池上燐介4

4.迎撃




「──『氷 柱 弾』!」

俺の周りにカラーコーン程の大きさの氷柱が瞬時に誕生する。
その氷柱は、俺が右手に力を込めると次々と三人の男に向かう。

しかし──氷柱弾は奴らの眼前で次々と破壊されていく。
こいつら……俺の氷柱弾を何かの力によって相殺しているのか。
やはり異能者に間違いない──。

「それで終わりかっ! ならば、次はこちらの番だっ!」

真ん中のリーダー格と思われる男がそう言うと、
突然、俺と男の間を隔てる空間が一瞬グニャリと歪んだ気がした。
──なんだ?

(ドゴッ!)
──ッ!
胸に重く響く衝撃──。攻撃──された──?
瞬間、俺は仰向けの格好で、後方約数メートル付近まで吹き飛ばされていた。
俺はそのまま仰向けの状態で大地に倒れこむ。

──胸が苦しい。胸に重石がのしかかるような圧迫感。
右手で攻撃を受けたと思われる箇所を触ると、ワイシャツの第一ボタンから
第二ボタンにかけての部分が裂け、胸元防御のために瞬間的に作り出した
厚い氷が真ん中の部分にクレーターのようなものを作り、ひび割れている。

俺はそれを確かめると、大地に手をつきゆっくりと立ち上がる。
俺の氷をここまで破壊してなお、この威力……まともに受けたら只では済まんな。

「あれを受けても生きていたか。だが、相当なダメージを負ったと見える。
ハハハ、口ほどにもないな。その調子で我々三人を相手に勝てるのかなぁ?」

リーダー格の男がそう言うと、
それを合図にしたように男達は俺を取り囲むように展開する。

「……安心しろよ、最初から逃げるつもりはない」

「それは安心。では、こちらの予定通り君は私達の手にかかって死んでくれたまえ」

確かに威力は凄い、あれを連続してまともに受けたら死ぬかもしれん。
だが、まともに受けたら……そう、まともに受けたらの話に過ぎない。

──男達は両手の手のひらをこちらに向ける。
その瞬間、またも周りの空間がグニャリと歪み──轟音が俺の耳を突き抜けた──。
(ドォォン!)

──辺りにはもうもうと土埃が舞い、俺達は互いに視界を遮られる。

「殺ったか……。ククク、以外とあっけなかったな」

土埃の向こうでリーダー格の男の声がする。
──相手の死に様も確認せずに勝利宣言か。──笑止な。
辺りに舞っていた土埃が消え、徐々に視界が開けていく。
すると──。

「なっ、なにっ!?」

奴らが驚愕の声をあげた。
俺が死んだと思い込んだ連中からすればそれも当然の反応と言えるだろう。


 アイスウォール
『 氷 壁 』──。
奴らの攻撃を防いだのは俺を中心として全方位に張られた分厚い氷の壁。
例え如何なるものを持ってしてもこの壁を破壊することは不可能。
この壁を消すことができるのはただ一人、それは作り出した本人だけなのだ。

俺はパチンと指を鳴らすと、それを合図として氷壁は消えていく。

「まともに受けたらの話なんだよ……所詮はな。さて……次はこちらの番かな……?」

「な、なんだと!」

男達は動揺しながらもこちらに手のひらを向け、先程と同じ構えを取る。

「『空気弾』……とでも呼んでおこうか」

俺がそう言うと、明らかに男達の顔色が変わる。

「お前らの能力は、凝縮した空気の弾を武器とするものだろう。
一瞬、空間が歪んだように見えたのは、周囲の大気との密度の差が生んだものかな。
タネさえ分かれば何のことはない。もはやお前達では俺に傷一つつけることさえ不可能よ」

「ふ……ふふふ……そうかもしれんな。だが!
貴様の氷柱弾とやらもの前では私達の前では無力! 今更貴様の攻撃などくらうか!」

俺は右手を覆っている手袋を外し、久々に右手を外気に触れさせる。
──この技を使うのも、久しぶりだな。
右手に力を込めると、周囲がこれまでにない勢いで冷え込んでいくのが分かる。

「そうか。ならば、こいつを見事防いで見せろ」

俺はそう言い放ち、凍気を集中させた右手の手のひらを奴らに向けた。

     アイスストーム
「──『氷 雪 波』!!」

──凄まじい極寒の凍気が瞬間的に作り出された氷と雪を帯びて奴らに放たれた。

────────。


ふと辺りを見回すと、周囲に生えていた草木に雪が積もっている。
水溜りは夜空の星々がくっきりと映りこむように、綺麗に凍結している。
俺はそれらに目を奪われることなくすぐに前方に目を向けた。
調度成人男性と同じくらいの大きさの氷像が二つ、こちらを向いて立ち竦んでいる。
そう、奴ら三人の内、二人が呻き声一つあげずに凍結し氷像と化したのだ。

「さて、お前が知っていることを全て、俺に話しもらおうか」

俺は視線を落とし、二つの氷像の間の地に尻をつけて、ガタガタと震えている
あのリーダー格の男に言った。

「震えているな、寒いのか? だが、黙っていれば更なる極寒地獄を味わうことになる」

俺は右手の手のひらを奴に向ける。
奴の顔は恐怖に引きつり、目に涙まで浮かべている。

「まま、待ってくれ! 私達は雇われただけなんだ! 雇い主の顔だっては知らないんだ!」

……雇われの身か。大方、こいつらは裏の世界で生きる異能者。
普段は裏世界の組織に雇われ、日々の糧を得る者達なのだろう。

「では、いつどこで雇われた? 何故俺を狙った? その理由はなんだ?」

「り、理由は聞かされてない! 一昨日、突然電話で『あの山』の洞窟まで来いと言われて、
行ったらそこで君を倒すように書かれた置手紙と約束の前金が置いてあって、それで!」

あの山……奴が指差した場所は、郊外に位置する山林地帯だった。

「で、どこの山なんだ?」

「た……確か、今は廃校になった木造建築の小学校がある山だ!
その近くの洞窟に俺は呼ばれたんだ! 間違いない!
私はそれに従って……た、頼む、私は手を引くから……助けてくれ!」

木造建築の小学校……か。恐らくあそこか。
電話で呼び出し、その場所に置手紙で指令を出すやり口からして、
この一件を仕組んだ奴はもっと別の場所にいるに違いない。
──だが、何かの手かがりがあるかもしれん。行って調べる価値はありそうだ。

「そうか……情報提供に感謝するよ。これは礼の代わりだ、受け取ってくれ」

「えっ……? ──ヒィィィッ!!」

(ドンッ!)
──向けられた手のひらから、再び極寒の凍気が放たれる。
男は顔面から真っ白に凍りつき、顔を空に向けてドサリと倒れこむ。
その衝撃で凍りついた男の頭部は、星に照らされてキラキラと光る
氷の破片を飛ばしながら粉々となっていった。
俺は続いてその傍で佇む二つの氷像を蹴飛ばす。
バランスを失った氷像は重力のままに倒れこみ、それもまた、
氷の破片を飛ばしながら崩れ去っていった。

それを見届けた俺は山に向かって歩き出す。
しかし、俺はすぐにくるりと向きを変え、自宅の方向へ向かって歩き出した。

「バイトと、合わせて七人の異能者との闘い……その疲れと眠気には流石に勝てんか……」

一度寝て、起きたら早速山に行ってみるとしよう。
疲れと眠気が押し寄せ上手く働かない頭で、俺はそう決めるのだった。
時間は午前三時三十分──起きるのは、昼頃になるだろうな

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最終更新:2008年09月20日 02:23