(30)378 『光の抗争-5-』

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        ◇◇



白い十字架の前に立ち、祈りを捧げ、白い花束を置く。
それは信頼していたパートナーへの追悼の意。

あの時負った傷は治ったが、痕は残ったまま。
それも自分への戒めだと思い、そのままにしている。

空を見上げて、目を細める。
いつも以上に晴れ渡る空は、あの時に見た涙のように青く染まり、とても綺麗だった。

そして上げていた顔をまた十字架へと向け、腰に差している刀をゆっくりと撫でた後、その場を後にした。


        ◆◆


 「…っ……あーしは、…っ負けない……!!」


その強い眼差しは、先ほどまでほとんどが憎悪で彩られていたのに。
今では光を湛えて、内に秘める希望を胸にその瞳は輝いていた。


 「…そうまでして戦おうとするのはなんで?」
 「っ…あーしは、…世界中の、すべての人達を、助けられるとは、思ってない…
  けれど、この目に留まる、…っ目の前で弱ってる人達を、助けることはできる…っ…」


全員を助けることなんてできない。
一人では無理だけど、みんながいてくれるから、大好きな仲間がいるから。
目の前の一人を助けようと思う。そしてそれは、未来の平和へと繋がっていく。
いつだって平和な世界になるように戦っていこうと誓った。
それが自分の正義で、戦う理由でもあるから。


 「…っだからあーしは、絶対に負けるわけにはいかないんやっ!」


光は闇をも照らす。
飲み込もうとする闇があるならば、それを貫けるほどの意志を持って突き進もう。

一人じゃない。大好きな仲間が、いるから。



 「…他の人が聞けば、それはそれは涙が出るほどの美しいことなのかもね…
  でも、生憎ごとーは涙なんてこれっぽっちも出ないんだ。ごめんね、高橋。キミとは本当に、相容れそうにないね」


後藤が振りかざす一振り。
手に持っていたのは、高橋の刀だった。

避けようとしても避け切れないと感じた高橋が目を閉じようとした瞬間――――



 「……っ愛ちゃん…!!!!」


急に聞こえた声の方向へ、咄嗟に顔を向けた。

そこには大好きな仲間、もとい、同期でサブリーダーの新垣里沙がいた。



 「っな、なんで・・・?」
 「愛ちゃん!こんなに、こんなにひどい格好して…傷まで負って…」
 「え、え…ちょ、待って…なんでここにっ」
 「なんでじゃないよ!こっちこそなんでだよ!勝手に一人で行かないでよ!!」
 「え、だって…」
 「だってじゃない!!…みんな、すごく心配したんだからっ…」
 「ガキさん……」


聞けば、一人で後藤との決着に行った高橋の後を着いてきたという。
しかし海上の孤島ということもあり、なかなかここまでたどり着けなかった。
しかもこの島では後藤自身が放った敵が野放しになっていたので、戦いながら来たのだという。
そしてこの島だけでなく街の方でも襲撃が相次いでいる為に、
新垣を高橋たちが戦っている場所の近くまで行かせたあと、残りは街へと戻っていったというのだ。


 「なんで街まで…!!」
 「別に街を襲撃しちゃいけない、なんてルール無かったよね?」


軽々と言い放つ後藤を見やる高橋と新垣。
そしてそんな後藤に対し、新垣は沸々と心の底から生まれる憎しみでいっぱいになる。



 「…後藤さん!!」
 「ぅおっ…いきなり大きな声で呼ばれても」
 「なんで!!…っなんで、安倍さんを殺したんですか!?」


一筋の光。侵食する闇。
どれもすべて、行先は分からない。


 「そっかー、やっと知ったんだね。でも、いつ、どこで、誰から知ったの?」
 「そんなことはどうでもいいじゃないですかっ!」
 「良くないよー。だって、…答えによっては、昔の仲間も殺さなきゃいけないかもしれないじゃん」


微笑を浮かべる後藤の表情は、とても冷酷で、息を飲むほどだった。
それぐらい冷たくて、尊敬していた先輩はいなくなっていた。


 「…独自に調べました」
 「…ほんとに?よっすぃとか梨華ちゃんから聞いたんじゃなくて?」
 「はい、本当です」
 「ふーん……ま、いっか。どうせ殺り合いになるだろうからね」



先ほどまで後藤は高橋と戦っていたのに、今ではまったく向かってくるような気配が感じられない。
けれど、どことなく漂う殺気は、この場を冷たく、緊張させていた。


 「んで、なんで殺したか、だっけ?…あ、なんでだと思う?」
 「…っそんなの知るわけないじゃないですか!…何なんですか!…安倍さんはっ…」


後藤は二人を見つめながら、一回微笑み、話し始めた。


 「…なっちだけは、信頼してた…」


後藤は答える。
安倍なつみはとても信頼できた、唯一無二のパートナーだった。
しかし、いつからか二人が目指すものは違うと思い始めた。そしてそれは最初から違っていたことに気付いてしまった。
パートナーとして釣り合う能力を持ち、これからの世界を共に築いていけると信じていたのに…。
だから後藤は安倍を殺した。それがさも、当然であるかのように。
しかし敵として認識するのではなく、道を違えてしまった信頼する仲間と思い、殺したのである。


 「っそんな…そんなこと!許されるはずがない!!」


尊敬していた”天使”-安倍なつみ-という一流の能力者であり、先輩でもあった人。
新垣にとって特に、憧れてやまない人だった。



 「アナタは!信頼していると言ったパートナーを殺すんですか!?
  信頼していたんじゃないんですか!?ずっと、ずっと一緒に戦っていくって決めた人なんじゃないですか!?」
 「そうだね。新垣の言ってることは正しいよ」
 「それならなんで!!?」
 「…さっき言ったじゃん。二人が目指すものは違ってたんだよ。悲しくもね…」
 「そんな……そんなふざけたことが通用するとでも…!!」
 「通用するんだな、これが。この世界はすでに、闇も光もないよ。
  それに新垣は、そんなこと人に言えるような人だっけ?高橋たちのこと裏切ってたのは、新垣でしょ?」


冷酷な瞳が二人を、特に新垣を蔑むように見つめる。
何も感じない瞳が、二人を捉える。

瞬間、何かが二人の間を通過した。否、それは新垣の左胸を。


 「…っ……!!?」



スローモーションのように、流れ動く。それはあの時と同じように。

高橋の目の前で、ゆっくりと倒れゆく同期の姿。

その瞬間を、見つめることしかできなかった。


あの時のように。あの時と同じように。


 「……っガキさん…!!!」