小学生の女の子。目つきが悪いことからクラスの一部から「死神」と呼ばれてからかわれている。
しかし、そんなことを気にせず仲良く接してくれる転校生の高田くんに対して徐々に心を開き、交友関係も少しずつ広がってきている。
高田くんの告白同然の天然ジゴロな発言に、いつも顔を赤面させている。
【方針】
とりあえずロールに従い、明日から学校に行こう。
【補足】
参戦時期は少なくとも4巻の運動会以降
与えられたロールは小学校の転校生です
最終更新:2021年06月15日 20:46