(30)174 タイトル なし(『小さな巨人』リゾナント作)

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―ここまで深く攻め込まれては、組織ももう終わりかもしれない

「やるじゃん、リゾナンター。それに、人間ども」

そう呟いた途端、眼前のドアが蹴り破られる。
闖入者は、ネコ科の動物に似た目を持った少女。

「田中れいなだね。凄いキック力だなあ、オイラびっくりしちゃったよ」

その言葉と裏腹に、小柄な女の口元には薄い笑みが張り付いていた。

「あんたの事は知っとる。他人の能力ば阻害するっちゃろ」
「よく知ってるねえ」
「アタシの能力は阻害されようが関係なかけんね」
「それはどうかな」

口元の薄い笑みが、ついっと吊り上がる。
少女は、血が泡立つような感覚を覚えた。

「今日でダークネスは一巻の終わりやけんね。あんたも覚悟せんね」
「ここまで入り込まれちゃあ、組織の負けだね。でも」

「生き残った奴が勝ちなんだよ」と女が口の中で呟いた瞬間、二人は同時に間合いを詰めた。

シィッ!と鋭く呼気を吐き、少女が回し蹴りを放つ。
蹴りは、女の鼻先を掠め、素っ飛んで行った。


―外した?
「あれえ?鈍い蹴りだなあ、さっきのとは大違いだ」

ガラ空きになった少女のわき腹に、拳が叩き込まれる。
衝撃が内臓までねじ込まれたような痛みが少女を襲う。

「なん…で」
「確かにオイラの力は他人の能力の阻害だよ。で、誰が身体能力の阻害が出来ないって言った?」

続けざまに拳を叩き込みながら、女は言葉を続ける。

「オイラの能力を甘く見たな!」

リゾナンター一と言われる格闘の名手田中れいなに、面白いように打撃が当たる。
返り血に染まる女の頬の笑みが嗜虐的な色を帯び始めた時、少女が口を開いた。

「全然体に力が入らん。これがアンタの能力か」
「今のお前は普通の人間と殆ど変わらない力しか出せないのさ」
「普通の人間…」
「オイラの顔をようく覚えときな!」

女が指をVの字に開いて、少女の顔面に放った。
正確に、恐るべきスピードで繰り出されたそれが、少女から光を奪うかと思われた瞬間。
少女は、一歩、前に踏み出した。


鋭い痛みが走った。
指が、折れている。
少女の額から、血が滴っている。

「デコで受けた…!?正気かお前!?」

普通なら恐怖で顔を引くものだ。それを逆に自分から前に出て受け止める等、正気の沙汰とは思えなかった。

「あんた、何も分かっとらんね」
「何?」
「ケンカは体でするもんっちゃなかけんね。心でするったい」

女の背筋が急速に冷気を帯びていく。

“他人の能力の阻害”

しかし、勇気は、燃える心までは阻害できない。

少女の蹴りが、水鳥が飛び立つようにして、女のこめかみを目がけ跳ね上がった。
ほれぼれするような弧を描き、女の側頭部を叩く。
乾いた音が響いた。

「なん…で、かわせない…?」

意識を揺さぶられながら、女は疑問をこぼす。

―普通の人間の蹴りを、ダークネスのオリメンであるオイラが何故かわせない?


「普通の人間が一日に千本も二千本も蹴りの練習ばすっとね?」

女のこめかみを打ったのは、田中れいなの身体能力ではない。練り上げられだ努力の結晶が打ったのだ。

「歯ァ食いしばれ!」

少女が女のみぞおちへ向けて放った正拳もまた、努力が生み出したものであった。

少女は、地面に倒れ伏した女の胸倉を掴み上げる。

「殺すかい?オイラを…」
「命までは取らんよ。そんな事よりダークネスの正体ば教えんね」
「そんな事…?」

―なんてアマちゃんだよ。うちらの組織では敗北は死を意味するってのにさ。

「何なんだよ、お前らは…」
「アタシ達は正義の味方やけん。絶対に負けんっちゃん」

―正義の味方か。そんなものに憧れてた時期が、オイラにもあったかなあ。

「ダークネスの正体、早く教えてくれんね」
「正体…ボスの正体は…」

―言ってしまうか?言ってしまおう。どの道組織は負ける。オイラは生き延びるんだ。


女が続きを発しようとした瞬間、その口から血が溢れだした。
ごぶっ、という音が、少女の耳にこびりつく。
見ると、首の骨を折られていた。

「死、死んどる…何で?」

驚きの表情を浮かべる少女の前に、黒いドレスに身を包んだ女が姿を現した。

「いけないなー。ボスの正体喋ったら裏切り者になっちゃうよー」

気だるそうな口調の中に、凍てつくような気品が匂い立つ。
ダークネス最強の能力者、後藤真希。
彼女の念動力が、女の首をへし折ったのだ。

「あんた…!仲間やろ、何で殺した!」
「だって裏切ろうとしたじゃん」
「そがん問題じゃなかろうが!!」

少女の血が熱く滾る。猫を思わせる瞳には、揺らめく炎が宿っていた。

「じゃあ、第2ラウンドと行こうか」

後藤のまなざしはどこまでも冷たかった。